学校特集
江戸川女子中学校・高等学校 2018
「指導法ではなく指導理念」
掲載日:2018年7 月28 日(土)
何事においても自立した姿勢をもち、「教養ある堅実な女性」の育成を目指す江戸川女子。この「堅実」とは、「やるべきことを、きちんとやる」という基本姿勢のことです。学習はもちろんのこと、人としてのあり方においても。これはシンプルですが、簡単なことではありません。しかし、先生方の手厚い指導のもと、中1から日々積み重ね習慣化していくことで、生徒たちは一歩ずつ着実に階段を登り、その成果をさまざまな場面で開花させています。
そんな同校の教育のなかから、今回は自立を促す「行事」、伝統の「英語教育」、一生の財産になる「情操教育」などについて、入試対策委員長の小笠原敦先生と、英語科の渡辺文彦先生にお話を伺いました。
行事
自立を促す仕掛けがいっぱい
学校生活全般がそうであるように、同校では行事も、自立を促すことを大きな目的としています。ここでは、わかりやすい具体例として、校外研修についてご紹介しましょう。
同校は校外で行われる自主研修や理科の実験・観察など、自分の目で見て肌で感じる体験学習の場を豊富に設けています。中学での代表例は、各学年で年に2回(10月と3月)実施される「社会科見学(自主研修)」です。この校外研修は事前学習をしたあと、班ごとに「現地集合→自主研修→現地解散」で行われます。中1の最初の社会科見学の朝は、「乗りすごしてしまった」とか「その駅に止まらない電車に乗ってしまった」などという生徒からの電話で、担任の携帯は鳴りっぱなしです(笑)。この社会科見学が実施される前、入学直後の5月には軽井沢へ。
この軽井沢校外研修に際して、先生は保護者会で保護者の方々にあるお願いをするそうです。それは、荷造りは生徒にさせてほしいということ。
小笠原先生:「そうすると、お母さん方はザワザワザワとなります(笑)。『私がやってはいけないんですか?』とおっしゃるから『ダメです』と。たとえ忘れ物をしたとしても、ホテルに泊まるのですから用は足りますし、お母さんが荷造りをして忘れ物があったら『もう、お母さん!』となりますが、自分で荷造りをして忘れ物をしたなら『次から気をつけよう』と思えます。ここでは『自分が忘れた』ということが重要で、次につながる失敗が大事なのです。
そして、中3では奈良への修学旅行に出かけますが、こちらも班ごとに行動し「奈良の宿舎に現地集合」です。中1・2の校外研修の経験があるため、だいぶ自主行動には慣れている生徒たちですが、とはいえ、じつは先生方はその裏で大忙しです。
先生方が大まかな流れを「しおり」として作って配布するのですが、それに則って生徒たちは班ごとに具体的な行動予定を立て担任の先生に提出。興味や意欲が先行して、回りきれない予定を立てる班もあるため、先生方はていねいにチェックし、アドバイスします。
小笠原先生:「そして、出発当日の朝は7:30〜8:30の新幹線『のぞみ』か『ひかり』に乗るという決まりがあり、いくつかのチェックポイントもあるのですが、生徒たちが通りそうなルートや、乗りそうな新幹線や電車には手分けして教員が乗り、陰から見守っています」
これは、同校の指導方針の大きな一つ。先生が引率するほうが、事は簡単にすみます。でも、先生の心のなかにはさまざまな心配事があっても、導く方向を見据えてドン!と構えていれば、生徒も自立の必要性を自覚するとともに、見守られているという安心感をもって成長していく、という考え方です。
このように、生徒たちは小さな失敗を積み重ねながら、学年を追うごとに一歩ずつ前進し、徐々に「人任せではなく、自分でやらなければ」という意識を芽生えさせ、自立した行動をとれるスキルを身につけていくのです。
学習
「やるべきことを、きちんとやる」ことが、確かな学力を育てる
学習指導においても、「やるべきことを、きちんとやる」方針が貫かれます。それを支えるのは厳しい詰め込みなどではなく、先生方の創意工夫と、手厚いバックアップ体制です。中3から始まる古典ではオリジナルテキストを用いたり、社会科でも手作り教材を活用して生徒たちの理解を促し、きめ細かなフォローで基礎を定着させます。
学習内容をご紹介する前に、まず、以下に示した今春の大学合格実績をご覧ください。国公立をはじめ、難関大学への実績が堅調で、近年は理系、とくに医療系学科への進学も増えています。
積極的な学習姿勢を身につけていく
国公立 54名
早慶上理ICU 66名
GMARCH 116名
医療系学科合格者
医学部医学科 9名
薬学科 17名
看護学科 53名
見事な実績ですが、特別なプログラムや指導法があるわけではないと先生は言います。
渡辺先生:「ノートを作り、きちんと予習をして授業に臨む。こういう勉強を当たり前の形として中1の最初の段階から意識づけ、習慣づけを行います。そういう意味では特別なことをやっているわけではなく、オーソドックスな指導ですね。生徒にきちんとやらせるか、やらせないか。それだけです」
生徒たちの自立した学習姿勢を育てる
この20年来、詰め込みをすることなくゆとりをもった学習計画を実践するため、1コマ65分授業を実施しています。
65分授業は平日が5コマ、土曜日が3コマですから、50分授業を実施していた頃よりも1週間で120分授業時間が増え、さらに年2学期制の採用で年間の授業日数が格段に増えたそうです。
渡辺先生:「小学校では45〜50分授業ですから65分授業ですと約1.3倍になるわけですが、すぐに慣れますね。新入生はやる気、意欲にあふれていますので、すべてがイベントといいますか、中学で始まる勉強も、教員や先輩に挨拶することもイベントのようです(笑)。小学校とは別のものをやるんだという新鮮な気持ちをもって、毎日がドキドキ・ワクワクで中学校生活をスタートさせていますね」
最も重要なことは基礎固めですから、中学の段階では小テストや補習も充実しています。予習や復習などの自宅学習についても最初から習慣づけられるため、生徒たちはそれほど苦もなく、スムーズに学習リズムをつかんでいくようです。
小笠原先生:「たとえば朝に行う小テストなどでも、点数が足りなければ追試になりますが、これがエンドレスなのです。本当にちゃんとできるまで続く。追試は放課後に行いますから、追試に合格しないと部活動にも影響しますし、土曜の放課後などに持ち込めば出かけることもできなくなります。『○回やれば免除』ではなく『合格しなければ終わらない』ため、生徒たちも『ちゃんと勉強しなければ』と覚悟するようになります(笑)」
一方、高校になるとほとんど補習はなく、休み時間などが補習の時間の代わりになっているといいます。つまり、「わからないことはすぐに質問」しに行くからです。どうりで、職員室前の壁に小さな台がいくつも設けられているわけです。学校を訪問したのは夏休み中でしたが、自習に来た生徒がその台のところで先生に質問している姿がありました。
また、高校では授業よりも上のレベルの講習を数多く用意。つまり、中学では「落とさない」、高校では「吸い上げる」のが同校の考え方であり、だからこそ学習においても自主性が育っているのでしょう。
そして、クラス編成については中3から選抜クラスを1クラス設け、高2からは以下のとおり、類・科別にクラス編成が行われます。
普通科Ⅱ類...難関私立大学への現役合格を目指す(2クラス)
普通科Ⅲ類...国公立大学をはじめ、早慶上理および医歯薬学部への合格を目指す(5クラス)
英語科...難関私立大学・国立大学の文系学部の合格を目指す(1クラス)
※クラス数は例年の平均
ハイレベルな授業を展開
1986年、約30年前に都内の高校で初めて「英語科」を設置したのが江戸川女子です。英語教育には伝統がある同校ですが、帰国生が多いことでも知られています。その同校での英語の学びは、中学では週に5時間を教科書『プログレス21』と文法問題集を使った授業にあて、小テストや補習授業で理解度を確認。
そして、週に1時間はネイティブと日本人の先生による「英会話」の授業。学習指導要領の約2倍の時間を確保しているため、中3までに高校で学ぶ文法の基本事項はすべて学習します。
例年、中3までに英検準2級取得者が約7割ということからも、生徒たちがどれほどの実力をつけていくのかがわかりますが、これも、「やるか、やらないかだけ」だと渡辺先生は言います。
渡辺先生:「準1級以上になると違ってきますが、準2級くらいまではきちんと勉強すれば取れます。ですからほかの勉強と同じですが、きちんとやるべきことをやっていくということに尽きると思います」
●高校ではライティングをネイティブの先生が教える課外授業も高校の課外授業として「クリエイティブ・ライティング」がありますが、これはネイティブの先生が指導するもの。普通科・英語科ともに希望者が受講していますが、ライティングをネイティブの先生が教えているということも同校ならではでしょう。
その狙いは何なのでしょうか。
渡辺先生:「狙いは、ネイティブの教員が行うということです。日本人教員でもレベルが劣ることはないのですが、すべて英語での授業という環境だと、生徒の集中力やモチベーションがより高まるため、自信にもつながっていきます。いわゆる大学受験講座ではなく、大学に入ってから理系で論文を英語で書くときに役立つといった、そういう方向性で実施しています」
海外研修&留学制度
高校では、刺激に満ちた多彩な海外研修も
中1から高1までの4年間で積み上げた英語力の実践の場として、高2では全員が海外に出かけます。
普通科では修学旅行でカナダ(フィリピンコースとの選択)へ。そして英語科では、修学旅行のかわりに語学研修がありますが、イギリス、アメリカ、ニュージーランド、フィリピン4カ国からの選択が可能となっています。
コースによって1〜10週間の行程になりますが、フィリピン以外は、基本的にホームステイをしながら語学学校に通ったり、現地校で授業を受ける体験をします。そしてフィリピンは語学習得に特化したコースになっているため、学生寮で生活しながら主にマンツーマンでのレッスンに。この研修では、アウトプットの量が圧倒的に多くなります。
このほか、英語科では3年前からニュージーランド(もしくはオーストラリア)への1年間の留学制度も設けています。受け入れ校はつねに5〜6校確保していて、留学先は基本的に1校につき1人。毎年、5名前後の生徒が留学しています。ちなみに、この留学制度があるために、同校を選んだ生徒もいるそうです。
渡辺先生:「修学旅行や語学研修の数週間の海外体験も貴重ですが、それはきっかけにすぎません。その先で味わうであろう異文化のなかでの苦労や葛藤と向き合ってほしいと、留学制度を設けました。つい先日、ニュージーランド語学研修に行ってきたのですが、そのとき、ちょうど留学中の生徒に会ってきました。語学力はもちろんですが、物怖じせず、相手とコミュニケーションをとろうとする力が格段に上がっていましたね。『日本が恋しくないか?』と聞いたら『全然!』と言っていました(笑)。現地の友達と離れたくないのだそうです。思春期で、いちばんいろいろ変わっていくときに、まったく違う文化のなかで苦労しながらなんとか最後までやり遂げて帰ってくるわけですから、とても有意義な機会になっています」
情操教育
中学では日本の伝統文化を学び、弦楽器も演奏
そして、同校では年に1回全学年で実施される「文化教室」など、情操教育にも力を入れています。ミュージカルやオーケストラ、歌舞伎、そして京劇に至るまで、さまざまなジャンルの芸術にふれて幅広い教養と感性を磨くのですが、同時に観劇・鑑賞のマナーも身につけていきます。では、ここで特徴的な情操教育3例をご紹介しましょう。
中学では週に1時間「特別活動」の時間が設けられていて、中1は「茶道」、中2は「箏曲」、中3では「華道」を学びます。日本古来の文化への造詣を深めるとともに、それに伴う立ち居振る舞いを身につけ、女性としての感性・品格を磨いていくのです。
このように日本女性としての教養を身につけることは、同校の生徒たちにとって、生涯にわたる大きな財産になっています。
そして、特筆すべきは高1で実施されるベートーヴェンの「第九」の合唱です。
「第九」発表会は毎年学年末の3月に実施され、今年度で26年目を迎えますが、今年の高1は321名。そこにお父さん方や男性の先生有志が100名以上加わるのです。
小笠原先生:「生徒たちに一生の思い出に残るイベントを、しかも他校ではあまりやっていないものをやろうということで、26年前に音楽の教員を中心にして実現したのが始まりです。当該学年のお父さん方は15〜20%くらいでしょうか。仕事の都合で参加が難しい場合が多いですから、生徒の留年は許しませんが、お父さん方の留年は大歓迎ということで行っています(笑)。生徒が卒業しても出つづけていらっしゃる方もいますよ。なかには、15年以上歌っていらっしゃる方も」
娘さんが卒業して、就職して、結婚して子どもが生まれて、お爺ちゃんになっても、娘の母校でお父さんが歌っている。なんて素敵なことなのでしょう。ちなみに、参加されるお父さん方はもともと音楽が好きな方が多いので、高い「留年率」を誇っているそうです。
中高生くらいの年頃は、娘と父親の関係性がスムーズではないことも少なからずありますが、この「第九」は、父娘関係づくりにもひと役買い、大人になってからも、かけがえのない共通の思い出になっているのだとか。
渡辺先生:「生徒のお爺さんが広島からいらしたこともあります。そのシーズンになると毎週練習があるのですが、『孫と一緒に歌いたい』と、新幹線に乗って通われていました。また、福岡に住むお爺さんとお父さんと娘さん、親子三代がそろってステージに立ったこともありますね」
中学の音楽の授業も独特です。年間の約半分の時間は弦楽器のレッスンにあてられていて、バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの4種類の弦楽器のうちどれか一つを学びます。それぞれの楽器の専門家の先生に、しかも授業のなかで習えるというたいへん貴重な機会なのですが、事の始まりは先の『第九』だそうです。
小笠原先生:「当初、『第九』を支える演奏は吹奏楽部が行っていたのですが、『第九』はやはり管弦楽だろうということで、弦楽器を音楽の授業に取り入れたのです。いま『第九』発表会では、弦楽部と吹奏楽部の選抜メンバーが演奏しています」
ちなみに、中学3年間の集大成として中3の9月に「弦楽発表会」が行われますが、授業のみのレッスンにもかかわらず、毎年見事な演奏を聴かせています。
このように、学習でも行事でも、学校生活のすべてにおいて「やるべきことを、きちんとやる」ことを6年間を通じて身につけていく生徒たちは、同校の目指す「自立」した「教養ある女性」への道を、一歩ずつ前へ前へと歩んでいます。
思い思いに夢を追いかけていく
それぞれが自分の居場所をつくり、そこを起点にしてさまざまな人と関わっていく。同校には、それができる空気があります。
小笠原先生:「本校にはいろいろなタイプの生徒がいますが、対立することなく、それぞれうまく棲み分けができていて、居心地が良さそうです。無理に他人に合わせる必要がないと言いますか、オシャレな子、スポーツが好きな子、オタクな子など、さまざまな志向をもって横並びになっている感じですね。ですから、上下の序列のようなものは生まれず、それが本校の風土になっていると思います」
生徒たちは、男子がいないぶん気安さがあると言うそうです。女子校ですから、もちろん力仕事も自分たちでやらないといけませんが、大学生になった卒業生はよく「重いものを運ぶときも男子に頼む発想がないから、すぐに女子校出身だとわかるみたいです(笑)」と言うのだとか。
何事にも自分から率先して動くようになる姿を見て、「うちの子が、こういうことができるようになるとは思わなかった」と驚く保護者の方も少なくないそうですが、生徒たちは、先輩の姿を見ながら自然に学んでいくのです。
さらに先輩と後輩のつながりが密なことも、同校の魅力の一つ。自主研修や語学研修、大学受験などについて、後輩は先輩方に先生を介さず、自分でどんどん話を聞きに行くそうです。年齢を超えて、生徒同士でつながっていくのです。
面識のない先輩に電話をして大学のことを教えてもらったり、大学のオープンキャンパスを案内してもらうことも珍しくありません。社会人の先輩も後輩たちの相談には気軽にのってくれるそうです。
渡辺先生:「みんな親身に相手をしてくれますね。先輩にとって、後輩は第二の妹みたいな感じなんだと思います。ですから、生徒たちにはいつも『先輩への恩返しは後輩にしなさい』と言っているんですよ」
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