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学校特集

富士見中学高等学校2019

学内の隅々で息づく、
生きた「探究」がある
「中学卒業研究」と「SDGs」から気づかされる探究の力

掲載日:2019年9月1日(日)

2020年に学園創立80周年を迎える同校。「社会に貢献できる自立した女性の育成」という揺るがない教育目標を掲げ、この目標に向かって、「教師も生徒もお互いに学びあい」ながら、そのルートを進んでいます。これを同校は「探究」という言葉で表していますが、そのために生徒たち一人ひとりが持つ「17の力」(コラム参照)をどのように生かすか、これが富士見の教育「探究的な学び」のいちばんの課題です。この「17の力」は「自分と向き合う力・人と向き合う力・課題と向き合う力」という3つの言葉に要約できますが、これはちょっと気をつければ、生徒の誰もが持っているものと知ることができるでしょう。そこを気づかせてくれる同校独自の「中学卒業研究」と生徒たちの活動「SDGs(持続可能な開発目標)」について、入試広報部副部長の岩堀夏子先生と司書教諭の宗愛子先生にお話を伺いました。

「ふりかえり」で、自分のことを正しく知る

富士見_メインとなる大階段は、ガラス窓から差し込む光でいっぱい
メインとなる大階段は、窓から差し込む光でいっぱい

一歩を踏み出すこと。グローバルな時代への、未来への新しい扉の鍵はそうやって手に入れる。同校のシステムは、そのために10年の時間をかけて築き上げられてきたものです。学校生活をどう意義深く送るか、一人ひとりの生徒のこれからを探してゆく。つまり「生徒と共に考えていく」ための試行といえるでしょう。
同校では、先生が生徒の中に入ったり、生徒と生徒がつながったりと、いわば横に広がった関係がつくられる授業がイメージされているように見えます。「探究」をテーマにした教育のベイシックな発想が、そこにあるからかもしれません。
では、その「探究」とはなんでしょうか。同校は何を「探究」するのか、具体的な授業はどうなっているのでしょうか。

宗愛子先生:「授業は、前回の授業の内容のまとめから始まります。そして、いま習った内容をまとめて終わりとなります。もちろんまとめるのは生徒自身です。これは本校が大事にしていることで、『ふりかえり』と呼んでいます」

富士見_入試広報部副部長の岩堀夏子先生
入試広報部副部長の岩堀夏子先生

「ふりかえり」で生徒たちは、自分の理解が浅かったこと、忘れていた重要点などを見つけます。教科書の文字や先生の言葉だと見落としてしまうことを、手触りでもう一度思い出すのです。こんな「気づき」を同校は大切にしています。
毎日の授業で学んだ新しいことの、どこに驚き、どんな関心を持つか。そこは生徒それぞれですが、その日、まとめをしたほかの生徒の話を聞いて、「私はあんなふうにまとめられない」と「気づく」こと、そこが明日への課題となるのです。ここから同校の「探究」が始まります。

岩堀夏子先生:「そうして『自分と向き合う力・人と向き合う力・課題と向き合う力』を育て、日本からアジア、世界へとグローバルに視野を広げてほしいのです。ただそれは、『生徒に考えることを身につけさせるのではなく、生徒の持っているものを引きだし、17の力として育てていくこと』と富士見は考えています」

3年間かけてやり抜くから、
「中学卒業研究」で生徒は見違えるほど変わる

●中1は問う、中2は調べる、中3は伝える

同校では、入学したての1年生から始まる探究プログラムがあります。
学年別に、中1は「問う」。中2は「調べる」。そして中3は「伝える」ことを重点目標としています。

富士見_高校生になると互いに問いかけ、深められる
高校生になると互いに問いかけ、深められる

岩堀先生:「中1の『問う』こと。これは自分の興味や関心があることを知って、なぜそういうことが起こるのだろうと『問う』ことです。これは、ついこのあいだまで小学生だった中1には、わからないかもしれません。そのため教師は、様々な場面で生徒に問いかけます。教師の質問に答えられずに黙ってしまう生徒もいます。それも悪いことではありません。それが自分にとってこういうところが足りないんだという、気づきになるわけですから」

これが第一歩ということです。先生との話で、はじめて「気づき」が生まれます。中2の「調べる」は、文献だけでなく、フィールドに出て調査、実験、インタビューをします。こうして生徒が取り組む課題の解決方法の手段を知るのです。中3になると、何をテーマに問い、調べるかは自分で決めます。そして6月に自分の研究を口頭発表する教員面談があります。

●文化祭に向けて「卒研本」をつくる

いよいよ9月になると、文化祭に向けて、自分の研究テーマをフィールドワークしたところまでを冊子(「卒研本」といいます)にまとめ、発表します。文化祭で「卒研本」は展示されるので、中1、2の生徒たちはこれを見て、テーマや、自分たちがどうやればいい、来年の研究発表の参考にもしています。

富士見_卒研はポスター形式で、みんなに発表を聞いてもらう
卒研はポスター形式で、みんなに発表を聞いてもらう

「卒研本」は後輩や高校の先輩だけでなく、文化祭で保護者たちも見ることができ、意見やアドバイスをコメントシートに書いてくれます。このように、授業のなかの一つ一つの研究発表が、高校の先輩、中1、中2の後輩、そして保護者たちとの見えないつながりをつくります。
文化祭でもらったコメントは生徒たちにとって有益なだけでなく、とても刺激的なものです。さまざまなコメントによって、自分が思ってもみなかったことを教えられるからです。

岩堀先生:「『ここのところが矛盾しているのではないですか』とか『ここが説明不足ではないですか』とか、『とてもいい研究ですね、こういう視点で参考にやってみたらどうですか』とか、知らなかった意見、さまざまなコメントをくださるので、とても生徒の励みになっています。これでますます意欲がわくようです。10枚くらいコメントをいただいた生徒もいましたよ」

●そして卒研の最終章へ

まずは自分の研究テーマを「卒研本」にまとめ、自分の考えを自分以外の人に伝えてみる。そしてみんなからのコメントを参考に、自分のテーマをブラッシュアップし、翌年2月に卒研の最終発表をします。

宗先生:「これはポスター形式でまとめての発表となります。250人が体育館に集まります。それぞれパーテイションで場所を区切って、そこでみんなの前で発表します。持ち時間は5分です。5分間、みんなに自分の研究成果を話すのです。この発表は2回あります。1回目でうまくできなくても、次は緊張もほぐれ、うまくできるようになるからです」

富士見_司書教諭の宗愛子先生

司書教諭の宗愛子先生

富士見_中学全員が体育館で卒研の発表をきく光景は壮観

中学全員が体育館で卒研の発表をきく光景は壮観

それを見て、聞いて、中2の後輩たちは、来年はどうやったらよいか、あんなふうにできるだろうかと思いながら、来年の自分をイメージしていくそうです。

宗先生:「発表の終了後、中3生は最後に『ふりかえり』をします。『問う』『調べる』『伝える』というプロセスを経て1年かけて『探究』したものは、『17の力』から見て、自分の力がどこまで、どう高められたかを思い出して書くのです」

「やった!」という満足感もあるでしょう。が、うまくできたことだけでなく、できなかったことも思い出す。この1年のあいだの様々なことが、高校に進んでからの次の一歩の課題となります。新たな「探究」です。

富士見独自の「17の力」とは

生徒たちに身につけさせたい力が「17の力」である。「自分と向き合う力・人と向き合う力・課題と向き合う力」と大きく三つの力にまとめられる。具体的には、次の17の項目があり、それを見て生徒たちは一つ一つの力がどうだったかをチェックする。また先生から生徒へ、「今日は何番を特に意識して授業に入ってみましよう」とリードすることも。
■自分と向き合う力  ①自分の意見を形成する力 ②チャレンジする力 ③計画を立てる力
           ④やりとげる力 ⑤自らを振り返る力
■人と向き合う力   ⑥聴く力 ⑦人を巻き込む力 ⑧人とつながる力 ⑨話し合う力
           ⑩発表する力 ⑪記述する力
■課題と向き合う力  ⑫課題を発見する力 ⑬情報を活用する力  ⑭多角的に考える力
           ⑮論理的に考える力 ⑯創造する力 ⑰社会に貢献しようとする力

世界が目標とする「SDGs」の課題にアプローチする

●54のチームがこれからどう動いてくれるか

「探究」をキーワードに中学の3年間を学び、高校生になると今度はグループ探究にとりかかります。この激しく変わっていく世界の中で、私たちもどう社会に貢献するかが問われている、という意識が出てくるせいかもしれません。

富士見_ネイティブの先生にも活発に問いかける
ネイティブの先生にも活発に問いかける

岩堀先生:「学校説明会で保護者の方から『どのように6年間育ててくれますか?』とか、『どんな生徒になりますか。富士見さんについて教えてください』といったご質問を受けることがあります。そんなとき、『こんな力が身につきます。これを見てください』と言いたくなるのが高校生となった生徒たちの"変わりよう"です。生徒たちの視野の広がり、情報を集めるときの文献の選択には感心させられてしまいます」

いま高校では、「SDGs(持続可能な開発目標)」が掲げている課題へのアプローチが始まっています。これは2015年に国連でサミットのリーダーたちによって掲げられた貧困、教育、環境などの、世界で解決するべき17の目標のことをいいます。
自分がどんな行動をすると、世界が変わっていくのか。グループ探究でこの課題に取り組むため、学内で54のチームができあがりました。

●もう、自分で進めることができる

昨年は、SDGsの目標の一つ「質の高い教育をみんなに」をテーマに、高2の有志たちが世界中で催されている「世界一大きな授業」を開きました。オープンキャンパスでも小学生向けに「体験授業」をしました。

富士見_海外の留学生から受ける刺激は大きい
海外の留学生から受ける刺激は大きい

岩堀先生:「今年は、この『世界一大きな授業』を『やりたい!』と高1の生徒たち3人が手を上げました。去年の先輩たちの活動を見ていて触発されたようです」

この生徒たちは、入学したばかりの中1のとき、「問う」という課題を出されてとまどっていた生徒の一人だったかもしれません。そんな生徒も高1生になったとき、「やりたい」ことに手を上げられるようになっている。視野が変わり、見えている風景が、見ようとする風景に変わっていっている。

宗先生:「まだ今年は実施できていませんが、とりあえず3人で企画して、『もう少し時間がほしいので延期したいんです』と交渉してきました。自分たちで時間の調整をやれるようになっているのです。高校生は、『まず動いてみなさい』と言われなくても動いている。中学の3年間があるからもう『基本できるでしょう』と、私たちも思っています」

中1から始まった生徒たちの「探究」は、あらたな「探究」に向かっています。中高一貫校だから見えてくる、生徒たちの静かなダイナミズムです。

新しい図書館=学びの核。
授業も卒研も、SDGsも発表もここで!

富士見_図書館で、スクリーンを使って調べ学習の発表
図書館で、スクリーンを使って調べ学習の発表

宗先生:「図書館は、いろんなことができる場である学びの核です。これをメッセージとして出したかったので "Learning Hub(ラーニング・ハブ)" と名付けました」

新しく完成した図書館は、その言葉どおりの場所になっています。
専任司書教諭である宗先生は、「中学卒業研究」やSDGsのグループ探究で、情報収集のアドバイザーとなっています。
中学生は「調べなさい」といってもまだ資料をどう探すか、どう使うかができません。本の世界への丁寧な案内が必要です。高校生には、公共図書館や大学図書館の問い合わせ方を教えて、どう使うのか、自分でやるやり方をアドバイスすればいい。これで、別の世界へのネットワークへとつなげることができます。

"Learning Hub" のもう一つの特徴は、中・高の学年の違う生徒たちが集ってくることです。先輩や友人たちの会話に気軽に入ることもできます。

富士見_図書とネットを活用して調べる生徒たち
図書とネットをそれぞれ活用して調べる生徒たち

宗先生:「高校生の先輩たちがSDGsの話をしていると、中3が『先輩たち、なんの話をしているんだろう』と興味を持ち、テーブルを囲むこともあります」

「にぎやかな図書館」。おしゃべりで騒がしいというのではなく、明るくイキイキしている。生徒が自由に、伸びやかに利用しているからです。
2階・3階とあるこの図書館の2階は、そのために机と椅子がアクティブラーニング仕様の可動式で、書架の間をゆったりととっています。授業に使ったり、発表もできるよう、プロジェクターやホワイトボードなども用意しています。ネットも使えます。

富士見_ホワイトボードは、いろいろな場面で活用される
ホワイトボードは、いろいろな場面で活用される

宗先生:「一人で調べたり、情報をまとめたりするというのが従来の図書館のイメージだと思うんです。ですが、別のイメージの図書館があってもいいのではと。『卒研』にしても、ずっと一人なんです。一人で調べて、一人で考えて。でも、やっぱりほかの人とのかかわりも大事。一人でいるときと、みんなでいるときとの往還、その二つを行ったり来たりすることができるような図書館にしたかったのです」

そんな次への一歩から生まれる可能性をイメージする。一人だからみんなとのつながりを求め、みんなといるから一人になろうとする。静かだが、このダイナミズムが、きっと生徒たちに新しい世界を「探究」させる力になることでしょう。

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