学校特集
国府台女子学院中学部2019
掲載日:2019年6月20日(木)
2019年入試での総志願者数が約200人増加した国府台女子学院。「輝きを持って自分の力ですすむ」というスローガンの下、伝統を継承しながらも、志と知的好奇心を育む教育と高い進学実績が支持された結果です。創立から90年超、多数の卒業生を輩出し、在校生の中には、祖母、母、孫と三世代で通う家庭や、姉妹で共に通う生徒が多いことも、厚い信頼を寄せられている証でしょう。同校が掲げる教育理念は「智慧」と「慈悲」。「智慧」はより深く学ぼうとする力、「慈悲」とは他者を思いやり慈しむ力を意味します。
最寄り駅の京成線・市川真間駅から徒歩5分という好立地の学舎で、生徒たちは朗らかに、ひたむきに学ぶ日々を送っています。生徒たちの将来へとつながる学びである「情報リテラシー」の授業を担当する中学司書教諭の多田明子先生にお話を伺いました。
学校を象徴する、開放的な「知の宝庫」
2011年に竣工した国府台女子学院中学部・高等部の校舎。中では、生徒たちがのびのびと学んでいることが伺えます。この校舎の中で特に目を引くのが、玄関の正面に設置された図書館です。
一般に学校図書館というと、イメージされるのは校舎の隅の静かな一室ではないでしょうか。しかし同校の図書館に足を踏み入れると、その想像を覆されます。面積は体育館と同じ、教室10室分。中庭に面した一等地に構え、明るく風通しのよい雰囲気で、まさに学校の中心です。中1でも抵抗なく手に取ることのできる軽い読み物から大人の調べ物にも対応できる専門書まで、幅広い蔵書を揃えており、国府台女子学院の知の宝庫といえます。
図書館には常駐の司書教諭が2名、非常勤の司書が2名おり、生徒たちが読書を楽しみ心の栄養を補い、かつ、彼女たちが抱いた疑問を解決する力を養う場所でありたいと尽力しています。
好奇心をかき立て、憩いの場ともなる空間作り
国府台女子学院は創立当時から図書教育に力を入れています。1967年からは国語の授業の一環として、中1と中2で読書指導を行っています。
その授業をより発展させるため、新図書館建設の際には学校の中心施設となるような設計が施されました。蔵書は5万冊を超えますが、さらに書籍と雑誌の購入費として潤沢な予算が割かれ、月におよそ200冊もの新着書籍を入荷します。読書好きの生徒にとってはまさに楽園。学校見学時に一目で魅了され「ここで本を読みたくて、入学を決めました」と話す在校生も少なくありません。
図書館内部は「ブラウジングエリア」「調べ学習エリア」「本の壁の部屋」と3つのエリアに分かれ、読書が苦手な生徒にも扉は開かれています。たとえば、入ってすぐのところに設置されているのが「ブラウジングエリア」。新着書籍や話題の図書、雑誌をまとめたコーナーがあり、そこはちょっとしたおしゃべりのできる空間です。ノートパソコンや無線LANを利用しての調べ物やカウンター横のデスクトップパソコンでは動画の視聴も可能で、誰しもが「ちょっと行ってみよう」と思うような工夫が凝らされています。
さらに奥に進むと、授業でも使用するアカデミックな「調べ学習エリア」や、文学全集などが並ぶおごそかな雰囲気の漂う「本の壁の部屋」があり、図書館の中で棲み分けできるスペース作りがなされています。生徒たちは自然と知的好奇心を刺激されて奥に足を踏み入れ、書籍を手に取り始めるのです。しかし、国府台女子学院の図書館のもう一つの特徴は、より自由に利用できることです。
多田先生は、同校の既成概念にとらわれない図書館の利用法についてこう話します。
「私たちは図書館を読書や学習の場だけでなく、息抜きできる空間として使えることを生徒たちに伝えています。ちょっと休憩に来ても、たとえば居眠りしていてもいいのです」
そのため、図書館にあえて作られたのが「死角」。人目につかない場所で、感情豊かに本の世界に没頭することも、つかれた時に休むことも、考え事をしたい時にはそっと思索にふけることもできます。司書の先生方は、生徒たちが思い思いに過ごし、静かに心を落ち着けられるように見守ります。このような図書館の構造や先生方の配慮に導かれ、図書館はいつしか、彼女たちにとって、居心地がよくなじみ深い場所になっていきます。
将来の礎となる情報活用スキル
この図書館をより活かすべく、2017年度から中学3年間の総合学習の一環として週に1時間設けられているのが「情報リテラシー」の授業です。アクティブラーニングをはじめとした能動的な学びを通じて、読書力や表現力、問題解決力を培うことが狙いです。「情報リテラシー」というと、昨今ではインターネットを使ったものに思い至りますが、国府台女子学院で学ぶのは、図書館学の基礎。図書館の蔵書をフル活用し、物事を調べてまとめ、それを伝える術を身につけることに注力しています。
中1で行うのは、図書館のしくみと基本的な利用方法や調べ学習の基礎知識について。
「生徒たちはインターネットで調べることには長けていますが、それが信頼に足る情報なのかを判断できるところまでは到っていません。そこで信頼性の高い書籍の活用法を学習します」(多田先生)
自分の求める情報を得るために、まずは書誌検索や朝日新聞のデータベース検索の利用法、検索キーワードの選別を学びます。生徒たちは検索のコツを知るだけではなく、ネット検索とは異なる書籍検索ならではの世界観の広がりや工夫を見出します。
また、同校の書架は新書や文庫も分類ごとに書籍が配架されています。
「生徒が自力で探しやすいようにと考えた結果です。自分の求める情報の書かれた本を探している途中に、もっとわかりやすいと思うものや、より深く記された書籍に触れることができます。そうして知識を発展させ、探究したいと感じることを見つけてほしいと思っています」(多田先生)
その上で、書籍の引用と要約の記述方法の違い、複数の文献に当たって情報精度を高めること、出典を明記することで正確さを担保することを反復練習し、学術的に正しいレポートの書き方を身につけます。これは、生徒たちが大学入試で小論文を書く時や、研究者となり論文を発表する際にも、社会人となり情報を発信する暁にも役立つスキルです。
中1では学習のまとめとして、クイズ形式で楽しみながらグループによる調べ学習を行います。グループ単位で動くことにより、お互いの苦手分野を補いながら協働する姿勢を培います。
中2では中1で学んだ内容を発展させ、グループで設定したテーマについて調べ、役割を決めて討論を行っています。また、クリティカルシンキングの教材を用いて論理的に考え、答えを導き出す力や、多様な観点から物事を考察する力を身につけます。
中3では書籍よりも新しい情報を得られる新聞の読み方を学び、社会情勢の把握や理解の深度を推進します。
本年度はブラックホール撮影の成功について書かれた記事を題材とし、見出しやリードから5W1Hの概要がつかめること、専門用語には解説がつけられていることを学びました。この授業をきっかけに、新聞を身近に感じ、図書館やカフェテリアで新聞を読むようになったという生徒も見られます。
その後、新聞記事から社会問題や事件を選び、スピーチを行い、最終的には各自が社会問題からテーマを選び、その定義や現状、原因、影響や問題点、対策や提案を調べ、報告型学習レポートとしてまとめます。レポートはクラスメイトによりチェック、評価を受けます。クラスメイトのレポートをチェック評価するためには、レポートの体裁や出典の明記の仕方など自身が理解していなければできないため、各自が自分のレポート作成法の見直し、確認を行うことができます。
生徒たちはこの3年間を通し、自ら考え、言葉を選び、まとめ、伝える力を身につけていきます。さらに高等部の各授業で行うプレゼンなどを経て、より将来に役立つ技能へと昇華させます。
社会を変革する意志と行動力を育てる
先生方が学校生活の中で生徒たちに何よりも身につけてほしいのは、正しい情報を選び取ると共に自分自身で行動に移すこと。そして、失敗を重ねても諦めずに真実をつかみ取る精神性の柔軟さです。
「生徒たちは与えられたことを調べるだけではなく、失敗や周囲の評価を気にせず、自分自身が気になることを見つけ、抱いた疑問を探究する行動につなげる、その一歩踏み出す姿勢を、授業を通して学び取ってほしいのです」(多田先生)
それを見事に体現したある生徒について、多田先生が話してくれました。
「ダイエットに熱を入れすぎてしまった生徒がおり、食に対して強く興味を持ちました。彼女はまず食品ロス問題について調べた結果、廃棄物が豚の飼料に使われていることがわかったと言うのです」
彼女の行動はそこでは止まりません。飼料工場の見学を自分で申し込み、しっかりと説明を受けてきたそうです。
「そこから発展し、お手伝いをして一食分を自力でまかなう『未来食堂』、地域の子どもたちに食事を提供する『子ども食堂』へのボランティア参加も始めました。皆が食べることを楽しむためにはどうしたらいいのか、それをもっと探究したい、進学のテーマにしたいと話してくれました。彼女は自分の将来のビジョンを見つけたのです」(多田先生)
身近に起こったことから問題をすくい取り、自ら得た情報を活用して思考を展開させ、行動に移すという、同校の先生方の目指す教育が芽吹いた瞬間でした。
このように生徒たちは「自分がいかに社会貢献できるか」を真剣に考え続け模索しています。知識をいかに効率的に身につけ、自身のキャリア選択に必要な知識やスキルを体系的に習得するか、彼女たちは先生方からのサポートに支えられ、成長していきます。その上で仏教の精神をベースとした心の教育を受け、「なぜ学ぶのか」「どう生きるのか」を自問して自分なりの答えを見つけ、自身の未来を切り拓く力を着実に涵養していくのです。
昨今は、女子学生への医学部入学の制限、結婚・出産によるキャリアのストップなど女性問題が現出しつつありますが、同校の生徒たちはその境遇に甘んじません。
「ある日、控えめな印象の生徒が、社会を女性の視点で見直して変えていきたい、と語る姿を目にする機会がありました」(多田先生)
彼女はその夢を叶えるために、京都大学へ現役合格し、現在は政治を学んでいます。
「遠い偉人ではなく自校を卒業したばかりの先輩が、何に疑問を抱き、自発的に調べて思考を重ね、その将来を志すに至ったか、在校生たちは深く思いを馳せることでしょう。そうして、彼女の未来は、後輩たちの中にロールモデルとして息づき、各々の将来を考えその理想を実現する糧となるはずです」と多田先生は話します。
国府台女子学院の生徒たちが、図書館から得た豊富な情報を自らの知識として活用し、「智慧」と「慈悲」によって自らの人生の課題へとどう転換していくか。そして社会に貢献し、社会全体をどう変革していくか、期待せざるを得ません。
ぜひ一度同校に足を運び、屈託のない笑顔の奥に秘めた志を持つ生徒たちが、自らの意志によって学び続ける様子をご覧ください。