学校特集
関東学院六浦中学校・高等学校2019
掲載日:2019年10月4日(金)
校訓の「人になれ 奉仕せよ」を今の時代にどう具現化させるか。そして、次代を生きる生徒たちに今、どのような力を授けるべきか。校長の黒畑勝男先生は、校長として赴任してすぐに教育改革に乗り出し、その改革も今年で6年目を迎えます。「英語は現代の識字力である」という黒畑校長の言葉に象徴される多角的な英語教育をはじめ、「1日も早く世界の実情を知る体験をさせることが急務」「『過去の進学方程式』から脱却しなければならない」「生徒たちを『同質圧力』から解き放つことが重要」など、その言葉から引き出される同校の教育について、黒畑校長に伺いました。
「リンガフランカとしての英語」を身につけ、
「世界の現実を体感して視界を広げる」教育を展開
黒畑校長:「これまでの日本が同質・均質が当たり前とされる社会だったとすれば、地球がどんどんフラット化し、日本の人口も減少の一途をたどるなか、その「当たり前」を見直さなければなりません。日本国内においても、多文化共生は避けられなくなってきますから」
黒畑校長が言うことが、私たちの日常の中に広がりつつある現実であることは誰もが実感するところです。
黒畑校長:「『日本再興戦略改訂2016』にもあるように、政府は外国人留学生の日本国内での就職率を現状の3割から5割に向上させることを目指しています。留学生に対する日本語教育、中長期インターンシップ、キャリア教育などを含めた特別プログラムを拡大しようとしているわけです。日本の人口減少を考えれば致し方のないことかもしれませんが、一方、日本人の若者はどう生きていくのか。我々は、必死に方策を探っていかなければなりません」
黒畑校長が、これらの課題を包括する教育大改革に着手して今年で6年目。改革1期生は5年生(高2)になりました。
英語を単なる教科ではなく「生きる力」(=現代の識字力)と位置づけ、「リンガフランカ(共通語)」としての英語力習得に力を注ぐのをはじめ、多様なオリジナルプログラムを設けて生徒たちの視界を広げています。
2015年度から英語の授業に導入したCLIL(クリル:Content and Language Integrated Learning)とは、「内容と言語の統合型学習」と呼ばれる外国語の学習方法のこと。内容を習得目標言語(この場合は英語)で学びながら、話題のなかに出てくる英語そのもの(語彙や表現)を自然に、確実に習得していくのです。
8名の外国人の先生を中心に、社会科学や自然科学などさまざまなテーマを扱いながら、実践的な英語教育を行っています。
これは英語の授業のみ特別クラスを編成し、教科横断型のグローバル・イシューをオールイングリッシュで学ぶもの。参加条件は英検準2級以上の取得となりますが、今年度は37名が同コースで学んでいます。GLEの人数を増やし、いずれはクラスとして独立させたいという構想もあるそうです。
そのGLEの特徴のひとつとして、「3カ月間、または1年間の留学を必須とする」ことがあります。
進路が決まっていない早い段階にこそ、
世界の多様性を実感する海外研修・留学を促進
さらに、海外留学も促進する同校ですが、昨年度からはマレーシアへのターム留学[3年生(中3)〜5年生(高2)/希望者]を強化しています。
その意図をご紹介する前に、黒畑校長は、自身が受け持つ2年生(中2)の授業「地球市民講座」の1時間目に、必ず以下の質問を生徒にするそうです。みなさんもお考えください。
問い:クアラルンプールの地下鉄の総延長は約57km。一方、横浜にもブルーラインとグリーンラインの2つの地下鉄があるが、これらを合わせた総延長は、以下のうちどれか。
❶34km ❷51km ❸60km ❹80km
黒畑校長:「生徒たちの答えで圧倒的に多いのが❹の80km、2番目に多いのが❸の60㎞ですが、答えは❷の51㎞。クアラルンプールとほぼ同じなのです。つまり、生徒たちは日本のほうがすべての面において豊かだというイメージを持ってしまっている。これからの日本の教育では、そのような誤った認識を正していかなければなりません」
では、「なぜ、マレーシアターム留学に力を入れているのか」の理由ですが、それは「多文化共生を実現している世界の手本だから」と、黒畑校長は言います。
黒畑校長:「マレーシアは6億人を超えるASEAN諸国の中心的存在であり、宗教一つをとってもイスラム教、仏教、キリスト教、ヒンドゥー教などがあります。知人から聞いた話なのですが、ムスリムのラマダン(日の出から日没まで断食をする)の時期に、ある会社のパーティーが行われた際のこと。さまざまな人種の方が集うなかで、みなが席に着いて待ち、日没と共に一斉に乾杯したのだそうです。このように、それぞれが独自の文化を大切に守りつつ、一方で違いを受け入れ、尊重し合うことがこれからの世界のあるべき姿だと思います。そのような現実を、なるべく早い時期に生徒たちに体感してほしいのです」
「日本人は英語が話せない」「日本人はシャイだ」というのは、よく言われること。だからこそ意識を変革し、行動範囲を世界中に広げるために、同校は改革の歩みを止めることはありません。
黒畑校長:「先の『同質・均質』の話ではありませんが、例えば『YAHOO!』でも日本語版と英語版ではトピックの順位が異なります。日本のトップニュースが海外で何番目に取り上げられているかということを知るだけでも、世界の見方が変わってきます。このように、生徒たちの視界を広げるためにも、『リンガフランカとしての英語』を身につけること、そして実体験が重要になるのです」
先日、カナダへの1年間留学から帰ってきた女子が言ったそうです。「留学先の学校には1000人の生徒がいたが、そのうち約200人が各国からの留学生。中国、韓国、台湾、またヨーロッパや南米からもたくさん来ていたのに、日本からは私一人だった。私は世界中に友達ができたから嬉しいけれど......」と。
感受性が柔軟な中高生の時期に、圧倒的な世界の現実を目の当たりにすることは、必ず未来につながっていきます。未知の環境に身を置いて裸の自分を知り、まずは『今、自分は何をしなくてはいけないのか』と考えることが重要なのだと黒畑校長は力を込めます。
また、学校が用意するプログラム以外に、生徒が見つけてきた外部プログラムへの参加も奨励しています(この場合は学校がそのプログラムをきちんと確認・審査する)。
昨年には、4年生(高1)の女子が約3週間、アフリカのエチオピアやウガンダ、スワジランドなどを回り、教育と医療でのボランティア活動をしてきました。
「学校に行きたくても行けない子はほとんどおらず、水道水も安全、トイレの便座はオート開閉するなど、日本での生活がいかに恵まれているかを実感しました。ただし、『環境的に恵まれていること=幸せ』とは必ずしも言えないことも学びました」と、その生徒は言います。
黒畑校長:「日本がフラット化、ボーダーレス化している今、これからは未知のものや異なるものに出会い、自らの課題に気づく経験がますます重要になります。非日常空間で得た『気づき』を、今度は慣れ親しんだ日常の中に戻して、『課題を発見する力』に育てる。本校では、このプロセスを大切にしています」
精神的支柱をなすのは伝統のキリスト教教育。
校訓の「人になれ 奉仕せよ」は揺るがぬ礎
そして、このような次代を生きるための精神を涵養する際の大きな要になっているのがキリスト教教育です。
黒畑校長:「本校のキリスト教教育で最も大切にしていることは、生徒たちを『同質圧力』から解き放つことです。学校ですからある種の画一性は免れませんが、人は誰しも自己中心的な存在であるということを自覚したうえで、自尊感情を持たせたい。人と同じでなくてよい、それぞれ違っていてよいのだと。ただ、人も自分と同じように弱い存在であることを知り、だからこそ助け合わなければならないことを真に理解し、実践していってほしいのです」
さまざまな入り口を設け、ダイバーシティ集団を形成する
ところで、同校では毎朝礼拝が行われますが、その礼拝堂に毎週花を活けてくれる生徒がいるのだそうです。今年入学した、1年生(中1)の男子です。「花には顔があり、それを生かす」と言うその生徒は、「選択制グローバル研修」では「京都・奈良研修」を希望しているのだとか。
黒畑校長:「今年の1年生(中1)は雰囲気が違うと言いますか、礼拝の時の話を聞く姿勢など、今までにない学年だという印象がありますね。特に『自己アピール型入試』では人の話をきちんと聞いたうえで、自分のことを話すことが求められますが、そのような手応えを得られる層が増えてきたと実感しています」
同校ではさらなる多様化を求めて、昨年度から教科型入試に加えて「総合(適性検査)型」「英語型」「自己アピール型」入試の3つを新設しましたが、その成果は早くも表れているようです。
2020年度入試の日程は以下になります。
黒畑校長:「自己アピールができるということは、自尊感情が高いということでもあります。ただ、独りよがりではいけませんから、プレゼンテーションだけではなく、人の話をきちんと聞けているか、状況を理解・分析して答えられるかを見るために『日本語リスニング』も課しています。総合(適性検査)型や英語型を含め、新入試では教科型では見えない『受験生の輝くところ』を見ることができました」
校内もボーダーレス化。
海外からの編入生受け入れもますます促進
生徒たちが海外に出て行くだけではなく、同校には欧米やアジア諸国など世界各国から留学生がやってきますが、今年の6月には、ベトナムから4名が5年生(高2)に編入しました。これは留学ではなく、同校を卒業する「編入」です。
黒畑校長:「ベトナム国内で上位20位以内にある学校の生徒たちですが、国語などを除けば、みんな成績はトップ層に入っています。ベトナムでは日本で学ぶことを望む家庭も増えていますが、本校がその受け皿になれればと。ほかにも10カ月留学の生徒も各国から受け入れていますが、来たばかりの時にたどたどしい日本語で挨拶していた生徒も、帰る時にはじつに流暢に、将来の夢まで語って別れを告げます。このような海外生の姿に、本校の生徒たちはカルチャーショックを受け、食い入るように見つめていますが、今後も本校の生徒と海外生を混ぜていくことは促進したいと思っています」
多角的な英語教育、選択制グローバル研修、留学促進、留学生の受け入れ。これらは、いわゆる「グローバル教育」とひと言で片付けられるものではありません。それらはすべて、次代を担っていく生徒たちに世界中のどこにいても主体性を持って考え、行動するための世界観・人生観を持つことを促す「生き方教育」なのです。
そして、その背景に校訓である「人になれ 奉仕せよ」があることは言うまでもありません。
黒畑校長:「今12歳の子どもたちが自分の将来を現実的に考え始めるのは、大学を卒業する10年先でしょう。その10年後の世界や日本はどうなっているか。ですから、生徒たちには中高の早い段階から世界の現実に触れる体験をさせるとともに、私たち大人が10年後、20年後の世界がどうなっているかを懸命に考えなくてはいけません。ただ、保護者の方がお子さんの将来を考える時にご自分の中高生だった頃のことを引きずっていると、そこには数十年のギャップができてしまうのです。ですから、今を見つめ、未来を必死に想像して、子どもたちに授けるべきものを共に見出していきましょう。子どもたちの未来を閉ざさないために」
学校内のダイバーシティ化を図ると同時に、外の世界に向けて積極的に背中を押す。キリスト教教育を礎に、主体的かつ多様な体験を重視する同校での学びは、生徒たちにとって自分自身の世界観や人生観を見出す大きなきっかけとなっています。
これまでの「進学方程式」が通用しなくなっている今だからこそ、「社会で活躍する10年後、20年後、生徒たちには自ら積極的に行動し、他者と共に平和を創る人であってほしいと願います」という黒畑校長のメッセージを、学校説明会などで直接お聞きになってみてください。
小学校4〜6年生向けの特別プログラムのご案内〜英語の楽しさを知って、世界を広げよう!〜
先鋭的な英語教育でも定評のある同校が、小学生向けの英語プログラムを実施しています。英語経験者、未経験者どちらでも参加できます。関東学院六浦の、英語の授業の雰囲気を実際に体験してみませんか?
黒畑校長:「1クラス15名に対してネイティブの教員とGET(Global English Teachers)が各1名、そこにターム留学や1年間留学を経験した生徒、または英検準2級以上を取得しているコミュニケーション力の高い生徒が2名ついて、一緒に楽しく英語を学ぶプログラムです。これまで受講した受験生は、ほとんどが本校への入学を希望してくれていますね」
・日程:土曜日13:00〜13:45/全16回(10月1日以降=10/5,10/12,10/19,11/9,11/16,11/30,12/7,1/11,1/18)
・費用:¥8000
また、英語でゲームをしたり歌を歌うクリスマスイベント「KGM Kids Christmas English」も開催されます。
・日程:12月14日(土)12:30〜14:30
・費用:無料
・申し込み開始:11月9日〜