学校特集
開智日本橋学園中学・高等学校2020
掲載日:2020年9月12日(土)
共学校化を経て、新体制による全学年が揃った開智日本橋学園。1年生から4年生までは、基礎・基本の徹底に加え、探究型の学びに重きを置いた「リーディングクラス(LC)」、国際バカロレア(IB)の準拠カリキュラムにより思考スキル等の習得や多文化理解を目指す「グローバル・リーディングクラス(GLC)」と「デュアルランゲージクラス(DLC)」の3クラスに分かれています。いずれのクラスでも自主性や創造性、発信力を重んじる教育が展開されています。5年生からは、国立の文系・理系、医学部医学部系、私立系に加え、IBのディプロマプログラムという5つの分類になりますが、生徒たちはそれぞれどんな将来を見据え、同校で日々学んでいるのか。校長の一円 尚先生に同校で育つ生徒像と生徒たちの成長ぶりについて、進路指導部長の池田陽一先生に自己実現・社会貢献からの進路実現について、お話を伺いました。
開智日本橋学園の求める生徒像とは
「本校が最も目指しているのは『自分で動く生徒』の育成です。主体性という言葉に集約されますが、"自ら考え、判断し、主体的に行動する"という、その理念は絶対に譲れない部分で、1年生から自分で考える機会を豊富に設けています」(一円先生)
校則はごく常識的なもののみという同校では、自分たちの行動や状況を省みて良し悪しを自らが判断します。
「教員たちにはいつも、生徒に命令をしないようにと伝えています。教員が命じたことをそのまま聞くのではなく、今何をすべきなのか、何がいけないのかを自分でジャッジして動けるように、毎日の生活の中で意識づけを行っています」と一円先生。
そのため、同校の生徒たちは自分たちで学校を創っていくという気概にあふれています。
彼らが議論を重ね、動いたことにより校則が変わった例は、女子生徒の制服のスラックスやネクタイの着用についてなど多々あります。ジェンダーについて問題意識を持っている生徒たちが一円先生にアポイントを取り、堂々と考えをプレゼンし、教員会議を経て採用されました。
学校行事も開橋祭(文化祭)や体育祭などをはじめ、実行委員会を中心に企画立案から事前準備、当日の運営まで生徒が自らの手で創り上げます。
例えば、英語と音楽のワークショップ「ヤングアメリカンズ」は、例年希望者参加型で実施されていましたが、「現在6年生の生徒たちが学校行事としてやらせてほしいと主張してきました。我々は自主性を尊重しているので、自由参加での継続を提案しました。しかし、彼らも負けていません。この議論の中核になっている生徒は3人いましたが、代々引き継いで教員と交渉が続けられてきました。ならばと、昨年度から2年生の全員参加でやってみようと決まりました」と一円先生が話してくれました。
さらに生徒たちが学校の魅力を発信する「広報委員会」が発足しています。
学校内外で実施される説明会などの壇上で、同校の魅力や自分なりに感じていることをアピールします。自分の学校に誇りを持ち、学校が好きでなければ務まらないことです。
一円先生は「自分でやりたいと手をあげてくれた子たちです。押し付けられてやっているわけではないので、生徒たちも楽しそうです。こうした広報活動に生徒たちが熱心に参加しているところが本校らしいでしょ」と笑います。
また、生徒が学校内を3Dで撮影した動画を公式HPにアップする予定です。これは新型コロナウイルス感染症により、「学校を見に来たいけど来られない受験生のために作りたい」と生徒が発案し、現在、準備が進んでいます。
オンライン説明会でもこうした生徒たちのスピーチなどがご覧いただけます。これらの想いが詰まった作品もぜひチェックしてみてください。
自分自身と対話する時間を持つ
こうした自主性と行動に表すことを重視した学校生活は、開智日本橋学園の文化として根付いてきています。授業でも協働的な学習を通じて、多彩な価値観に触れたり、周りの友達を巻き込んだり、お互いに刺激し合いながら学びを深め、共に育つ環境が整えられています。
同校での特徴的な時間が、1年生から3年生まで設けられている「哲学対話」です。
「テーマは多岐に渡りますが、なぜ勉強をするのか、働くとは、社会とはといった抽象的な内容や職業観がテーマになることもあります」(池田先生)
一円先生は「なぜ勉強するのかということを突き詰めて考えることは難しいと思います。特に低学年の生徒たちにとって難解なテーマでしょう。しかし難しいからと避けるのではなく、伝えられることはやっていきたいのです。
本校で"勉強することの理由"の一つとして、生徒たちにことあるごとに伝えているのは、"社会貢献をして人の役に立つこと"です。人の役に立てる時、人間は幸福感に満ちるでしょう。自分が幸せだと周りも幸せになりますし、周りが幸せであることで結果的に自分も幸せになれると思うのです」と話します。
先にも触れている通り、「自分で考える」、「主体性」ということを重視した同校での生活。
「命令されたことをそのままやっていると、人の役に立っているかどうか考える余地がありません。自分が考えて動くことがどんな結果をもたらすのか。学年が上がるほど、探究学習や哲学対話なども含めた様々な要素が作用し合っているのだと、6学年が揃って改めて実感しています」(一円先生)
なお、この週1回行われる名物授業では、守るべきルールがあります。
「まずは自分の意見をしっかりと伝えることです。基本的に考え方には正解・不正解はありません。しかし、何を言ってもいいというわけではなく、きちんと考えた上で発信することが大切です。意見の差異があっても自分の頭で考えたことは、周りのみんなもしっかり受け止めるという流れができています」(一円先生)
そもそも様々な国籍やバックボーンを持つ生徒が多く在籍している同校。多様な価値観に触れ、自分と異なる考え方を持っている友だちと話し合うことに慣れていきます。こうした仲間たちと切磋琢磨することで真の多様性や寛容性も培われていくのでしょう。
またこの授業で対話するのは周りの友人たちだけではなく、自分自身の内面です。その時々の自分に問いかけて思考し、定点観察していくことで、自身の成長にふと気付けることもあるでしょう。
進路指導は、抽象から具体へ
開智日本橋学園の進路指導では、1・2年生は「学習習慣の定着」、3年生では「社会を知る」、4年生「大学を知る」、5年生は「学部学科を知る」という段階を踏んで行われています。
「進路指導は2方向からのアプローチをしています。1つは将来像からの逆算です。将来就きたい職業や理想の生活を考え、そのためにはどんな学問を学べばいいか。では今は何をすべきかという、逆算的な考え方です。
もう1つは反対に、現在置かれている自分の状況から考えます。例えば英語や数学といった得意な科目を生かして自分にはどんな社会貢献ができるのかという、このマクロとミクロの2つの視点から進路を捉えてほしいのです」と話すのは池田先生です。
3年生では年2回、様々な企業や官公庁を訪問します。それぞれが興味のある企業や5年生からの文理選択を見据えて選び、グループを組んで企業からの課題や下調べをして質問事項などを準備して、当日に向けて備えます。文系の場合は外務省や裁判所などの官公庁系や野村総研などの企業、医学系クラスを希望する生徒は東京大学医科学研究所なども訪問。様々な仕事に触れ、得られる気づきを大切にしています。
4年生では、大学の先生方を呼び高い専門性に触れる機会や外部で実施されている大学合同進学ガイダンスの活用などもしています。ただし近年は、合同進学会の開催場所が遠方になるなど、参加しづらい状況になったそう。
「代替案ではありませんが、本校の教員の出身大学や学部学科も多様です。昨年度は若い先生方を中心に、座談会形式で自分自身の経験を語り、生徒たちと共有しました。この催しは将来的には卒業生を招き実施していきたいと考えています」と池田先生。
なお、この5年生での指導は、いずれは4年生の「大学を知る」とあわせたいと検討しているそうです。
学びを支える放課後の講座
こうした進路を考える上で、大きな役割を果たしているのが放課後や長期休暇中の講座です。
「放課後の講座は希望者制で行われますが、普段の授業と放課後の講座の棲み分けを大切にしています。例えば国立の理系と文系などそれぞれに対応するように、希望進路にあわせたきめ細かい設定をしています。一週間で受験科目のすべてが受けられるように講座を開き、予備校などに通わなくても学校の中で完結できるような仕組みを構築しています」と池田先生。
池田先生はここでも発揮される同校らしさを教えてくれました。
「予備校や塾との違いは、この講座でも主体性を意識して取り組ませていることです。ただ問題を解いて答え合わせをして終わるというのではなく、生徒同士で答え合わせをし、彼らの中で納得して完結できることを理想としています。それでも解決できない場合にはもちろん教員がフォローアップしていきます」
5・6年生の講座は大学受験に特化した内容ですが、その他の学年は普段の授業ではできないことに取り組みます。
「夏期講習や冬期講習などでも、授業の単なる延長ではなく、例えば英語と理科をコラボレーションさせたり、数学であれば大学の内容に少し踏み込んでアカデミックなことにも挑戦したり、理科の実験を徹底的に行ったりと学びへの興味・関心をより深めるような内容になっています」(池田先生)
低学年のうちは、とにかく考えさせて主体性を育んでいきますが、学年が上がるにつれて見守りつつもきめ細やかに対応していくのが開智日本橋学園流なのです。
入試で算数の配点を上げる理由とは
グローバルな教育環境のもと、IBのプログラムなどを展開しているので、同校に対して「英語に強い学校」というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
「もちろん英語はしっかりと学びますが、本校はそれだけではありません。もともと開智学園自体は、探究学習に力を入れている理系の学校です。理数系でも力のある教員が揃っています」(一円先生)
2021年度入試から、算数の配点をこれまでの100点から120点満点にすると発表しました。同校は2019年度から特待生入試として算数の単科入試を実施していますが、算数の配点を重視する理由を一円先生に伺いました。
「入試時の様々なデータを見ていると、算数の学力が入学後のパフォーマンスに大きく影響しているのではと感じています。算数は思考力がなければ解けません。しかもコツコツとしっかり勉強したかどうかがわかりやすいのが算数だと思っています」
もともと数学の教諭でもあり、現在も数学への苦手意識を持つ生徒を対象に、数学の魅力に気づける講座を受け持っている一円先生。算数との付き合い方を教えてくれました。
「算数は正しく勉強すれば、絶対に伸びる科目です。また解けた時のスッキリ感と幸福感を味わえるのは、算数ならではです。中学受験の算数は、例えば速さの問題ではそこで何が起きているのかを推理しながら解く、ここは比の考え方を使ってみよう、時間がかかってしまったらその理由はなど、一つひとつ分析しながら取り組んでみてほしいのです。算数が苦手な受験生にとって、最初は辛いかもしれませんが、とにかく自分の頭で考えてみること。それでもできない場合は勉強のやり方を少し考え直す必要があると思います」(一円先生)
さらに受験生たちへアドバイスをいただきました。
「勉強は間違えた時に何をするかが大事です。大体の子は間違えたら、正答に直して終わってしまうと思いますが、間違えたところをもう一度考えて解いてみる。自分の頭を使うことを放棄してはいけません。どの学校に入っても、生きていく上でもこれは大切なことです」
このように主体性と発信することにこだわる開智日本橋学園。入学式で新入生は、いきなり洗礼を受けます。個名されたら壇上に立ち、一人ひと言、自分の夢を語る『夢宣言』を10〜15秒で行うのです。
「ついこの間まで小学生だった子たちが、他の新入生や保護者、教員などみんながいる前で、思わず感心するほどみんなしっかりやっています」(一円先生)
同校ではこのように、夢を語ることから学校生活がスタートします。6年間での様々な経験を経て、夢はどんどん変わるでしょうし、思いが強固になることもあるはずです。この「夢宣言」を振り返る機会はあるのでしょうか。
「卒業式で『卒業にあたってのひと言』を考えています。卒業証書授与の形式ばった内容は簡略化して、生徒のひと言ひと言に重きを置いていく予定でいます。そこで『夢宣言』との比較が出てくるのだと思います」(池田先生)
夢を描いて行動し、実現へと導いていく。来春の一期生の進路結果も含め、ますます進化を続ける開智日本橋学園の教育に熱視線が集まります。