学校特集
麗澤中学校2019
掲載日:2019年3月12日(火)
1935年、法学博士・廣池千九郎先生は道徳を学問として学ぶ「モラロジー(道徳科学)」を創建し、「道徳」と「実学(外国語と経済)」を教育の柱として「道徳科学専攻塾」を創立しました。それが、麗澤の起源です。そこから80余年、日本の歴史や文化を学び、日本人としての足下を固めたうえで、世界に目を向けようという教育思想のもと、生徒たちが生きる未来を見据えた教育を展開しています。そして今、同校の教育の柱といえるのは、「英語教育+言語技術」。校長の松本卓三先生と、入試広報部副部長で中学英語科統括の重松雅治先生にお話を伺いました。
「英語教育」と日本語による「言語技術」が教育の両輪
論理的思考力と言語力を育成するもの
スローガンにある「世界で語れる『ことば』を持とう」には、日本国内はもとより、世界規模での人間関係を構築する力を育むという意味が込められています。 創立以来、同校には「人間関係に学ぶ」という大きな指針がありますが、ここでまずご紹介する同校オリジナルの「英語教育+言語技術」も、思考力とコミュニケーション力を身につけて、より良き社会を築き上げていくためのプログラムといえます。
「言語技術」は、コミュニケーションや情報処理のスキルを育むプログラムのこと。「論理的思考力」と「言語力」を統合した、あらゆる活動の基盤となるものです。 欧米をはじめとする諸外国では「ランゲージアーツ」と呼ばれ、母語による「読む・書く・聞く・話す」の4技能をバランスよく伸ばすために初等教育段階から実施されているもの。現在、首都圏の私立中高一貫校では10近くの学校が取り入れていますが、その意義にいち早く気づき、先駆けとなったのが同校です。
同校が「言語技術」を導入したのは2003年。きっかけは、中学開校にあたり「新時代の英語教育」を目指したことでした。当時は、「使える英語」「コミュニケーション力育成」などに焦点が当てられていた時代でしたが、それを伝統的に行っていた同校では改めて生徒たちの将来を見通し、4技能全般を育成する英語教育を展開していこうと考えたのです。そして、なかでも日本人にとって最も難度の高いライティング力をつけるための方法を模索していました。
松本校長:「そんな折に、つくば言語技術教育研究所の存在を知り、授業として言語技術を取り入れることにしました。国から研究開発校の指定も受け、同研究所の支援を受けながらカリキュラムの開発と教員養成を行いました。『言語技術』は本校が目指す英語教育を補完する重要な要素になると思ったからです。それ以来、『英語教育』と、この『言語技術』を教育の二本柱として続けてきました。本校の生徒は日本語でも英語でも『プレゼンがうまい』と褒めていただくことが多いのですが、それは『言語技術』で物事の筋道をつけて話すスキルが身についているからだと思います」
すべての活動、すべての場面で活きていく
「4技能」という言葉は英語教育でよく耳にしますが、本来、まずは母語で磨くべきものです。
また、同校が導入したのと同じ頃、日本サッカー協会でもこの言語技術のプログラムを選手育成の一環として取り入れました。プレー中の咄嗟の判断力や、それを支える論理やチームワークを強化するためです。このようにジャンルにかかわらず、コミュニケーションが必要なあらゆる場面に活きてくるのが「言語技術」なのです。
松本校長:「日本の従来の国語教育では、たとえば主人公の心情を問うなど、どちらかといえば感性重視の側面が強かったですが、『言語技術』は物事を論理立てて考え、説明するメソッドです。話す時も書く時も、単なる感想ではなく、根拠を示しながら読み解いて自分の意見をまとめ、まず結論を示してから、その論拠を説明していく。このメソッドは、すべての教科、また社会に出てからさまざまなことを経験する際に必ず役立ちます」
言語技術の授業は1年生から4年生まで、週に1時間。すべての授業は先生がファシリテーターとなり、生徒のディスカッションで進みますが、最終的に自分の主張を作文に書くことで締めくくります。ルールに則りながら問答を行い、相手の考えを理解したうえで、自分の意見を発信する力を鍛えていくのです。
松本校長:「中学から入学した生徒にとっては当たり前になっていますが、高校から入学した生徒が課外授業で『言語技術』に触れると、目からウロコのようです。こんな考え方があるんだ! と(笑)。その意義や利用価値を理解し、速やかに吸収していきますね」
授業は言語技術科専任の4〜5名の先生方が受け持っていますが、今ではアメリカ・オハイオ州にあるベクスレイ高校との交流も同校の「言語技術」の一端を担っています。ベクスレイ高校の先生がスーパーバイザーとなり、年に1回、同校を訪れて英語で言語技術の授業を行い、また同校の先生方も定期的に訪米し、指導技術の研鑽を積んでいます。
英語学習の成果も飛躍的に伸びている!
英語では語彙や文法の知識をしっかり身につけたうえで、4技能をコミュニケーションの視点でとらえ、実践力を伸ばす同校。キーワードが「英語のシャワー」だけに、その授業はとても活発です。
中1から1クラスを分割した少人数制で行われるネイティブと日本人の先生のチームティーチングでは、最初からオールイングリッシュで行われます。
そして、先の『言語技術』は、同校の英語教育でも大きな成果を上げています。とくに校長の狙いどおり、ライティング力の成長ぶりには目を見張ります。 中3では150語程度のパラグラフを書くまでになりますが、中学生全員が受検する英語検定GTECで見てみると、中3の時点で総合得点で全国の高2の平均点を上回り、ライティング部門では全国の高3の平均点を上回る成績を収めているのです。
重松先生:「中1の後半からライティングに取り組みますが、生徒たちは『言語技術』で基礎を学んでいるため、教員が『トピックセンテンス』『パラグラフライティング(※)』という言葉を発するだけで、事細かに説明する必要がありません。その基礎があれば文章全体の枠組みを作ることができますので、あとは学んだ語彙や文法を使って、ある程度形の整った英文を書けるようになります。学年が上がるにつれて、構成も内容も高度になっていきますね」
2020年度からは、現在実施されているネイティブと日本人の先生のチームティーチングによるコミュニカティブな授業をいっそう増やしていく予定とのこと。
中1〜高1は叡智2コース制、高2からは叡智4コース制に
伝統の教育をいっそう進化させるために、2015年から中学では「アドバンスト叡智コース」と「エッセンシャル叡智コース」の2コース制をとっていますが、「叡智」とは、物事の真理をとらえることのできる、最高の認識能力のこと。
両コースとも、その叡智を携え世界で活躍するために、「世界で語れる『ことば』を持つ」ことを目指して、日々の学習のなかで以下の5つの「L」を磨いています。
・「Language(英語力)」
・「Logical Thinking(論理的思考力)」
・「Liberal Arts(教養)」
・「Literacy(情報活用力)」
・「Leadership(リーダーシップ)」
アドバンスト叡智(AE)コース
国際社会で活躍するため、より高いレベルで学びを深めるのがAEコース(6年一貫)。目標とする進路は東京大学などの最難関大学ですが、それが最終目標ではありません。
タフな知性とコミュニケーション力、自立した学習態度をもち、自己実現を可能にする骨太な学力を養成するのです。
高度な教科学習を基盤に、さらに広い裾野をつくるために「Lアワー」を週に1回実施。今年度は、囲碁プログラム(中1)や模擬企業体験(中2)、英語劇(中3)などを行いましたが、さまざまな体験を通じて、普段とは異なる角度から思考力や実践力を身につけることを狙いとしています。
中3の「英語劇」の題材は、昨年度は歌舞伎の「勧進帳」、今年度は「桃太郎」でしたが、同じく中3の3月に行われるイギリス研修で、現地の生徒たちの前でも披露しました。
松本校長:「中学ではみんなで一緒に頑張ろうと、年に2回、3泊4日の勉強合宿も行っています。最初は勉強だけだったのですが、学年が複数になってくると、先輩が後輩に勉強を教えたり、夜にリクリエーションを行ってチームワークを大事にしたりするなど、中3がリーダーシップをとってアイデアを出し合い、どういう合宿にするかについて自主的に考えていますね」
エッセンシャル叡智(EE)コース
従来の麗澤教育に磨きをかけた学びを実践するEEコース。目標の進路は難関国公立大学・私立大学です。
クラブなどの諸活動にも熱中しながら、ていねいなサポートのもとで自学自習力をつけ、多様な進路実現に向けて幅広い学力を培っていきます。
進度と深度は多少異なりますが、学習する内容はAEコースとほぼ同様で、高2からは「TK」「SK」「IL」の3つのコースの中から、希望の進路に合わせてコースを選択します。
■高2からの3コースと進路目標
・「叡智TKコース」...難関国立大学・国公立医学部
・「叡智SKコース」...難関私立大学・国公立大学
・「叡智ILコース」...難関私立大学・海外大学
また、コースにかかわらず受講できる課外講座も豊富で、若手研究者を招いて理系分野の最先端の研究について講義・ワークショップを行う「サイエンスカフェ」や、自分たちの知らない世界のことをグローバル大学や専門家から学ぶ「グローバルセミナー」などは、高校生だけでなく中学生にも人気です。
「モラロジー(道徳科学)」という太い幹に、
枝葉を伸ばし花を咲かせていく
「人間関係に学ぶ」のが麗澤の伝統
そして、冒頭でもお伝えしたように、同校の教育の根幹を形作るのは創立以来の「モラロジー」です。 1935年に「道徳科学専攻塾」としてスタートして以来、外国語(英語)と人間性(道徳性)を軸に、「国際的日本人」の育成を謳ってきた同校。知徳一体の教育を象徴するキーワードは、自分よし、相手よし、世間よしの「三方よし」です。
松本校長:「6年間を通して週に1回道徳の授業がありますが、教条的なことを教えるものではありません。幸福について科学的に追求する『考え方の学問』として、教員と生徒が『生き方』を共に学び、人間力を高めるために行っています。教材はありますが、教員が自分の経験を例に引いて話し合うことが多いですね」
ここで特筆すべきことは、同校では担当教科にかかわらずにローテーションを組み、先生方全員が「道徳」の授業を受け持つことです。
松本校長:「本校で変わらず大切にしているのは『感謝の心・思いやりの心・自立の心』です。感謝がなければ相手を思いやる気持ちは生まれませんし、周囲の人だけではなく、先人の知恵に触れたり、顔の知らない遠くの人のことも考えられるようになってこそ、広い視野に立ち、本当の意味で自立した国際的日本人になれるのだと思います」
この校長の言葉を聞いて、改めて「英語教育+言語技術」をはじめとした諸活動を思うと、「人間関係に学ぶ」姿勢、または自分よし、相手よし、世間よしの「三方よし」の精神が確かに息づいていることが感じられます。次は、その一例です。
自分よし、相手よし、世間よしの「三方よし」の精神
重松先生:「中3生が、中1の時に教科書で学んだことをきっかけに、小児がんを支援する『レモネードスタンド』(レモネードを販売して寄付をする)の活動をしたいと、9月から5回実施しました。そこで得たものが大きかったのでしょう、その活動内容を英語にまとめて、英語でプレゼンする全国大会に出場しました。勉強だけではなく、『人のため』ということがしっかり身についているのが嬉しいですね」
ご紹介した以外にも、たとえば、中2で始まる歴史の授業は『古事記』をひもとくことから始めるというのも同校ならでは。国際的日本人を目指すためには、まずは日本を知り、日本人としてのアイデンティティーをもつことが重要と考えているからです。
また、キャリア教育の一環である「自分(ゆめ)プロジェクト」での多彩な取り組みや、数多くの体験型探究学習プログラムを実施するなど、同校には未来を思い描く多角的な視点を育てる場が豊富です。
確かな知力をもったうえで、物事の本質を見極め、相手の意見に耳を傾けつつ自分の意見を言える、つまり真のコミュニケーション力を養うことが重要なのは言うまでもありません。
そのうえで、最大の課題である「世界平和」に向かうために、「win-win」の関係以上の、「三方よし」の関係を築くことができる人材を育成しようとしているのが同校なのです。
「麗澤という環境」を肌で感じていただくために、ぜひ学校にお出かけください。