学校特集
獨協埼玉中学高等学校2019
掲載日:2019年10月1日(火)
緑に囲まれた約80,000㎡の広大な自然環境の中で、「稲作体験」や「理科の実験」など、さまざまな「体験」を通して知的好奇心を育てている獨協埼玉中学校。行事や部活にも力いっぱい取り組める恵まれた環境が整っています。勉強面はもちろん、心の成長を促すことも大切にする同校では、特進クラスなどを一切設けず、一人ひとりの可能性を伸ばしながら、すべての生徒の進む道を全力で後押ししています。教頭の堀口千秋先生にお話を伺いました。
知的土台をつくる中学3年間。
さまざまな「体験」が、人間力を磨く
理科の実験は中学の3年間で50回
「私たちの時代の勉強は、極端に言えばすべて教員が説明をし、答えも教え、生徒は覚えるだけ。試験が終わると忘れてしまうという繰り返しでした。私は理科の教員ですが、実験し、自分の目で見て、なぜそうなるのかというところを考えてもらいたいのです。驚きと一緒に知識が入ってくることで、定着しやすくなるのです」と、堀口教頭は言います。
理科の4分野での実験は、年間20回程度、中学の3年間で50回ほど行われています。
「生徒たちは実験が大好きですが、最初は『実験は成功させなければいけないもの』と思っている生徒が多くいます。失敗してもいいのです、なぜ失敗したのか考えてほしいのです。温度が高すぎた、低すぎた、入れる量が多かった、少なかったなど、自分で考えてほしい。自分で仮説を立てて検証する力が最も重要ですし、その力は、大学入試改革以降いっそう求められていきますから」
絵ではわかるが、実物はわからない
「ある時、生徒たちが学校前の側溝にしゃがんで何かを見ていました。寄っていくと、ゴマ粒のようなものが100個くらいぐるぐる回っていました。それをすくい、学校に戻って顕微鏡で見た生徒たちは、『あーっ!』と声を上げました。ミジンコだったのですが、誰もわからないのです。ミジンコの拡大図を試験で出すと、100人中100人が答えられるのに、実物を見てもわからないというのが、今の教育の課題ですね」と堀口教頭。「また、おたまじゃくしを見つけて喜んだ瞬間、ザリガニに食べられてしまうこともあります。ザリガニに捕まった瞬間、生徒たちは『きゃー!』と叫びますが、田んぼの中の生態系を学ぶ機会にもなっています」
このように、同校では豊かな自然環境の中で、失敗しながらものびやかに、生きた学習が行われています。
また、体育祭や文化祭などの学校行事も、同じように「体験」の場として大切にしています。
「最近では、行事をどんどん減らして勉強の時間に充てている学校もあるようですが、メリハリは大切です。行事を通して話したことのない仲間と話をしたり、ぶつかったりもする。そういう時の壁の乗り越え方や、自分の役割を学ぶなど、人との関係を育む場が学校行事です。人との付き合い方を考える場は残しておかなければいけません」
知的好奇心を育てるために、一つひとつの「体験」を大切にしてきた同校。総合学習もその一つです。
中1で「稲作体験」、中2で「キャリア教育」、中3では「福祉体験」を行い、成長の段階に応じて、将来につながる経験を積み重ねていきます。
総合学習は、こころを育てる時間
中1の「稲作体験」
「試験には出なくても、心を育てるために大切な知識を入れるのが、総合学習だと考えています。人のことを考えられない大人にはなってほしくない。そこで、総合学習は時間をかけて行います」
中1では、学校の周囲に広がる絶好の自然環境を活かした「稲作体験」が行われています。19年前の中学設立時にスタートした活動ですが、ここで、生徒たちはお米は「買う」ものではなく「作る」ものだと実感するそうです。
田植えだけではなく、毎月、稲の成長を継続的に観察することで、農業や自然、食料自給率まで学びを深めていきます。秋には収穫を行い、収穫したお米を試食し、わら縄でリースや正月飾りを手作りするなど、一年を通して幅広い学びを行っています。
「始めた時には、生徒に鎌を持たせることを懸念する声もありましたが、使い方をしっかりと教え、収穫する喜びを知る経験になっています。生徒だけではなく、私たち教員も毎月の観察会を通して、農家の方の大変さを知りました。水はずっと張っているのではなく、途中でいったん抜いてカラカラにするんですね。そうすることで病害虫がいなくなるそうです。また、稲刈りシーズンにくる台風に備えてさまざまな対策を行っているなど、農家の方の米作りの苦労を理解しはじめると、お母さんの作ったお弁当を平気で残していた生徒が、一粒のお米も残さなくなります」
中2のキャリア教育
中2のキャリア教育では、卒業生や保護者から仕事について話を聞き、職業について考えます。
また、「生活設計とマネープラン」では、どのような職業に就いて、どのようなライフスタイルを目指すのか、そのためにはどの程度の給料が必要なのかなど、現実生活の厳しさや保護者の苦労を学び、将来を具体的に考える機会をもちます。
「自分は何に興味があるのか、世の中にはどんな職業があるのか。やりたいものを見つけ、目標をもって高校に進学してほしい。その先の大学選択は、偏差値や名前だけで決めてしまうと、大学での学びが楽しくありません。有名大学に行ってほしいのではなく、自分がやりたいものを見つけ、目標に向けて頑張ってほしいと願っています」
生徒たちは、担任の先生や進路指導の先生と面談を多く重ねながら、「やりたいこと」を中学時代から少しずつ形にしていきます。
中3では、福祉体験も
中3では「福祉とは何か」を学び、ボランティア活動や福祉体験を行います。
「中学生は元気があり余っていますので(笑)、お年寄りや身体の不自由な方の気持ちは、いくら言葉で伝えてもなかなか理解できません。そこで、越谷市の社会福祉協議会に協力していただいて、車椅子、白杖、老人体験など、学校で福祉体験を行っています」と、堀口教頭。「重りを身体に着ける体験を通して階段を上がる大変さを実感したり、車椅子に乗ることで初めて段差に気づきます。また、優しい気持ちがあっても、白杖を持っている人にどう声をかけてよいかわからなかったのが、『横断歩道では怖くて仕方がない』というお話を聞くことで、サポートの仕方を学ぶことができます。『一緒に渡りますか』という言葉を一人でも多くの生徒がかけられるように、心を育てる教育を心がけています」
この福祉体験が、将来の進路に影響を与えることになった生徒も数多くいるそうです。
中学で「武器」を見つけて、フィールドで活躍
「高校に入ると、自分が描く将来像を目指して勉強に力を入れていきますが、そのために中学の3年間でいろいろなものに興味をもってほしいのです。成績は良いが勉強は好きではないという生徒は、高校で伸び悩みます。理科でも家庭科でも、好きな科目を持っていると自信がつき、大学受験に必要であればそれ以外の教科も頑張ることができます」と、堀口教頭。
生徒たちにわかりやすいようにと、ゲームに例えて話すこともあるのだとか。
「フィールドに出る時に武器を持っていないと生き残れない。鎧を着て、剣でも槍でもなんでもいいので、武器を一つでも持てるように、中学から磨くことが大切だと伝えます。好きな科目をつくるためには、いろいろな科目をきちんと学び、その中から選ぶことがベストです。苦手意識をもたず、中学の3年間は全部の科目を少しでも好きになるように努力しないといけません。学校は楽しくなければいけないと思っていますが、楽しいだけではもちろん駄目です。高校では、中学でのさまざまな実体験を生かし、受験に向かって大量の知識導入を行いますが、そのための知的土台を作るのが中学の3年間です」
中学でのさまざまな体験を通して育んだ知的好奇心や"武器"を身に着けた生徒たちは、自分の進むべき道を切り拓いていきます。高3では、志望する学部・学科に応じて5コースに分かれ、一人ひとりの進路実現に向けた授業が展開されますが、その一つ、教育理念「自ら考え、判断できる若者を育てる」を実践する獨協コースは特徴的です。
一人ひとりの希望する進路を実現。
「獨協コース」は、高大連携のあるべき姿
今年で12年目を迎える「獨協コース」は、獨協大学への推薦入学を保証されつつ、大学から指定された図書のなかから30冊の読破と、大学教授の指導のもと16,000字以上の論文提出を経て大学入学に至るコースです。授業も「国語研究」「社会研究」と、各教科ともに自分で調べて発表するスタイルが中心。
「自分の研究テーマ以外の専門書を30冊読む課題が、視野を広げるきっかけになります。文献を読み進めていくうちに生徒は、『卒論を書く大切さとは、問題意識が生まれること。いろいろな本を読むことで、問題意識のレベルが上がること』と、意識に変化が表れます」
高校の先生は生徒一人ひとりの研究を導きながら、大学の先生から定期的に指導される章立てやテーマ設定などについても、生徒と二人三脚で密度の濃い時間を過ごします。
中学入学時から特進クラスなど一切のコースを設けず、フラットな教育を行っている同校。
「成績で生徒をランキングすることはありません。これまでも、中3までは平均的な成績だった生徒が、映画を英語で観ているうちに英語の楽しさに気づいてトップクラスに入ったり、中学入学時は偏差値が40台だった生徒が『数学の学者になりたい』という夢をもつと、偏差値は50、60と上がっていき、北海道大学の数学科に入学しました。生徒はどこで目覚めるかわかりませんから、本校では入口で決めてしまうやり方は取っていません。クラスを成績で分けないことで、同じクラスの中で頑張っている友人から刺激を受けて変わっていく生徒も少なくありません」
推薦制度が充実しているのも同校の特長です。基準が一定に達していれば、獨協大学、獨協医科大学、姫路獨協大学への内部推薦資格が得られ、獨協大学の合格を確保したまま他大学を受験できる併願推薦制度も整っています。
「今春は併願推薦の資格者は約50人。獨協大学の合格を得たまま他大学を受験して、そのうちの約30人は東京外国語大や早稲田大、上智大、立教大などに進み、残りの約20人は獨協大に進学しました」
また、早稲田大学や東京理科大学といった難関私立大学やGMARCHクラスの指定校推薦の枠もあります。
一部の特進クラスの生徒が示す大学進学実績ではなく、すべての生徒が希望する進路実現のために学校として力強く後押ししたいという同校の思いが、むしろ高い現役合格率と、GMARCHをはじめとした難関大学への実績につながっているのでしょう。
同校の職員室周辺には机とイスが多く設置され、生徒たちのもう一つの「勉強の場」になっています。一日に5〜6回質問にくる生徒もいるそうで、先生方はきめ細かく、一人ひとりの生徒にていねいに向き合います。そんな先生方に、生徒たちは厚い信頼を寄せ、「卒業生がしょっちゅう遊びに来ますし、教員が楽しそうに見えるのか、実習生も多くて大変です」と堀口教頭は笑います。
この先生の言葉からも、温かな先生方に見守られながら、思い思いの道を切り開いていく生徒たちの姿がありありと目に浮かびます。
毎年、約1000名もが受験する同校。「中学入試で偏差値が40台でも、本校での6年間でMARCHクラスは目指すことができます」と堀口教頭が言うとおり、学力・心力ともに豊かに育む同校の教育に触れていただくために、ぜひ学校へお出かけください。
絵本や雑誌なども置いてある「よりみち図書館」に、生徒たちは気軽に"よりみち"をしています。
蔵書数は6万冊。専任の司書の先生が2名常駐し、本の紹介はもちろん、調べ方、レポートの書き方、百科事典の使いこなし方から、インターネットでどのように正しい情報を選んでいくのかまで、獨協コースをはじめとした各教科の学習面で大きな役割を果たしています。英語の蔵書も数百冊あり、中3では英語の本を数十冊読む多読の授業」が行われています。
「語学の獨協」が行う英語教育
「語学の獨協」として語学教育に定評のある同校。ネイティブの先生も多数在籍し、少人数クラスで「読む」「書く」「聞く」「話す」といった4技能を高めるきめ細かな授業が展開されています。英語が好きになるために、学年ごとに英語を使ったイベントも設定。ちなみに、希望者はドイツ語も履修できます。
また、長期休暇中に実施されるネイティブの先生による「EAP(上級者向け英語講座/中2以上)」では、学年の枠を外して、英語をツールに経学や環境などを学びます。中高の壁を越えて、先生や生徒同士が議論し発表し合うこの講座は、期待以上の成果を上げています。