学校特集
成蹊中学・高等学校2024
掲載日:2024年12月1日(日)
成蹊学園(1912年創立)の「人を創る」という教育方針は、創立者である中村春二先生の「知育偏重ではなく、人格、学問、心身にバランスの取れた人間教育を実践したい」という思い、そのものです。この思いを達成するために「個性の尊重」「品性の陶冶」「勤労の実践」という建学の精神が、創立から100年を超えた今も、変わることなく受け継がれています。幅広い教養をもたせるリベラルアーツを重視できるのも、こうした揺るぎない土台があるからです。
これらは目に見えませんが、一度同校を訪れれば、一人ひとりの個性を尊重する大らかな校風のもと、自然豊かなキャンパスでどのような6年間を過ごせるかは、容易に想像がつくでしょう。
「本物に触れる」体験の中から、自身の琴線に触れる学びに出会う機会づくりに力を注ぐ仙田直人校長が、今年も自らインタビュアーとなり、黒田渓太さん(高2)、山中大馳さん(高2)、長谷川瑛怜さん(高1)、古市琴音さん(中3)に、それぞれが熱を注ぐ活動について話を聞きました。
憧れの先輩や先生と一緒にテニスがしたい!
来年こそインターハイで頂点へ
仙田校長:トップバッターは硬式テニス部に所属する黒田渓太さん(高2)です。高校総体インターハイテニス2024に出場しましたが、あなたにとってどのような大会になりましたか。
黒田さん:ベスト32という成績には満足していませんが、他の全国大会よりも学校を背負っているという気持ちで戦えました。それが率直に嬉しかったですし、調子があまり良くない中でも強い気持ちをもってプレーできたことはよかったと思います。
仙田校長:テニスとの出会いや活動について教えてください。
黒田さん:先にテニスを始めた姉を見ていて、面白そうだなと思ったことがきっかけです。テニスは週6日していて、火曜日は部活で2〜3時間、水曜日〜日曜日はテニスクラブで 夜6時から3時間ほど練習しています。
仙田校長:黒田さんにとって硬式テニスはどんな存在ですか。
黒田さん:「習慣」ですね。生活の中で当り前のことになっていて長期間テニスを休むと不安になるので...。
仙田校長:選手としての強みはどのようなところですか。
黒田さん:試合中に自分を鼓舞できるところだと思います。
仙田校長:インターハイでは、それを感じました。今後の活動や目標について教えてください。
黒田さん:全国優勝は無理かな、と思っていた時期もありましたが、インターハイで自分と同じようなレベルの選手が勝ち上がって上位に入っていくのを目の前で見て、自分も頑張って上位に入りたい、と思うようになりました。そのために、週2日、ベンチプレスなどの筋力トレーニングを取り入れ、上半身の強化に努めています。私は将来、商社で働きたいと思っていますので、スポーツ留学奨学金プログラムを活用して、アメリカの大学にチャレンジしてみたい、という思いもあります。アメリカの大学なら、英語とテニスの能力を同時に磨け、魅力的に感じます。 それがテニスだけでなく勉強も頑張るモチベーションになっています。
仙田校長:黒田さんは、どうして成蹊を選んだのですか?
黒田さん:小学生のときに東京都の強化練習会があり、そこで成蹊の顧問の先生や先輩方に「一緒にやろうよ」と声をかけていただいたからです。嬉しくて、成蹊を目標に受験勉強を頑張って入学しました。
仙田校長:成蹊の硬式テニス部には歴史があります。旧制中学から始まり、来年、創部100周年を迎えます。OBたちは黒田さんに期待を寄せていますよ。ちなみに成蹊の校風はどう思いますか。
黒田さん:明るく、部活や行事、勉強にも力を入れられるとても良い学校だと思います。
仙田校長:黒田さんは学業もたいへん優秀です。このまま文武両道で頑張ってほしいと思います。
天気や地震による被害を
未然に防ぎたい一心で研究に没頭
仙田校長:次は山中大馳さん(高2)です。山中さんは2023年の第60回気象予報士試験に最年少の16歳で合格しました。どうして気象予報士試験を受験したのですか。
山中さん:小2か小3の頃から毎年のようにゲリラ雷雨があり、自然の力の凄さを実感したのが、受験のきっかけでした。どうして雷が起きるのか、どうしてこんなに雨が降るのか。それを知りたくて、最初は自由研究で原因を調べました。もっと詳しく知りたいと思っていた矢先にコロナ禍となり、自宅学習の時間が増えたため、小6から気象予報士試験の勉強を始めました。最初に受験したのは中1です。学校の勉強や他の生活と両立しながら、受かるまで挑戦しようと思っていましたが、なかなか合格できませんでした。高校生になると、大学受験も考えなければならず、高1の夏が高校時代最後の受験になるかも、とこれまでにないプレッシャーを感じて受験しましたが、逆にそれが功を奏し、5回目にして合格することができました。
仙田校長:試験勉強ではどんなところに苦労しましたか。
山中さん:「合格するには800〜1500時間程度の勉強が必要」と言われるように、覚えることがとてつもなく多いのには苦労しました。1つ覚えても次のことを覚えたら、前に覚えたことを忘れてしまう、そんな感じでしたので、反復学習が本当に大変でした。さらに、気象予報士には「何時ごろから雨が降りそう」など、事前に最適な情報を提供することが求められるので、試験でも同様の能力が問われます。「情報整理を素早く丁寧に」これが一番苦労したことだと思います。
仙田校長:約4500人が受験して206人が合格(合格率5%)。しかも第60回では最年少。凄いこと尽くめですが、資格を取得してから何か変化はありましたか。
山中さん:学校やテレビなどのメディアでもたくさん取り上げていただき、周囲からは「雨は降るのか」「いつ止むのか」など、天気について聞かれることが多くなりました(笑)
仙田校長:今は地震の研究もしているんですよね。
山中さん:気象庁は地震も扱うので、中2~3から地震が発生するメカニズムを調べていました。2024年1月1日に能登半島地震が起き、大津波が発生しましたが、震源地から考えられない速さで津波が到達しました。なぜだろう、と思っていたときに、ニュースで「海底の地すべりが有力な原因ではないか」という専門家の見解を聞き、自分なりに調べてみようと思いました。そのため地震の揺れを再現する実験装置がどうしてもほしくなり、自分の貯金を全額使って買いました。それを使い、どのような地形だと海底地すべりが起こりやすいのかを研究しました。揺れ方や地形を変えながら反復試行すると、海底地すべりは周期の長い揺れのほうが発生しやすい、という実験結果を得ました。それをまとめて「日本地球惑星科学連合2024年大会」という全国の研究者や高校生が自然科学全般の研究発表を行う場でポスター発表しました。
仙田校長:将来はどのような道に進もうと考えていますか。
山中さん:将来は地球物理学を専攻し、天気や地震に関する研究をしていきたいと思っています。天気と地震は別々に起きるものだと考えられていますが、その被害は直結しています。能登では、地震の揺れで地盤が緩んでいるところに雨が降ったことにより、さらに土砂災害の被害が増えた可能性もあります。ニュースなどで大雨や地震による被害を耳にするたびに原因を調べたくなるのは、発生する前に防ぎたいという思いがあるからです。能登半島地震においては、報道の量が減り、被災者の現実が忘れ去られてしまうのではないか、という不安にかられて、ボランティアに参加しました。現地の状態や現地の方の苦労を目の当たりにすると、自分なりに人々の役に立つ研究をしたい、という気持ちが強くなりました。大学生になったら、地震が起きた後の大雨や台風による二次被害を削減する方法を研究していきたいと思っています。
成蹊生でないと行けない留学を経験。
勇気をもって3学期はターム留学へ
仙田校長:長谷川瑛怜さん(高1)はこの夏、カウラ市(オーストラリア)の短期留学に参加しました。まずは日本とカウラの関係性を教えてください。
長谷川さん:1944年、カウラの捕虜収容所には日本兵がたくさん収容されていました。当時、日本軍は「敵の捕虜になるのは恥」という考えをもっていたため、8月5日に日本兵が集団脱走し、見回っていたオーストラリア兵を含め多くの方が亡くなりました。「カウラ事件」と呼ばれています。
仙田校長:そのときカウラ市民が、日本人墓地を作って埋葬してくれたんですね。その後、オリバー市長が「日本とオーストラリアの関係修復には教育がいい。生徒の交換留学による交流を図っていこう」ということで、選んでくれたのが本校になります。オリバー市長が来日したのは1969年で、その翌年から交換留学が始まり、今年で55年目になります。
長谷川さん:私がカウラ留学を選んだ理由は、成蹊の数ある留学プログラムの中でも、歴史的意義のある特別な留学だと思ったからです。母が元国際線のCAで、幼い頃から異文化の話をたくさんしてくれました。その頃から異なる文化に対して興味をもっていましたが、「中学3年生×大学ゼミ体験」(希望制/毎年約100名が参加)という、成蹊大学の先生が様々な講座を実施してくれる企画で「国際情勢」についての講義を受けると、実際に異文化を体感してみたいという思いが強くなりました。
仙田校長:留学にはどんなことを期待しましたか。
長谷川さん:私は歴史を学ぶことが好きなので、カウラの人々と交流し、カウラと日本の歴史について一緒に考えてみたいと思いました。また、成蹊の代表としてカウラの式典に参加して日豪戦没者墓地に献花をしたり、日豪間の今後のさらなる友好のための桜の植樹など、貴重な経験もとても楽しみでした。
仙田校長:現地は冬ですから寒いんですよね。事件が起こった8月に行くことによって、日本兵は寒い中で脱走したという実感をもって献花をしてくれたことと思います。実際に行ってみて、印象に残ったことを教えてください。
長谷川さん:式典後に地元のラジオ局の取材を受けて、カウラ留学のお話をしました。カウラの人々は、カウラ事件を風化させないために、日本についてすごく知ろうとしてくださっていました。高校では日本語の授業があり、日本の文化にも興味をもっていました。私のホストファーザーは日本の映画が大好きで、毎日のように一緒に見ました。そうした日本のことを大切に思い寄り添ってくれている姿がとても印象的で、もっとたくさんの方にカウラ事件について知ってもらいたいなと思いました。
仙田校長:異文化に触れてどのような学びがありましたか。
長谷川さん:私は自分の意見を人に伝えることがすごく苦手なんです。カウラに行って、それを再認識しました。特に英語で話すときは、文法を気にしすぎてスムーズにしゃべることができません。一方、カウラの中高生たちはそんなことを全く気にしません。日本のように、空気を読むとか暗黙の了解とか、そういう文化もないので、躊躇せず発言します。その姿から、人とコミュニケーションをとるときは、失敗を恐れず自分の意見を伝えることが大切なんだと気づかされました。
仙田校長:今回の経験を、今後どのように活かしていきたいですか。
長谷川さん:異文化交流がすごく楽しかったので、将来は違う文化をもつたくさんの人と交流しながら、国際社会で人の役に立てる仕事に就きたいと思っています。今回の留学で気づいたことや学んだことを忘れないうちに、もう1回、海外に行きたいと思い、カナダへのターム留学(3学期/約3ヶ月間)を決めました。カナダは、カウラのように深いつながりがあるわけではありませんし、いろいろな文化や背景をもつ人がいる国なので、その違いを肌で感じてみたいのです。そこでは最初から自分の意見を伝えて、たくさん現地の人と意見交換ができたらいいなと思っています。
「中学生×吉祥寺」ホームタウンとのコラボが実現!
街の改善点を自分たちで見つけて新たな提案を
仙田校長:最後は中3の古市琴音さんです。成蹊では中学3年間、校名の由来である「桃李(とうり)」と名がついた道徳の時間を使い探究学習を実施しています。2023年度に実施した「TORITOWN KICHIJOJI」という取り組みについて、話していただけますか。
古市さん:私たちが中2のときの探究学習の学年目標は「セカイを Change!」でした。私たち成蹊生は吉祥寺にいる時間が一番長いと思うので、チームごとに担当を決めて駅周辺の商店街や百貨店などにインタビューを行い、吉祥寺で困っていることや改善点を自分たちで見つけて、課題解決のプレゼンテーションを行いました。
仙田校長:1年間かけて取り組む、課題解決型学習ですね。活動の第1段階として、吉祥寺の街を探索し、「MY KICHIJOJI MAP」を作成したと思いますが、そのときに感じた吉祥寺の現状や課題など、印象に残ったことを教えてもらえますか。
古市さん:私のチームたちが注目していたのは、「夜に起きる街」と言われている「ハーモニカ横丁」です。以前から「吉祥寺は夜が少し危ない」と言われていて、私は「それはなぜだろう」とずっと疑問に思っていました。その理由が夜の飲み屋さんのイメージが強い「ハーモニカ横丁」だったのです。登下校時や休日などに足を運んでみると、昼に営業しているお店も多く、たい焼き屋さん、お団子屋さん、お花屋さん、洋服屋さんなどもあります。いろいろな魅力がある商店街と感じたので、「お昼の時間帯を家族連れで賑わせることはできないか」と考えました。
仙田校長:第2段階として夏休み中に取材をしたと思いますが、成果を教えてください。
古市さん:私たちが知りたかったのは、昼営業と夜営業のお店の割合です。夜のお店が大半を占めているのだろうな、と想像していましたが、その割合は半々くらいだそう。ハーモニカ横丁の会長さんは「昔は昼も家族連れで賑わっていた。飲み屋街という感じではなかった。家族連れをもっと増やして、年代に関係なく愛されるスポットにしたい」と、おっしゃっていました。
仙田校長:課題解決のプレゼンテーションでは、古市さんのチームが金賞を受賞しましたね。最終的な提案を教えてもらえますか。
古市さん:家族連れを増やすには、「行きたい」という動機につながるものが必要だと感じたので、2つの提案をしました。1つは、親しみやすいミニキャラクター「よこちょ」をつくること。もう1つは、「秋祭り」の再開です。秋祭りは以前、ハーモニカ横丁で実施していたと聞きましたので、小さいお子さんや若い方にも来てもらえるよう、抽選会を企画しました。私はハーモニカ横丁のディープな雰囲気が好きなので、今流行っている、昭和レトロな雰囲気を活かしたお祭りができたらいいなと思っています。
仙田校長:実現できそうですか。
古市さん:今年の10月13日(取材日/9月30日)に「よこちょ祭」として実現します。いくつかのお店にご協力いただき、お店を利用してくださった方にチケットを渡し、抽選会を行います。景品は「よこちょ」のキャラクターをデザインしたユニクロさんとのコラボTシャツや、「よこちょ」のアクリルキーホルダーなどを準備しています。当日は仲間たちと「よこちょ」Tシャツを着用してアピールすることも考えています。
仙田校長:1年かけて企画した取り組みです。今、振り返るとどのようなことを思いますか。
古市さん:グループ活動だといろいろな意見がたくさん出てきます。 1人ではわからない、1人では思いつかないようなことも、みんなと一緒だとよい具合に意見が混ざり合い、アイディアが生まれます。そこがこのプロジェクトのいいところだと思っています。
今回、先生方や学校にご協力いただき、中学生と、ホームタウンである吉祥寺とのコラボレーションが実現することになりました。 中学生という小さな存在でも、吉祥寺という大きな町の改善点を自分たちで見つけて、自分たちで行動できるということがわかり、自信になりました。
仙田校長:本校では、この4人の生徒のように、一人ひとりがもっている個性を尊重し、得意とするスポーツ・研究・留学・探究などの分野について、その活動をより一層伸ばす教育を実践しています。自分の得意分野が分からない人でもきっと琴線に触れる経験ができる学校ですので、是非とも本校に足を運んでみてください。