学校特集
成蹊中学・高等学校2023
掲載日:2023年12月1日(金)
成蹊学園(1912年創立)は、創立者である中村春二先生が掲げた「人を創る」という精神を大切に受け継いでいます。それは知育偏重ではなく、人格、学問、心身にバランスの取れた人間教育の実践であり、その手立てとして「個性の尊重」「品性の陶冶」「勤労の実践」を建学の精神としています。人生において人を創る大切な時期に、それぞれの個性を尊重し、学び合い、それを実践できる、伸び伸びとした校風と、これまでに送り出してきた卒業生を含むリソースこそが、成蹊が選ばれる大きな理由です。
いかに生きるか。そのために何をどう学ぶのかを自らに問う「リベラルアーツ」を推奨する仙田直人校長が、今年も自らインタビュアーとなり、自らの意思で挑戦する堂原衣晴さん(中2)、清水祥寛さん(高2)、名古屋美宥子さん(高2)、降簱大知さん(高1)に、それぞれの気づきや学びについて話を伺いました。
女子ラグビーでU15日本代表に。
成蹊の部活に誘ってくれた友は大親友
仙田校長:小中高大、いずれにも存在するラグビー部の中でも歴史のある中学ラグビー部が創部100周年を迎えました。その中学ラグビー部に、今は女子部員も在籍しています。その一人がここにいる堂原さんです。この夏の成果を紹介してください。
堂原さん:U15女子チーム「JAPAN RUGBY ACADEMY」のメンバーに選ばれ、フランスで開催された「ヘリテージカップ2023」に出場し、女子セブンス(7人制)で世界1位になりました。この大会は試合を行うだけでなく、さまざまなアクティビティ(審査対象となる課題)が用意されていて、各国の選手たちと文化交流をし、さまざまな活動を通してラグビーのコアバリューを感じることができました。例えば、自分の国の料理を作ったほか、ラグビーのコアバリューである「Solidarity (結束)」について45秒の動画を制作しました。時には海外の選手に動画撮影を依頼されることもありました。今大会を通じて、コミュニケーション力が上がったと実感しています。
仙田校長:そもそもなぜラグビーを始めたのですか。
堂原さん:ラグビー経験者である父の影響と、「ノーサイド・ゲーム」というテレビドラマがきっかけです。成蹊小学校にラグビー部があったので、小6の時に入部。中学校でも初の女子部員として迎え入れてもらいました。
仙田校長:今回の日本代表12名のうち、中学校の部活に所属している選手は堂原さんだけなんですよね。
堂原さん:クラブチームで活動している人が多いですね。私は成蹊で週4日、地域のクラブで1日、女子のクラブで2日、練習しています。毎日、ラグビーができて幸せです。
仙田校長:ラグビーのどのようなところが面白いですか。
堂原さん:ポジションごとに選手が異なるスキルを使って試合に勝つところです。多少辛いことがあっても、全力で頑張れば成果となって試合に表れるのでやりがいがあります。
仙田校長:堂原さんのポジションは?
堂原さん:ウイングです。7人制ではフォワードです。目の前にきた相手をタックルで倒し、攻撃の起点を作れるようなプレーをすることを意識しています。
仙田校長:男子と一緒に練習すると、大変なこともあるのでは?
堂原さん:体格差があるので最初は不安でしたが、タックルも含めて一から教えてもらえます。先輩たちも優しいので、今は問題ありません。時には男子選手をタックルで倒す時もあります(笑)。
仙田校長:それは頼もしい!では今後の目標を教えてください。
堂原さん:ラグビーでも学習面でも可能な限りの努力をして、今回のように大きなチャンスが巡ってきた時に、自信を持って参加できるようにしたいです。夢は日本代表選手です。女子ラグビーの認知度をもっとあげるためにも自分が頑張り、その魅力を1人でも多くの人に伝えられたらいいなと思っています。
仙田校長:成蹊のラグビー部で活動してよかったですか。
堂原さん:はい。小6の時に、入部を勧めてくれた友だちが「中学でも一緒にやろう」と誘ってくれたおかげです。彼女は今も大親友です。
仙田校長:やはり人生を拓くのは人とのつながりと挑戦する気持ちなんですね。
旅行プランを0から考える楽しさは格別。
マニアックでも好きなものは好き
仙田校長:高校では、修学旅行を学習旅行という形態で行っています。生徒が考えた複数のプランから自分が行きたいと思えるコースを選び、各20〜50名単位で夏休みや冬休みに実施します。ここ数年、コロナで中断していましたが、今年の高2は高1の年に、探究学習の一環として、4人1組・88チームに分かれて、自分たちが行きたい学習旅行先を考え、プレゼンする大会を行いました。最終プレゼンに出場するのはクラスの精鋭です。清水さんもそこに参加し、プランを発表したのですが、参加希望者が足りず、残念ながら実施には至りませんでした。そのことも踏まえて話を聞きたいと思います。まずは清水さんのプランを教えてください。
清水さん:僕たちが行き先として注目した場所は佐賀でした。佐賀は、2022年都道府県魅力度ランキングで最下位です。「その理由を探しに行く旅」をコンセプトにして考え、ピックアップしたのが「吉野ヶ里遺跡」、豊臣秀吉が朝鮮出兵の際に拠点として用いた「名護屋城」などでした。自分たちは魅力を感じて選びましたが、マニアック過ぎて人が集まらなかったのかもしれません。
仙田校長:プランは非常に良かったと思いますよ。大隈重信記念館などはなかなか思いつかない場所、と思いました。
清水さん:僕は中学時代に社会探検部という部活に入っていました。自分たちで計画を立てて実際に出かける部活です。中2、中3はコロナ禍で日帰りの都内になりましたが、中1時は合宿で香川と岡山に行きました。
仙田校長:そういう素地があったのですね。清水さんは実際にどのプランに参加したのですか。
清水さん:愛媛県のコースです。小学校の時に家族で四国へ行く予定でしたが、台風で飛行機が飛ばなかったので、この機会にリベンジしました。印象的だったのは松山城です。基本的に平城は徒歩、山城は山登りになりますが、平山城とも呼ばれる松山城は平地と山の中腹あたりに天守閣があり、ロープウェイで登りました。それに加え、宿泊した「四国カルスト」の上にある「星ふるヴィレッジTENGU」は、天体観測ができる宿で驚きがありました。
仙田校長:もう一度、佐賀で立案するとしたら、加えたいものはありますか。
清水さん:佐賀藩の時代からある「三重津海軍所跡」を入れたいです。また、今回、他のプランの旅行を体験しておもしろいなと思ったのは宿でした。行程だけでなく、趣向を凝らした宿を選んだのはすごいなと思ったので、そういう気づきも活かしたいです。自分たちのプランを魅力的に伝えるために、パワーポイントの作り方や発表の仕方なども工夫しました。その経験も今後に活かしたいと思っています。
仙田校長:平山城は知っていましたか。
清水さん:事前学習で学びました。
仙田校長:それも学習旅行の特色ですね。このような旅行では、班ごとに調べたことを小冊子にまとめます。自由時間にこんなことができそうだよ、という話もできて、現地へ行く前に気づきや学びがあります。予算などの制約がある中、プランを練り上げるのは簡単ではありませんが、メンターの先生方には「なるべく生徒の意見を活かしてほしい」とお願いしています。今後は海外にも広げて行きたいと考えています。
ターム留学でものの見方が変わった。
気づきや学びを人のために活用したい
仙田校長:名古屋さんは、本校が初めて実施したターム留学(22名の高1・高2が参加、1~3月実施)に参加しました。カナダの冬休み期間に当たる最初の3週間は、ホームステイをしながらバンクーバー市内の語学学校で学習し、メキシコやブラジルなどカナダ以外の国の生徒とも交流しました。その後の6週間はアボッツフォードに移って7つの学校に分散し、違うホームステイ先から現地での学校生活を体験します。まずは参加した経緯から教えてもらえますか。
名古屋さん:私の中学受験のきっかけは留学でした。学生のうちに一度は留学したいという思いがあり、留学プログラムが充実している成蹊に入学しました。今回、参加したのは、9週間と期間がちょうどよく、将来に向けて英語力を鍛えるにもいい機会だなと思ったからです。語学学校で学んでから現地校へ行ったので会話はうまくできましたし、小テストでも頑張れば満点を取れました。ただ、私は単語を覚えることがすごく苦手なので、最後まで単語力不足で苦労しました。小テストは暗記でなんとかなりますが、会話はそうはいきません。その違いを痛感しました。
仙田校長:どんな将来を思い描いているのですか。
名古屋さん:高1時はパラリーガルを目指していましたが、今は司法試験を受けて法曹に携わりたいと思っています。私は正義感が強いタイプで、「正しさとは何か」と日頃から考える癖があり、公民の授業で憲法の条文を読んだ時に「これは私たちの当たり前をつくる概念になる、だから学びたい」と思いました。法学部を志望しているので、大学入試を突破するにも英語力が必要ですし、海外の人の考えや意見を知るためにも、翻訳ではなく現物の資料を読む力が必要だと思い、使える英語力を身につけたいと思っています。
(右から二人目が名古屋さん)
仙田校長:今回の留学ではどのようなことが印象に残りましたか。
名古屋さん:語学学校で、世界各地から英語を学ぶという同じ目的のために集まった人たちと出会い、価値観やものの見方が変わりました。例えば、私は「日本人は優しい」という海外の評判を鵜呑みにしていましたが、海外の人たちと交流し、温かみのある振る舞いに触れて、優しさは日本人だけのものではないと感じました。そうした小さな気づきが積み重なり、自分主体で見ていた日本人の特性を、相対的に見られるようになりました。もう1つ印象に残ったことは、同い年なのに壮絶な経験をしている人が近くにいることに驚きました。自分の知らないこと、考えもしなかったことが限りなくあるなと痛感し、世界をもっと知りたいと思いました。
仙田校長:留学は世界を広げる良い機会になりますね。参加者の感想文を読みましたが、名古屋さんと同じように感じていた生徒が複数いました。
名古屋さん:私は中学校卒業を前に、担任の先生から「やる気があるなら、自分を開いてもっと積極的になりなさい」と言われました。留学を通じて格好をつけていた自分に気づき、今はオープンな状態です(笑)。私は私、人に迷惑をかけない範囲であれば、やりたいことをやっていこうという気持ちになれたのが留学でした。
仙田校長:名古屋さんは現在、留学生のバディを引き受けていますが、何か感じることはありますか。
名古屋さん:私が組んでいるのは、ベルギー出身の17歳の女の子ですが、すでに日本語を含めて4か国語を話せます。約2カ月で不自由なく日本語を話していることにたいへん驚きましたが、彼女の学習意欲やガッツを見習いたいと思っています。留学により人としての温かさを学べたので、バディを通じてそれを伝えていきたいです。
林苑を舞台に創造力を育む
「SEIKEI WOODS」で人を創る
仙田校長:本校の学び舎は武蔵野の自然をそのままに残しています。その一角にある「林苑」と呼ばれる場所を表現の場として捉え、ランドスケープデザインや空間デザイン、コミュニケーションを学ぶプロジェクトとして立ち上げたのが「SEIKEI WOODS」(成蹊ウッズ)という試みです。
降簱さん:中3の時に、美術の先生が企画立案した「SEIKEI WOODS」がスタートすると知って、すぐに参加を決めました。
仙田校長:それはなぜ?
降簱さん:僕は小学校から成蹊なので昔から林苑の存在を知っていました。このすごい自然をどう活用しているんだろう、と楽しみに中学に上がったものの、自然科学部が観察する程度で、あまり活用されていないことを知り、もったいないなと思っていたからです。
仙田校長:どんな活動をしましたか。
降簱さん:学年が異なる中高生5名が集まり、上下関係を感じることなく林苑の新たな活用方法を自由に議論し合いました。現地調査を行い、かつて成蹊の敷地内に神社があったという歴史も知った上で、まずは一人ひとりがプランを考えて発表しました。それが今年の2月です。その後、個々の考えをまとめて一つのプランを創ることになりましたが、捉え方の違いを整えることに苦心しました。ようやく意見がまとまり、実際に150㎝四方の模型を作る段階でも、一つひとつに設計が必要で、また別の苦労がありました。
仙田校長:最終的にどんな提案をしましたか。
降簱さん:僕たちが目指したのは、林苑は成蹊の「秘境」という位置付けで、「最後のフロンティアに人を誘導し、新たな発見と探究の場にする」ということです。そのために、2つの建築物を考えました。1つは探究の場となるフリースペースです。もう1つは、そこへの導線となる空中歩道です。現状の林苑は、靴に履き替え、かなり遠回りをする「行きにくさ」を解消するため、中学ホームルーム棟から特別教室が集まる特別棟をつなぐ通路(空中歩道)を新設し、その道中でも林苑の空気を感じてもらおうとするもので、目に入る場所にフリースペースも設けました。
仙田校長:上履きで行けるプロムナードを造る、というのはいいアイデアですよね。
降簱さん:模型制作では、森に見えるけれども建築物も目立つようバランスに工夫しました。かなり時間をかけて練り上げたプランなので、今年の文化祭でのプレゼンで終わりにせず、成蹊桜祭(毎年春に開催)でもプレゼンができるよう、学園に働きかけるつもりです。
仙田校長:設計は誰かに教わったのですか?
降簱さん:成蹊学園の校舎の建築に関わった会社の方にアドバイスをいただきました。ただし、試行錯誤しながらここまでできたのは、中3の技術で自分だけの本棚を設計から制作した体験や、学校にものづくりに使う古い道具があったことが大きかったと思います。
仙田校長:高2・高3の演習の中には建築模型を作る授業もあります。
降簱さん:僕も建築にはかなり興味があります。4歳の頃、1枚の紙でこんなものまで作れるんだ、と折り紙に興味を持ってから、何かを創り出すことの面白さに惹かれていて、クリエイティブな仕事に就くことができたらいいなと思っています。
仙田校長:降簱さんは中3時に三浦綾子作文賞の最優秀賞を受賞しています。芸術の観点からも語れるところが強みですよね。成蹊大学の情報図書館を設計した坂茂さんは、世界的に活躍する建築家です。小学校から高校まで成蹊で過ごし、在学中はラグビー部でも活躍しました。1つの軸をもつことはとても大事なことですが、視野を広げてさまざまなことを関連づけて成長していくリベラルアーツの考え方を今後も大切にしてほしいと思っています。皆さんもぜひ一度本校に足を運んで、学園の雰囲気や環境に触れてみてください。