学校特集
武蔵野東中学校2019
掲載日:2019年7月1日(月)
毎年、偏差値65以上の難関高校に約6割の生徒が合格を果たしている武蔵野東中学校。なかでも、都立進学重点校や早稲田大学付属校の推薦入試での合格者が、この3年間で2倍以上に伸びていることにも大きな注目が集まっています。その背景には、同校の学びの中心に据えられている「探究科」の取り組みがあります。自ら「問い」を発見し「学び」を深めることで、生徒たちは活性化し、学習への姿勢も変化します。探究を通して自身の好きなこと、やりたいことを新たに発見する。そうして将来の方向性がより具体的になり、15歳の時点で将来の方向性に沿った受験ができるのも同校の強みの一つです。夢に向かって大きな一歩を歩み出す、「探究科」での学びをご紹介します。
問う力を極める「探究科」での学び。
基礎から徹底して、"学び方を学ぶ"
「探究科」は、自ら課題を発見し、その課題を解決するための考え方やスキルを培うための武蔵野東中学校独自の教育です。先生はアドバイザーにはなるものの、生徒自身が主体的に探究を進めていきます。では、同校の「探究科」は、実際どのように行われているのでしょうか。菊地武王先生と高田輝夫先生にお話を伺いました。
「本校では、教えてもらうのではなく自ら学んでいく姿勢を大切にしながら、10年ほど前から研究活動を行ってきましたが、それが一昨年の正課授業としての『探究科』の設置につながりました。自ら問いを立てて、考える学びをさらに深めています。中1の初段階では、オリジナルのテキストを使って、基礎から丁寧に段階を踏んでいきます。早い段階から学び方を確実に身につけるため、生徒たちは高校や大学、その先の社会に出てからも自発的に学んでいくことができると思っています」
探究科を設置する際に目指したのは、大学で行われるような「ゼミ」形式だったとのこと。
「中1の最初の授業では『人間は考える葦である』というパスカルの言葉を引用し、考えることと感じることとは何が違うのか、探究科での『問い』とは何か?など、学びの本質からスタートします。『入門』の段階は、考え方の基礎(思考法)や調べ方の基礎などを教師が教えていきます。情報の信頼度や資料の価値、引用の仕方なども細かく指導します。それらのガイダンスを経て、『基礎』段階へ。1年次の秋までは、自然科学・人文・社会科学・創作(文芸・美術・音楽)の分野から、興味のあるゼミに属して基礎力を養っていくのです」
●吸水性ポリマー
・吸水性ポリマーの実験を通して、原理を理解する
・原理にもとづいて再実験を行い、考察する
●プログラミング〜scratch〜
・SCRATCH(プログラム言語)を理解する
・プログラミング的思考の利点を知る
・プログラミングによりオリジナル作品を仕上げる
●Interesting○○in the world〜世界の○○を比較して分かること〜
・世界の「家」の比較考察を行う
・「○○」を比較し各国の文化や伝統を考察する
●信号のない横断歩道問題〜フィールドワークを通して〜
・新聞の投書から問題点を考察する
・フィールドワークによる検証を行う
●染色
・染料の濃度、媒染剤、繊維の違いによる染色の違いを学ぶ
・染色実験を行い、結果を考察する
●版画 コラグラフ制作
・版画の種類、技法、用具について調べる
・「コラグラフ」を理解し素材を吟味する
・下絵から彫り、刷りまでの制作を行う
訴求力のある問い(テーマ)を選択して、
視野は社会へ、世界へ
そして、中1冬から中2にかけてはいよいよ『実践』へ。
「好きなことを調べて終わりというのは小学生まで。探究科はすでに結論が出ているものではなく、オリジナルの視点で物事を切り取りオリジナルの方法で、オリジナルの結論を導き出します。そして、それは自分だけにとっての結論ではなく、社会や世界への視野を持ち、できれば誰かの役に立つ、社会に貢献する学びを目指してほしいと思っています。探究科で『問い』を見つけるということは、毎日の生活の中で問題意識をもつということ。たとえば何かの探究をする時でも、人の命が救われる、人の夢がふくらむ、誰かの役に立つ探究だから尊いのだと思います。そういうものに早くたどり着いてほしいですね」と、菊地先生は言います。
【探究内容】
日々家庭からゴミとして廃棄されているものの中から、廃油と合わせることで燃焼力のある固形燃料を作り、リサイクルと災害時にも役立つ燃料の確保という2つの目標の同時実現を目指す。
【検証方法】
・一般廃棄物の処理とリサイクル率の現状を調査し、問題点を洗い出す。
・家庭内の一般廃棄物と廃油の組み合わせを工夫することで、明かりとしてだけでなく、調理にも使える燃焼力のある固形燃料ができるのではないか、という仮説からスタート。
・実験を行う、主原料は廃油とロウ、組み合わせる材料(ゴミ)として、日々家庭から出ているコーヒー(だしがら)、茶葉(だしがら)、鉛筆の削りカスを準備。実験ごとにそれぞれの使用量を変え、固形燃料を作る。さらに燃焼装置を作り、テストを繰り返す。
・水を沸騰させるためにどの燃料が最も効率よく加熱でき、燃焼時間が長く続くかデータを取って検証を繰り返す。→コーヒーのだしがらと廃油・ロウを混ぜた固形燃料が最もよい結果が得られたことを確認。
・市販の固形燃料と作成したリサイクル固形燃料との加熱実験比較しデータ化。→リサイクル固形燃料に軍配。
・最後に実用実験として作ったリサイクル燃料でお米(ご飯)を炊く。→見事成功。
【考 察】
日々排出されている大量のゴミは焼却され、その時の熱は一部利用にとどまり、環境に負荷をかけている。一般の家庭ゴミから今回作り出した固形燃料は、実験を始める前には実際不安もあった。しかし、データをしっかりとることで次の工夫が生まれ、市販の固形燃料よりも加熱温度・燃焼時間ともに劣らないものを作ることができた。探究の動機でもあった災害時の燃料として役立てることができ、ゴミの削減にもつながった。さらに改良を加えることもできるだろうし、これを発信することもこれからの課題にしていきたい。
中2全員がプレゼンテーション。
ルーブリックで互いに評価しあう
「最後は中2の全員がクラス内でプレゼンテーションを行い、評価も生徒全員で行います。生徒たちは、写真やグラフ、図表を駆使したり色使いを工夫しながらパワーポイントで資料を作成し、発表します。もちろん、発表が得意な生徒だけでなく、苦手な生徒もいます。でも、全員が同じステージに立ち、人の発表を聞くことで、考え方の角度が変わるなど視野を大きく広げることができます。このプレゼンは、生徒たちにとってはどういう資料を提示すれば相手に伝わりやすいのか、どう伝えれば評価が高くなるのかなどと考える勉強になりますし、他の生徒の発表を聞いてこう説明するとわかりやすいのか、こういうやり方もあるのかなど、互いに学んでいくこともできます。また、生徒同士の評価については主観ではなく客観的にできるように、教員用に作成したルーブリック評価を生徒用にアレンジしました。問いの設定から、情報収集・分析、解決、知識・技能の基礎力・活用力、訴求力のある表現、と項目別に5段階で評価していきます」(菊地先生)
評価基準のイメージ
授業や科学研究同好会で活用
生徒にとっておもしろそうなものは、教材としていち早く取り入れるという同校ですが、右の綺麗なボールもその一つ。「これが、プログラミングで動くプログラミングボールです。Chromebookでも操作ができ、前に進めたりバックさせたり、横に数メートル動かしたり、色を変えたり、人感センサーを反応させたりと、プログラミングした通りに動きます。海外から取り寄せたばかりですが、早くも生徒たちに人気です」と、菊地先生も顔をほころばせます。
生徒の新しい一面も発見!
あえて教えないことで、活性化する生徒たち
「生徒の新しい一面を見られるのも、探究科のおもしろいところですね」と、菊地先生。「『実践』段階の個人探究では、アドバイザーの教員がつくのですが、必要なこと以外はあえて教えないことにしています。教員の側には知識があっても生徒が自分で調べ、そこから深めていくことが大切だからです。個々の発想、思考の展開を深めるには、教えてしまうことは逆効果ですよね。あえて教えないことで、その生徒の潜在力が掘り起こされオリジナルの結論が導き出されるのです」
学年を超えて各教科の先生が生徒の探究活動を担当するため、生徒の新しい面に出会うこともよくあると言います。「社会科では目立たない生徒が探究科では力を発揮したり、覚えるのが苦手でも課題を発見したり追求することが得意だったりと、生徒の新たな一面やさまざまな側面が見られ、教員にとって嬉しいことも多いです」
もともと職員室に生徒が気軽に質問しにやってくる同校ですが、「朝来て、昼に来て、放課後も来る生徒もいて、またその顔が生き生きとしているんですよ」と、高田先生も言います。一つのテーマを追求して得られる達成感が、受け身から能動的に学ぶ姿勢へと変化していく生徒の成長に、先生方は確かな手応えを感じています。
大学や研究所など学校外の講座を設け、希望者を募る参加型イベントを年間数回にわたり開催しています。
生徒の約6割は、偏差値65以上の難関高校に進学。
推薦の合格者も急増中!
「探究科により学びのプロセスを経て多角的に物事を考えられるようになることで、中3では勉強に対する取り組みの姿勢に大きな違いが出てきます。覚える、解く、答えを求めるだけではなく、学習本来の学び、本質を追求することは、学びの楽しさを知ることにつながり、学力にも大きな結果が表れています」と、高田先生。
英語教育にも力を入れている同校ですが、3年生の72.6%の生徒が英検準2級以上を取得(3カ年平均)。海外とのオンライン英会話など実践的な授業による高い英語力は、難関高校への高い進学のみならず、将来世界で活躍していくための力になっています。
「探究を通して、いろいろな経験や学び、物の見方や考え方が熟成されてきているので、学力評価だけに留まらない推薦入試でも、着実に結果を出しています」(高田先生)
能動的な学びで、自分に合った進路を見つける。
夢に近づく15歳での挑戦
「探究によって自分の興味や関心を再発見できることで、偏差値だけで高校を選ぶのではなく、医療系、保育系、音楽系、技術系、また留学を視野に入れるなど、進路の選択に幅が出てきました。高校の進路に留まらず、長い人生についても深く考える力を持つことにつながっていると思います」(高田先生)
「探究とは、長い人生を深く豊かに生きていくために必要なこと。自分の良さを生かしながら、望むゴールを見据えて計算し、自分から進んで探究していく姿勢を大切にしてほしいと思っています」(菊地先生)
基礎から実践まで、徹底的に探究のスキルを学ぶことで、問題解決力、発信力、プレゼンテーション能力など、社会に出てからも役立つさまざまな力を3年間で着実に身につける。そのうえで希望の進路を見据え、自分の学びを進化させることができる高校を受験し、進学できることは同校の大きな強みとなっています。
そしてもう一つ。個性を尊び、先生とも信頼関係を築く校風があるからこそ、そのような成果が導き出されるのでしょう。
(全国レベルで活躍する3つの部活動)
武蔵野東中学校は、どの部活動も盛んです。限られた時間の中で集中した練習を行いながら、結果を残しています。卒業生にはリオ五輪に出場し、2018年には体操ワールドカップ東京大会で個人総合優勝をした村上茉愛選手がいます。
女子走幅跳 6位入賞 / 女子100m 5位入賞
女子4×100R 2位入賞(東京都中学新記録)
第46回関東中学校陸上競技選手権大会
3年100m 2位入賞
共通女子4×100mリレー2位入賞
第57回東京都中学校総合体育大会
学校対抗の部 女子総合優勝/個人9種目優勝・入賞
第49回全国ジュニアオリンピック陸上競技大会
4×100mR 5位入賞
第1位 *14年連続24回目
第71回全国中学校高等学校ダンスコンクール
第3位入賞
男子団体総合 7位入賞
女子団体総合 2位入賞
男子個人総合 5位入賞 種目別 鞍馬 3位入賞
女子個人総合 8位入賞 種目別 ゆか 3位入賞
第59回東京都中学校体操競技新人大会
男子団体総合3位入賞 / 女子団体総合4位入賞 / 個人総合 優勝
種目別跳馬 優勝、平均台 優勝、ゆか 優勝