学校特集
共立女子中学高等学校2020
掲載日:2020年8月18日(火)
同校のルーツである共立女子職業学校は、1886(明治19)年に先覚者34人が発起人となり、女性が自主性を持ち社会的に自立することを目的として創立されました。34人の志によって創立された共立女子学園。同校に多様性を認め合い、力を合わせて共に一つの目標に向かう風土があることもうなずけます。今、改めて人気が高まっている同校ですが、「関わる力」「動く力」「考える力」「解く力」の4つを核とした教育の中身について、広報部主任の金井圭太郎先生(国語科)と広報部副主任の桑子研先生(理科)に伺いました。
大規模校の強みを活かし、
すべてにおいて「混ざる」教育を展開
教育者だった鳩山春子(第52・53・54代総理大臣の鳩山一郎の母)や、官僚であり実業家だった永井久一郎(小説家の永井荷風の父)など先覚者34人が、共立女子職業学校を共同設立したことが「共立」という名の由来であり、同校の雰囲気を形作る「多様性」「柔軟性」「行動力」の源流でもあります。
1クラス約40名×8クラス=1学年約320名。都内有数の大規模校である同校は、そのスケールを活かしながら「混ざる」ことを重要視しています。
▶︎毎年クラス替えを行う(中1〜高1)ため、卒業するまでに半数以上の同級生と知り合っていく。
▶︎中1~高1まではコース制をとらず実技系科目など幅広く学ぶ。
▶︎4科型入試と帰国生入試に加えて「インタラクティブ」「合科型」の新入試を設定し、多彩な資質を持つ生徒を迎え入れている。
少子化などにより周囲に揉まれることが少なくなった現代だからこそ、多くの人と関わることを大事にする。多様性の中で自分を知り、他者を認め、共生できてこそ、主体性を持ち、自立した女性になることができると考えるからです。
安心・安全な学校生活の中で、失敗やトラブルも経験しながら多様な個性や価値観と触れ合い、学際的に広く学ぶことは、将来にわたって大きな力となります。
金井圭太郎先生:「本校は、1人が強力なリーダーシップを発揮するというより、時には折り合いをつけながら、みんなで一緒に協力し合っていこうという雰囲気がありますね」
入学して1年が経った中2生も「よく席替えをするから、すぐに友達ができた!」「人数が多い学校だから、どんな趣味でも必ず同じ趣味の人が見つかる!」と、共立生として学校生活を楽しんでいる様子です。
また、この大勢の生徒たちを見守る先生方の人数も、専任106名、講師56名と大人数。専任の先生1人当たりの生徒数は決して多くありません。しかも中学は「担任・副担任・学年主任」という連携体制をとっており、学年団は6年間持ち上がる先生が多いとのこと。さらに、男性の先生と女性の先生がほぼ半々となっているのも、男女別学校ではあまり類を見ないバランスのとれた恵まれた環境です。
金井先生:「人数が多い分、教員からもさまざまなアイデアが出ますが、それらを比較的自由に実践できるのも本校の特徴かもしれません。学校は今後プラットフォームとしての役割も必要になるでしょうが、そういう意味で教員の多様性も活かせていければと思いますね」
「混ざる」ことで、学校中のそこかしこで化学反応が起こりますが、このように手厚い指導体制があるからこそ、得られる成果も大きいのでしょう。
そしてまた、そのつながりは生徒同士、生徒と先生だけではありません。36000人の同校の卒業生を含めた大きな円環が、同校の「今に活きる」さまざまな教育プログラムを支えているのです。
昨年度からスタートした「国語表現」では
「手触り感」を大切にした教育を展開
スクールアイデンティティー「時代を超えて "輝き、翔ばたく女性" の育成」のもと、同校がヒューマンスキルとアカデミックスキルの両面を育てるために大切にしているのは、人間形成のための「関わる力(人間関係力)」「動く力(計画行動力)」、そして学力形成のための「考える力(情報活用力)」「解く力(問題解決力)」の4つです。
ここでは、それらを統合したものともいえる独自の授業「国語表現」について紹介しましょう。
中1からオリジナルのテキスト「口語のきまり」で口語の仕組みを徹底して学ぶとともに、同じくオリジナルテキスト「古典」で古文・漢文も学び始めるなど、これまでも国語教育には力を入れてきた同校ですが、2018年から、新たに「国語表現」という科目を立ち上げました。
文章力や論理的思考力、自己発信力を養うことを目的に、国語科の先生方17名が力を結集して作り上げたこのオリジナル科目は、中学の3年間、通常の国語(中3では「現代文」)の授業から週に1時間が割り振られ、国語では珍しくクラスを2分割した少人数制で実施されています。
新科目設置の背景には、年々増加している総合型選抜(旧AO入試)や学校推薦型選抜(旧推薦入試)への対応や、小学生を含めた今の子どもたちに文章を書く機会が少なくなり、書くことを苦手に思う生徒が増えてきているという先生方の実感があったといいます。
「国語表現」の内容としては、「型」を学んで読書感想文や意見文を作成する演習や、パソコンやiPadを使ったレポート作成、俳句や短歌の創作、グループワークによる発表、クラスメートに本を紹介するブックトーク、図書館を深く知るなど、論述・創作・発表・討論など多岐にわたります。
金井先生:「今年はカラスの行動と進化を研究されている松原始先生の『カラスの教科書』にしました。学校の周辺にもカラスはいるのですが、生徒にとってはマイナスイメージの強い存在です。そこにちょっと違った角度からの視点の存在にも気づいて欲しいこと、なかなか理系のノンフィクションを読む機会がないことから選びました。本と講演を通じて、こうした分野に進む生徒が出たら嬉しいですね」
ただ本を読むだけではなく、その作者がどのような思いで書いた作品なのかを直接聞けること、また単に「こういう方が書いているんだ!」という素直な気持ちを持つこと一つとっても、それをきっかけに、生徒たちの視線は外へと広がっていきます。
同様に、中2の「短歌」では歌人の方を招いて講義や作品を評価してもらうことも。
金井先生:「本校の生徒は全員タブレットを持っていますから、ICT機器を使うことには慣れていますし、プレゼンも上手です。でも、ネットで検索して知識を得るだけではなく、生で吸収する機会も大切にしたいのです。AIの時代が到来するからこそ、直接触れる、手で作る、人と出会うといった『手触り感』が重要だと思っています。本校はもともと実技も大切にしていますが、このような学校だからこそできることを常に模索しています」
大学でも教鞭をとる金井先生ですが、知らないことを授業中でもすぐにスマホで検索する学生の姿を見るにつけ、その思いを強くしていたのだとか。知識量ではAIが勝るかもしれませんが、知識を統合した「知恵」を持つために、手触り感を自分の身に染み込ませていく。そういった先生方の思いが、共立女子の教育の根幹にはあります。
ICTと手書き、個人作業とグループワークなど、多角的なものの見方を身につけ多様な体験を重ねることは、思考に幅と厚みをもたらします。そのことを象徴するように、同校オリジナルの『表現ノート』には原稿用紙、方眼紙、罫線用紙、白紙があり、1冊で多様な思考と表現が可能な形となっています。
理科教育でも、
あえて答えがたくさん出る実験を実施
これらの考え方は、「柔軟な科学的思考力を育て、自ら問題を解決する力をつける」ことを目指す「理科」でも同じで、同校の理科では演習や実験を多く取り入れ、グループワークを重視しています。
理科を受け持つ桑子先生は、中学の特別講座(希望制)で使用した数枚のプリントを見せてくれました。それは「電気回路を組んでみよう!+光プログラミング」という何やら難解そうなものですが、ここでも、まずは体験が重視されていました。
桑子研先生:「この時は、LEDを使う実験だったので、まず最初に、電池を使って体に小さな電流を流してLEDを光らせました。こうして、人間の体にも電気が流れることがわかるわけです。テスト問題を解けるだけではあまり意味がないので、体験を最も重視しています。すべての学習において『現象を調べる→議論を交わす→結論に導く』ことが重要ですが、この授業もこの流れに沿って組んでいます」
ある時、中2にレゴでアヒルを作る課題を出しました。先生は一切指示を出さないため、みんな同じ6つのパーツを使っているのに、十人十色のアヒルができたそうです。生徒たちは発想力を鍛えるとともに、他の人のアイデアに刺激を受けながら物事の多面性を知り、答えは一つではないことを学んでいくのです。
桑子先生:「まずはアイデアを出すこと、そして『答え』がたくさん出る体験をわざとやっているのです(笑)。最初の頃は実験に1つの答えを求める生徒もいますが、『それはナシね』と。本校では、実験結果からどのような考察が得られるかというプロセスを大事にしながら、グループで議論を交わして合意形成を図ることを目的としています」
実体験を大切にしながら考察を重ね、自らの視界を広げていく。先の「国語表現」も「理科」も、考え方はまったく同じです。
桑子先生:「世の中は教科で切り分けられてはいませんよね。本校も『大学に合格して終わり』とは考えていませんので、教科にかかわらず、一つのことからいかに違う角度で学べるかという視点を大事にしています。そうすることで、柔らかい心と頭で物事をとらえ、行き詰まった時に、違うものはないかと考えられるようになってくれればと」
伝統の教育でも、
根底に流れるものは一貫して同じ
グローバル教育という言葉がなかった1969年、同校は海外研修をスタートさせました。現在は7ヶ国10都市から選べる語学研修、短期と長期のターム留学プログラムなどがありますが、じつに50年以上の歴史があり、述べ1500名の生徒が参加しています。
「関わる力」の大元になるコミュニケーション力育成としての英語教育をはじめ、課外講座には「中国語会話」(中高)もあるなど、グローバル教育も充実しています。
美しい所作を身につけることはもちろんながら、礼儀作法を学ぶことは他者を思いやる心を育むことであり、先の「4つの力」の育成につながっていくものです。
多彩な体験を積み重ねながら、
生徒たちは未来への扉を開いていく
「授業法も含めて、我々教員が生徒よりも学んでいるかもしれません」と金井先生は笑いますが、その言葉通り、「改革」や「変革」といった大上段に構えたものではなく、確かな伝統の下、日々、より良いものを求めて歩みを止めないのが共立女子なのでしょう。
取材が終わった後に未来食堂の様子を覗いてみました。場所は、教育会館が入っているビルの地下。真ん中にキッチン、それを囲む形のカウンターに12席ある小さな食堂です。特別教養講座の期間中は高3生が「いらっしゃいませ」と元気にお客さんを迎え、ぎこちないながらも一生懸命に配膳を手伝っていたそうです。
メニューは「アジと大葉の薬味が効いた混ぜこみご飯!」と「ソーダでさっぱりフルーツポンチ!!」。生徒は食べ終わったお客さんに「感想を聞かせていただけますか」と、一人ひとりに声をかけていましたとのこと。「掛け値なしに、ヘルシーで美味しかった」などの意見が感想ノートに書かれていました。
このような活動の一つひとつが新しい世界への扉を開き、生徒たちをドキドキ・ワクワクさせ、今の自分と将来の自分を見つめるきっかけになっていくのでしょう。
生徒たちが考案したランチが供される期間中、興味を惹かれた共立女子大学の先生も食堂を訪れたのだとか。また昨年冬にはさらに発展させて、リーダーシップ開発講座を受講している共立女子大学の学生と協力をして未来食堂の講座を開いたそうです。夏とは違って福井の郷土食材「打豆(うちまめ)」を使ったメニュー作りを、大学生の指導のもとに高校生が取り組んだそうです。高大連携につながる取り組みですね。
金井先生:「先の『国語表現』についても、将来的には音楽や美術、体育など他教科と融合したいという夢もあります(笑)。例えば、寸劇とか身体表現を加えたものなど、いわゆる『国語』に限らない多様な言語活動として広げていきたいと思っています」
一つのことで完結するのではなく、それをまた次につなげていく。まさに、同校の風土です。
そして、「混ざる」環境を当たり前のものととらえ、その中で主体性や自主性、協働性を培う生徒たちにとって、その力は社会に出てからも大きなアドバンテージになっていくことでしょう。
能楽部や歩行部(高校)など全国でも珍しいクラブや、女子には珍しい山岳部(高校)、また近年活躍のめざましいダンス部(中学)やバスケットボール部(中学)など、クラブ活動も多種多彩。
「生徒の『こういうことをやってみたい』という声で創部されたものも少なくありませんが、教員の人数が多い分、指導できる教員が必ずいるのも、本校の強みかもしれません」と金井先生が言うように、同校には生徒の思いを力強くバックアップする気風と体制があるのです。
座間全国舞踏コンクールでは毎年入賞しているダンス部
3000メートル級登山にも挑戦する女子校には珍しい山岳部