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学校特集

東洋大学京北中学高等学校2019

「諸学の基礎は哲学にあり」。弾力性のある心を育むこの哲学教育
なぜ「哲学教育」か?「より良く生きる」という究極の目的のため

掲載日:2019年8月8日(木)

東洋大学と、東洋大学京北の前身である京北中学校を創立した哲学者・井上円了は「諸学の基礎は哲学にあり」と説きました。「哲学は学問世界の中央政府であり、万学を統括する学問である」と。男子校の京北中学校から共学校の東洋大学京北に生まれ変わって5年目。2019年入試では出願者が前年比200%を超えるなど、熱い視線を集めている同校ですが、その教育の中核をなすのが「哲学」です。その学びと大きな意義について、校長の石坂康倫先生にお話を伺いました。

独断という洞窟から一歩を踏み出すために、
哲学を学び、哲学する姿勢を育む

同校の「哲学教育」の紹介文には次のような一節がありますが、このシンプルで迫真のメッセージからは、同校が持つ教育への熱量が伝わってきます。

人間は誰しも生まれ育った環境や時代の影響を受け、限られた経験の中で自己の世界観や価値観をつくっていきます。その狭く暗い独断という洞窟から外に一歩を踏み出すために、先哲の英知と他者との対話によって、自己の世界観や価値観を陶冶する力を育むことが、本校の哲学教育の目的です。

とくに混迷を続ける現代においては、膨大な情報の海の中で漂流民になることなく、物事の本質を見極めることが重要になります。でも、それはそう簡単なことではありません。
だからこそ、多くの学校で「思考力・判断力・表現力」や「協働力」「創造力」、そして「自立性」「多様性」などを育成するために「探究」や多角的な「グローバル教育」を実践し、総合的な人間力の涵養を目指しているわけですが、それらすべてを底から支えるのが「哲学」です。

東洋大京北_校長の石坂康倫先生
校長の石坂康倫先生

石坂校長:「本校の哲学教育では『対話』を重視していますが、これは自分の意見の正しさを主張して相手を論破するディベートとは違います。対話とは、それを通じて相手ではなく自分自身に気づきや変化、成長を与えるものです。私たちは自分を知り、自分自身が変わるために他者と向き合うのだと思います」

哲学とは、2000年以上続く人間教育の根幹をなすもの。デカルト、カント、ショーペンハウエルと、歴代の哲学者の名前を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、そもそも形而上学的要素を含む難解そうな学問の入り口は、私たちの日常の中にある素朴な疑問を疎かにせず、「わからなさ」に踏みとどまることなく、諦めずに考え続けることです。

哲学するということは、何事に対しても「なぜ、そのように言えるのか」「その根拠は何か」「それ以外の考え方はないのか」と、常に問い続けること。中学生であれば、「友達は多いほうがいいの?」「どうして勉強しなきゃいけないの?」というところから始まるのです。

最適解とは何か?
困難な時代を突破するために「哲学」することを学ぶ

東洋大学と合併した翌年の2012年、新たな船出にあたって、公立高校や公立中高一貫校の校長を歴任してきた石坂先生が新校長に着任しました。それまでは体系だった哲学教育は行われていませんでしたが、井上円了から続く同校の歴史を紐解いた石坂校長は、そこにこそ教育の真髄があると確信したと言います。

石坂校長:「私学には建学の理念がある。それを土台に、改めて学校を発展させていきたいと思ったのです。知性を鍛え、成熟した若者を育てるために、井上が唱えた『思想練磨の術』である哲学教育を教育の柱にしようと。当初は倫理専門の教師がおりませんでしたので、政治経済を担当する教師にお願いしたのですが、それが本校の哲学教育の始まりです」

歴史と伝統があるとはいえ、改めて実践するにあたってはゼロからの出発でした。
生徒たちが生きる次代を見据えているからこそ、ひと昔前のように大学受験を眼目とする教育ではなく、「生き方」「考え方」をきちんと身につけることが何より重要だと、校長は改革に乗り出したのです。

東洋大京北_希望制の「哲学ゼミ」で岩手県大槌町を訪ねた生徒たち
希望制の「哲学ゼミ」で岩手県大槌町を訪ねた生徒たち

石坂校長:「ある意味、日本の子どもたちの教育環境は恵まれています。例えば家で勉強するにも自分の勉強部屋がある。冷暖房もある。ですから、恵まれた中ででしか物事を考えられなくなることを危惧するのです。疑問を持ち、古典哲学を読んだり、対話を続けることをしないと、既成の正解に向かおうとしてしまう。10人いれば10人の生き方があり、それぞれが価値あるものとすれば、一人ではできないことも10人が知恵を絞り出すことによって大きな課題を解決することができるかもしれません」

国民の3人に1人が65歳以上に(5人に1人が75歳以上)になる「2025年問題」、また高齢者人口がピークに達する「2040年問題」、そしてAIが人間の知能を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)に達する「2045年問題」など難題が次々と押し寄せ、近い将来、私たちの生活環境が激変するであろうことは間違いありません。

東洋大京北_生徒たちはいつも元気全開。昼休みの中庭で
生徒たちはいつも元気全開。昼休みの中庭で

石坂校長:「今、日本の人口は約1億2600万人ですが、2115年には5000万人台にまで減少するという説があります。その時を待つまでもなく、すでに周囲には多くの外国人がいて、価値観の違う人同士が手を組んでいかなくてはならない今、哲学を持たずして、いかに日本という社会を維持するのか。少子高齢化ということは、山積した課題が若者の肩に重く伸し掛かるわけです。だからこそ哲学をしっかり持った、世界に通用する人材を育てていかなければならないのです」

学祖の井上円了をはじめ、明治時代には大隈重信や福沢諭吉、台湾の貧しい町にダムや学校を作った水利技術者・八田與一が、また少し後にはユダヤ人に命のビザを発行し続けた外交官・杉原千畝など、愛を持って、命をかけて、そして国境を越えて、変革を目指した人々がいました。

石坂校長:「その先人たちのように、海外の人たちを和を以って受け入れ、また海外に行った時に自分があるいは自分たちがどのように貢献していくことができるか、そこを考えることが重要です」

同校のテーマは「より良く生きること」ですが、そこにはこのような思いが込められているのです。

哲学教育は、
全教科、全学校生活に及ぶ

同校の哲学教育は、先哲の思想を比較研究したり、哲学の専門家を養成するためのものではありません。二千数百年に及ぶ哲学の知恵を通して、すべての人により良く生きる可能性を拓く「生き方教育」としての学びです。そして、6年間の学びの中では、以下の3つの要素を重視しています。

❶ 日常のふとした疑問や違和感をもとに、自ら問いを立てること
❷ 自己の生き方の前提となっている思考の枠組みや概念を吟味し、客観的に捉え直すこと
❸ 仲間との対話を通して、より良い生き方・あり方をともに探求すること

東洋大京北_哲学ゼミ「自然との邂逅」での1コマ
哲学ゼミ「自然との邂逅」での1コマ

このように「哲学的に考える力」を養うために、中学の必修科目「哲学」や高校の必修科目「倫理」のほかに、古今東西の名著を時代背景も学びながら精読したり、さまざまな分野で活躍する専門家による「生き方講演会」、実体験を通した学びである「刑事裁判傍聴学習会」や「哲学ゼミ(合宿)」などの機会を設けています。

そして、以下の5つのプロセスを螺旋状に繰り返しながら、哲学的思考を深めていくのです。

・教養(考える土台となる幅広い知識を身につける)
・体験(机上の空論に陥ることのないよう五感を使って学ぶ)
・対話(他者との対話を通して自己の価値観を問い直す)
・論述(考えを論述することで自己の考えを客観視し、再検討する)
・発表(内容を吟味し、他者へ伝える)

同校で展開される哲学教育については、以下の図をご覧ください。

●「哲学教育」のイメージ
東洋大京北_「哲学教育」のイメージ

これらの活動を通して、誰もが自由に発想し、萎縮することなく自分の考えを表現できる「哲学する空間」をつくっているのです。
次に、中学で実践される哲学教育を具体的にご紹介しましょう。ちなみに、この「哲学」する姿勢は、全教科にわたって貫かれます。

●中学必修科目「哲学」の授業
東洋大京北_「哲学」の授業は各教科の担当の先生が二人一組で実施
「哲学」の授業は各教科の担当の先生が二人一組で実施

中学3年間は週に1時間、「哲学」の授業が行われます。先生が哲学の知識や既成の道徳を教えるのではなく、「私たちは働くことから何を得るのか」「心はどこにある?」(2018年度実施例)など、さまざまなテーマについて生徒一人ひとりが考え、話し合うことで、今までの「常識」や「当たり前」を問い直していくのです。

授業では、さまざまな意見が飛び交いますが、「主体的に哲学する」素地をつくるため、「他人の意見を茶化さない」「誰かを傷つけることは言わない」「人に無理やり話させない」「途中でわからなくなってもいい」「人を感心させるような意見を言わなくてもいい」といった約束事があるそうです。

石坂校長:「考え方は一つではありません。ですから、授業も各教科担当の教師が二人一組になってチームティーチングで行っています。年に4回入れ替わるローテーションで、どの教科の教師も『哲学』の授業を受け持つ体制をとっています」

ここにも、「哲学」という学問を専門的に学ぶのではなく、「哲学する」姿勢を体得させようという同校の意図がうかがえます。以下に「哲学」を学ぶ中学生の感想を抜粋してご紹介しますが、主体的に、自由闊達に授業に臨んでいる様子が目に浮かびます。

★「哲学する」とは、あなたにとってどういうこと?
「人の考え方がわかる時間。自分と向き合える時間」
「考えて、さらに考えて、『考える』を永遠にすること」
「当たり前の毎日をよく見ること」

★「哲学」の授業とは、あなたにとってどんな時間?
「一番頭を使う授業」
「自分になれる時間。どんなことを言っても、それが自分の素直な気持ちならいいというところがすごく自由だと思う」
「自分が正直になれる時間。普通の授業よりも楽しい」

●「国語で論理」の授業
東洋大京北_中学校の運動会にて。今年はなんと1年2組が総合優勝!
中学校の運動会にて。
今年はなんと1年2組が総合優勝!

同様に、中学3年間は週に2時間、「国語で論理」という必修科目がありますが、論理的思考力はもちろんのこと、日本語をより良く活用する力を身につけるために、「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能を育成しています。

こちらも国語科の先生二人によるチームティーチングで行われ、「「分析→考察→表現」という三段階で学んでいきます。この「国語で論理」は、以下でご紹介する「国際教育」の一つに位置づけられていますが、これもまた「哲学」を単体の学びではなく、人間形成の土台とするべく教育を展開する同校の姿勢の表れといえるでしょう。

●「国際教育」
東洋大京北_中3ではカナダへの修学旅行を実施
中3ではカナダへの修学旅行を実施

「国際教育」の根底に流れるのも、当然ながら「哲学」の学びです。
同校ではさまざまに国際教育が行われていますが、以下にご紹介するのは抜粋になります。
・異文化交流(心を開き、相手の立場に立って考える態度を養う)
・国際英語(高1/ディスカッションやプレゼンで英語でのコミュニケーション力を身につける)
・国際理解(高2/諸外国の生活・文化・経済および社会情勢を知ることで、国際理解を深める)
・第2外国語(第2外国語としてフランス語・ドイツ語・スペイン語・中国語・ハングルを選択履修できる)
※「国際教育」についての詳細はこちら→https://www.toyo.ac.jp/toyodaikeihoku/jh/activities/feature/66680/

●「キャリア教育」
東洋大京北_「思索の場」でもある図書館
「思索の場」でもある図書館

「やりたいこと」を見つけ、「できること」を見定め、「なすべきこと」を実行する。この3つを柱に、生徒一人ひとりにとって最良の道筋を実現しようとするのが、同校のキャリア教育です。

哲学教育を主軸にして培われた、「自分を知り、他者を知り、広く社会を見つめていく」生徒たちの成長ぶりは、大学生となった先輩たちの言葉からも伝わってきます。

★「高校時代に友達と『哲学愛好会』を立ち上げて、週に1回、日々のニュースなどを話題に哲学対話をしていました。哲学対話は相手を説得するためのものではなく、お互いを理解するところに意義があります。この学校で哲学対話に出会わなければ、進路選択はまったく違っていたと思います」(早稲田大学進学)
★「常に自分にできることは何かと考えるのは、東洋大学京北の基礎となっている哲学教育が刺激になっているのだと思います。大学で自分が得意な分野を発見し、深く探究し、問題解決に取り組めるような人材になりたいと思います」(上智大学進学)
※「キャリア教育」についての詳細はこちら→https://www.toyo.ac.jp/ja-JP/toyodaikeihoku/jh/aacc-t/career-t/

学校の進化と共に
「哲学教育」もバージョンアップを続ける

今後は学校内だけでなく、さまざまな分野から世界のトップクラスで活躍する方々の講演会なども予定しているそうです。また同校では全科目履修主義を貫きますが、文系・理系の枠を取り払いたいとも言います。

東洋大京北_創部3年目の吹奏楽部
創部3年目の吹奏楽部

石坂校長:「本来、何を専門に学ぶかは大学で決めればいいのであって、高校までは文理共に学ぶことが大切だと思っています。哲学には文系のイメージがありますが、もともとそうではありません。例えば、医師になるにも哲学は不可欠です。治療の腕の良さだけでなく、患者に寄り添い、励ますことのできる心を備えてほしいですから。そのように、哲学は文理融合の学問であり、すべての土台となる教養であり心です」

●アスペン・ジュニア・セミナーに参加
東洋大京北_全国大会優勝を目指すバスケ部
全国大会優勝を目指すバスケ部

今年から、「アスペン・ジュニア・セミナー(※)」が同校を会場として開催されることが決まりました。
このセミナーは「より善く生きるとは」「何のために学び、働くのか」「大切にしたい価値」といった、人生にとって重要な課題について考えることを目的としています。

各高校から3名ずつ、約100名が集うものですが、石坂校長は以前、この日本の将来を担う若者を育成するためのセミナーを見学し、非常に感銘を受けたと言います。

※アスペン・ジュニア・セミナー...日本アスペン研究所(1998年設立/本部はアメリカ)が開催する、高校生対象のセミナー。「古典」という素材と「対話」という手段を通じて、理念や価値観を今一度見つめ直し、今日の課題に照らして思索しながら将来を展望するための場を提供し、リーダーシップ能力の醸成に寄与することを使命としている。

石坂校長:「自分の感情や考えを抜きにして古典哲学を読み解き、生徒たちが議論を交わして煮詰めていくのですが、とても素晴らしかったのです。オリエンテーションが2回、本番が3回行われるなど一定の時間をかける取り組みですが、文献を『最低20回読んでおくこと』が課される、かなり高度なものです。今年から、このセミナーに本校の高2が3名参加するので、非常に楽しみにしています」

●先生方も研鑽を積む日々

同校の哲学教育を牽引する石川直実先生は今、ハワイ大学の研究員として8カ月間の研修中なのだそうです。
当地で先進的な哲学教育を実践している小・中学校にも出向き、指導法を学んでいるそうですが、このように、先生方自身が学びの歩を緩めないことからも、教育の柱に「哲学」を据える同校の敢然たる方針がうかがい知れます。

弾力性のある「心」を持ち、
「やるべきこと」を生み出せる人に

東洋大京北_京北祭にて。さまざまな企画で活気に満ちる2日間
京北祭にて。さまざまな企画で活気に満ちる2日間

石坂校長:「私たちの究極の目的は幸せになることです。でも、自分だけが美味しいものを食べても幸せではありませんよね。周りの人と一緒に美味しいものを食べて、初めて幸せを感じるものです。みんながより良く生きるためにはどの道を選択すべきか。迷うことは多いですが、どれが正しくて、どれが正しくないかは誰にもわからないのです。だからこそ、一つの道を選ぶ勇気、一歩を踏み出す力を備えなければ、生き抜いていけません。また、その力を持ててこそ、自分の人生を肯定できるようになるはずです」

石坂校長が言う「勇気を持って一歩を踏み出す力」を養うことこそ、同校が展開する哲学教育の意義です。
最後に、生徒たちにどのような大人になってほしいと願っているか、改めて石坂校長に尋ねました。

東洋大京北_中学の昼食は、校内の食堂で調理されたランチボックスをみんなで一緒にいただく
中学の昼食は、校内の食堂で調理されたランチボックスをみんなで一緒にいただく

石坂校長:「どのように社会貢献していくのかを模索し、ある程度の方向性を持って仕事に就いてほしいですが、例えば会社に就職して、営業職を希望しても事務職に配属されるかもしれません。その時、他への転職を考えるのか、与えられた仕事に挑戦してみるかの二つの道が生まれます。しかし、与えられた仕事に挑戦してみることは、興味のなかった世界を知り、自分の幅が広がることにもつながります。そのあとで、改めて次の道筋を考えてもいいわけです。ですから、どのような立場に置かれても自分の『やるべきこと』を生み出せる人になってほしいですね」

そして、校長はもう一つ、メッセージを送ってくれました。

石坂校長:「本当の教養とは、学力と心の両面を備え持ったものです。心がなければ、他人を尊重することはできません。また、世の中には自分と合わない人がいるということを知り、その人たちとどう向き合うかも学ばなければなりません。そうでなければ、本当のコミュニケーションはとれませんから。生徒たちにそのような『心の弾力性』を培い、さまざまな物事に対応できるようになっていってくれればと願っています」

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