学校特集
桐朋女子中学校・高等学校2018
掲載日:2018年9月20日(木)
前身の山水高等女学校から桐朋女子中学校・高等学校と名称を変更して、今年でちょうど70年。「ことばの力を創造力に」をスローガンに、創造力とエネルギーにあふれる女性を輩出しつづける同校では、人としての素養を高め、そして大学進学のその先にある社会活動の基盤づくりをするために、「ことば」を最重要視した教育を実践しています。同校で展開される伸びやかで、かつ緻密な教育について、校長の千葉裕子先生と、教務主任の今関光枝先生にお話を伺いました。
来年度新設される、「Creative English入試」も
教育思想が反映された同校らしい入試
「多様な生徒が集うなかで、一緒に成長していける仲間を得る環境をつくり、教科教育と教科外教育を通して『知性』と『感性』を共に育てていくのが本校の教育の根幹です」と、自身も同校の卒業生である千葉校長は言います。
さまざまな色をもつ生徒がいて、それぞれの花を芽吹かせている活気にあふれる同校。その背景には、ステレオタイプの理想像を掲げるのではなく、一人ひとりの生徒を見つめ、その良さを認め伸ばそうとする、創立以来変わらぬ同校の教育姿勢があります。
だからこそ、生徒たちは自己肯定感をもち、仲間を思いやる心をもち、そして一緒にさまざまな体験を重ねていくなかで、それぞれが人としての幅を広げていけるのでしょう。
そして、その桐朋女子の教育の中核をなすものが、同校独自の「ことば」の教育です。
2017年度の入学試験に「論理的思考力&発想力入試(適性検査型)」を新設しましたが、2019年度入試では、英語1教科入試を新設します。
入試はその学校のアドミッション・ポリシー(入学者選抜方針)そのもの。その意味でも、同校はまさに「教育は入試から始まる」典型といえるでしょう。
英語入試を実施する学校は近年増えつづけ、英語力育成に関しては世の中の要請が高いことも事実ですが、導入にあたっては、やはり同校ならではの展望がありました。
「いろいろなタイプの生徒がいてほしいということはもちろんですが、小学校で英語が教科化されることも見据えて、『Creative English入試』を始めます。でも、筆記試験ではありません」と、今関先生。
では、どういう形で行われるのかといえば、下の図をご覧ください。英語1教科入試の「Creative English入試」は、2つのパートで構成されます。
同校は、半世紀以上にわたって入試で「口頭試問」(下図の「A入試」に含まれる)を実施していますが、この英語入試も課題に取り組み、その後、対話を通して思考の過程を確認するという形式は同じです。
口頭試問は「聞く力」「理解する力」「考える力」「粘り強く取り組む力」に焦点を当てるもの。準備室でビデオを見たり作業を行ったあと、試問室でその内容について先生と対話していく形です。答えに詰まっても諦めずに考えようとする姿勢があれば、先生からのヒントで前に進めます。
「日本語の口頭試問と英語のインタビューでは思考のレベルが違いますので、単純に比較することは難しいのですが、『課題に粘り強く取り組み、自分の考えを表現する力を問う』という考え方は、口頭試問入試においても英語入試においても変わりません」と、今関先生は言います。
2019年度入試では、以下の4種類が実施されます。この4つは多様性を重んじる同校への扉です。受験生のみなさんは、それぞれの特性に合った扉を開けてみてはいかがでしょうか。
人との関わりや社会活動の土台になる、
「ことば」の力をDLPで育成
人は「ことば」を通して考え、「ことば」で自分の考えを他者に伝えます。つまり、「ことば」はすべての土台になるもの。その土台の上で思考力、発想力、表現力、そして主体性・協働性を養い、豊かな創造力の涵養へとつなげる。これが、同校の教育の根幹です。
その意味でいえば、2020年から導入予定の大学入試で問われる「思考力・判断力・表現力」も、各大学の個別入試で求められる「創造性・独創性」も、同校は70余年前の創立以来、それらの力を育成することを教育の「核」としているわけです。
では、同校で行われる「ことば」の力を育成する教育の柱でもある「DLP(デュアルランゲージプログラム)」についてご紹介しましょう。
DLPとは、グローバルスタンダードな「ロジック」と「発信力」を獲得するためのプログラム。日本語と英語を駆使して世界に通用する理論展開をし、自分の意見を発信して、他者と対話を深めることができるようにするためのものです。
同校では中高の6年間を2学年ずつに分けたブロック制(A~Cブロック)をとっていますが、「ことばの力の育成」「世界を読み解く力の育成」「高度な英語発信の実践」とブロックごとに段階を踏みながら、「ことば」の力をDLPで確かなものにし、社会で活躍するうえで重要となるロジックと発信力を身につけていくのです。
中1・2の国語の授業では『論理エンジン』を教材に用います。
問:以下の文の要点を10字でまとめなさい。
「ふいに壁の鳩時計がかわいらしい音色で鳴り出した。」
よくある答え:「音色がかわいらしい。」
正しい答え;「鳩時計が鳴り出した。」
このように、「主語と述語を抜き出せば文の要点をつかめる」など、基本的なことを学んでいくのです。
Aブロックの基礎の上に立ち、Bブロックで行われるのが「言語技術教育」です。週に1回(45分)、英語の授業で実施する言語技術教育は、同校の卒業生でもある三森ゆかり氏が代表を務める「つくば言語技術教育研究所」と連携して行うもの。はじめは日本語で行いますが、英語でも同じことができるようになることを目指します。
そして、この言語技術は、ことばの力そのものを向上させるだけではなく、情報を整理する力、相手に理解を促すコミュニケーション能力、表現力など、さまざまな力を育むことにつながっていきます。
「本校は、学習だけではなく日常の学校生活でも、ことばの力を意識させる教育を行ってきました」と、千葉校長は言います。「Bブロックの生徒たちが実践している言語技術は、欧米では早くから取り入れられている教育プログラムですが、一方的に教員が教えるのではなく、『あなたはどう考える?』『なぜ、そのように考えるの?』と、つねに生徒に問いかけるスタイルですので、たいへんにぎやかな授業になっています(笑)」
授業の締めくくりには、生徒たちが深めた議論をもとに、200~400字の作文を書きますが、ここで、言語技術の授業の具体例をいくつかご紹介します。
❶「文字を書くとしたら、鉛筆とボールペンのどちらを選ぶか」について議論する。論点を整理し、いずれかの立場で意見文を書く。
❷物語を聞き、その内容が相手に伝わるように原稿用紙に再現する。
❸フランス共和国の国旗を知らない人が、それを頭で描けるように説明する。議論をとおして情報を整理し、説明文を書く。
上の❶を例にとると、「私はこう思います。なぜなら、こういう理由からです」という論法を意識することで、「分析」「理由」「結論」といった論理的な思考回路を体得していきます。また、❸でいえば、国旗の色や形など、どの情報を先に与えるかで、相手への伝わり方が変わってくることを学びます。
このような学びを積み重ねていくと、他教科での学習や日常生活にも効果が表われはじめるといいます。
「他教科の教員からも、生徒の変化を耳にすることはよくあります。レポートを書く時や発表学習の場で、『理由は3つあります。まず一つ目は?』とナンバリングするなど、論理的に説明しようと努力しているという話はよく出ますね」と千葉校長。
また、保護者の方からも、順序だてて理路整然と話すようになった娘の姿に、驚きの声もあがるのだとか。
「筋道を立てて話をすることができるようになった」「作文を書く時に、どのように書けば相手にわかりやすいかということを意識し、事前に文章の構造を考えるようになった」とは、言語技術を学んだ生徒の感想です。
そして、今年度から高2・3で自由選択科目の「DLP特別講座」が開講しました。
これは、Bブロックまでの4年間で培った知識や教養、そして論理的に考え、組み立て、伝える力を駆使して、世界のさまざまな事象を分析し、分析した内容を日本語と英語で効果的に発信する力を養うことを目的としたプログラムです。
「英語での指導も取り入れていますので、実践的な英語力も養えますし、生徒たちは非常に熱心に取り組んでいますね」と、千葉校長は言います。
ここで扱うテーマは、人文科学系、社会科学系、自然科学・医療系など、現代社会で起きている事柄を網羅していますが、例としては「若年層の非正規雇用」「クールジャパン戦略は成功するか」などがあります。授業は資料分析やディスカッション、ディベートなど、主体的・協働的に取り組む形式で行われ、これらは、教育改革が進む大学入試や大学入学後の学び、そして社会に出たあとにも大きく活きる力になっていきます。
通知表はなく、
成績は「面談」で対話しながら伝える
数式や化学式も「ことば」ととらえている同校では、全教科で「ことば」を重視した指導が行われていますが、それは教科学習に限ったことではありません。その典型例が、「面談による成績伝達」です。同校にはいわゆる「通知表」というものがありません。
「これも本校の特色ですが、プロセスを重視することが本意だからです」と、千葉校長は言います。「たとえば数学でも、途中までの考え方が合っていれば加点していますが、成績を伝達する面談でも同じです。『なぜ、この評価なのか』『足りないところはどこか』と、評価を見せながらその理由を伝えるのです。そのようにていねいに『対話』をしていくことで、生徒も自分の状況や掲げるべき目標が見えてきて納得し、次のステップに自主的に進んでいくようになります」
そしてもう一つ、同校の「自立」と「多様性」を象徴する例をご紹介しましょう。
Cブロックの高2・3では、生徒は自分で時間割を作ります。つまり、自分の目指す進路に合わせて授業を選択することができるのです。これについても、千葉校長はこう語ります。
「Cブロックでは、必修・自由選択など、さまざまなカリキュラムが組まれていますので、たとえば美術系に進みたい生徒はデザイン、絵画、立体造形など専門的な時間割を集中的に組むことができます。生徒たちはカリキュラム説明会を経て、自分に合った時間割を試行錯誤しながら組んでいくのです。時間割作りは前年度の10月から始まりますが、教員も一人ひとりの個性や指向を念頭におきながら相談にのります。この時間割作成も、通知表がないことも、自立して歩む女性に成長するための大事なステップであり、本校の多様性の源であると考えています」
「ことば」の力は、
自立し、協働する姿勢を育む
そして部活動はもちろん、行事などの教科外活動でも、生徒たちは主体的・協働的にお互いの関係を紡いでいきます。
同校の行事で最も盛り上がるものの一つが、5月に行われる体育祭。同校では入学時に学年カラーが決められ、それが6年間持ち上がるため、卒業後も愛情を込めて「○年卒・緑」「○代目・白」という呼び方をし、学年ごとの団結力が高いといいます。
体育祭のハイライトは全員が参加する「応援交歓」(タイトル部の写真)。各学年で5分間ずつパフォーマンスを披露するのですが、企画の緻密さや衣装作り、垂れ幕作りへの熱意にも目を見張るものがあります。とくに最高学年の高3にとっては、自分たちにとっての総決算になるため、そこにかける思いもひとしおです。
そんな時、みんなが力を合わせて一つのことをやり遂げるためには、当然ぶつかり合うこともあります。逆にいえば、集団活動には必ずコミュニケーションが必要になります。そうして、生徒たちは「自分個人」と「集団の中の自分」を意識し、葛藤しながらも融和点を見つけていくのです。
ここでも、「ことば」の教育で培われた力が利いてくることは言うまでもありません。
日々、自分と、そして仲間と真摯に向き合う生徒たちですが、生徒たちの成長ぶりについて、今関先生はこう語ります。
「生徒たちは自分に合った教員を探し出して、教員のもっているものを上手に引き出してくれているように感じます。進路についても教員が主導するのではなく、生徒が自分で道を見つけて、その進路に合った教員をうまく活用すると言いますか。たとえば、進学したい大学を決めたら、『また来た!』と思うくらいに毎日英文を添削してくれと持ってきたり。本校の生徒は粘り強いですから(笑)」
一方、「高校生は、ここまでやってくれるかというくらい教員を超えていきますが、中学生のうちはたくさん失敗もします。挑戦して、失敗できる場がたくさんあるのです」と今関先生が言うように、中学生のうちは急かすことなく、「まずは何にでも挑戦し、失敗できる居心地の良いクラスをつくり、他人の良いところを見ましょう」と、協働性を養う生活指導に力が注がれています。そのようななかでも、たとえば部活動や委員会活動で接する先輩の後ろ姿を見ながら、一つひとつ具体的に、学習への取り組み方や人との関わり方、将来の見つめ方を学んでいくのだとか。
卒業生が語る
「桐朋女子」で教わったこと
このように、一人ひとりに目を注ぐ同校の指導のもと、生徒たちは伸びやかに、前向きに6年間を過ごしていきますが、最後に、卒業生たちのことばをご紹介しましょう。以下はほんの一例ですが、どれもが桐朋女子の教育を端的に表した、実感のこもったことばです。
「『ことばにする』とは『人に伝える』ことが目的であるという根本的な原則を教わりました。また、場に相応しいことばの作法も身につけることができたと思います」
「先生方の、個々の個性を伸ばしていく姿勢が徹底していました」
「高2から時間割を作ることは、それまでの4年間で培った土台の上に立って、『自分の意志で進んでいきなさい』というメッセージだったと思います」
「社会には、個性を生かすさまざまな選択肢があることを教えてもらいました」
生徒たちは同校の学びのなかで、「ことば」は人と人をつなぐ道具であることを知り、職人が道具をていねいに磨くように、ことばを磨くことでそこに心が宿ることを知るのでしょう。そして、ことばはその人の人格をそのまま映し出す鏡となる、という怖さも知っていくのでしょう。
同校の「ことば」を主軸とした教育は、思考力や発想力、表現力、また主体性・協働性や創造力などを育むとともに、人格そのものを磨く教育ともいえます。
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