学校特集
江戸川女子中学校・高等学校2019
掲載日:2019年12月1日(日)
2020年に創立90周年を迎える同校。その時代に沿った形を模索しながらも、教育のベースが変わることはありません。それは、「教養ある堅実な女性の育成」という建学の精神です。「堅実」とは、「やるべきことをきちんとやること」。このシンプルながら成すのが難しい教育指針が、どのように同校の日常に生かされているのか、校長の菊池今次先生と、英語科の渡辺文彦先生、寺尾昭彦先生にお話を伺いました。
校訓にある「喜働」の精神は、
自分を生かし、他者を生かす「生き方」を促している
同校には古くから「誠実・明朗・喜働」という校訓があります。「喜働」とは、同校による造語。「働くことに喜びを感じる」という意味には違いありませんが、そこには、学校生活の中で人格形成のための基盤を培ってほしいという先生方の思いが込められています。
菊池校長:「例えば、クラスの中や部活動で自分が何らかの役割を担った時、誠実に職責にあたるだけではなく、創意工夫ができるようになってほしいのです。これはその先、社会に出てからも必要な力になります。学校でも社会でも、自分の望むことだけをやれるわけではありません。その時、与えられた役割を考えるなかで、より良いものを求めて工夫をし、自ら進んで周囲の人に声をかけ行動することで、自分にも周囲にも得るものがあると、人と人の関わりを築いていけるようになります」
2021年には中学で、2022年からは高校で新教育過程がスタート。同時に、2022年には高3生が成人を迎えることになります。
毎年カリキュラムを見直している同校ですが、そのように刻々と変化する時流のなかで、さらに重点的に教育の中身を再検討・再構築しています。
菊池校長:「18歳で成人ということは、高校在校中に成人を迎えることになりますので、学校は大人になる準備の最終段階を担わなくてはなりません。ですから、教育の方向もそこに照準をもっていかなければと思っています。子どもと大人の線引きは年齢だけではありませんから、知識や経験をもとに思考力や判断力と表現力を培うこと、そこにさらに力を注いでいきたい」
「やるべきことをきちんとやること」で、
「圧倒的な基礎力」を身につける
そして菊池校長は、同校の学習指導における変わらぬ方針について、こう語ります。じつに、明快です。
菊池校長:「学んだ知識は、使わなければ忘れてしまいます。それでいいのですが、でも、いったん理解したことは、忘れても振り返りをすれば、また理解した段階まで戻ることができるのです。ここが重要です。ですから、生徒たちには、『基礎学力』をきちんと身につけさせたいと思っています」
忘れていたことも、紐解けば思い出せる。これは、大学受験に際して志望変更をしたい時にも効力を発揮しています。基礎が身についていれば、次に移ることも可能になるのです。菊池校長は、卒業生を引き合いに具体例を話してくれました。
ある生徒は誰もが認める文学少女で、理系科目にはまったく興味を示していなかったそうです。ところが、高校生になって突然医師になりたいと目覚め、今は家業を継いで開業医となり、今でも医局で研鑽を積んでいます。逆に、薬剤師の資格を取得して働いていた卒業生が、旧司法試験に合格して弁護士となり、事務所を開業したケースもあるのだとか。
菊池校長:「まずは『いったん理解する』ために、本校では小テストでも理解の足りない生徒に対しては追試を何度も実施し、できるようになるまで終了しません(笑)。今はなぜ必要なのかわからなくても、将来役に立つことは山ほどあります。無駄なことは一つもありませんので、好き嫌いをさせず、『生徒が望んだ時に、努力すれば届くように導く』ことが我々の役目だと思っています」
これは、生涯にわたって「学び続ける姿勢」を育むことであり、「学び直し」を自らできるようにする力を授けることでもあります。
自分の過去の経験値を紐解き、新たに経験したことに肉づけしていく。そのようなことを時宜に応じてできる人材が、今後ますます求められていくことは言うまでもありません。
同校の学校案内パンフレットには、「『志』を高く掲げ、弛まぬ努力を続けて未来を切り拓いてくれることを願う」という菊池校長の言葉が紹介されていますが、ここには、そのような思いが込められているのです。
英語教育からも、同校の教育哲学が見えてくる
では、「基礎力の徹底」を図る同校の教育の様子について、英語を例にご紹介します。
1986年、都内で初めて高校に「英語科」を設置した同校。30年以上前にすでにグローバル社会を見据えていたわけですが、伝統的に英語教育に定評のある同校の、主に中学での様子についてお伝えしましょう。
渡辺先生:「目標としては、英語4技能をバランス良く身につけさせたいということがあります。私は今年、初めて中1を教えているのですが、ゼロに近い状態から見ていると、とてもおもしろいし難しい(笑)。『Repeat after me』と言うと嬉々として話すのですが、書くことは少しハードルが高いようですね。これは、小学校で行われる英語教育がオーラル中心であることも関係しているかもしれません。でも、じつは生徒たちはアルファベットにも興味をもっていますし、文法も嫌いではない。まだ文字と英語がリンクしていないだけなので、まずは『きちんと書けるように』ということを意識して指導しています」
文法は理屈なので、その仕組みを理解した途端、おもしろくなっていくのでしょう。その後は、生徒同士による活発な「教え合い」がよく見られるようになるのだとか。
「4技能をバランス良く」というのは、4技能を等しく満遍なくというよりも、「どこが欠けているかを注視していくことが重要」と、渡辺先生は語ります。
中学の授業は、主に以下を軸として展開していますが、4技能を伸ばすためには基礎力が必要です。そこで、同校では「授業」と「課題+確認テスト+フォローアップ」を一体化させて学力の定着を図っています。
ちなみに、同校の英語の授業時間数は、学習指導要領に定められた時間の約2倍となっています。
▶︎教科書は『Progress21』を使用し、中学3年間で高校の基本的な文法事項はすべて学び終える
▶︎英語圏の生活様式、考え方、各国の歴史なども学びながら、「4技能」を伸ばす
▶︎チームティーチングによる「英会話」の授業は週に1時間実施
▶︎年度末に3日間の英語集中プログラム「English Speak-Out Program」を実施。学年ごとにテーマを設け、最終的に英語で発表する
▶︎中3終了時までに英検準2級取得を目指す(例年、約8割が取得)
......など
渡辺先生:「基礎力はすべてのベースになるものですから、『絶対に落ちこぼれをつくらない』ために、朝に行う小テスト一つとっても、再々々々テストと、できるようになるまで何回でも追試を繰り返します。最初のうちは追試を受ける生徒もいますが、追試は放課後に行いますから部活動にも影響するとあって、生徒たちも『ちゃんと勉強しなければ』という意識をもつようになりますね(笑)」
こう聞くと、ギリギリ詰め込む様子をイメージしがちですが、そうではありません。
「やるべきことをきちんとやること」を習慣づけることがすべての土台になる、というのが同校の教育指針であり、そのためにも、ゆとりを持った学習を推進しようと、同校では65分授業・2学期制をとっています。平日が5コマ、土曜が3コマ。 50分授業を実施していた頃よりも1週間で120分授業時間が増え、以前よりもかなり多くの授業時間数を確保しています。
このように、基礎力を固める中学時代は「落とさない」指導が徹底されますが、高校では補習はほとんどなく、逆に通常の授業よりも上のレベルの講習を数多く用意。つまり、中学生は「落とさない」、自主性を身につけた高校生は「吸い上げる」のが、同校の指導体制なのです。
英語力を磨くためには、
他教科の学習が大事
また、渡辺先生は中1生に「英語を得意になりたければ他教科をきちんと勉強しなさい」と、常々言っているのだそうです。その意図とは?
渡辺先生:「外国語の運用力が、母語の運用力を超えることはないからです。さらに言えば、たとえ同じ風景を見ていても、言語のフィルターがかかることによって、見えるもの、見ているものが違うのだということも知ってほしいのです」
「言語のフィルター」とは、生活習慣など文化的背景のことです。
例えば、日本語には「魚」に関する言葉(語彙や漢字)が多いけれど、欧米では「肉」に関する言葉が豊富です。つまり、その国がその対象物とどのようなつながりがあるかで、語彙もニュアンスも変わってくる。そのように異なる文化を知ることで、見える世界が違ってくるということです。
中3終了時までに英検準2級を取得することを目標とする同校ですが、渡辺先生は、英検準2級くらいまでは努力すれば誰でも取れると言います。それは、「絶対に落ちこぼれをつくらない」教育体制の証でもありますが、では、2級以上を取得するためには?
渡辺先生:「例えばですが、我々が授業で話すことの中には大学受験に関係のない、でも、おもしろいことがあります。おもしろいから、つい話してしまうのですが(笑)、そういうことに食いつくと言いますか、心に留める生徒がいるんですね。そのような『やらなくても構わないこと』を進んでやるような、感度の高い生徒が高い級に受かるような気がしています」
物事に積極的に興味・関心を持ち、手を大きく広げてさまざまなものを自分の中に取り込む。何事にも通じることですが、そのような知的好奇心の旺盛さが視界を広げ、高い目標に到達させる、ということかもしれません。
渡辺先生:「英語以外ができる生徒は英語ができるようになりますが、その逆はあまりないとも感じています。英語の教師としては忸怩たるものがありますが(笑)」
圧倒的な基礎力のもと、
高校では実戦力を高めて知見を広げる
このように、中学で基礎力をていねいに着実に積み上げ、高校ではさらに実戦力に磨きをかけていきます。高1・2で実施されるオンライン英会話(年間30回)もその一つ。
寺尾先生:「高校の一般クラスは、2年時にカナダ修学旅行かフィリピン語学研修のどちらかを選択して参加するのですが、昨年、カナダ修学旅行に行った際、現地の大学生と『カナダと日本の文化の違い』というテーマで60分間ディスカッションしたのです。すると、60分間対応できたのはごくわずかの生徒でした。その翌年からオンライン英会話を導入したのですが、その年の学年はほとんど全員が60分間、積極的に話していましたね」
最初の段階では画面を通して1:1で話すことに緊張し、なかなか言葉が出てこなくても、半年もすると会話がスムーズになってくるといいます。実践の場を設けることで、生徒たちの力はどんどん伸びていきました。
寺尾先生:「当初、オンライン英会話は1年間のプログラムだったのですが、生徒たちから『もう1年やりたい』という声が多く上がり、2年続きとなりました。知識はあっても、実体験の場がないと言葉としては出てきません。オンライン英会話で実践力をつければ、例えば留学した際にも、英語力はあるのに『話せない』ためにクラスのグレードを落とさざるをえない、ということがなくなるでしょう」
菊池校長:「オンライン英会話は、今は高1・2で実施していますが、中3からスタートすることも検討しています。中3終了時点での英検取得率も準2級が例年約8割とかなり良いところまで来ていますし、学年を下げることで、もっとアクティブに展開できるようになるかもしれません」
また、課外授業にネイティブの先生が受け持つ「クリエイティブ・ライティング」があります。
高校では普通科(Ⅲ類・Ⅱ類)・英語科の3コース制になりますが、この授業はコースを問わず希望者が受講しています。これはいわゆる大学受験講座ではなく、大学に入ってから理系で論文を英語で書く時に役立つといった方向性で行われるものです。
渡辺先生:「日本人教員の授業でもレベルが下がることはないのですが、ライティングをネイティブの教員が受け持つのは、授業が『すべて英語』という環境の中で生徒の集中力やモチベーションをより高め、自信につなげていくことを狙いとしているからです」
そして、中1から高1までに積み上げた英語力を実践する場として、高2では全員が行き先を選択して海外研修へ出かけます。
普通科ではカナダ修学旅行かフィリピン語学研修のどちらかを選択、英語科はイギリス・アメリカ・フィリピン・ニュージーランドへの長期語学研修(8〜10週間)、オーストラリア・ニュージーランドへの1年間留学からいずれかを選択します。
※「海外研修」「留学」についての詳細はこちら→https://www.edojo.jp/senior/training/index.html
豊かな教育環境の中で、
「未来」に生きる力を培っていく
さまざまなプログラムが充実する同校の英語教育ですが、では、そもそも「英語ができる」とは、どのようなことなのでしょうか。渡辺先生に聞いてみました。
渡辺先生:「それは、自分が本当に好きなことを延々としゃべることができる、ということではないでしょうか」
例えば数学が好きなら数学の語彙も身につくだろうし、生物が好きなら生物系の語彙も身についていく。
自らどんどん関心のフィールドを広げて貪欲に学ぶことこそが、実のある語学力を身につける方法だという渡辺先生の言葉は、英語に限らず、すべてに共通する真の「学びの姿勢」です。
ほかにも同校独自のプログラムはたくさんあります。
例えば中学の音楽の授業の年間の約半分では、全員が弦楽器を学び(バイオリン・ビオラ・チェロ・コントラバスから選択)、週に1時間の「特別教育活動」では学年ごとに茶道・箏曲・華道を学び、高1の終わりには先生方やお父さんと一緒に歌う「第九発表会」を開催するなど、情操教育にも伝統的に力を注いでいます。
※「特別教育活動」についての詳細はこちら→
https://www.edojo.jp/junior/extra/index.html
広く、そして遠くまで視界を広げ、どこに行っても自分の場所を見つけて輝くことができるように。
そして、菊池校長が語る通り、方向転換を望んだ時に新たな夢を実現できるように。
圧倒的な基礎力を身につけ、その上に真の教養を積み重ねて、さらに他者と協働する姿勢をも育む同校での6年間。生徒たちは日々、さまざまな刺激を受け、それを楽しみながら「今」を磨いています。
中1・2は「一般クラス」のみ。中3・高1では「選抜クラス」を1クラス設け、高2からは以下の3コース制となります。
・「普通科Ⅲ類」......国公立大学合格を目標とし、演習授業などで実戦力に優れた学力を育成する
・「普通科Ⅱ類」......難関私立大学合格を目標とし、着実に実力を伸ばす
・「英語科」............早慶上理・東京外語大など、難関大の文系学部進学を目標とし、英語の授業時間を多く設定し、海外研修も豊富に用意
例年、堅調な大学合格実績を誇る同校ですが、今春の結果も[国公立54名、早慶上理64名、GMARCH150名、うち医療系学科80名]と、見事なものでした。以下は、抜粋になります。
主要国公立大学 主要私立大学
東北大学 1名 早稲田大学 12名
神戸大学 1名 慶應義塾大学 9名
筑波大学 5名 上智大学 24名
千葉大学 16名 東京理科大学 19名
お茶の水女子大学 3名 明治大学 38名
東京学芸大学 1名 青山学院大学 17名
電気通信大学 1名 立教大学 37名
横浜国立大学 1名 中央大学 18名
首都大学東京 2名 法政大学 28名
福島県立医科大学 1名 学習院大学 12名
秋田大学(医) 1名 津田塾大学 12名
長崎大学(医) 1名