学校特集
品川女子学院2019
掲載日:2019年12月9日(月)
同校は1925年の創立以来、「志願無倦(しがんうむことなし)」の精神のもと、「目標を立て、それを達成しようと願う心を強く持ち、諦めることなく絶えず努力を続ける」ことができる、「社会に貢献する女性」を育成しています。なかでも、卒業後10年の節目にあたる28歳になった時、自分の足で立ち、能動的に人生を創る人になっていることを目指す「28project」は同校の中核をなすプログラム。生徒たちは多様な体験を重ねながら、自主自立の精神と協働性を身につけていきます。そして、「28project」の前半のゴールともいえるのが、中3の「ニュージーランド修学旅行」です。その準備の様子を中心に、学年主任の窪田有里先生と、修学旅行委員長と副委員長のお二人にお話を伺いました。
中3の「ニュージーランド修学旅行」に向けて、
修学旅行委員たちの活動がスタート
自主自立を目指す同校では、各行事は生徒が主体的に考え、話し合い、運営しているため、委員会活動がたいへん活発です。
文化祭や体育祭、合唱祭など全学年合同で行われる行事の実行委員は人数無制限、希望者全員で活動するのですが、中3修学旅行委員に関しては、立候補して選ばれた生徒が各クラスから4名ずつ、総勢20名で活動しています。
この日の修学旅行委員会は、お弁当を食べた後の昼休みに行われました。「クラブ活動で忙しい生徒も修学旅行委員として活躍してもらうために、放課後ではなく、できるだけ昼休みに実施したいと思っています」と窪田先生が言うように、短い時間ではありますが、今、来年の3月に向けて会議を重ねているところです。
・修学旅行の「テーマ(目的)」「目標」決め
・係決め(例:しおり作成、セレモニーでのスピーチ担当、交流校でのパーティーの出し物企画)
・班別自主行動計画 指示内容打ち合わせ
・交流校責任者ほか分担決め
・旅行代理店との相談
......など
この日の議題は、「クラス責任者の確認」と「先輩に聞きたい内容」「今後の『総合』『道徳』(修学旅行に関連したことを学ぶ授業)の進行について」の3つ。委員長の勝部さんと副委員長の井手さんの進行で、15分弱にわたって話し合われました。
てきぱきと進行する二人の姿とともに、最後に窪田先生の言った言葉が印象に残りました。そこに、同校の普段の指導が垣間見えた気がしたからです。
窪田先生:「今日のように、何か自分がわかっていないなと思うことがあったら、どんどん言ってください。そうじゃないとクラスのみんなに伝えることができないので。委員のみんなには、『自分には疑問をなくす責任がある』と考えてほしいと思います。あと、クラスで説明する時、みんながきちんと聞いているかどうかも見てください。『聞く姿勢をつくる』というのもとても大事なことです」
すべての根幹になるのは
女性としてのキャリアを考える「28project」
この修学旅行は「28project」の中等部における集大成として位置づけられていますが、窪田先生と、委員長・副委員長にお話を聞く前に、中高での「28project」の流れをご紹介しておきましょう。以下をご覧ください。
94年前の創立以来、「社会に貢献する女性の育成」をミッションとする同校には、時代の様相が変化し続けるなか、その時々にふさわしい「女子教育」を実践してきた伝統があります。そして今、その主軸となるのが2003年から続く「28project」です。
女性にとっての28歳を、多様な人生の選択の時、分岐点と設定し、そこで、どのような状況のなかでも柔軟に対応し、自分を活かせるだけのマインドとスキルを育てるために、長期的なライフプランニングを能動的に考え、実践していく素地を作るのがこのプログラムです。
専門性の高い職業に就くことを視野に、専門職大学院などへの進学を目指した学習指導、社会で活躍するための高いコミュニケーション力の育成、国際舞台で必須の英語力育成などに力を注ぎ、将来へのビジョンを持って行動できる女性を育てることを目的としたものです。
「個々の主体性」+「チームの結束力」で
すべての行事を創り上げていく
修学旅行に向けて生徒たちが準備を始めるのは、9月に行われる文化祭「白ばら祭」の終了直後からです。
『総合学習』などの時間にニュージーランドの文化やホームステイの心得を学び、グループごとに自主研修の計画を立て、また英語の授業では交流校で実施するプレゼンテーションの準備を進めるなど、徐々に意識を高めていきます。
そして、立候補して選ばれた委員たちもまた、学年全体の動きを考え、約5カ月間をかけて修学旅行を成功させるために尽力していくのです。
委員会の後、委員長の勝部さんと、副委員長の井手さんにお話を聞きました。
__修学旅行委員に立候補した理由から聞かせてもらえますか?
勝部さん(委員長):「これまでも体育祭などの実行委員は何回かやったことがあるんですけど、全体を統括する役割は担ったことがなかったので、一回きりのこういう大きな行事で大きな役割を果たしたいと思って立候補しました」
井手さん(副委員長):「私は勝部さんと対照的で、実行委員の活動はあまりやってこなかったのですが、でも、品女でできる修学旅行は人生に一回だけなので、たったこの一回の大きな行事に力を入れたいと思って」
__1回の会議は短い時間ですが、提議することも多いし、事前準備はどのように?
勝部さん:「私たち二人と、学年主任の窪田先生と一緒に会議で話し合う内容を考えています。下準備は欠かさずやっています」
勝部さん:「そうですね。でも、全体をまとめる責任ある立場としても、会議の進行役としてもやりがいは感じているのですが、まだ初歩的な段階で、今後はもっと工夫してできたらいいなと思っています。例えば、一度決まったことでも、『あれ、これはどうするんだっけ?』と不確定な部分が残っていたりもするので、それを完全になくして、委員のみんなが理解し、クラスの人たちに説明できるように完璧にできればいいなと」
__その意識と行動力は、「ザ・品女生」ですね。井手さんは、どうですか?
井手さん:「私が副委員長になったのは、『長』になるより『長』を支えるほうが自分の性に合っていると思ったからです。勝部さんが困った時はフォローできたらと。今はまだできている感じが全然しないんですけど(笑)」
勝部さん:「すでに、けっこう助かっています(笑)」
__どういう修学旅行にしたいですか?
勝部さん:「もちろん、個人がそれぞれに立てた目標も達成してほしいですが、『これ以上楽しい思い出はなかった』というくらい満足してもらえれば。それが達成できるようにしたいです」
井手さん:「似ていますが、私が委員に立候補する時のクラス演説で『200人全員が日本に帰ってくるその時まで、笑って過ごせるような修学旅行にしたい』と言ったのですが、それを目指しています」
勝部さん:「1年生の時から3年生で修学旅行に行くことは意識しているので、1年生の社会科でニュージーランドのオークランド(訪問先)の地理を勉強したり、英語ではニュージーランドを意識した内容を盛り込んだスピーチの練習をしたりしています」
井手さん:「ニュージーランドに行った時に現地の方に説明できるように、日本の文化を英語で説明するとか、自己紹介をするとか、しっかりできることを目指してやっています」
__じゃ、お二人はその準備も完璧ですか?
勝部さん・井手さん:「どうだろう〜?(笑)」
__今、クラスの雰囲気はどんな感じですか?
勝部さん:「クラス内で班決めがあるのですが、その前にまずペアを決めて、そのペアを何個か合体して班を作るんです。今は、このペア決めをしているところです」
__いろいろなことを積み重ねていますね。修学旅行の成功を祈っています。ありがとうございました。
質問するたび、言葉を選びながらも明快に応えてくれたお二人。その対応力は、まさに「ザ・品女生」だと感じさせられました。
複数の物事をやりきる力は
大学や社会で活躍する基盤になる
同校には、先生方が生徒を見守る時に大事にしているキーワードが3つあります。それは「失敗・衝突・マルチタスク」。
「失敗」...たくさんのチャレンジをして失敗し、そこから学んで、また次に進む。
「衝突」...多様な個性が集まる集団の中で一つの目標に向かう時、考えの違いが起こるのは当然のこと。だからこそ、多くの人とコミュニケーションをとり、真の協働性、社会性を身につけていく。
「マルチタスク(複数のことを並行して実行する)」...勉強、部活動、委員会活動など、忙しい日常のなか、やるべきことに優先順位をつけ、時間配分を考えながらやりきることで自己マネジメント力を身につける。
学習以外にも、部活動や委員会活動など、いくつも掛け持ちする姿は同校では珍しくありません。自分で決めた「やりたいこと」「やるべきこと」に優先順位をつけ、それぞれ工夫しながらたくさんのことに精力的に打ち込むのが品女流の学校生活です。
ところで、修学旅行委員たちの会議の最後に、窪田先生からもう一つ、印象に残るお話がありました。それは、以下のような「目的」と「目標」の話です。
「目標」......個人・クラス単位(修学旅行で何を達成したいか)
「目的」......学年全体(それぞれが目標を達成するための全体テーマ)
窪田先生:「今、3年生は『企業コラボレーション(※後述)』にも取り組んでいます。今年は江崎グリコさんにご協力いただいているのですが、じつは、これはグリコさんが『sunao』(糖質オフのシリーズ)というブランド開発を例にしてお話しくださった中に出てきたキーワードなのです」
「目標」......売り上げ・利益
「目的」......日本から糖尿病撲滅
窪田先生:「そのお話の中で、『目標』と『目的』は別々に考えると。修学旅行も個人として考えることと、全体のテーマとして考えなくてはいけないことがありますから、この例はとてもわかりやすいと思い、使わせていただきました(笑)」
「目標」と「目的」。
ニュージーランド修学旅行は、「28project」の中の「世界を知る」というテーマのもとで行われますから、それが全体目的と言えるかもしれません。そして、それとは別に生徒一人ひとりが「交流校で友達をつくりたい」「ホームステイ先の人とたくさん話をしたい」など、自分で達成したい目標もあるでしょう。
上の話はそのことをないまぜにせず、自分の目標を大事にしつつ仲間の目標も尊重し、全体として何を目指すかということを、生徒にわかりやすく伝えた言葉なのです。
窪田先生:「本校でまず一番先にあるのが『28project』です。28歳になった時の自分の目的を設定し、そのためには今、何をするべきかということを考え、行動していきます。この修学旅行でも、自立して行動できるようになるために、今の3年生には中1に入った時から事あるごとに言ってきました。例えば、1・2年生の時の行事でうまくできなかったことを、今度はどう生かそうかと考えながらやってほしいですから。高等部に上がれば、『起業体験プログラム』をはじめ、ますます自分たちで企画し行動することが多くなりますので、修学旅行で目標と目的を達成することは、さらに前に進むための原動力になると思います」
日頃からスピーチやプレゼンをする機会を数多く設けている同校。修学旅行委員は1クラス4名が選出されますが、ここでも委員になりたい人は立候補してスピーチをし、信任投票に臨みます。
窪田先生:「立候補のスピーチでは、とても控えめな生徒もいれば、『私について来て』という生徒もいます(笑)。教員から内容について指示することはありません。みんな投票してもらうために自分なりに自由に考えますので、それぞれのカラーが出てきますね」
「企業コラボレーション」など
仕事を考え、未来に向かうプログラムも豊富
先述の「企業コラボレーション」とは、3年生が「総合学習」で取り組むもの。毎年1〜2社の協力を得て行うプログラムで、企業と生徒が新商品開発や広告制作を共同で進めるものです。
毎回、協力企業の社員の方が5人くらい来校し、各クラスに一人ずつついて講義やグループワークをしながら、最終的に学年コンペを経て最優秀作を選出。勝ち残ったグループの企画が新商品として採用されます。
今、同校のアメニティスペースには江崎グリコの「セブンティーンアイス」の自動販売機が置かれていますが、これも「企業コラボ」の成果の一つです。
窪田先生:「『企業コラボ』では自分たちで考えた企画が新商品として採用されるとあって、生徒たちのモチベーションが全然違います。生徒たちは本当に頑張って活動していますが、意欲があるからこそ、プレゼンのレベルも自然に上がっていく感じですね」
以前、仙田校長から「生徒たちは学年が上がるにつれて、どんどんアクティブになっていく」という話を伺ったことがあります。それは、その場の行動力という意味だけではなく、先を見通し、そして周囲の人のことをも考えながら積極的に動くようになる、ということですが、その成果は卒業生にも表れているようです。
窪田先生:「自分ではおとなしいタイプだと思っていた卒業生が、大学の学生組織でリーダーになることも多いようで、いつの間にか底上げされていることに自分でも気づくようです。このように、本校の生徒たちはスピーチやプレゼンはひと通りできるようになりますね。1年生から見ていると、学年が上がるにつれ、『あら、レベルが上がっている』と感じることがよくあります。これも、教員の醍醐味ですね(笑)」
物事への柔軟な対応力を培うために
真の教養を積んでいく6年間
同校では成績によるクラス・コース編成はとらず、5年生で文系・理系に分かれるまでは、全員が全教科を万遍なく学ぶ体制を取っています。
その代わりに、各教科で習熟度別授業(1年生〜:数学/2年生〜:英語/5・6年生:文系古典)が行われますが、「得意な分野が違う生徒たちが集うからこそお互いに高め合うことができ、その多様性がクラスを活性化させる」という考え方からです。
このように教科に偏りのない学習と、さまざまな体験プログラムを積み重ねながら教養を磨いていくのです。
ご紹介した、世界や仕事を知る体験プログラム以外にも、社会人の方と一緒に共同作業や実習を行う「特別講座(希望制)」も毎年30講座以上と、アクティブで実践的な学びの機会が豊富なのは同校の大きな魅力。そして、高等部になると海外プログラムも一気に増えます。
4年生(希望者)は英語圏の国へ3カ月間留学(オーストラリア・ニュージーランド・アメリカ・イギリス・カナダ)もしくは1年間留学(オーストラリア・ニュージーランド・アメリカ・カナダ)を用意。帰国後も同級生と一緒に進級できます。一方、世界各国からの留学生(半年〜1年間)も積極的に受け入れています。
2019年からは「シリコンバレー・デザイン思考研修」(5・6年生/希望者/8日間)もスタートしました。
多様な個性が集う同校には、多様な体験の機会があります。そして、生徒たちはそれを主体的に選び取りながら自分が目指す方向を見出し、積極果敢にチャレンジしていく。その姿勢こそ、品女生のアイデンティティーなのでしょう。
卒業生たちは「委員会などで自分の力を試してみたら、世界がどんどん広がった」「納得がいくまで粘り、とことん突き詰めて考える力は品女で鍛えられた」と言っています。
活気あふれる同校で6年間を過ごした生徒たちは、明るく前向きに、そして困難にも勇気を持って立ち向かい、どこにいても周囲と「和」を創りながら活躍していく大人になっていくことでしょう。
その姿勢は10年後も、20年後も、その後もずっと変わらずに。
同校では2018年11月から新校舎建築が始まっています。南棟新校舎は間もなく完成(2020年1月予定)。
その後、西棟と東棟を建て替え、2024年9月の完成を目指します。完成した新校舎は、3つの棟を地下や渡り廊下でつなぎ、一体化する予定です。
建築工事は6年間に及びますが、これは生徒たちが仮校舎で過ごすことがないようにとの配慮から、段階的に実施するため。ここにも、同校の教育姿勢が表れています。