学校特集
千葉日本大学第一中学校・高等学校2018
掲載日:2018年10月1日(月)
1968(昭和43)年、東京・両国にある日本大学第一高等学校の兄弟校として、千葉県船橋市に開校した千葉日本大学第一高等学校。「千葉日」という愛称で呼ばれる同校は、日本大学理工学部(船橋キャンパス)と薬学部のキャンパスのほか、日本大学習志野高校がある静かな文教地区にあります。最寄りの東葉高速鉄道「船橋日大前」駅を降りると、目の前に広がるのは緑豊かな日大理工学部の広大なキャンパス。そのキャンパスの中を通り抜け、しばらく歩くと、人工芝のグラウンドが見えてきます。その奥に見える真新しい建物が、2017年に完成したばかりの同校の新校舎です。
日本大学の付属校として、希望すればほぼ全員が日大に進学可能な「千葉日」。25校ある日大の付属校の中でも、とくに医・歯・薬・獣医系への進学率が高いことが特徴です。一方、国公立大など他大学への進学を希望する生徒への進路指導も手厚く行われています。今回は、そんな「千葉日」の英語教育とキャリア教育について、校長の村中隆宏先生にお話を伺いました。
学んだ英語はアウトプットし、身につけ、定着を図る。
新しい校舎の効果も"大"
【英語教育】
小・中連携など、新しい試みにも挑戦
「中学は大学進学を踏まえて学習の定着を図る、その基礎にあたる時期だと考えています。そのうえで自分の将来を見据え、目標を具現化していくことが必要です」と、校長は語ります。
隣接する付属小学校では、英検5級取得のための放課後講座が開講されているのですが、今年から、同校の中学生がサポート役としてお手伝いをするという取り組みが始まりました。サポートするのは、英検2〜3級を取得している中3の生徒たちです。
これは、昨年創立50周年を記念し、「小中の連携でできることはないか」と両校の先生が話し合って提案されたものです。放課後講座とはいえ実際の授業とあって、最初は戸惑っていた生徒たち。それでも、立ったまま話していた生徒が、そのうちしゃがんで小学生の目線に合わせて話すようになったとか。また小学生のほうも、先生より年齢が近いお兄さんやお姉さんに教えてもらうことが楽しそうで、お互いに良い効果が出ているそうです。
英語力の実践の場として、鎌倉への校外学習(中2)、京都・奈良への修学旅行(中3)があります。校外学習では、通りすがりの外国人に「なぜ日本に来たのか」などを英語でインタビューし、その様子を録画。そして、文化祭で発表するといいます。
「学んだ英語をアウトプットする良い機会になります。私もその発表を見せてもらいましたが、なかなかよくできていました」(村中校長)
また、2019年の3月からは中3の語学研修(希望制)も始まります。フィリピンに1週間滞在し、現地の語学学校へ通って英語漬けの日々を送る集中学習。
「学んだ英語を外に出していく機会を、どんどん増やしていきたいですね」と、村中校長。
中学の英語の学習では、英検の取得を目標基準の一つとしています。最低ラインの取得目標としては、中3で英検3級。
「あくまでも最低ラインです。もちろん、中学生で準2級や2級を取れる力のある生徒もいますから、そういう生徒にはさらに上をめざすよう指導しています。3級というと、低い設定だと思われるかもしれません。しかし、本校には『みんなで成長していきましょう』という考えがベースにありますので、最初から目標を高くして、先に進めなくなる生徒を出したくないのです」(村中校長)
校訓に「真・健・和」を掲げている「千葉日」らしい、「協力し合って成長していく=和」の精神が、ここにも息づいています。
ところで、同校には「千葉日」を第一志望として受験する「第一志望入試」がありますが、この「第一志望入試」では2019年度より、英検5級以上をもっている受験生には加点することが決定しました。英検5級以上をもっている受験生のみなさん、要チェックです。
【新校舎】
明るく開放的な新校舎では自習室が人気
昨年、創立50周年を機に新校舎が完成しました。階段の踊り場は全面ガラス張り、吹き抜けも設けるなど、明るく開放的な造りが印象的です。なかでも、最も特徴的なのは教室です。前面に黒板、左右は壁、後方に窓と、授業に集中できる特徴的なデザインに。
そして、生徒にとくに好評なのは「自習室」だそうです。自習室は100席。それぞれパーテーションで区切られていて、こちらも集中して学習に取り組めるレイアウトになっていますが、定期テスト前には予約制にしないと席が確保できないほど大人気なのだそうです。
眺めの良い最上階の4階にあるランチルームは、放課後には学習の場としても開放されています。また、テーブルと椅子を片付けると多目的に使えます。
「自習室ができたことで、自ら学ぼうという意識をもった生徒が大勢いることに改めて気づかされました。また、ランチルームでも自習をしたり、友達同士で教え合ったりと、切磋琢磨しながら学んでいる生徒の姿をよく見かけますね」と、村中校長。
異文化体験、模擬裁判など、
体験型プログラムで人間力を深める
【異文化体験】
「自然体験学習」が生徒を成長させる
岩手県一関市で行われる中3の「自然体験学習」は、多くの生徒に体験してもらいたいプログラムだと校長は言います。「異文化体験ができる」という意外さと、「生き方のヒントになる体験ができる」点が素晴らしいのです。
この「自然体験学習」は20年以上前から続いています。当時、岩手県大東町(現・一関市大東町)には日大の生物資源科学部のセミナーハウスがあり、そこを利用して勉強合宿を行ったことがあったそうです。その時、先生方が地元の人と知り合い、そこから「農業体験」のプログラムが始まりました。
「自然体験学習」は夏休みに希望者を募り、ファームステイの形で3泊4日で行われます。約15家庭の協力のもと、一家庭に3〜4名の生徒がお世話になり、農家の方と寝食をともにし、朝は早く起きてトマトの剪定やじゃがいも掘りなどの手伝いをします。
出発前、先生方は参加者の生徒に「農家の一員になりなさい」と指導するそうです。
ふだんは夜遅くまで起きている生徒たちも、この時ばかりは早寝早起き。お世話になっている家の方々は、早起きをして早朝から農作業を始めます。その様子を見て、自分だけが寝ているわけにはいかない、自分も「農家の一員」にならなければと、気を引き締める4日間となっているとか。
ここで村中校長は、この農家体験で生徒たちが新鮮な「驚き」や「気づき」を得たエピソードを教えてくれました。
「ナスが食べられない女子がいたのですが、農家の方がしてくださったバーベキューの時、『ナスが私を呼んでいる!』と言い、ナスを食べたのです。おいしかったのでしょう、帰宅してからお母さんに頼んでナスを調理してもらったそうですが、その時はやはり食べられなかったそうです。農家で食べることができたのは、雰囲気が良くて『みんなと一緒に食べたい』と思ったからなのか、採れたての新鮮なナスだったからなのかはわかりませんが、不思議ですね(笑)」(村中校長)
都会に暮らす生徒たちにとって、家の中に水洗トイレがあるのが当たり前。でも、お世話になる農家には汲み取り式のトイレ、また昔のまま外にトイレがある家もあり、生徒たちはカルチャーショックを受けたそうです。
自分の日常と違う不便さを感じながらも、このようなこと一つひとつが、生徒たちにとって貴重で、豊かな学びとなっています。
「今は、大東町でもほとんど水洗トイレになっていますから、昔話になりますが」(村中校長)
みんなでトウモロコシを食べたあと、農家の方がその芯を牛にあげているのを見て、「食べ残しをあげてもいいの?」と疑問に感じた生徒がいたそうです。
「生徒たちには、飼育動物には飼育動物専用の食べ物があるという固定観念があります。しかし、昔は、家畜には当たり前のように人間の食べ残しをあげていましたよね。このようなことも、生徒にとってはカルチャーショックになるのです」(村中校長)
このように、日本にいながらにしてたくさんの「異文化体験」ができるのが同校の「自然体験学習」なのです。一方の農家の方も、生徒たちの「家族の食事の時間がバラバラで、ふだん一緒に食事をすることはあまりない」という話に驚かされていたとか。
「自然体験学習」には例年約40名が参加しますが、今年は48名の生徒が参加しました。校長が言うように、生徒全員に体験してもらいたい素晴らしいプログラムですが、「しかし、受け入れる側も兼業農家が多いですし、高齢化が進んで受け入れが困難になったりと、年々難しくはなってきています」(村中校長)
とはいえ、「千葉日」と農家の方々は強い絆で結ばれています。「7年前の東日本大震災の時は、さすがにご迷惑だろうと、『今回は遠慮します』と辞退を申し入れました。ところが、返ってきた言葉は、『せっかく続いてきた交流事業。大変な時期だからこそ、今のこの状況を見てほしい』というものでした」と村中校長。
毎年、同校の文化祭には農家の方々も野菜を持参して上京し、文化祭を見学したり、生徒と一緒に文化祭で野菜を販売したりするのだそうです。
都会では経験できないことを、感動やカルチャーショックとともに経験する生徒たち。
「『自然体験学習』は、生徒が『そこ=現地』に行くことに意味があります」と長年、このプログラムを担当してきた村中校長。「我々が想定する以上に、生徒たちはさまざまなことを感じ、学んできますね」と言うとおり、一関市大東町でのひと夏の体験は、生徒たちにさまざまな気づきを促し、たくましく成長させ、「生きる力」の芽となっています。
高校の修学旅行は今年度から沖縄へ
行事など、「自分たちで計画し、体験すること」もキャリア教育の一環としてとらえる同校ですが、今年からは高校の修学旅行で大きな変更があります。従来、修学旅行は九州でした。長崎や鹿児島の知覧では平和を学び、熊本の球磨川では川下りなど自然体験をするというのが昨年までのルートでした。
「しかし例年、部活動の大会などの関係で、どうしても修学旅行に行けない生徒がいたのです。そこで、どうにかして全員が行くことができる時期がないかと検討を重ね、2月に実施することになりました。行き先は2月でも過ごしやすい沖縄に変更。3泊4日の旅程ですが、平和学習としてガマなどの戦跡を訪ねます。また、1泊は民泊を予定し、異文化体験をする予定です」(村中校長)
ここでも、民泊して「異文化体験」をするのが同校らしいところです。全員がそろって修学旅行に行けることで、生徒たちの士気も上がるに違いありません。
【模擬裁判】
模擬裁判で法的なものの見方を学ぶ
中3全員が参加して行われるのが「模擬裁判」です。7月から準備を始め、11月の文化祭の時に舞台上で審理を行う取り組み。これは6年前、「模擬裁判をやりたい」という声をあげたクラスがあり、そこから中3全員で行うカリキュラムに進化していったものです。
「模擬裁判」の台本は、千葉県弁護士会の法教育委員会に所属する若手弁護士の協力を得て作ってもらいます。文化祭に向け、裁判官役、弁護人役、検察官役を生徒からそれぞれ10名選んで、役ごとに連絡を取り合い、裁判の進め方を話し合っていきます。ちなみに、被告は同校の先生が扮することになっているそうです。
舞台に上がらないほかの生徒たちは、陪審員になったつもり「模擬裁判」に臨みます。「模擬裁判」では、法的なものの見方や考え方を身につけ、客観的に公正に考えることも学びます。
この「模擬裁判」をきっかけに、本物の裁判の傍聴に行く生徒もいるのだとか。体験からまた一歩先へ。体験が生徒の自立を促します。
ランチルームも使えるが、友達と一緒のお弁当も楽しい
中学の体育祭のハイライトは、3学年共同の「組体操」(男子)と「ソーラン節」(女子)
日大の付属校のメリットを生かした
高大連携プログラムは、理系が充実
「医歯薬学部研修」を実施しているのは、付属校でも2校のみ
隣接する日大理工学部のキャンパスや大学生の姿を見て、ふだんから「大学」や「日大」を身近に感じている千葉日生。
その身近さをさらに後押ししているのが、高大連携プログラム。同校では、とくに理系のプログラムが充実しています。なかでも夏休みに行われる「医歯薬学部研修」(高校生の希望者のみ)は、付属25校のうち千葉日と東京の日大一高の2校のみの実施となっています。この研修では、付属の大学病院を見学したり、高度な医療機器を実際に使って最先端の研究に触れます。
「たとえば薬学部では、大学の研究機関で使っている一台3000万円と高額な電子顕微鏡を使わせてもらいます。これは、とても贅沢な経験です」(村中校長)
このような貴重な経験ができるからこそ、同校には医師や薬剤師、歯科医師などをめざす生徒が多いのでしょう。
また、物理部はロボットコンテストに出場する際、理工学部の院生や教授にプログラミングのアドバイスやサポートを受けることも。さらに、ほかの高大連携授業では、「日大を知ってもらう良い機会になるので」(村中先生校長)と、近隣の他校に参加を呼びかけることもあるそうです。
日大への進学は約6割強。残りの4割は国公立大など他大学へ進学しますが、他大学への進学志望者にもしっかりとしたサポート体制をとる同校。日大の付属校というメリットを生かしたプログラムを、6年間を通じで密に体験できるのはもとより、6年間をかけてじっくりと進路を模索し、決めることができるのもまた同校のメリットです。
「どんな大学や仕事を選ぶか」はもちろん、「生き方」を考える機会やきっかけを与える実践的なキャリア教育を展開しつづける「千葉日」に、ご注目ください。