学校特集
千葉明徳中学校・高等学校2019
掲載日:2019年9月25日(水)
2011年、21世紀型スキルを身につけた「行動する哲人」の育成を掲げて中学を開校。その教育目標に向かって知を磨き、心を育てる教育を展開してきた同校ですが、2017年に1期生が卒業するや、その教育成果に俄然注目が集まり、2018年入試では受験者数が前年比173%に、さらに2019年入試では前年比123%となりました。ちなみに、受験者数はこの5年間で5倍に増やしています。ますます改革の勢いを増す同校ですが、その教育ビジョンを具現化するために、2020年入試で「算数1科目」入試を新設します。進化を続ける同校の教育について、理系の学びを中心に、数学科の新島和洋先生と神田正行先生にお話を伺いました。
「行動する哲人」を目指して、
「G」「P」「I」の3つの力を獲得する
同校が育成を目指す「行動する哲人」に必須となる力はGPI。「G」とはグローバル力、「P」はプレゼンテーション力、「I」はICT活用力のことです。
関心を世界に広げ、自分の考えを自分の言葉で表現し、それを広く伝えようとする力は、次代を生き抜くための基盤になり、それはそのまま21世紀型スキルといえます。
「グローバル教育」では、「ベルリッツ英会話プログラム」などでレベルの高い英語運用力を身につけると同時に、日本の歴史や文化を学んだり、多様な国内外のプログラムで国際理解を深めていますが、今回は理数教育に焦点を当て、プレゼンテーション力育成とICT活用に関連する学びを中心にご紹介します。
ただし、言うまでもありませんが、そこで培われる素養はグローバル力にもつながっていくものです。
求める資質は、算数でわかる!
来年入試で新設する「算数1科目入試」
中学3年間の教育の基本は、「まとめて・書いて・発表する」。同校で最も大切にしているのは、「考える力」と「伝える力」を育成することですが、それは教科教育でも学校生活でも貫かれています。
とくに積み上げが必要な数学では、「書く・説明する」を徹底し、中1でも「なぜこの定理を使うのか」といったことを説明できるレベルまで理解を完全なものにして、「わかったつもり」をなくすことに力を注いでいます。
新島先生:「数学の真髄はあらゆる物事や関係性をシンプルな式や図で考えること。このような数学的な見方や検証力を身につければ、あらゆる問題に対して論理的に思考できるようになります。私は中3の数学を担当していますが、中1・2から見ていますので、その伸びを実感しますね。授業では、とにかく説明させます。生徒が何か言うたび『それはなぜ?』と、『なぜなぜ攻撃』で(笑)。最初は嫌みたいですが、生徒たちはきちんと説明できるようになっていきますね」
同校は近年、「適性検査型入試」や「ルーブリック評価型入試(プレゼンテーション+グループディスカッション)」を新設し、「第一志望入試」「一般入試」「特待生入試」と合わせて5種類の入試を行っています。多様な資質を持つ受験生と出会うために間口を大きく広げているわけですが、来年入試ではさらに「算数1科目入試」を新設します。
日程...1月21日(火)午後
科目...算数+面接
構成...思考力型の4〜5題(適性検査型の問題も含む予定)
新島先生:「適性検査型入試で入学してくる生徒も増えてきました。そして、この2〜3年で感じているのは、我々が求めたい力は算数を見ればわかるのではないかということです。我々が求めたい力とは、問題解決力であり、突破力です。そして、それは物事を検証・単純化して自分なりに着地させることにつながります。その力は算数に端的に表れますので、このような資質を持った受験生と出会いたいと、算数1科目入試に踏み切ることにしました」
今、理系人材を求める社会の動きもありますが、同校の「算数1科目入試」には「算数を通じて総合力を見る」という独自の狙いがあるのです。
入試では、読解力や記述力を測る問題も出題予定。新島先生が言うように、説明できるようになることで知識は着地する。分野を問わず、すべてに通じる学びの基本ですが、その資質を新入試で発見することを先生方も楽しみにしているそうです。
同校には「試験中も勉強」という合言葉があるそうですが、そこには入試自体も楽しんでほしいというメッセージが感じられます。この新入試、ぜひご注目ください。
「考える力」と「伝える力」、そして
「互いを認め合う心」が育つ
新タイプ入試で入学した生徒を含む、中学生の様子をお聞きしました。神田先生が担任を務める2年3組は、およそ1/3の生徒が適性検査型入試で入学してきた生徒なのだとか。
この2年3組には、クラスのシンボルといえるものがあります。それは、アボカドの木。
神田先生:「生徒たちが中1だった昨年のことですが、クラスでたまたまアボカドの話になり、『食べたことはあるけれど、生(な)っているところは見たことがない』と言うので、じゃあ、育ててみようと(笑)。鉢に種を植えて、今のところなんとか育っていますが、うまくいけば5〜6年後に花が咲くらしいので、生徒たちが卒業する頃には花が見られるかもしれませんね」
ある時、栄養剤のボトルを見ながらクラスでこんなやり取りがありました。
「この溶液を1/2000に薄めて使うと書いてあるけど、どういう方法がある?」という神田先生の問いかけに、「バケツを使って」「ペットボトルで」と、いろいろな意見が矢継ぎ早に飛び交ったそうです。
また、2年生になってから神田先生の数学の授業で「千葉県の地図を見て面積を出す」という問題を出した際のこと。生徒たちは一斉に集中して取り組み、解き終わった後には生徒同士で出した答えを見比べて、騒がしいくらいに説明し合っていたそうです。
神田先生:「生徒たちにはもともと黙々と取り組み、やり切ろうという力はありましたが、クラス全体で協力し合い、自分たちで動くことが増えてきました。また、数学の定期試験の後、『解答できなかったけれど、難しい問題に触れられたことが楽しかった』という感想を聞かせてくれた生徒もいました。このように、『もっと、もっと』と好奇心や探究心を募らせ、積極的に物事に向き合う姿勢ができてきましたね。そういえば、夏休みに家でハンモックを作った生徒もいます。輪ゴムで作れないかと四苦八苦しながら(笑)」
とはいえ、なかには自分から一歩を踏み出すことが苦手なタイプの生徒もいます。でも、神田先生は言います。
神田先生:「先頃、『科学の甲子園ジュニア』への参加者を募ったのですが、なかなか手が挙がらないので何人かの女子に『出ないの?』と声をかけたら、『えっと......出たいです』と。やりたくないのではなく勇気を出せないだけで、ちょっと押してあげれば動くのです。それも、少しは成長した証かもしれません。今年は、中1・2の混合チームで2チーム参加することになりました。この1年数カ月間で、生徒たちの成長はいろいろな面で見られますが、何より一番嬉しいのは、みんなが仲間の意見や発想を一つひとつきちんと受け止めてあげる優しさがあることですね」
このように、教科教育以外にも担任の先生方がそれぞれ工夫をしながら「考える力」と「伝える力」を育成することを徹底していますが、同時に、神田先生が言う「認め合う心」を大切に醸成していることも同校の大きな魅力となっています。
好奇心や探究心を日常的に喚起する
千葉明徳の「理科教育」
現在、同校では5割強が理系に進学しています。
とはいえ、この比率はあくまでも結果。文系の生徒たちにとっても、6年間で獲得した的確な言葉による説明力や論理的思考力、検証力が大学受験において強みになっていることは言うまでもありません。
理科では、座学も大事にしながら実験を多用して「仮説を立てて検証する」ことを繰り返します。このように机上で学んだ知識と実体験から得た知識をつなげて体系化していくことで、生徒たちは学びの視界を広げ、科学的思考力に磨きをかけていくのです。
また、自然を実地調査する理科研修では、JAXA(宇宙)や沖ノ島(海洋)、屏風ヶ浦(地学)などを訪れ、先端科学に触れるフィールドワークも豊富です。
そして、理科教育においても生徒たちの好奇心や探究心を刺激し、サポートする体制があることは、次の先輩たちのエピソードからも明らかです。
以前、校地内に蜂が巣を作ったことがありました。危険なので駆除したのですが、せっかくだからと、理科の先生は巣を授業で使うことに。巣を分解して観察した時、ある女子は「あんなに小さな虫が、こんなに大きくて緻密な巣を作れるのか!」と驚き、感動しました。そしてその後、その生徒は、千葉大学工学部ナノサイエンス学科に進学したそうです。
●千葉大学の高大連携プログラムに参加昨年から、千葉大学の理系人材育成プログラムである「次世代才能スキップアップ」に、現高3の男女2名が参加しています。中3の時に仕上げた「課題研究論文」をブラッシュアップさせて千葉大学の審査を受け、昨年選抜されたのです。このプログラムは、千葉大学で分野横断型講座を受講して幅広い知識と実験スキル、科学的思考を身につけることを目的としていますが、学部・学科のことをよく知り、進学の際のミスマッチを防ぐものでもあります。
「サイエンス系は実験などに限度があるので、学校内では着地できない部分がありますが、大学と連携すればさらにステップアップした実験も可能になります。選抜された2名は研究内容を英語で発表したりもしていますが、とくに目立った成績優秀者というわけではありません。ただ、好奇心が旺盛で、学びへの熱意と探究心が非常に強いですね」(新島先生)
ちなみに、同校では一人1台iPadを所持していますが、理科をはじめとした教科学習はもちろん、体験型学習や行事などでもICTをフル活用し、レベルの高いアクティブラーニングを実践。
神田先生:「iPadはメールにもつながっていますから、私のメールは昼夜を問わず質問の嵐状態です。どっちが勉強しているのかわからないくらい大変ではありますが(笑)、嬉しいことですね」
一方で、それと同時に、アナログの学びも大切にしています。
同校には、「新聞」とだけ印字されたA4用紙が常に用意されています。その文字の前に「田植え」「美術」「文化祭」など、その時々に応じて生徒がタイトルを書き入れ、壁新聞を作るのです。
ICT活用の一方で、アナログな学びも欠かしません。とくに理科では1単元を終了するごとに全員が「壁新聞」を作成します。新聞を作る時は、文字の大きさや形、配置や色使いなど、見る人の興味を喚起するために見た目を工夫することが必要になりますが、「その考え方や手法は、タブレットで情報を整理・編集し、自分の意見をまとめていく時にも大いに役立っています」と、新島先生。同校の複眼的な教育姿勢が、ここにも表れています。
これまで行ってきたこと、
これからも継続していくこと
中学3年間の教育の基本は、「まとめて・書いて・発表する」。それは教科教育でも学校生活でも実践されていますが、例えば、入学してすぐに始まるものに「朝の1分間スピーチ」があります。これは、全員が日替わりでテーマに基づいてスピーチをするのですが、その後、必ず質疑応答を行います。みんなでそのテーマを共有して、単線ではなく複線で物事を考えていくことを習慣づけるためです。
新島先生:「『考える力』と『伝える力』、この2つの力を併せ持つことが大事ですから、自分の思いや考えを一方的に伝えて終わりではありません。質疑応答は、自分の伝えたいことがきちんと伝わっているか、伝わり切っていなければ何が足りないのかがわかる糸口になりますし、事前に質問される内容を想定することで洞察力もついてきます。同時に、スピーチを聞く側の生徒にとってはフォロワーシップを培う場にもなっています」
論理的思考力や批判的思考力、表現力を育成することは今の日本の教育における喫緊の課題になっていますが、中学開校以来、同校で徹底される「まとめて・書いて・発表する」は、まさにそれらを統合した力を育成するもの。
そして、その集大成として、中3では「課題研究論文」に取り組みます。生徒が自分でテーマを見つけ、議論を交わし、結論を導き出していく「セミナー型授業」です。最初は7〜8人ずつのゼミに分かれ、グループで調査・研究を行い、その後、個人個人が論文を仕上げるのですが、9月の文化祭「明実祭」で中間発表を行い、年度末に行われる「課題研究論文発表会」では、プレゼン形式で発表します。
さらに課題研究論文の発表に関しては、今後は校内に留まらず、外部に発信していくことも検討中だそうです。
新島先生:「論理的に物事を考えるというのは、理系・文系に関係なく必要なことです。例えば、現在高1になる適性検査型入試で入学した生徒が中3の時に書いた課題研究論文のテーマは『小弓城が関東の戦国史に与えた影響』と文系ですが、その発想には数学的検証力がありました。ちなみに、論文には約1万字という規定があるのですが、みんな遠慮がないので、その生徒は1万7000字書いてきました(笑)」
「小学校のころは人前で話すのが苦手でしたが、千葉明徳でプレゼンの経験を重ねるうちに自信がつき、今では生徒会長として大勢の前でも落ち着いて話せるようになりました。また、社会の授業で歴史に興味を持ち、自分で図書館に行ったり、お城巡りをして学芸員の方に話を聞くなど、積極的に知識を深めています。ふだんから「まとめて・書いて・発表する」機会がたくさんあるからこそ、好きなことを見つけて、それを追究するために行動できるようになったのだと思います。将来、歴史学者になるという夢に向けて、さらに力を磨いていきたいです」(Nさん/4年生)
同校独自のプログラムはほかにもたくさんありますが、例えば、中1・2の「土と生命の学習」は校地内にある田んぼで「稲作・農業体験」を行うもの。
「整備→田植え→手入れ→稲刈り→実食」と、社会・理科・家庭科の教科横断型で学びながら、水位や肥料の管理も生徒自身が行い、食物を育てることの難しさを学びます。
また、文化祭でも1・2年生が合同でグループを組み、研究したテーマをプレゼンする「共同研究発表」を行いますが、代表者だけではなく全員が順番に発表します。
このように、同校では本物の体験を数多く取り入れ、知識と知識をつなげて学びを確かなものにしていきながら、さまざまな場面でプレゼン力、そして学年を超えた協働力をも養っているのです。
「学びはおもしろい!」を実感しながら、
圧倒的な基礎力を磨いていく
新島先生:「夏休みに、私が中3に出した数学の宿題は、説明の自撮りです(笑)」
つまり、課題として出された問題に対する答えを「なぜ、そう考え、その答えに至ったのか」を説明する様子をiPadで自撮りして先生に送信するというわけです。
答えを書くだけの宿題とは180度違うアプローチ。なんて、楽しいのでしょうか。
このように、決して既成の枠にはめ込もうとしない「豊かな学びの場」が、千葉明徳という学校なのです。
新島先生:「大学進学については、大学名よりも、生徒自身が望む学部・学科に進ませたいと思っています。『物理をやりたい』と言っていた生徒が『受かる可能性が高いから化学に』というのは許しません(笑)。第1希望にこだわらせたいのです。その方が最終的に後悔しなくてすみますし、一生懸命にやろうとすることは成長につながりますから。そのためにも、高3になった時に中1から高2までの学びが活きてくるように、『圧倒的な基礎力』を身につけさせることはこれからも変わりません」
「以前からさまざまな個性が集まっていましたが、生徒数が増えてきたことで、『千葉明徳らしい集団』ができつつあるように感じます」と、新島先生。
生徒たちのますますの活躍ぶりが楽しみですが、「論理的・批判的に考える力」と「他者に的確に伝える力」、この2つの盤石な力に加えて、「互いに認め合う心」を備える6年間を経た生徒たちが、大きく、高く羽ばたいていくことは間違いないようです。
もう一つ。保護者の方にとっても嬉しいことがあります。
それは、中学3年間は完全給食制であること。校内で調理しているので、毎日できたてをいただきます。成長期の生徒たちの体づくりを考えて、栄養バランスも抜群。みんなで一緒に、安全安心なランチを楽しめるのも、同校の大きな魅力の一つです。
ちなみに、高校になると学食を利用することができます。こちらもさまざまなメニューが用意されていて、食べ盛りの生徒たちに大人気。また、売店でもミニ丼や唐揚げ、焼きそばなどを販売していますが、もちろん、お弁当持参も可能です。