学校特集
十文字中学・高等学校2019
掲載日:2019年9月20日(金)
まもなく創立100年を迎える伝統の女子校。建学の精神は校歌にも歌われている「身をきたへ/心きたへて/世の中に/たちてかひある/人と生きなむ」。現代風に言い換えれば、「自立し、社会で活躍し、社会に貢献する人」。長年にわたってこの精神に磨きをかけてきた同校。いまの時代の中にあっては、ますます輝きを増しているように見えます。
2016年、建学の精神をさらに推し進めるため、「Move onプロジェクト」と銘打った学校改革がスタートしました。3年間を一巡と考えると、4年目の2019年からは2巡目に。Next Stageとなる「Move onプロジェクト」が始まったばかりの「いま」と、変化する生徒について、高校教頭の横尾康治先生と中学校教頭の浅見武先生、そして入試募集対策室長の和田吉弘先生にお話を伺いました。
理数教育と探究活動で、積極的な生徒が続々誕生
今年で4年目に入った『Move on プロジェクト』。
「最初の3年間をひと区切りとするなら、4年目の今年は、Next Stageの最初の年になります。3年といえば、小学校高学年だった生徒は中学生へ、中学生だった生徒は高校生へ、高校生だった生徒は大学へと、さらに広い社会へと飛び立っていく年月。Next Stageとなる今年、最初の3年間よりさらに内容を進化したものにしようと取り組んでいるところです」と語る高校教頭の横尾康治先生。
Next stageの新しい取り組みとは、具体的にはどのようなものなのでしょうか。
プログラミング
同校では、「社会に出て役に立つ」という理念や精神に共感する生徒が多く、ここ数年、進学実績が伸び、医歯学部をはじめとする理数系を志望する生徒が増えています。
卒業生のなかには大学入学と同時に、子どもたちに実験を通して科学に親しんでもらいたいと、活発な活動をしている学生もいます。
時代の要請に応えるべく、理系女子を育成したい。理数教育のさらなる充実は、Next Stage の大きな目標の一つです。
中学では、中1の授業で、今年初めて人型ロボット(ペッパー)を活用したプログラミングがスタートしました。
生徒は3人1組になり、3時間で一つの課題に取り組みます。2時間で課題に沿ってプログラミングを行い、あとの1時間で、ロボットを使って発表するところまで行き着きます。
浅見武先生:「他校では、ドローンや車などを動かすという授業を行っていますが、ペッパーは"しゃべらせる"ことができます。この"しゃべらせること"が重要で、この点に学習効果を期待しました。1学期の課題は『十文字のコマーシャルを作る』。生徒たちは自ら考えたPRをペッパーにしゃべらせたり、会話にあわせて手を動かしたり、BGMを入れたりと、自在に動かし、魅力的なコマーシャルを作り上げました」
実際に指導をした中学校教頭の浅見先生に、ペッパーが身振り手振りを交えて言葉のトーンを変え、同校の魅力について話す動画を見せていただきました。
とてもプログラミング初挑戦の中1の生徒が作ったとは思えないほど完成度が高く、「しゃべらせること」で、「自分たちでプログラミングをした!」と実感できることは、生徒たちのやる気を起こさないわけがありません。
2学期には新しい課題に挑戦する生徒たち。楽しみに待ち構えているようで、1学期以上のスピードで、知識や理解を深めていくに違いありません。
また、今年度から高1全員にタブレット型端末を導入したことで、さらに多くの学習効果が期待できそうです。
己を知り、社会へ目を向け、将来の道筋を立てる
「問いを立て、課題を解決する力を身につけ、絶えず変化する社会への対応力を養うため、本校では『探究活動』も重要視しています」と横尾先生。
探究活動の基礎は、"己を知ること" 。
高1では「マインドマップ」を作成し、「自分が興味あること」「社会問題で興味あること」などのキーワードを、1枚の紙に放射状にどんどん書き込んでいきます。生徒たちの思考や発想は豊かで、紙の中が膨大なキーワードで埋まっていくそうです。
その中から、どうしても気になる「なぜ?」「どうして?」というものを3つ選び、それらについて調べ、論文にまとめます。自身のたくさんの思考の中から厳選されたテーマで書かれた論文は、生徒自身の進路にもつながっていきます。
今年、新しい試みとして、高2は本校の近くに事務所を構えるNPO法人の協力のもと、東南アジアの社会的問題解決に挑む「MoG」というプロジェクトに参加。
6月にはアイスランドの駐日大使が来校し、『女性の地位を上げるためには』というテーマで、高3の生徒4名と留学生2名とで交流を持つという貴重な経験もしました。
また、生徒が先生になり、国会議員が生徒になり、「国連の持続可能な開発目標であるSDGs」について授業を行うプログラム「世界一大きな授業」を、自ら校内で行った高3の生徒もいます。
横尾康治先生:「軍事費や世界の教育援助額などを視覚で表し、グループディスカッションを行うなどし、『どうしたら募金を集められるか』という授業でした。この授業を行った生徒は、自分から積極的に前に出ていくタイプではありません。どちらかというと控えめで受け身なタイプ。しかし、SDGsに興味をもったことから『自分から声を上げていいんだ!』と、授業を行う決心ができたようです。授業後、この生徒は、「授業をする側になって新たな発見がたくさん得られた」という感想を述べています」
高1の生徒の中には、SDGsへの取り組みについて、直接、有名メーカーにアクションを起こしたグループもいました。訪問した様子がそのメーカーのHPに掲載されたことで、やりがいを大いに感じたに違いありません。
社会や社会問題について主体的に考え、生徒自らが動く力を養うことこそが、同校の「探究活動」の目標であり、建学の精神である「社会の役に立つこと」「世の中への関わり」からつながる、重要なミッションでもあります。
和田吉弘先生:「本校の生徒は、これら様々なプログラムを実践することや、日常の学校生活の中から、建学の精神を自然に身体の中に染み込ませています」
建学の精神を体現している卒業生がいます。在学中だった中学生当時、「14才のパティシエ」というブログを始めた、卒業生の長内あや愛さんです。長内さんは現在、慶應義塾大学大学院で明治初期の洋菓子の研究をしながら、「株式会社 食の会」の代表取締役を務めています。
横尾先生:「彼女はお菓子が好きで、お菓子が人々を幸せにするのではないかと、中学生の頃からブログで発信していました。大学では『ミス慶応SFC』グランプリに輝きましたが、ミスコンに出場したのは、あくまでも自身の活動を広く知ってもらうためのようで、自身の活動を広めるには良い機会だと、周囲から勧められて出場したようです」
長内さんは同校のパンフレットの中で、同校について「自分の頑張りたいことを頑張れる場所」と語っています。自分の好きなこと、興味のあること、得意なことで社会に貢献する。まさに同校がめざす女性像です。
グローバル教育が深化中。
海外研修も年々人気に
国際人として社会に貢献できるよう、英語に力を入れてきた同校。6月にアイスランド駐日大使が来校した際、当事者の生徒たちは、英語でさらりと感想を書いて送ったといいます。
「英語の授業は週7時間。中学では1クラスを2分割して授業を行っています」(浅見先生)
まもなくネイティブの先生も増員され、「オンライン英会話」では、フィリピンにいる先生とマンツーマンで会話。音読はクラウドを利用し、PCに向かって英文を音読することで、一人ひとり個別指導を行います。
また、中1の「Show & Tell 発表会」では、英語での発信力を鍛えながら、イースターエッグやハロウィンカードを作るなど、楽しみながら英語を学ぶ授業も。
浅見先生:「最近は海外研修や留学も熱いです。たとえば、中3のオーストラリア・ブリスベンの10日間の海外研修は希望制ですが、年々希望者が増え、昨年は112名、今年は135名が参加しました。参加した生徒たちの姿を見ていると、必ずしも成績が良い生徒がうまく話せるわけではないようです。英語が得意な生徒が会話に苦しみ、逆に英語の成績がパッとしない生徒が堂々としゃべる。思わぬ発見があり、我々教員も勉強させられます」
高1ではターム留学や、1年間の留学も用意され、「中3で10日間の海外研修に参加しなかった生徒もいます。そういった生徒は高2でターム留学に参加するなど、留学制度を臨機応変にうまく利用しています」(浅見先生)
第一志望者が増加。
2020年は新しい入試も
2016年からの学校改革、『Move on プロジェクト』を始動させた結果、入学志願者とともに、同校を第1志望校とする受験生が増えるという結果が現れました。
そこで、2020年度入試では、
▶︎第4回入試(2月2日午後)を実施。
▶︎2月3日の午後には、英・国・算から1科選択する「1教科型」入試を新設。
▶︎様々なタイプの生徒を受け入れられるよう、『思考力型』『特待生制度』は続行。
和田先生:「入学者の半数以上が第1志望となっているのは嬉しいですね。タイプの違う生徒たちが本校に集まり、お互いを認め合いながら成長し、未来を担う人間に育ってほしいと願います」
<平成31年度大学入試 合格者実績(抜粋)>
▶︎国公立大学:13名(東北大学/東京医科歯科大学/東京海洋大学/東京学芸大学/群馬大学/鳥取大学/首都大学東京/埼玉県立大学/高崎経済大学/公立鳥取環境大学/国立看護大学校/防衛医科大学校)
▶︎医学部医学科:8名
▶︎獣医学部:4名
▶︎歯学部:1名
▶︎理系学部への進学率:22.7%
約100年も前からどっしりと構え、揺るぐことのない同校の「建学の精神」という一本の大きな柱。その柱のもと、いまの時代に則した教育プログラムを多数用意し、生徒たちの可能性を引き出す。
Next Stageは始まったばかりだが、主役の生徒たちは、日々、存在感を増しています。
2019年夏、サッカー部がインターハイで優勝を果たした。
「サッカー部はグレード別に3チームあり、それぞれのチームが、それぞれのグレードの大会に出られるようになっています」(浅見先生)
マンドリン部も、全国トップクラスの実力で2019年は全国3位。
「通常、初心者はコンクールなどには出場できませんが、本校では全員出場できます」(浅見先生)
サッカー部しかり、マンドリン部しかり。実力の違いはあって当たり前。誰もが活躍できる場を与えることが、トップレベルへの道につながることを、同校はよく知っている。
この前提があるから、生徒は安心して、勉強にもクラブ活動にもやる気を向けられるのだろう。運動部、学芸部、同好会と、さまざまなクラブが文武両道のもと、生き生きと活動しているが、これが同校の大きな特長でもある。