学校特集
東京都市大学等々力中学校・高等学校2019
掲載日:2019年12月1日(日)
共学化して、ちょうど10年目。「ノブレス・オブリージュ」と「グローバルリーダー」の育成を教育の理想として掲げる同校は、高潔な士としての責務を果たすべく「教養」を積む教育を展開するなか、毎年、大学合格実績も更新し続けています。今春は、東大2名ほか過去最高の実績を挙げました。今年度の学校説明会は、受付開始から数分で予約がいっぱいになるほど受験生親子から熱視線を浴びる同校ですが、その教育の中身について数学を中心に、入試広報室長の二瓶克文先生と、数学科主任の清水遼先生にお話を伺いました。
「算数1教科入試」でも「言葉にする力」が重要
付属小学校から上がってくる生徒、中学受験で入ってくる生徒、高校受験で入ってくる生徒、帰国生として入学する生徒など、同校には多様なバックグラウンドを持つ生徒たちが集います。
中学入試でも、4教科型入試のほかにアクティブラーニング型入試(思考力・協働力入試)や1教科型入試(算数・英語)、帰国生入試などを実施して、多様な個性や潜在力を持つ受験生に出会うために間口を広げています。
二瓶先生:「多士済々な生徒がいることが起爆剤になればいいなと期待していましたが、実際に多様な入試で入学した生徒を見ていると、学校全体が活性化してきたと実感しています」
ここでは、今年度が2回目となった「算数1教科入試」についてご紹介します。そこからは、数学科のみならず、同校の教育姿勢が垣間見えてきます。
この「算数1教科入試」は2018年度に新設されましたが、初年度は「算数Ⅰ」「算数Ⅱ」「作文」という構成で、試験時間も長く、レベルを上位に限定(すべてが記述問題)したことから狙い通りにはいきませんでした。
そこで、2019年度は「算数」のみ60分の試験にして記述を3割に抑え、その他の問題は一般入試と同様の内容と受験しやすく改良した結果、85名が出願し、64名が受験。そして、5名が入学しました。
清水先生:「計算問題で基礎・基本を確認し、記述問題で考えをどのようにアウトプットできるかを見たいと思い、問題としてはシンプルなのですが、受験生の考える過程が見えやすい作問を心がけました。そこで柔軟な思考力を見たいと」
具体例として、2019年度の「算数1教科入試」での大設問4をご覧ください。
4 いくつかのさいころを同時に1回だけふります。次の問いに答えなさい。ただし, ⑵, ⑶は答えを求めるのに必要な式や考えなども答えなさい。
⑴2つのさいころA, Bについて出た目の数の積が4の倍数になるような目の出方は何通りありますか。
⑵3つのさいころA, B, Cについて出た目の数の積が20の倍数になるような目の出方は何通りありますか。
⑶4つのさいころA, B, C, Dについて出た目の数の積が300の倍数になるような目の出方は何通りありますか。
「場合の数」の問題ですが、⑵と⑶が記述問題になっています。
⑴では、その性質や規則性を考えなくても単純に数え上げれば答えは出ます。⑵も数が増えているので時間はかかるものの、数え上げれば答えを出すことはできます。しかし、⑶では数え上げるのが困難な数になるので性質や規則性をきちんと理解し、⑴や⑵の結果を使い、類推して計算したほうがよいのです。
つまり、⑴でその性質・規則性を見つけて出題意図を読み取り、⑵と⑶では式を立てるとともに、それを言葉で補足する力が求められているのです。
清水先生:「試験中、記述問題ではまず手を動かしてほしいですね。そして、『問題の性質や規則性に気づき→試行錯誤しながら自分の考えにまとめ→記述することで第三者に伝える』、このような一連の流れの中で思考力や表現力を見たいのです。そのベースがあれば、入学後も数学に限らず、どの教科にもしっかりと取り組めますから。実際、今年、算数1教科入試で入学したある生徒は、記述が群を抜いていたのですが、今、すべての教科でトップクラスですね」
「言葉にする力」。これは、清水先生が言うように、算数・数学に限らず、すべてに通じる力となります。
説明できるということは、知識がきちんと自分の中に着地しているということ。その意味からも、同校の「算数1教科入試」は、受験生の総合力を見ることができるものと言えるでしょう。
※2019年入試の「算数」の問題例はこちら→https://www.tcu-todoroki.ed.jp/past_exam/pdf/kyouka_sansu_1.pdf
算数と数学は別世界。
中学入学後は、みんな等しくリセットする
将来、最も必要になるのは幅広い知見に基づく「教養」の力です。その土台作りが、これからの時代を切り拓いていくために最重要と考える同校では、共学化1期生が卒業した2015年を一つの区切りに、「等々力改革第2ステージ」としてさらなる改革を推進。その一つが理数教育です。
「数学は、世の中の事象を数式で表し、正確に伝達し、それを読み取ることで論理的な思考を磨く学問」と語る清水先生は、「算数」と「数学」はまったくの別世界で、そこにはギャップがあると言います。それは、どのような意味でしょうか。
清水先生:「小学校で学習する算数は、じつは相当高度なものです。『なぜそうなるのか』と考えていくと、これがとても難しい。数学では『なぜ?』を理解しないと先に進めません。また、数学は文字が入ってくることも特徴です。わからないものを仮に『X』と置き、論理的に考えて式を立てていくのが数学なのです」
つまり、算数が得意だった生徒も、不得意だった生徒も、「数学」では等しくリセットされるのだと言うのです。算数では、公式をたくさん与えられ、それをうまく使いこなすことを求められていたとすれば、その公式が何からできているのかを一から学んでいくのが数学なのだ、と。
入学後、教科学習で生徒が培う力は、正しい答えを出すだけではなく、物事(数学であれば性質や規則性など)をきちんと理解し、論理的に思考して応用・発展させていく力です。
清水先生:「道具を与えられて、その使い方がわからなかった生徒も、その道具のパーツの一つずつがどうなっているのかを学ぶところからスタートしますから、算数が苦手だったから数学も苦手ということにはならないのです。そこを意識して私も授業を行っています。例えば、私が受け持つ中3は『三平方の定理』を学び終わったところなのですが、『直角三角形の斜辺の二乗は他の二辺の二乗の和に等しい』という定理を覚えるだけでは、数値を代入するだけになり、なぜ直角なのか? なぜ2乗なのか? といった本質的なところの理解が薄れてしまいます」
途中から、「数学の授業になってしまいますが」と、直角三角形を描き、清水先生は詳しく解説してくれました(数学から遠く隔ったってしまった者としては、その理解度はなんとも情けない状態でしたが)。
とても難しいことをシンプルに表す数式を「美しい」と言う清水先生のお話は、その学問の素晴らしさに心酔し、その学問の魅力と重要性、そして普遍性を生徒に伝えようとする熱量の高い先生方が実践する、同校の教科教育の典型例とも言えるでしょう。
そしてまた、それは教科教育を超えて、同校の掲げる「ノブレス・オブリージュ」に向かうためには真の「教養」が必須であるとする、同校の教育姿勢でもあります。
「なぜ?」をとことん追求して
次の扉を開いていく
これからの時代に求められるのは、知識があることを前提に、そのうえで「あなたはどう考える?」という問いに対峙していくこと。ですから、普段の授業では、考えていくための基盤となる基礎・基本についてもしっかりとトレーニングを積んでいきます。
清水先生:「道具を使うだけでいた生徒ほど、よりしっかり向きあいたいと思っています(笑)。先ほどお話ししたように、道具を使うだけでは『壁』が立ちはだかります。それに対して『なぜ、そうなるの?』と、繰り返し繰り返し、問いかけていきます」
先ごろ、中間テストが終わった後、清水先生は中3生に大学の共通テストを1問出してみたそうです。もちろん、中3生にとってはなかなかに難しかったようですが、普段はコツコツと知識を覚えていくことが苦手でも、意欲旺盛で好奇心があり、何にでも疑問を抱くタイプの生徒が対応できていたそうです。
そのような意識づけをも含めた指導を普段の授業の中でも心がけているという清水先生ですが、ところで、先生自身にとっての「数学の魅力」とは何でしょうか。改めて聞いてみました。
それは、先述の「数式の美しさ」とともに、「答えは一つ。でも、途中経過はたくさんあるところ」だそうです。
学びには、生徒同士で「教え合う」
アクティブラーニングが最も有効
同校では各教科はもちろん、独自プログラム(最後のコラム参照)などでもアクティブラーニングを展開していますが、数学でも適宜実施されています。
清水先生:「知識の構築は欠かせませんから一斉授業は必要ですが、一斉授業だと机の上で『わかった気になって』終わってしまいがちです。重要なのは仲間同士でやりとりすること。ただ、仲間といっても大人数では一斉授業と変わりませんから、ベストなのは隣にいる人同士で教え合うことだと思います。ですから、必要に応じて最小単位のグループワークを行っています」
そのようなアクティブラーニングを実践すると、授業後にも「なぜ、こうなるんだろう?」と、友達同士で会話している場面に遭遇することがあるそうです。
清水先生:「そのような光景を目にすると、狙い通りと言いますか(笑)、嬉しいですね。それでこそ、真のアクティブラーニングといえるのかもしれません」
生徒の意欲を一瞬たりとも置き去りにしない、
強力なサポート体制を敷く
そして、このような学習の大きな成果の一つとして、冒頭でもお伝えした大学合格実績があります。今春は、初の東大合格者2名を含む国公立49名、早慶上理ICU109名、GMARCH240名と、さらに大幅更新。卒業生数208名という母数から見ると、見事な実績です。
二瓶先生:「都内の難関私立大で定員厳格化が始まるなか、生徒たちはよく頑張りました。これまで一歩一歩積み重ねてきたものが形になってきているのかもしれません」
その「積み重ね」とは、改良を続ける同校の教育の中身はもちろんですが、もう一つ、中1から続ける「TQノート」があると二瓶先生は言います。
これは、時間管理能力の育成を目的としたもので、生徒は土曜日に翌週の学習目標を設定し、計画を立て、その計画に沿って学習を進めます。そして、計画通りに学習できたかどうかを毎日記録していくことで、学習習慣を確立しつつ、自分に合った学習法を見つけていくのです。
このノートには先生も目を通し、必ずコメントを添えて返却します。また、担任の先生だけではなく、学年の先生方全員で共有し、データ化された各種テストの成績と合わせて指導に生かしています。
清水先生は、きちんと時間を区切って、夜間でも自宅学習をしている生徒からの質問メールを受け付けているそうですが、このように、生徒と先生のやりとりが日常的に密なことからも、生徒の意欲に応え、さらに大きく伸ばす同校の体制がうかがえます。
二瓶先生:「教員もみなクラス全員分のTQノートにコメントを書き続けていますし、面談も頻繁に行い、教員同士で学習指導の分析会もやっています。そうした、生徒と教員が共に努力し続けてきたことが実になってきているのだと思います」
同時に、同校の学校システムが大きく関わっているかもしれません。
学校には「教務部」という部署がありますが、同校の「教務部」は「教育設計」と「教育管理」に分かれています。「教育設計」では主にキャリア教育、行事の立案、LiPや道徳教育、防災、教員研修などを、「教育管理」では主に個々の生徒の成績管理、カリキュラム、国際教育などを、と役割が分担されているのです。だからこそ、先生方もいっそう焦点を絞った指導に打ち込めるのでしょう。
このようにして、同校はこの10年間、さまざまな改良を積み重ねながら、一人ひとりの生徒の発芽を見逃さない体制を可能にしてきたのです。
中学受験の人気校でありながら、入学時よりもさらに大きく力を伸ばす学校としてメディアからも注目される同校ですが、このような親身で手厚い教育環境のもと、学力は言うまでもなく、主体的に物事に取り組めるだけの自己マネジメント力を育むことに力を入れているからこそ、この大学合格実績が実現するのでしょう。
そして、大学合格の先にある、「ノブレス・オブリージュ」の精神を体現できる大人になることを目指して、生徒たちは自分が学ぶ目的を模索し、自分の未来像を描きながら、日々、アクティブに学びを楽しんでいます。
以下では、ここまでにご紹介しきれなかった同校で実践される特徴的なプログラムについて簡単にお伝えします。これらは、生徒たちの学習を根底から支えるものであるとともに、一生涯を通じて目指していく「ノブレス・オブリージュ」の土台を形作るものでもあります。
■理科教育プログラムSST(Super Science Todoroki Program)
理科は、私たちの生活に大きく関わる科目。そこで、中1・2の理科の授業はすべて実験・観察に充てられます。年間100にも及ぶ実験・学習テーマを設定し、「予習(予想)・仮説」→「実験・観察」→「まとめ・考察」というサイクルで行うなかで、科学する心を刺激し、探究心を育みます。休日には、「多摩川の植物調査」「地学巡検」「博物館見学」などのフィールドワークも行われます。
■ICT活用が加速
今年度から、全学年がタブレットを所持する体制が整いました。
大学入試改革でも注目される「eポートフォリオ(学習や行事などでの活躍記録をデータ化したもの)」は、通常は高校から活用しますが、同校では中1から全学年が取り組んでいます。
■独自のアクティブラーニング、「システムLiP」と「知識構成型ジグソー法」
「LiP」とは、「リテラシー&プレゼンテーション」を表す造語。「システムLiP」は同校独自のプログラムで、ワークショップを中心に、「正しく読み取る能力」と「人を行動に駆り立てる説明力」、つまり、「問題解決能力」の育成を目的に実施されるものです。
また「知識構成型ジグソー法」はLiPに関連しますが、その一歩先にあるもので、東京大学のCoREF(大学発教育支援コンソーシアム推進機構)が開発した学習法です。協働学習を通して物事への理解を深め、問題解決能力を育むこのプログラムは、中1から授業に導入し、年に1回以上、全教科で実施されています。
※システム「LIP」の詳細についてはこちら→https://www.tcu-todoroki.ed.jp/support/systemlip/index.html
■多彩な「人間関係力構築」プログラムも
「友達に『遊びに行こうよ』と誘われた。相手を傷つけないように、どう断る?」「友達と待ち合わせをしていて、相手が15分遅れてやってきた。まず、なんて言う?」といったことを、先生が生徒に問いかけるのが「アサーショントレーニング」です。これは、相手のアサーティブ権(人権)を尊重したうえで、自分の意見や気持ちをその場にふさわしい表現に相手に伝えることを目的としたトレーニングのこと。
困難な問題をコミュニケーション技術でどう克服するかをテーマに、問題解決力を養うと同時に、他者を思いやる心をも育むものです。