学校特集
東京電機大学中学校・高等学校2019
掲載日:2019年10月7日(月)
JR中央線・東小金井駅から徒歩5分という至便な場所に位置するのが東京電機大学中学校・高等学校。大学附属の中高一貫校の人気が高まっているうえ、時代の先端をいく工学系・情報系学部で歴史を誇る東京電機大学の系列校である同校は、昨年の中学入試では大きく志願者を伸ばしました。学習指導要領の改訂、大学入試改革などを見据えて学校改革に意欲的に取り組んでいる校長の大久保靖先生に、改革の方向性や今後の展望を取材しました。
人間力を伸ばす生徒第一主義の教育方針
1907年に創設された東京電機学校は、技術者を養成し、技術で社会に貢献する人材を育成する目的で創立された学校です。1996年に中学校を開校して東京電機大学中学校・高等学校となり、1999年4月より女子を受け入れて共学校となりました。現在の中学・高校の母体となる東京電機工業学校が設立されたのが1939年なので今年創立80周年を迎えました。
「東京電機学校の創立当初から、わが校は技術者の養成という柱に加えて、生徒第一主義を教育方針として掲げています。教育の根幹は人間教育だと考えているのです」と校長・大久保靖先生は力をこめます。
また、新制大学の初代学長・丹羽保次郎博士は学生たちにいつも「技術者は常に人格の陶冶を必要とする」「技術は人なり」と話していたそうです。この言葉は今もスクールモットーとして同校に受け継がれ、品格を兼ね備えた教養ある生徒を育てる教育が行われているのです。
創立当初から行っているプログラミング教育
2020年度から小学校でもプログラミング教育が必修となり、中高一貫校でもプログラミングを学ぶ学校が増えています。しかし同校では創立当初からプログラミング教育に力を入れてきました。
プログラミングは専門の言語を使ってコンピュータに指示を出すために指示書を作るもの。まずはコンピュータの操作や基礎言語を覚えるのが基本です。
そこで同校では中1ではタイピング練習と「word」での文書作成、中2ではプレゼンテーション資料作成ソフト「Power Point」の使い方を学びます。中3では表計算ソフト「Excel」の使い方を学びながら、VBAというプログラミングの基本言語を習い、高1では週2時限を使い、ベースとなるC言語を使ったプログラミング演習を行います。
中1から高1までの4年で生徒はプログラミングの基礎をしっかり身につけますが、大久保先生は「プログラミングの授業は入口部分を教えるに過ぎません。そこから先は生徒がやりたいことを見つけ、自分でほしいソフトやツールを開発するようになっていきます」と話します。「授業ではベーシックなC言語を学びますが、ゲームやアプリを作るときはそれに合った言語を生徒は独学で覚えてしまいます。またネットなどで同じモノづくりを目指す友人を作り、情報交換しながら技術力を磨く生徒もいます」(大久保先生)。
学校で学んだ基礎力を元に、自ら課題や目標を見つけて自分で力を伸ばしていく――知識だけに終始せず自ら学びモノづくりに向かう行動力は、まさに同校の教育の成果なのでしょう。
「これからの日本は昔ながらの"重厚長大"的なモノづくりではなく、コンテンツ勝負になっていくでしょう。プログラミングに必要なのはクリエイティビティであり、デザインする力です」と大久保先生は語ります。実際に生徒の中にも"こういうアプリがあると誰かが助かる"という発想から試行錯誤してアプリを作り、友だちに"試してみて"と提供している子もいます。最近では電子辞書サイズのパソコンを作ってしまった生徒もいたのだとか。「外でその話をしたら"知っていますよ、××くんですよね"と言われて驚きました。秀逸な作品だったので企業の方の目に留まり、"一緒に研究しよう"と声がかかったそうです」と大久保先生は話します。
来年度からは中1と高1全員に1人1台タブレットを持たせる準備を進めており、再来年度からは全学年に拡大予定です。共同学習やアクティブラーニング、自宅での課題、eポートフォリオ(学校の成績や模試、検定試験などの学習履歴の蓄積)、教員・生徒・保護者間の情報共有など、これまで以上に学習や学校生活に広がりが生まれると期待されています。
これからは文系でもプログラミングの基礎知識は必要とされる時代が来るため、どんな進路を選んでも、同校で学んだ情報の知識は生かされるに違いありません。
「伝えることありき」で英語を手段として活用
学習指導要領には英語4技能の習得が盛り込まれ、来年度から大学入試改革が始まるなど、英語教育も節目を迎えます。
新しい時代の英語教育を学ぶため、同校では現在、英語科の教員をアメリカ・サンディエゴに派遣しています。現地の大学で英語教育ができる資格を取得できるコースを受講し、「英語をどう教えるか」という教育メソッドや新しい教育法を学んでいるのです。
その先生から大久保先生に、このような報告メールが届いたそうです。
「英語は手段なので、英語を話せることよりも"英語を使って何を伝えたいか"と言うコンテンツが大切だとあらためて感じている。クラスメートの留学生たちは、人に伝えたいこと――たとえば自国の文学、芸術、政治、宗教といった背景知識をしっかり持ち合わせている。自分の中で何を伝えたいかを持っていないと会話が成立しない。自分の思いを相手に伝える手段として、世界で最も汎用性が高いのは英語だというスタンスで英語教育はあるべきだと感じているので、帰国したら最初に生徒にそれを伝えたい。英語を使って誰にどんな思いを伝えたいのか、それが英語を学ぶ意味なのだと感じている」。
そうした思いを体現すべく、同校では基礎力をきちんと積み上げると同時に、表現力を磨く機会を多く設けています。朝夕などに単語テストや小テストを実施するほか、中1では朝8時からネイティブ教員による30分の英語の授業を行い、中2の英語合宿ではスピーチコンテストを行います。ほかにも希望者が参加できるカナダ短期留学、カンボジアボランティアツアーなど、国際人としての素養と知見を磨く機会もたくさん用意されています。
理系に必須の数学力や読解力伸長にも重点を
理系大学の系列校だけに、同校では7割超の生徒が東京電機大をはじめとする理系大学・学部に進学しています。女子も理系志向の生徒が多く「(研究職の)白衣に憧れる」という女子も多いそうです。しかし、「工学系など本格的な理系学部に進むには数Ⅲが必要ですが、数Ⅲは難しいのでこの巨大な壁をクリアするのは大変です。そのため本校では数学に力を入れています」と大久保先生は話します。
中学では数学の授業を週6時限設定し、習熟度別授業なども採り入れて基礎力の徹底を図っています。数学でもアクティブラーニング型授業や共同学習を取り入れたり、小テストなどで計算力を磨くなど、初歩の段階でつまづかないように数学の先生がきめ細かく指導にあたっているのです。
また、さまざまな教科の先生方の中に「もっと国語力や読解力を磨いていくべき」という共通認識が生まれているといいます。プログラミングでも同様で、「ここからここまでの距離を、障害物を避けながら無駄なく移動するにはどうしたらいいか」といったプログラムを組む時には、その動きを言葉で説明できる力が必要だからです。理系志向の生徒が多いこともあって、イメージや感覚的な能力の高い生徒が多いため、それを言葉で正しく表現する力を養う必要性を先生方は感じています。
「基本となる語彙力をしっかり習得させると同時に、国語でも"答えありき"という授業をしないようにしています。あなたはどう思う? どういうところからそう考えたの? という発問で、自分で考え、意見をきちんと表現できる生徒を育てられるように働きかけています」(大久保先生)。
「TDU 4D-Lab」もブラッシュアップを検討中
同校の教育の目玉の1つに、学年縦割りの探求学習「TDU 4D-Lab(ラボ)」があります。これは中2から高2までの4学年の生徒が、月に1回集まって、テーマごとに研究を行うもの。「社会・国際学コース」「人文・文化学コース」「生命・環境学コース」「理工学コース」「情報学コース」「体育・芸術学コース」の6コースがあり、その中に「ビオトープをつくろう!」「金属の精練」「お菓子で考える社会学」「パソコンでゲームソフトを作成」など、さまざまな研究テーマが設けられています。
中3で個人で行っていた卒業研究を、縦割りの共同研究の形に変えたのが「4D-Lab」。2016年度のスタートから4年を経て、さらなるブラッシュアップを検討しています。「縦割り研究の良さは残しつつ、個人で研究する部分を設けるなど、さらに踏み込んだ形に昇華させたいと考えています」と大久保先生。さらなるステップアップが期待できる探求学習にも、注目が集まりそうです。
「自分の思いや考えを伝えるためにはインプットが必要で、経験を積んで伝え方を磨くことも大切です。失敗を恐れる生徒が多いけれど、私は校長就任以来"どんどん失敗しなさい"と生徒たちに繰り返し伝えてきました。というのも、学外で会う企業の経営者たちは、"既存の社員が思いもつかないことを発想し、組織に刺激を与えられる人に入ってほしい"と口をそろえるからです。発想をふくらませてチャレンジし、失敗しても心が折れない生徒を育てたい。一見無駄に見える知識や教養などの引き出しをたくさん備えて、心豊かに人生を送ってほしいと思っています」と大久保先生は生徒への思いを言葉にします。
「人間らしく生きる」「生徒第一主義」を掲げる同校では、理系のみならず様々な進路の生徒を温かく見守りながら力強くフォローし、豊かな人生を送れるように大事に育てているのです。