学校特集
聖徳学園中学・高等学校2019
掲載日:2019年10月7日(月)
「Global&ICT」を教育の特色の一つに掲げ、最先端の21世紀型教育の旗手として注目を集めている聖徳学園。「世界の中で愛されている"日本人らしさ"を発揮して、世界中の人々と協働できる行動力と日本を担う人材としてふさわしいマインドを備える教育を実施しています」と話すのは、グローバル教育センター長の山名和樹先生。英語科のネイサン・ソマーズ先生は「いちばん大切なことは、臆せずコミュニケーションを取れるようになること。日本語だけではなく英語でも、相手が誰であっても遠慮せず自分の意見を述べられるようになってほしいのです」と語ります。世界へ羽ばたく素養を培う同校の「グローバル教育」と、そのための力を最大限に引き出す「英語教育」について、海外経験の豊かなお二方に伺いました。
(※)「週刊東洋経済」(2019年7月27日号)掲載
将来を見据えたグローバル教育
各教科において先進的なICT教育で基礎学力の定着と強化をはかり、探究型の学びを追求し、STEAM教育の実践により論理的思考力や世界で活躍する力を育んでいる聖徳学園。こうした生徒を養成する契機の一つとなっているのが、充実したグローバル教育です。
同校のグローバル教育のテーマは、中学が「日本を知る」、高校は「ボーダーレス社会を知る」です。
中1の5月には3泊4日で新潟県でスプリングキャンプを実施し、民泊体験や田植え、草鞋作りなどを行います。日本の農業を支える方々との触れ合いや自然の中に身を置く経験は、生徒たちを大きく成長させるものです。なお、秋には自分たちで植えた米が送られてきて、感動的なおいしさに驚くのだそう。
中2の関西研修旅行(京都・奈良)では、聖徳太子ゆかりの場所や事前学習で学んだ遺産などを実際に見学し、その叡智の集結に圧倒されながら、日本の歴史や文化への理解を深めます。2泊3日のうち1日は民泊をして、地元の方たちとのコミュニケーションを図ります。
中3は日帰りの「東京探訪」です。まず全員で江戸東京博物館を見学した後、各班に分かれて浅草や東京スカイツリー、御茶の水などの東京の名所をそれぞれの目的に合わせて巡ります。
これらを通じて日本の文化・歴史の再認識をし、日本人としてのアイデンティティを確立させることが目的です。海外に行った時に日本人としてどう振る舞うのか、多様な文化にどう接するのかを考える土台を養っています。
2つの修学旅行は新メニュー
現中1から、中3時の国際研修旅行が必修となり、全員が6泊8日でカナダに出かけます。ホームステイがメインで1家庭に2人または1人での滞在を選択できるようにする予定です。これまで希望者参加型で行われてきた国際研修旅行をよりブラッシュアップしたプログラムとなります。
聖徳学園の国際研修旅行は1982年から開始されており、圧倒的なノウハウの蓄積と多彩なプログラムを誇ります。高1・2での希望者参加型研修では、欧米やアジアだけでなく、2019年からアフリカも設定されました。これらの取り組みについては後述いたします。
また現高1から、高2での国際研修旅行が必修となり、マルタ(7泊9日)または台湾(4泊5日)から選択することになります。
「マルタは非常に美しい国なので、リラックスしながら英語を学ぶことができます。高校生がマルタへ行く機会は滅多にないのではと、様々な選択肢より選びました」(山名先生)
午前中は語学学校に通い、午後は語学学校の学びに即したアクティビティで学びを深めます。
台湾では文化交流を中心としたプログラムが設定され、現地の大学で開かれるワークショップへの参加や高校との交流を予定しています。
聖徳学園では成長段階に応じて実施する様々な行事により、次第に視野を広げられるよう設計されています。
世界各国の文化の違いがわかる英語教育
中3で実施されるカナダへの国際研修旅行に照準を合わせた英語教育にも取り組んでいます。中1と中2のオーラルコミュニケーション(OC)などの授業を担当しているイギリス出身のネイサン・ソマーズ先生は「中1ではまず"英語が楽しい"と思ってもらえる授業づくりを心がけています」と話します。
OCはネイティブスピーカーの教員が担当してチームティーチングで行う会話主体の授業です。例えば「単語ゲーム」や発音の練習、プレゼンテーション、グループワークなどを豊富に取り入れ、生徒が積極的に話したくなる環境を整備。文法や読解などを学ぶ通常の英語の授業を補完しています。
「E-Talk Room」というネイティブスピーカー専用の職員室は英語のみを使う部屋。生徒たちが自由に出入りできるスペースで、海外の雰囲気、空気感に触れられるように工夫されています。
「生徒たちは学年を問わず、英語の学習に訪れたり、相談に来たり、単に私たちとおしゃべりをしに来たりしています。また、ここで昼食をとる生徒もいます。校内にこうした環境があることで、海外に近い雰囲気に慣れ、英語力の向上にもつながるのではないでしょうか」(ソマーズ先生)
中1では週1回、JETプログラムで派遣されているALT(Assistant Language Teacher)教員が企画した「Lunch Time English」を実施。ソマーズ先生はこの取り組みについて、「ALT教員は日本語が話せないため、生徒たちは最初、とてもシャイでした。しかし一緒にお弁当を食べるなかで、お互いを知るようになるにつれ安心感を得たのか、英語で会話し始めて、伝わるとわかるとうれしくなり、より積極的になっていきました」と言います。
このように授業も生活も英語を使う機会を豊富に設けることで、生徒たちは互いにサポートし合ったり、結束力を強めながら、様々な場面で英語でのコミュニケーションをとっていきます。
また、ネイティブスピーカー教員全員が、生徒とともに部活を行っていて、あるALTは書道部の活動を通し、ある大会で入賞したそうです。
「JETプログラムの"E"は、"Exchange(交換)"なので、互いの国の文化交流の推進も図っています」とソマーズ先生が話す通り、自身も出身国で取り組んだ吹奏楽部の経験を生かして、生徒たちの指導にあたっています。
ネイティブスピーカー教員は5人在籍していますが、オーストラリア(美術)、フィリピン・アメリカ(英語科)など、全員出身地や専門分野が異なり、かつ母国語が英語であっても発音や文化が異なります。
この人材を生かして中学で行われる「総合」の授業では、各国の文化について学ぶ機会を設けています。例年特に人気なのが、フィリピン出身の教員による「マンゴーケーキ作り」です。
「ファーストネームで呼び合える関係性や意見を出し合える環境を整えているので、生徒たちは萎縮せずに英語で話すことにチャレンジできます。OCと英語の授業の双方で中3時の『国際研修旅行』までに、自然と英語が出てくるレベルを目指しています」(ソマーズ先生)
これらの教育を通じて、生徒たちは単に英語を学ぶだけではなく、世界の多様性を体感できるのです。
視野を広げ、見識を深めるグローバル教育
高校でのグローバル教育は、より深度を増したものとなります。
高1・高2で取り組む「グローバルセミナー」は、自分の環境を鑑みつつ視野を広げていく授業です。地域や街、国、世界でどんな問題が起こっているのかを知り、どのような改善点があるのか、学校生活の中で何か変えられないかを考える授業が英語で実施されています。
グループワークで行うため、多くの考え方に触れられる上、ディベーティングスキルが養われます。最終的には模擬国連で設定されたテーマに取り組み、模擬国連の全日本大会出場を目指します。
ソマーズ先生は高1の「グローバルセミナー」を担当し、シリアの移民問題や環境問題、SDGs(国連で定められた「持続可能な開発目標」)で扱うテーマにも切り込んでいます。
今年は「メディア」をメインテーマとして、「環境問題」や「戦争と平和」について考え、最終的にはiPadを使って映画制作を行います。
「企画から始めてストーリーやカット割り、効果的な演出を考えるなど、授業は楽しく自由に取り組みますが、チームワークの大切さや提出期限を守るといった自己管理スキルなども身につけられるよう導くのも教師の役割です」(ソマーズ先生)
あらゆる角度からトピックスに触れ、ペアワークなどを通じて自分の意見を出しフィードバックを行い、高2での「グローバルセミナー」への足がかりとしていきます。
聖徳学園ではこれらの取り組みにより、世界が抱える問題と学校の授業をどう結びつけているのかを次章で紹介します。
論理的思考力を育む授業
高2の「国際協力プロジェクト」は総合の時間で実施。同校ではSTEAM教育の要素を結集し、国際協力プロジェクトとして取り組んでいます。自分たちにどんな国際貢献ができるかを考えるために、海外青年協力隊の方による講義を聴き、クラスごとに発展途上国の各国の状況を学び、それに関するプレゼンテーションを行い、行動に移すという流れで構成されています。
「問題に対してどう考えていくのか、どのように解決方法を導いていくのか、アイディアの創出の仕方が必要ということがわかりました。解答を出す前段階として、考え方や学び方を学ぶことが最も重要なのではないでしょうか」と山名先生。
そこで今年度から導入したのが、専門家による指導のもと行う「ロジックツリー」を使った学びです。自分たちで問題の原因を一つひとつ突き詰めていくことで、課題が可視化されていきます。
「課題が浮き彫りになったことで、難題に取り組む意義が明確になりました。様々な要因を把握・追求して考えるので、その中でこれなら自分たちにもできるのでは、というものが見えてきます。『実行するためにはどうしたらいいのか』と、解決に向けた具体的な方策を探る議論に時間をあてられます」(山名先生)
こうした議論やロジカルシンキングのスキルはとても重要です。こうした取り組みを通して培われる論理的思考力や発信力は、学校生活の中だけでなく、将来社会で活躍する上でも不可欠な能力となります。
「ある生徒は国際問題にあまり興味関心が強くないタイプでしたが、学校でこれらのプログラムを経験したことで、将来国際的な企業で働くという夢をもつようになり、それが叶う大学進学に向けて頑張っています。こうした経験により、これまで生徒自身が描いていた未来に新たな夢が追加されるのは非常に喜ばしいことです」(山名先生)
生徒自身が自分の力で前進する原動力をも涵養する授業となっているのです。
海外との活発な交流
先述の通り、高1・2での「希望者参加型研修」は、行き先も内容も多岐にわたり、希望に基づいたコースが選択できます。
◯セブ島(約14日間):英語語学研修旅行がメイン。語学学校での1対1や小グループで英語学習のほか、貧困格差を学ぶ機会や現地ボランティア団体や学校交流等も実施。
◯中国・北京(約10日間):中国北京市が主催する世界33カ国からの学生を招いた文化交流研修。中国の名所観光、文化体験、他校と連携し日本文化を紹介する機会もあり。生徒は他国の学生たちと、英語でコミュニケーションを行う。
◯アメリカ・シリコンバレー(約10日間):日本人グローバルリーダー育成を目指す産学連携研修。テクノロジー最先端の地、シリコンバレーにてプレゼンテーションや現地企業人との交流やスタンフォード大学などの大学見学などを行う。
◯カンボジア(7日間滞在):2019年度から始まる上智大学の学生と行動する産学連携プログラム。同大学の学生とカンボジアの学校を訪れ、英会話の授業にアシスタントとして参加する。アンコールワットなどの遺跡巡りや"アジアのMIT"と呼ばれるキリロム工科大学も訪問予定。
そのほかにも12月にはベトナム(約7日間)、3月にアメリカ・ユタ(約14日間)、アフリカ・ルワンダ(約10日間)などが実施されます。
特に発展途上国への研修は「国際協力プロジェクト」と密に連動しており、「行動へつなげる」という同校の信念が結実したものとなっています。
「現地で協力しながら何かを成し遂げる」ことを重視しています。例えばベトナムでは、武蔵野市名産品である「とうがらしかりんとう」を現地で販売して、その売り上げを孤児院に寄付した実績があります。
山名先生は「『とうがらしかりんとうを売ること』が目的ではなく、協力して目的を達成することが重要なのです」と話します。
さらにこう続けます。
「こうした協力体制を紡いでいけるというのは、日本人だからこそできることだと思っています。
世界各国に行きましたが、日本人だというだけで優遇されたり、"日本人はウエルカム"という経験を多々してきました。日本人というのは世界の中で非常に愛されていると感じています。それは私たち日本人の国民性やモラル意識の高さによるものであり、自分たちの最大の武器と言えます。世界の人々と協働していくために日本人はとても強いマインドを持っているのです」(山名先生)
このように各研修において、現地で人と会うことを最も重視しています。
「プログラムについて、現地の方と先方が希望するものを具体的にヒアリングし、それを可能な限り叶えようと努力しています。現地で生活される方が生き生きと本校の生徒たちに接してくださらなければ、日本人ならではの強みは引き出されず、生かすことができないと思うのです。
ですから本校のグローバル教育は、人に会うこと、実際に行動することを軸に構築しています」(山名先生)
取材当日、「ラーニングコモンズ」ではルワンダ研修に参加した生徒たちが熱心に話し合い、プレゼンテーションの練習をしていました、ルワンダ研修という希少な体験についてのプレゼンを旅行会社からリクエストされたそうです。
このように自身の体験を伝え、広めていくことにより、周囲へ大きな影響を与え、ともに響き合える環境が聖徳学園にはあります。
「学校教育の中で、英語教育や研修旅行、『国際協力プロジェクト』など、様々なプログラムを通して生徒たちの持つ良い部分を引き出すことは、教育に携わる者の最大の目標であり義務だと考えています。中高一貫校での6年間は生徒の強みを発見し高め、各自が世界に対して戦える武器、誇れるものを養っていく時間です。その上で次のステップに向かってほしいと思っています」と山名先生は話します。
聖徳学園の6年間は知的好奇心と自分の持ち味を大きく伸ばしながら、課題を見つけて解決できる力と困難を乗り越える力を身につける期間です。仲間と協力しながら答えを導き出す粘り強さとコミュニケーション能力を身につけ、世界を視野に入れて活躍できる生徒たちを育んでいます。