学校特集
中村中学校・高等学校2024
掲載日:2024年8月1日(木)
1909(明治42)年創立の女子伝統校・中村中学校の受験者数が年々増加しています。2月1日合格者の辞退数の少なさからわかるのは、第1志望者が圧倒的に多いこと。塾や予備校に頼らない大学受験対応で入学時と卒業時の偏差値の伸びに定評のある、同校の人気の秘密を教頭の江藤 健先生のお話しから探ってみました。
添えた手を離すタイミングを見極める
少人数制を敷き、一人ひとりに目が行き届く教育が評判の中村中学校・高等学校。
2024年度の2月1日(2科・4科ならびに特待生)中学入試では、前年比150%を超える受験生が応募しました。
入学後の「学校評価アンケート」でも保護者・在校生共に非常に高い満足度を得ている同校ですが、人気となった契機の一つに、2021年度卒業生の東京大学進学があります。今春の卒業生は慶應義塾大学、22年度卒業生は東京医科歯科大学医学部や上智大学に進学するなど、生徒たちは希望の進路選択に向けて充実した学校生活を送っています。
「大学受験についても、塾や予備校に通わないで、学校で完結する姿勢を大切にしています」と江藤 健先生が話す通り、徹底してきめ細かな対応をしています。
これを下支えしているのが、例えば2024年春で丸3年を迎えた放課後学習システム「My Growing Tree(愛称:マイツリー)」です。卒業生を含めた外部のチューターなどが滞在し、いつでも質問が可能なだけでなく、AIを使った専用カリキュラムや個別講習、オンライン英会話といったコンテンツを用意。夜8時まで残ることができ、生徒たちは放課後学習に励んでいます。
「マイツリー」を必修化していることで、学習習慣がついたり、疑問が解消されたりするだけではありません。最終的に目指しているのが「自立した学習者」を育むことです。
「学校説明会で必ず提示しているのが、自転車の練習のイラストです。
最初は我々大人が後ろを持ってあげ、どこで手を離したらいいのか、どうしたら自走できるかを見計いますが、そのタイミングは生徒によって異なります。
進路指導に関しても基本として同様だと思っています。
中1で手を離せる生徒もいれば、高3でももうちょっと持っていたほうがいいかなという生徒もいます。生徒一人ひとりの状況を見て、自分自身できちんと乗れるようになるまでは寄り添う、付き合うのが本校の教員たちの基本姿勢です」(以下、江藤先生)
高校では「キャリアサポーター制度」があり、生徒の志望に則って先生がマンツーマンで指導していきます。志望動機を磨いて深化させること、エントリーシートの書き方や論文指導なども行われます。
入試直前になると、他の先生方も面接練習などに加わり、多様な視点からのアドバイスもなされます。
一般受験はもちろん、総合型選抜などにも対応しており、今春の卒業者42名のうち、浪人と看護系の専門学校進学者が各1人で、大学進学率は95%を超えました。国公立大学は、信州大、都留文科大、私大では慶應義塾大や国際基督教大をはじめ、MARCH以上へは合計10人が進学しています。
なお、江藤先生に慶應義塾大法学部に進学したOGについて聞くと「中学からの入学生でしたが、学力的にそこまで目立っていたわけではなく、中学時代の成績は真ん中よりちょっと上あたりで、本当に普通の子という印象の生徒でした」と話します。
「英語の先生との相性も良く、英語が好きになって、とても頑張っていました。英語の成績がグイグイと伸び、英語の偏差値が高く出ると、目指せる大学のレベルはどんどん上がっていきます。
高校生になると、かなり自力で頑張れるようになっていました。最終的には慶應と早稲田は各2つ、上智は7つの学部での合格を得ていました」
同校がHPなどに記載しているのは「進学実績」です。ここに学校の実直さが表れています。
江藤先生は「たくさん合格してくれましたが、中村は進学実績をアップするので、派手さはないんですよね」と笑います。
中村ではこのように、普通の子たちが学習のおもしろさに目覚め、先生方のサポートや友達との絆の中で頑張って希望の進路を叶えていくという話を聞きます。
「教員というのは、生徒のために役立ちたいですとか、生徒たちが頑張りたいと思っているのであればサポートしたい、支えたいという思いを持っているものなのです。コスパが合わないと言われがちな職業ですが、子どもたちの未来のためにと頑張れる方が多いと思います。
本校の教員たちにもそうした風土が根付いていて、学習や進路に対して何かとサポートしようとする文化があるのだと思います」
先生方が寄り添ってくれる土壌があるのが中村の学校生活。在校生親子にとっては、非常にコスパがいい学校といえるのが中村なのです。
女子校が向いている子、女子校の存在意義とは
江藤先生は学校説明会の際、参加者の方々にこのように話すのだそうです。
「女の子全員にとって、女子校が必要だとは思っていません。多くの子が共学校でうまくやっていける中で、女子校のほうが向いている子がいます。例えば男の子がいると緊張してしまうなど、男子が苦手という子。そういう子はまず女子の中で、人としての役割を果たす練習をしていくといいですよね。
あとは、男の子といるほうが気が楽という女の子。そういう子は男子との距離感はもうつかめているということ。ですからあえて女子の中に入ることによって、男子を気にせずに女子との関係づくりを6年間かけてやっておくことで男女共に関係性の幅が広がります。
最終的には男子がいる社会でもきちんと自分らしく立ち振る舞えるように、女子の中でしっかりと関係性を構築していく訓練ができるところに女子校としての存在意義があるのだと思っています」
卒業生が後輩たちに向かって説くのが、「人との距離感の測り方や関係性の作り方の大切さ」なのだそう。これはますますコミュニケーション能力が問われていく社会の中で、最も重要視されていく力です。
中村のキャリア教育でまず行われるのが、自己理解。そしてその次に挑戦するのが他者理解です。
30歳の自分をイメージするキャリア教育
中村のキャリア教育の根底にあるのは「30歳からの自分を考える」ということです。大学進学は目的ではなく、あくまでも将来のための通過点として捉えています。
・1年:肯定的自己理解と自己有用感の獲得〜自己肯定から他者肯定へ〜
・2年:興味・関心等に基づく勤労観・職業観の形成〜企業や社会の仕組みを知る〜
・3年:進路計画の立案と暫定的選択/生き方や進路に関する現実的探索〜高校卒業後の進路を知る/幅広い選択肢を把握する〜
・4年:自己理解の深化と自己受容〜100年ライフを生きる自分を意識する〜
・5年:選択基準としての勤労観・職業観の確立〜学部・学科の研究内容を知る〜
・6年:将来設計の立案と社会的移行の準備/進路の現実的吟味と試行的参加〜自主自律型学習者である「30歳からの自分」を思い描く〜
同校のキャリア教育はオリジナルのテキストを使用して、道徳や特別活動の時間などに年間10回程度実施しています。調べ学習のほか、グループワークなども行いますが、まず行うのは、先にも触れた通り、自分自身を知ること。
「小学校高学年や中1〜¬2年生のころは特に、ご家庭からたくさんの愛情を注がれて、まだまだ自分が一番、自分が中心という時期です。だからこそ、1年生から自分としっかり向き合って、どういう人間なのか、どんな特性があるのか、得手不得手は何かなどをだんだん理解していきます」
例えば、人とコミュニケーションを取ることは好きか、または研究するほうに興味があるのかなど、自分自身の個性を捉えます。アイディンティティを確立する上で必要なことではありますが、グッと自分自身の内面にベクトルを向けるので、知らない自分や見たくなかった自分に気づくこともあるでしょう。
自分自身がある程度見えてきたら、そうしたことができる仕事にはどんなものがあるのかを探っていきます。
2年生では職業観や勤労観を学んでいきますが、将来をそのように捉えていくので、同校には目的意識の高い生徒がとても多いのだそうです。
4年生の夏期休暇中には企業訪問を実施しています。東宝や集英社、朝日新聞出版、ミクシー、セールスフォース・ジャパン(2023年実績)など、さまざまな業種の企業に伺います。
「日本ヒューレット・パッカードは学校からほど近いところにあります。『アイスが食べられる』と生徒たちにいちばん人気なのはハーゲンダッツ ジャパンです。
今の子どもたちは、お父さんとお母さんがどんな仕事をしているかも意外と知らなかったり、見たこともなかったりするので、企業や職場とはどういうものなのかを見るだけでも意義があります」
一つの会社の中でも、さまざまな仕事やセクションがあることにも気付くことができます。畑違いだと思っていたような企業でも、自分が力を発揮できそうな部門を見出すことができるのです。
なお、4年生はその企業や職業について調べるレポートの提出が必須になっていますが、2〜3年生と5年生は一緒に見学に行けることが特徴です。早くからいろいろな会社に触れられることは、生徒たちにとって大きな刺激になります。
「オフィスには素敵なエントランスやカフェスペースがあったり、やる気の出そうなミーティングルームがあったりするので、それを見るだけでもここに勤めたいとなるようです。職業観や勤労観などを培うことができます」
「これはあくまで私見になりますが」と、江藤先生が自身の考えを話してくれました。
「現在の"失われた30年"により、子どもたちは大人になりたくない、働いたって仕方がないとネガティブに考えていると感じる時があります。ですが、例えば格好いいオフィスで女性たちが輝いていたり、楽しそうに働いている姿を見せていただいたりすることは、とても大事だと思うのです。
生徒たちがこんなところで働きたい、働くことの素晴らしさや楽しさを感じ取ってくれたら、それだけである意味、ほぼ合格点なのではないでしょうか」
中村の建学の精神は「機に応じて活動できる女性の育成」です。現代はまさに透明性の低い、先々が見えにくい世の中になっています。
「置かれた環境や国だったり、誰かのせいにするのではなくて、どういう状況になっても変化に対応できる力をつけていくことが大事なのだと考えています。
刻々と変わる状況に対応しながら変容していける強さとしなやかさを持っていれば、時代の変化があっても、自分らしく楽しく過ごしていけるのではないかと思います。
そのためにキャリア教育の中で、将来のことをイメージしておきますし、その一方で未来に向けて決めたことであっても、その意見や考え方が変わってもかまわないのだということを生徒たちに伝え続けています」
中村は少人数制で小さな学校ということも相まってか、生徒たちの信頼関係が非常に強固だと感じる場面が多々あります。
「私はここしか勤めたことがないので、他の女子校と比べることは難しいのですが、生徒たちを見ていると一生ものの友達がちゃんとできていると感じます。卒業生はしょっちゅう学校に遊びに来ますし、大学進学後も社会人になってもお母さんになっても、結構な頻度で遊んでいるようです。
大人になるほど、学生時代の友達と会う機会ってペースダウンすると思うのですが、彼女たちはそれがないんです。在学中は笑ったり助け合ったりしただけでなく、ケンカしてお互い泣いたり徹底的に議論したり、とにかく濃い青春時代を送っていたから、その付き合いが長く続いていくのだろうと感じます」
人と人の関係性が希薄になっているとされるこういう時代でも、人間味に溢れた中村での生活。
生徒たちがどのような学校生活を送っているのか、ご覧になりに学校へどうぞ足をお運びください。