学校特集
江戸川学園取手中学校・高等学校2019
掲載日:2019年10月1日(火)
41年の歴史のもと、
「伸びようとする芽を伸ばす教育」が加速している
「心は鍛えるもの。そうでなければ本当の優しさは生まれない」、「タフな学力を支えるのは人間力」。竹澤校長がつねに口にするこれらの言葉は、教科学習や多様な体験学習とともに、道徳にも力を入れる同校の教育を端的に物語っています。
竹澤校長:「人間力を構築するために最も大事なのは、教育の質を落とさないことです。人間性の劣化が、物事の質を劣化させますから。だからこそ、学校は長期ビジョンをもって人づくりをしていかなければなりません」
その「人づくり」のために、同校ではさまざまなプログラムを通して世界型人材に大切な以下の「3つの目」を育てています。
・虫の目...足下をしっかり見つめる
・魚の目...流れに流されず、時流を見極める
・鳥の目...全体を俯瞰する
そして、これらを根底から大きく支えるのが、モットーとして掲げる「授業が一番」です。
竹澤校長:「授業は、人づくりの生命線です。教室が、教師と生徒が共に学問の素晴らしさやおもしろさを追求する空間であるかどうか、それがすべてです。大切なことが皮膚感覚でダイレクトに伝わる、それが真の教育ですから」
この大きな指針の下、「規律ある進学校(規律とは互いを思いやる心で支えられるもの)」として「伸びようとする芽を伸ばす教育」を実践しながら、建学の精神である「世界を築く礎となる人材」の育成に努めるのが江戸川学園取手です。
高校に「医科コース」を設置して26年。医学部への進学者数は累計1500名近くにのぼる同校ですが、2016年から中学でも「東大ジュニアコース」「医科ジュニアコース」「難関大ジュニアコース」と、3コース制を導入しました。
でも、これは中学入学時から進路を定めるのではなく、自分の夢や目標を具体的にイメージするためのもの。
竹澤校長:「志望は途中で変わることもあるでしょう。それでいいのです。それよりも、早い段階から自分の夢や目標をイメージできれば、さまざまな『気づき』が得られますし、仲間と互いに切磋琢磨もできるでしょう。そのように、自分の進路を考える羅針盤を持つことが大事だと考え、中学からコース制にしました」
コース制といっても、中等部では各コースとも授業のカリキュラムは共通。そのうえで、それぞれ希望の進路に合わせたさまざまなプログラムを総合学習などで実施しています。
では、今回のテーマについてお伝えする前に、3コース制を敷く同校の「6年間の流れ」を改めてご紹介しておきましょう。以下の図をご覧ください。
※「難関大コース」では、高2から中入生と高入生が混合します。
世界型人材の育成を目指した「国際教育」プログラムもいっそう充実
一昨年に創立40周年を迎え、「ようやく学校としての型ができたように思います」と語る竹澤校長ですが、多様な学びのスタイルに対応するためには、学校自体がプラットフォームでなければならないと言います。
そのための勢いを増していますが、語学や異文化に対する関心が高く、海外体験を希望する生徒たちが年々増加しているなか、次代の国際人を育成する海外プログラムも広がりを見せています。以下に紹介するのは抜粋です。
今夏、中3の14名を含む計49名が参加。
ブリスベンにあるノースサイドクリスチャンカレッジとサンコーストクリスチャンカレッジ、およびメアリマウントの3校に分かれ、ホームステイをしながら現地校に登校して授業を受けたり、さまざまなアクティビティーに参加します。
このホームステイを通じて、改めて「家族」というものについて考えさせられました。私がこうして有意義な時間を過ごせるのも家族の協力・努力のおかげであることを改めて痛感し、家族の存在や、日々の毎日が、尊く、貴重なものとしてみるようになりました。普段身近にいる家族から離れ、第二の家族のもとでのホームステイによって、一層このようなことを実感しました。現地の学校の生活は、私自身を成長させる貴重な体験となりました。国や、国境といった隔たりを超えた、多くの同世代の仲間との心の交流は自分自身の視野を幅広いものにするとともに、言語にとらわれない「心」による会話の無限大の可能性を教えてくれました。今回のホームステイは、多種多様な異なる文化を受け入れる寛容性の重大性、国際交流の原点、英語に対してより高い姿勢で学ぼうとするようになった学習意欲をはじめとする多くの教養は、真の財産になったに違いありません。
SDGsスタディーツアー in カンボジア・ベトナム(中高/約1週間)
今夏、昨年より10名増えて計24名が参加。
課題解決型学習を現地で体験する研修です。小児病院や孤児院を訪れ、戦争証跡博物館や世界遺産を見学するほか、ホーチミン市の大学やJICAの事務局への訪問、現地の方にお話を聞いて情報収集などを行います。
今年も、1970年代のベトナム戦争時、枯れ葉剤の散布被害によって結合双生児として生まれたグエン・ドクさんとの懇話会を実施しました。
僕は、事前学習報告書には「安全な水とトイレを世界中に」という項目について興味があると書いたのですが、実際に行ってみて、目の当たりにして感じたこと、それは「人や国の不平等をなくそう」です。SALASUSU工場で働いていた女性は16歳で、僕たちと同じ年齢です。ですが、彼女は働いてお金を稼いでいます。彼女の父親は、彼女が幼いころマラリアで亡くなりました。そのために彼女が働かなければならないのです。僕たちが当たり前だと思っていることが当たり前ではないということを実感しました。
そして、カンボジア、ベトナムに行って忘れてはいけないと思ったこと、それは暗い戦争や内戦の歴史です。修学旅行で広島に行った時、戦争の恐ろしさや残酷さを学びましたが、今回それを再認識することができました。そのために、これからは唯一の被爆国として、平和を掲げている日本人として、戦争を知らない世代に戦争の脅威と、繰り返してはならないということをしっかりと伝えていきたいと思っています。そのためにも、ドク氏がおっしゃっていたように、まずは一生懸命勉強して自分自身を高めたいと思いました。学習をすることで世の中に対する広い視野を持ち、現在社会で起きている問題を的確に把握するとともに、相手に寄り添い理解することができる広い心を持つことがSDGsの目標達成、また世界平和につながる大きな一歩になるでしょう。
(中3・高1/17日間)
オーストラリア短期留学だけでは希望者の受け入れ枠が足りず、オークランドへの短期留学も新設しました。
豊かな自然を体感しながらホームステイをして現地高校で学びます。
(中高/7日間)
高等部「医科コース」に特化した医療系海外研修。全米でも難関のカリフォルニア大学サンディエゴ校は、医学・工学系、海洋学分野でも全米トップレベルですが、そのサンディエゴ校で教授や同校の卒業生である研究者から話を聞くなど、世界最先端医学に触れる体験をします。
昨年度末、中1〜高2の38名が参加。
ワシントンD.C.とボストン、ニューヨークの3都市を巡るもの。ハーバード大学で同校の卒業生でもある研究者の講演を聞いたり、マサチューセッツ工科大学のキャンパスツアーや国連本部の見学などを行います。
竹澤校長:「このように、さまざまなニーズに応えるためプラットフォーム化を進めていますが、中学生の意識の芽生えが顕著になっていることも嬉しいことです。また、生徒自身が体験し、学んだことはすべてPortfolioに蓄積していきます」
課外活動「アフタースクール」は、なんと157講座も!
昨年度から50分授業を45分に短縮し、そこで生み出された時間を「アフタースクール」に充てています。「アフタースクール」とは、これまで実施していた放課後の課外授業を含め、多様な講座を新たに立ち上げて再編成したもの。
文科省が推進する高大接続一体改革は「これからの社会で活躍できる力、自ら課題を発見し、他者と協働し、答えを作り出す力をもつアクティブラーナーの育成」を目的としていますが、同校のアフタースクールはまさにそれを体現しています。
竹澤校長:「全員一緒の時間を減らし、個人が主体的に選べる枠を広げました。学校は、生徒が子どもから大人になる過程を預かっていますから、自立させなくてはいけません。自分の個性や適性に気づき、自らの手で可能性を広げていくことは、『生きる力』につながっていきます」
このアフタースクールは、以下の9種計157講座という充実ぶりです。
❶学習系 ❷英語4技能系 ❸実験系 ❹合教科系 ❺芸術系 ❻アクティビティー系 ❼イベント系 ❽フィールドワーク系 ❾インターンシップ系
一例を挙げれば、❷の英語4技能系には人気の「オンラインスピーキング」があり、❹の合教科系の「世界の朝食をつくろう!」では「地理+世界史+家庭科」と教科を横断して学び、❻のアクティビティー系の「ダイビング講座導入編」では実際にスノーケリングから学び、❼のイベント系では「模擬国連」に参加、❽のフィールドワーク系には「フィールドワーク〜古地図と巡る関東〜」があり、❾インターンシップ系には「三菱UFJモルガン・スタンレー証券インターン『株の力』を伝える新聞広告制作」があるなど、じつに幅広い内容になっています。
竹澤校長:「生徒たちには主体的に取り組む姿勢ができてきましたし、自分で見つけてきた外部プログラムに参加するなど、積極的に外へ出ていく生徒も増えましたね。これは余談なのですが、このようにさまざまな方面で勢いが出てきたため、終業式では表彰が増え、一人ずつ賞状やトロフィーを渡していくだけでかなり時間がかかります(笑)」
「卒業生を囲む会」が後輩の背中を押す
毎年大勢の卒業生が後輩のために来校し、自分の大学受験の体験や大学生活について語る機会に「卒業生を囲む会」があります。今年は65名の先輩が集まりましたが、この会は先輩から後輩へ受け継がれてきた、同校ならではの伝統行事です。
事前に生徒たちは先輩に質問したいことをタブレットに入っているクラッシーに上げ、当日は先輩と後輩のディスカッションを行う全体会の後、分科会でさらに自分の志望に近い先輩と対話する形式をとっています。
竹澤校長:「この先輩と後輩の絆も、学びのプラットフォームを作っていく強力な追い風になっていますね」
先輩たちは「知ることからすべてが始まる。だから、伝えたい」と熱意をもって自身の経験とそこから得たことを語り、後輩たちは先輩の話から大きく視界を広げていきます。
自分の夢を実現した先輩たちの進路はじつに多彩ですが、海外大学への進学を視野に入れている生徒も多いことを反映してか、ニューヨーク州立大学に進学した先輩の分科会には約200名も集まったのだとか。以下に、「卒業生を囲む会」に参加した後、意欲をまた一段とアップさせた生徒たちの感想文(抜粋)をご紹介しましょう。
海外の大学には日本の大学とは違う楽しさがあることがわかり、感動しました。先輩の「外国でも一人で生活していける力を身につけるべきだ」というお話には納得してしまいましたし、いろいろなことを工夫しながら頑張っている姿に接して、私自身、未来の選択肢を広げることができたと思います。先輩の話に背中を押されました。
★将来は昆虫学者になりたい中2男子(東京大学に進学した先輩の分科会に参加)昔読んだファーブルの伝記に、「セミを焼いてオリーブオイルと塩をかけて食べたら美味しくなかった」と書いてありました。イナゴの佃煮はありますが、僕は非常時のためにそれ以外の昆虫食の作り方を知りたいです。また、外国に行ってツノゼミも探したいと思っています。ツノゼミは日本にもいますが、種類が少ない。しかし、外国にはたくさんの種類がいて、角の形もおもしろく、なぜその形になったのかも知りたいです。ツノゼミはとても小さく、一見ゴミのように見えます。でも、人間の耳では聞き取れないくらい小さい声ですが、ちゃんとセミのように鳴きます。まずは東大に入り、昆虫学者になったら、小学生の時から見つけたいと思っていたそのセミを見つけ、どのように鳴いているかを研究したい。そして、どうすれば環境問題を解決できるかを研究したいです。
先輩の話を聞きながら、目をキラキラさせる生徒の様子が目に浮かびます。
そして、このような生徒の感想文を竹澤校長がすべて読む、というのも同校ならでは。
竹澤校長:「担任は自分のクラスの生徒のものしか見ることができません。ですから、生徒たちの気持ちが今どこに向かっているのかを総括して、改めて全教員に伝えることは私の役割だと思っていますし、そうすることで教員たちの背中も押してあげたいのです」
この「卒業生を囲む会」だけではなく、「東大キャンパスツアー」や「病院見学」「医科講話」など、コース別に卒業生が協力してくれるプログラムは多数あります。
「生徒の夢は学校の目標」と言い切り、「気づき」のための種をたくさん蒔いている同校。「気づき」さえ得られれば、生徒たちは自らどんどん突き進んでいきます。
その自ら突破していく力を時宜に応じて引き出し、タイミングを見ながら背中を押す教育を丁寧に、着実に行っているのが江戸川学園取手という学校です。
中学コース制1期生が高1に。江戸川学園取手小学校からの入学生も!
多様性の中で、さまざまな「相乗効果」が生まれている
第2ステージを迎えた学校改革の2年目。「深化と挑戦」をスローガンに掲げた今年、さまざまな新たなプログラムで勢いづいていることに加え、今後に期待がかかることがさらに2つあります。1つは、現高1の存在です。
そしてもう1つが、今年初めて、同校の小学校から一貫生を迎えたことです。
竹澤校長:「本校の小学校から63名が入学しました。その63名は各クラスに均等に配属していますが、小学校では『7つの習慣』(※)を徹底させていることもあり、早くもリーダーシップを発揮していますね。最初はこの生徒たちが核になるでしょうが、徐々に全体にシナジー効果が出てくると思っています」
中学入学生の枠が厳しさを増すことにはなりますが、それを超えて、今後ますます「多様性の中で共生する」ことが重要になる社会を考えれば、さまざまな個性が混ざり合い、互いに刺激し合うことに大きな意義があるのは言うまでもありません。
竹澤校長:「気持ちが入れば、人は変わります。今もすでに、生徒たちにその変化が出てきていると感じていますが、学びのプラットフォームをさらに充実させながら、日本人としてのアイデンティティーを持った『世界型人材』の育成に向けて、本校はこれからも挑戦を続けていきます」
SDGsをテーマにした「探究学習」や、世界の第一線で活躍する方の講演会や音楽会、古典芸能の鑑賞会などを行う「イベント教育」など、同校の魅力はまだまだたくさんあります。
そして、クラブ活動もその一つです。
例えば、昨年までは高校野球茨城県大会で3回戦止まりだった野球部が、同校らしく「頭を使う野球」を実践して今年は4回戦まで進みました。
高校生は全員応援に駆けつけたそうですが、3回戦では7回まで0−0。8回裏にヒットを2本、走者が3塁まで走ってタッチアウトになりながらも、9回で1点をもぎ取って勝利。
4回戦では春の甲子園選抜出場校と対戦し、7回まで2−2でしたが、最後は残念ながら負けてしまいました。「でも、バッテリーは高2ですので、来年に期待しています(笑)」と竹澤校長。
ほかにもチアリーディング部がアメリカの大会で優勝したこともあるなど、活躍するクラブは多数ありますが、この「文武両道」を貫く姿勢は、同校が展開する「心力」「学力」「体力」の三位一体の教育の象徴でもあります。