学校特集
目黒日本大学中学校・高等学校2020
掲載日:2020年8月7日(金)
2019年4月、日本大学準付属校「目黒日本大学中学校・高等学校」へと生まれ変わり、新たなスタートを切った同校。JR目黒駅から徒歩5分という恵まれた環境の中で、「しなやかな強さを持った自立できる人間を育てる」という教育理念の下、「進路実現力」「問題解決力」「相互理解力」を軸に、次代で活躍できる生徒の育成を目指しています。また、早くからICT教育に力を入れてきた同校はコロナ禍にも機敏に対応し、オンラインによる学習を進めました。そんな同校が、2020年度入試から独自の「算理入試」を実施。広報部長の天野正貴先生にお話を伺いました。
積み重ねたICT教育の成果。
オンライン授業へスムーズに移行
コロナ禍へのスムーズな対応は、iPadの一人1台貸与とWi-Fi環境の構築、学習支援クラウドサービス「Classi」を用いた学習など、5年前からICT環境を整備してきた結果でした。
「2015年から基盤となる無線LAN環境の整備に着手し、現在は、全校生徒と教職員を含めて全体で1000台以上ものタブレットPCやiPadを安定して接続できる環境が整っています。4月の臨時登校日の際に、新入生にはタブレット設定の説明を丁寧に行ったことで混乱もなく、在校生も今まで通りの対応でスムーズに進めることができました」と、天野先生。
休校中はClassiを使って課題を提出し、生徒は日々、学習状況や活動を記録して、担任の先生と情報を共有していました。5月の連休明けから朝のオンラインHRを開始した時には、「生徒たちから、みんなの顔を見ることができた安心感が伝わってきました」
課題の進捗状況を確認するだけでなく、教科ごとに授業動画をアップしたり、Webテストも実施。主要教科以外にも、音楽室からリモートでオンライン授業を行うなど工夫をしました。生徒が少しでも理解を得やすい授業をするために、同校の100名弱の先生方がオンラインミーティングで教科の垣根を超えて互いにアドバイスし合うなど、対応のスキルアップにも努めたそうです。
また、全校生徒に対して進路への不安や悩みに応えるため、Zoomによる二者面談も行いました。
私学のICT教育の成果に注目が集まりがちですが、天野先生は「むしろこの時期だからこそ、できることを大切に」と生徒たちに呼びかけていたそうです。「本校ではどういった状況にも対応できるように準備ができています。ただ、生徒たちには、与えられた課題をこなす受け身の姿勢から、自分で計画を立ててどう実行していくか、自ら主体的に学ぶ良い機会と捉えてほしいと」と、天野先生は話します。
物事を順序立てて考える、
数学的思考力を持った生徒に向けた「算理入試」
同校では、「答えに至るまでのプロセスを重視する数学的思考力を入試にも反映したい」と、2019年度に2科・4科・ 適性検査に加え、「算数1科入試」を実施。2020年度はさらに深化させた「算理入試」を初めて実施し、課題解決能力の強化を図っています。
2年続けて独自入試を行った背景について、天野先生はこう話してくれました。
「小学校でプログラミング教育が必修化され、もはや、文系理系の選択という時代ではないと思っています。順序立てて物事を考え、試行錯誤し、物事を解決する力、まとめる力を養うことは必須の課題です。そうした思考力が男女問わず、どの受験生にも求められています。本校にも、そうした生徒に来てほしいと考えました。実際、『算数1科入試』1期生の生徒が、中1の中間テストで総合1位となり、他の教科でも実力を発揮していることが証明されました」
ただ、「算数1科入試」では、試験時間を2科・4科入試の算数と同じ50分に設定したため、難易度の高い記述設問を入れにくかったという反省点が残ったのだそうです。そこで、2020年度は、理科の問題で算数の力を問う教科横断型の「算理入試」として、試験時間も70分に設定しました。
■読解力や計算力が試される算数の問題
「あくまで、この入試は算数がメインです」と、天野先生。たとえば、分子結合という言葉は知らなくても、化学反応が起こって水が生成されるという理屈がわかれば答えを導き出すことができるといったような、理科の分野の知識を踏まえて、最終的に計算に持ち込める設問を工夫しています。
「算数1科入試で合格した生徒に、『算理入試』の模擬試験にチャレンジしてもらうと、一様に『おもしろい!』『こういう問題を解いてみたい!』と好評でした。特に、男子生徒の関心が高いこともわかりました。『算理入試』の結果で言えることは、国語力の重要性です。どれだけ読書をしてきたか。解答力にはその差が出るような気がしています。他校の設問も分析しながら、理科の教員とも密に連携して、歯応えのある問題を意識していきたいと思っています」
■「算理入試」で、出願者数も受験者数も増加
「算数1科入試」「算理入試」と続いた入試改革の影響で、中学入試の倍率も高まっています。出願者数も前年に比べて4.5倍に増え、「中高一貫校の併願校や受験者層も変わってきました」と、天野先生は強い手応えを感じています。2022年にはSSH(スーパーサイエンスハイスクール)の申請も予定している目黒日大。英語力育成と探求学習を深化させるとともに、理系力も強化しています。
"生きた英語"を身につける
「英語教育」プログラムが充実
英語4技能を総合的に学ぶ高校の「国際コース」に準じた教育を中1から実践。6年間を通じて、オンライン英会話や"English Day"、「イマージョン授業」など、授業内外で「話す」機会を数多く設け、"生きた英語"を身につけています。
週2日、ネイティブの先生がオールイングリッシュでホームルームを行うのが"English Day"。英語を「聞く・話す」機会を増やし、慣れ親しむことが目的です。
月曜日の朝は英語でゲームなどのアクティビティを行い、木曜日は朝の連絡事項が英語で伝えられます。英語での連絡事項を聞き逃したり理解できなくても、生徒が持っているiPadには日本語で書かれた伝達事項が配信されるので安心です。
さらに、中1から音楽・体育の実技科目を英語で学ぶイマージョン授業が行われます。ネイティブの先生と日本人の先生が二人一組のチームティーチングで行うため、最初は英語がわからなくても徐々に慣れていくとか。
同校には5人のネイティブの先生が在籍していますが、授業ではどうしても生徒一人ひとりの発言時間が制限されるため、一人1台のiPadを使って、フィリピンの現地講師と1対1のオンライン英会話も導入。週に一度、クラス全員が参加しています。
「授業だけでなく、学校生活のなかで日常的に英語に触れる機会を持つことで、英語に親しみ、コミュニケーションの大切さを感じとってほしいのです。日々継続することで耳が慣れていきますし、自然と英語を聞き取れるようになり、正しい発音を覚えていきますね」
こうして培った英語力を実際に使ってみる場が、中3で実施されるオーストラリアへの短期留学です。期間は1カ月間、一人ずつ別々の家庭にホームステイをします。英語が伝われば小さな成功体験として次のステップにつながり、伝わらなかったとしてもその後の英語学習への意欲に火がつくケースが多いとか。
中学3年間で積み重ねてきたものをアウトプットする貴重な経験です。こうしたさまざまな取り組みによって、生徒たちは"生きた英語"を習得し、中学卒業までに英検2級取得を目指していきます。
■高校では希望制でニュージーランドへ
さらに英語力を高めるために、高1・2では3カ月・6カ月・1年と中・長期プログラム(希望制)が用意されています。ネイティブに囲まれて生活することで、英語力を向上させ、自立心を養い、異文化圏での高いコミュニケーション能力を身につけることを目的としています。
最終的に、大学受験する際には、CEFR(セファール/外国語を学習している人の言語運用能力を客観的に示すための国際標準規格)のB1レベル(英検2級〜準1級相当)の英語力を目指します。
「探究学習」と「IP教育」で、
知識と広い視野を養う
同校の「探究学習」は、「単なる知識」だけではなく、「全体との関わりの中で知識をどのように使っていくか」に重点を置いています。中学3年間のテーマは、探究の学びを通して「日本を知る」こと。自国の文化を他国の人にしっかりと説明できるようになるために日本の文化や環境について学び、高校では企業インターンワークを実施して、グループワークでより広い視野を養っていきます。
中1から「探究」の授業が週に1時間あり、3年間の大テーマは「日本を知る」こと。中1で「日本の伝統文化」、中2では「日本の環境」(主に自然環境)、そして中3では世界に目を向け、国連が定める「SDGs(持続可能な開発目標)を大テーマに、関心の幅を広げていきます。グループごとにSDGsの17の目標の中から一つ選んで探究し、最終的に2月の発表コンクールでプレゼンテーションを行います。
中2の長野県菅平での林間学校も、日本の環境について考察する探究学習の場です。事前に学校付近の目黒川の水質調査を行い、菅平で水質の違いを調べるなど、身近なものに目を注ぐことから環境問題への興味を深めていきます。
そして中3では、国連が定めるSDGsの国際目標についてグループで考察するのですが、たとえば、「目黒区は女性にとって働きやすい環境か?」など、生徒が自由にテーマを決めています。
「探究学習では、日本について知らないことがたくさんあることを教員も含めて痛感します。中学ではクラスの枠を飛び越えて、学年横断でグループを作ります。コミュニケーション能力を高め、中3でオーストラリアへ短期留学した際に、自分たちの考えを持って現地の人と意見交換ができるように、段階を踏んで視野を広げ、学びを深めていきます」
校外学習なども単なる学校行事に終わらせずに、探究学習に結びつけていきます。たとえば、「食」をテーマに、八芳園で和食のテーブルマナーを学んだり、家庭科では魚を捌く実習も経験しました。和食を通して伝統文化について学ぶと同時に、どういうルートで魚が流通しているのかなど、教科を横断して知識を深めます。また、昨年は落語家の方を学校に招いて、観賞するだけではなく、実際に生徒が体験して講評してもらいました。
「主体的に、事前学習→体験→事後の振り返りというサイクルを積み重ねることで、問題解決能力を身につけます。いずれも、最終的には2月の発表コンクールで、さまざまな体験を通して得た自分の意見をプレゼンするという形で完結させます。探究学習による生徒の成長を実感する場面です。さらに、こうした学びの一つひとつをポートフォリオに記録しておくことで、大学入試にも活用できます」
■企業インターンワークで答えのない課題に挑戦!
さらに高校では、「IP」という学校設定科目があります。これは「企業インターンワーク」という、いくつかの企業から出された指令に沿って、チームごとに企画を提案していくプログラムです。
「たとえば、KDDIさんからは『5Gサービス下で求められる新しい学校ツールを考えなさい』、大塚製薬さんからは『自分たちが調べた乳酸菌についてだれもがわかるムービーを作りなさい』など、かなり難易度の高い課題が出されました。答えのない課題について、我々教員もファシリテーターとして生徒と一緒に考えます。生徒の着眼点やおもしろい発想に、感心することもしばしばありますね」
日大準付属校のメリットを生かしつつ、
目黒日大ならではの魅力を発信
「準付属校といっても、日大への進学システムはほかの付属校とまったく一緒で、日本大学と国公立大学との併願も可能です」と、天野先生。中高一貫校として目黒日大は、基本的に国公立や私大難関校を目指していますが、準付属校として日大医学部・歯学部・薬学部など進路面での強みもあります。
さらに、付属校生の選抜メンバーによる英国ケンブリッジ大学への留学の機会や、「付属校サミット」と呼ばれる他校とのつながりも生まれて、大きな刺激になっているそうです。また、キャンパスや研究所など充実した日本大学の施設を中学生が利用できることも、準付属校ならではのメリットといえるでしょう。
116年の伝統を持つ同校の建学の精神は「質実剛健・優美高雅」です。しなやかな強さを教育理念に込めた先人は、「学びを前向きに楽しめる人」を求めました。
天野先生は、最後に次のようなエピソードを教えてくれました。「本校は、最先端の教育内容を自負していますが、何より大切なのは生徒たちが楽しく、充実した学校生活を送ることです。もっと偏差値の高い学校に同時合格していながら、最終的に自分で判断して本校に決めた生徒がいました。『目黒日大のほうが、自分らしさが表現できると思った』と言うのです。目黒日大ならではの取り組みや校風を理解し、実際に6年間学ぶ受験生自身に選んでほしいです」と。