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学校特集

大妻中野中学校・高等学校2019

みんなが「幸せ」になるために「待たせない教育」を企画室が推進
海外在留経験者が16%。帰国生と一般生とのコラボレーションが相乗効果を生む

掲載日:2019年11月1日(金)

近年、英語入試やICT教育の導入など、時代の先を読みながら大胆かつスピーディーに改革を行ってきた同校。さまざまな改革の推進力となっているのが「企画室」です。校長直轄のもと複数の先生で構成される組織ですが、生徒のためになると判断したことは「即実行」してきました。改革が進み、深化した同校の「今」を、企画室長の光村剛先生と教頭の諸橋隆男先生にお話を伺いました。

「待たせない教育」とは、
今必要なことは、今行うこと

先生方の「すぐやる」マインドセットが
生徒たちのモチベーションをも引き上げる

企画室が発足したのは8年前。生徒を取り巻く環境が目まぐるしく変化するなか、当時の校長・宮澤雅子先生が未来を見据えた教育改革に踏み切りました。企画室は、その改革の「エンジン」の役割を担い、全国各地の役所で注目を集めた「すぐやる課」のごとく、宮澤前校長のもと、一丸となって改革を進めてきました。

大妻中野_企画室長の光村剛先生
企画室長の光村剛先生

光村先生:「生徒にとっての1年は、我々大人とは違って非常に大きな1年です。中2生と中3生でも違う。ですから、検討期間を設けて導入を遅らせるより、『生徒にとって今必要なことは、今すぐ行うべきである』という考え方で動いています。まずは動きだし、並行して最善策を考える。うまくいくかどうかわからなくても、とにかくやってみる。そういうマインドセットを我々教員が持つことは大事です。それはまた、生徒たちがこれからの未来を生き抜いていくためにも必要になる力だと思っています」

諸橋教頭:「宮澤前校長が校長に着任した翌年には企画室が発足し、次々と『生徒を待たせない教育』改革を行ってきました。現在は、当時からその思いを共有し続けた野崎校長と共に、改革の具現化を徹底しながら、カリキュラムマネジメントに取り組んでいます」

■大妻中野の近年の改革の歩み

2013年 新校舎完成
2015年 SGHアソシエイト校指定を受ける/ICT環境で授業を開始
2016年 一人1台タブレットを所有/「グローバルリーダーズコース(GLC)」新設
2017年 「新思考力入試」新設/「妻中(つまなか)サクセス」始動
2018年 「算数入試」新設/「GLC」「アドバンストコース」の2コース制へ
2019年 ユネスコスクールへの加盟


ICT教育の推進で、
質の高い学びをさらに実現

大妻中野_教科横断型のプログラミングの授業の様子
教科横断型のプログラミングの授業の様子

最初の大きな改革として取り組んだのは、ICT環境をフル活用した授業改革の推進があります。
7年前、新校舎の完成とともに、当時はまだ一般的に普及していなかった電子黒板を全クラスに設置して注目を集めました。生徒全員が所有するタブレットは幅広い学びのなかでフル活用され、オンライン英会話や家庭学習にも役立っています。

また、自分で挑戦した課題やプレゼンの記録は振り返りができるうえ、それがそのままポートフォリオという成果物になって大学の新入試にも生きてくるなど、同校の質の高い学びの実現に大きな役割を果たしています。

進化し続けるグローバル教育。
そこには、帰国生と一般生が互いに高め合う環境がある

帰国生と海外在留経験者が全体の16%。
校内は、まさに多様性を体験する場

SGHA(スーパーグローバルハイスクールアソシエイト)校への指定、グローバルリーダーズコース(以下、GLC)の設置、ユネスコスクールへの加盟など、創立以来、力を注いできたグローバル教育も、さらに発展し続けています。

大妻中野_グループワークでは活発に意見が飛び交う
グループワークでは活発に意見が飛び交う

帰国生教育を始めて18年目になる同校には帰国生が数多く在籍し、帰国生同士、そして帰国生と一般生がお互いの良いところを認め合い伸ばし合う教育が行われています。
帰国生が英語力をさらに高めながら、伸びやかに学べる環境が整う同校では、全体の11%が帰国生。海外在留経験をもつ生徒を含めると、約16%にも上ります。この数字は都内の女子校のなかで2番目に多いといわれ、帰国生と一般生のコラボレーションが際立つ学校として注目されています。

大妻中野_SGHAの活動の一環で実施される「外国語発表会」で、フランス語で発表する生徒たち
SGHAの活動の一環で実施される「外国語発表会」で、フランス語で発表する生徒たち

諸橋教頭:「4年前より『GLC』を設置しました。帰国生により適した教育環境をと立ち上げたコースで、グローバル入試に合格した生徒と共に国際感覚を養っています。英語だけではなく、中1からフランス語も必修ですが、複数の言語に触れることで世界の複合性を理解し、国際社会、異文化への関心を高めています。中3以降は毎年、全体でコースを再編成し、GLCとアドバンストコース間の移動も可能になります」


■2コースの特徴と、同校全体の学びの概念図
大妻中野_2コースの特徴と、同校全体の学びの概念図
大妻中野_SDGsのプログラムで、白熱中!
SDGsのプログラムで、白熱中!

中1・2はGLC(帰国生入試・グローバル入試の合格者)1クラスと、アドバンストコース(アドバンスト入試・算数入試・新思考力入試の合格者)5クラスの2コース編成。GLCはグローバルに特化した教育を展開し、アドバンストコースは先取り学習の徹底を図っています。
そして、両コースともに多様性を重視して、SDGs(Sustainable Development Goals持続可能な開発目標)の達成を目指す、地球市民を育成するプログラムに力を入れています。

「フロンティアプロジェクト」は
中2から高2まで、誰もが参加できる課外授業

「フロンティアプロジェクト」とは学年を超えて、大学や企業、海外の機関などと連携して行われる特別プログラムのこと。先輩・後輩、帰国生・一般生、学年やコースを超えて、手を挙げた人なら誰もが参加可能で、土曜日の午後に、30人ほどで行われています。

光村先生:「『教えられる学び』ではなく、『お互いを高め合う学び』のスタイルに基づいて活動しています。ディスカッションする力や、場面によっては相手の意見を聞き入れ増幅する『触媒』の役割を果たす力、物事をスムーズに回す力など、いろいろな力をつけるために自由に活動するチームです。ここでも帰国生は、講演会の講師の方に自由に質問をし、物怖じしません。エネルギーが高く、インフルエンサーの役割を担う一方、計画を立てることなど苦手なことは一般生から学ぶなど、お互いに認め合って役割分担をし、刺激し合っています。多様性のなかで『これが正しい』と一つのことに終始するのではなく、『この子はこれができる』といった相互承認は、これからのグローバル社会で重要なポイントになると思います」

大妻中野_「フロンティアプロジェクト」では、途上国に服を送る活動も
「フロンティアプロジェクト」では、途上国に服を送る活動も

諸橋教頭:「帰国生を特別視しない雰囲気に、帰国生も『居心地が良いよね』とよく言っています。居心地の良さは一般生たちが作ってくれているのだと思います。本校の生徒たちには、人のことをきちんと認めて、受け入れる素直さがありますね」

光村先生:「外部から多種多様な環境で活躍される方を講師に招き、議論の場を設けたりしますが、時には1時間の授業が4時間になることもあります。私自身、外に出ていろいろな人とつながりたいと思っていますので、おもしろい方に出会えた時には、交渉して本校に来ていただいています。通常は年間のスケジュールを立て、1学期には自分を表現する力、2学期には地域とのつながりで何か成果物を作るなど、目標設定は教員がしていますが、グローバルリーダーになりたいと意識の高い生徒が集まっていますので、生徒たちがどういうことをやりたいのかを吸い上げながら活動しています」

大妻中野_ラトビアEU大使をゲストに迎えて
ラトビアEU大使をゲストに迎えて

諸橋教頭:「外に出てフィールドワークを行ったり、映像制作や調理実習を行うこともあります。中野駅でゴミ拾いを地域の方と一緒にすることもあり、終わった後にどんなことを感じたのか話し合うなど、型にはまらず、その時々で生きた学びを行っています。生徒もいろいろな視点で学ぶことで、自由な発想やプレゼンテーションなどの力をつけてきていますね。この『フロンティアプログラム』は単に一つのプログラムというより、今では学校の核になっている活動です」

選択肢が多い留学制度。
帰国生から刺激を受けて、一般生が積極的に海外へ

同校は、世界7カ国20校以上と教育提携を結び、在籍したまま、学期、年間の単位で留学することができます。海外プログラムはすべてオリジナルで、数々の充実したプログラムが用意されています。

光村先生:「帰国生と一般生のコラボレーションが進んでいくなかで、留学に行く生徒も増えてきました。今年も40名以上が留学に行っていますが、半数以上は一般生です。教員が留学を勧めるというよりも、帰国生が英語を話すのを間近で見たり、実際に留学に行った生徒の声を聞くことで刺激を受けるようです。カナダやニュージーランド、フランスなど各国に生徒が行くことになるので、ホームルームをポータルサイトで行うこともあります。各自が経験したことをクラスのページにアップして、タイムリーに情報を共有しています」

また、同校では、2015年から文部科学省が主催する「トビタテ!留学JAPAN」で留学する生徒もいます。なかでもアカデミックロング(4カ月から1年間の長期在籍)は難関で、全国でも20名しか審査を通らないのですが、昨年は同校から2名、今年は3名が選ばれています。

大妻中野_「トビタテ!留学JAPAN」エントリーに向けたワークショップにて
「トビタテ!留学JAPAN」エントリーに向けたワークショップにて

諸橋教頭:「今年選ばれた3名のうちの一人は帰国生なのですが、英語力は一般生と同じレベルで入学してきました。でも、ニュージーランドの短期研修で英語を話せなくて悔しい思いをしたり、学校生活で他の帰国生から刺激を受けて、スイッチが入ったようです」

毎日の学校生活のなかで啓発しあう帰国生と一般生たちですが、同校の「帰国生教育」は、日本社会へ同化させる適応教育ではありません。それは、異文化体験で得た特性を見出し、伸ばす教育です。これは、帰国生の保護者の方々からも高い評価を得ています。

「幸せな社会をつくる」人材の育成は、私学のミッション。
主体的に動ける生徒を育てる

今はチャレンジして、失敗することが大事。
そこから課題解決力が育まれる

生徒同士が刺激し合い、積極的に海外に目を向けてチャレンジできる環境を整えている同校では、自分で考え、主体的に動ける生徒の育成に努めています。

光村先生:「ひと昔前までの日本の学校は、生徒たちを管理する場所だったように思います。そのような場では生徒たちは伸びませんし、学校を卒業した後、管理されなければ何もできない人になってしまいます。管理されるのではなく、自由が広がった分、自分で責任をもてる大人に育ってほしいのです」

先生が生徒を信頼するからこその、自己責任。それは、海外の研修旅行中においても同様です。「フロンティアプロジェクト」では、タイのチェンマイで現地の高校生と協働でフィールドワークを行う活動がありますが、生徒たちは体調管理や時間管理も自分たちで行うといいます。

大妻中野_「チェンマイ研修」に参加した生徒たち
「チェンマイ研修」に参加した生徒たち

光村先生:「教員は『次の日からきちんと活動できるように』とだけ伝え、寝る時間や食べ物も制約せず、身体の調子は生徒自身が自分で管理するなど、自己責任のもとで行っています。今年も全員が健康で乗り切り、現地の3つの高校と充実した交流ができました」

そして、光村先生は自分自身で判断する力、自己管理できる力をつけるためには、「失敗してもよい土壌作りが大切」といいます。

光村先生:「失敗はいくらしてもいいのです。失敗したら、それをどう乗り越えていくかを考える。それが、課題解決能力につながりますから。もちろん、取り返しのつかない大失敗は避けなくてはいけませんが、『ここまでなら、今はいくら失敗してもいいんだよ』という土壌を我々が作ることが大事だと思います。学校を出て大人になった時、『自分はどこまでできるのか、できないのか』『何をすべきで、何をすべきでないのか』と判断ができて、責任を取れる人になってほしいと思います」

自分自身でレールを敷くことができる
主体的に考え、行動する人に

光村先生:「レールの敷かれているところばかりを進んでいると、レールのないところでは立ち往生してしまいますよね。ですから、自分自身でレールを敷けるようになってほしいのです。本校は、『うちの学校に入ったらこれができます』という金太郎飴のような一律のものではなく、それぞれの生徒が伸ばしたいところを伸ばせる学校になりたいと思っています。やりたいことをやるために、自分の学びたい大学に行けるように学力をしっかり伸ばしていくことが大切です。『自分がどこへ向かえばよいか』『自分が何をすればよいか』、学校生活の中で生徒が具体的に考えることができる環境を整えています」

着実に自分自身のレールを見つけ始める生徒たちに、先生方は手応えを感じ、生徒の成長を実感する機会が増えているそうです。

諸橋教頭:「先ほどお話しした『トビタテ!留学JAPAN』アカデミックロングに選出された生徒ですが、演劇を通して自分の考える世界を描きたいという夢がありました。そこで、留学を終えて1年後に日本に戻ってきた時に協力してくれる企業を自ら探し出して、アイルランドに旅立ちました。その話を聞いた時は、本当に嬉しかったですね」

こうして成長し続ける生徒たちだけではなく、時には先生方の意識を変えていくために話し合いを重ね、理解を深めていくのも企画室の役割でもあるといいます。

生徒だけではない。
先生方も変わり続けていくのが妻中流

光村先生:「自身が管理された教育を受けてきた教員は、管理する教員になってしまいがちです。生徒たちの資質を伸ばし、これから目まぐるしく変化する社会にフィットさせていくためには、学校自体も変わる必要があります。例えば、教員によるノートチェックなど、細かい知識の獲得を強制するのではなく、『何のために働いて、何のために学ぶのか』と、もっと先へ意識を向けるように学校側がシフトすることが大切です。『やってもやらなくてもいいよ』と言った時に、主体的にやる生徒を育てたいのです。これはやったほうが自分のためになると、生徒自身が考えることが大切です」

大妻中野_チアリーディング部
チアリーディング部

レールを敷いてしまいがちだった日本の教育からの脱却を目指し、未来に向けた学びのために、先生同士がつねに話し合い、オープンにして全員で共有する同校。
「生徒の自己実現を自らの喜びとし、広い視野を以て、生徒が自己の可能性を引き出すことができるよう自立に向けたサポートを行う」という『理想の教師像』も先生方で話し合って明文化しました。
つねに生徒の成長を願う先生方もまた、歩みを止めることなく、前進し続けています。

大妻中野_合唱部
合唱部

光村先生:「教員も、生徒と一緒に成長していくことが大事です。たとえば、電子黒板・タブレットなど、なかには機械の操作が得意ではない教員が、生徒から操作を教わることもあると思います。教員が一方的に教え込むというよりも一緒に成長していくスタンスでよいと思うのです。どんどん成長していく生徒がいるなかで、我々教員が止まっていたら生徒の成長を阻害することになります。我々も変わり続けていかないといけません」

教科の学びのなかでも、変化があると言います。

光村先生:「私自身の話ですが、以前は、授業のなかで一番気をつけていたのは、黒板に書く板書でした。ノートにはすべてが残るので、生徒のノートに何が残せるのかということを一番に考え、わかりやすいように配色にも気を配っていましたが、今は板書をほとんどしません。教師が書き終わるのを待って、書き写すだけというのは単なる作業になってしまいます。現在は、タブレットで配信したものを、それぞれの生徒がそれぞれに工夫してノートに書いています」

2017年に始動した「妻中サクセス」と名づけられた学び方によって、生徒たちは、授業中に目と耳と手をフル回転させ、要約しながら自分の表現として書き進め、限られた時間内で要点を探り出す力を高めています。

自分の幸せと、みんなの幸せを考える。
生徒たちは、社会貢献への志を抱いて飛び立っていく

大妻中野_慶應義塾SFC学生との合同フランス語授業にて
慶應義塾SFC学生との合同フランス語授業にて

光村先生:「幸せは一人ひとり違います。何が自分の幸せで、何がみんなの幸せなのか、そういうことを考えて行動できる大人になってほしい。入学してすぐに、クラスのためにと思っている生徒はいなくても、学校でいろいろなことを経験しているうちに、自分の幸せと他人の幸せを少しずつ考えられるようになります」

諸橋教頭:「自分だけの達成感ではだめですよね、社会に貢献できないと。私学に通う生徒たちは恵まれた環境にいます。そのことに気づき、社会を積極的に良い方向に変えていく生徒を育てることは、私学のミッションだと思っています」

大妻中野_「表現学習プログラム(ドラマ体験)」の様子
「表現学習プログラム(ドラマ体験)」の様子

光村先生:「日本は世界の中でも良い教育を受けられるほうですが、そういう教育を受けた人間には社会的責任があります。大人になって社会的影響力をもち、インフルエンサーになった時、その人たちが社会貢献へのマインドセットを持ち合わせていなければ社会は変わっていきません。将来、社会を動かしていく人たちであるからこそ、何が自分の幸せか、何が他人の幸せなのかをしっかり考えられる大人になってほしいと思います」

2018年には算数入試を新設し、プログラミングの授業もスタートするなど、STEM教育(Science・Technology・Engineering ・Mathematicsに重点を置いた理数系人材育成)にも力を入れている同校では、カリキュラムマネジメント委員会も立ち上げ、文理の枠を脱却したカリキュラム編成も検討中です。すべては、生徒のために!

このように、同校の豊かな教育体制の中で学んだ生徒たちは、建学の精神「学芸を修めて 人類のために」の言葉通り、6年間で培った力を携えて、幸せな社会の実現を目指してそれぞれの道を進んでいくのです。

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