学校特集
十文字中学・高等学校2018
掲載日:2018年9月8日(土)
創立は1922(大正11)年、まもなく創立100周年を迎える女子伝統校の十文字中学・高等学校。建学の精神「身をきたへ/心きたへて/世の中に/たちてかひある/人と生きなむ」は校歌にも歌われ、創立当初から「社会で活躍し、社会に貢献する女性を育てること」を目標としてきました。その同校は2年前の2016年、めまぐるしいスピードでグローバル化が進む社会と2020年の大学入試改革を見据えて、「Move onプロジェクト」と銘打った学校改革をスタートさせました。伝統を守りつつも時代に即した教育を行う同校の改革3年目の成果について、中学・高校の両教頭、入試募集対策室長の各先生方にお話を伺いました。
多彩なキャリアプログラムで、
主体的に学ぶ生徒が増加
●この春は国立大の医学部合格者も
2016年にスタートした「Move onプロジェクト」も今年で3年目に突入しました。
「成果の一例としては、とくに、中学からの入学生に、『社会の中で役に立ちたい』という意識が高く、医療系に進みたいという生徒が増えたことですね」と、高校教頭の横尾康治先生。現に、理数教育の充実で理系学部への進学率は21.9%(2017度)と「理系女子(リケジョ)」率も高く、国公立大学への進学者も増えています。
「今春には高知大学の医学部へ現役合格を果たした生徒もいました。彼女が『医師になり、社会のために役に立ちたい』と、医学部進学への決意を固めたのは高3の夏休みだったのですが、高3の秋からの伸びがすごかったね。もちろん、それまでの基礎固めができていたからの結果ですが、建学の精神にもあるように、自分はどう役に立つのかという意識が心の中に浸透していったのだと思います」と、横尾先生。「本校の場合、高校からの入学生のほうが偏差値が高いと言われていますが、実際には中入生の伸びは著しく、高1では高入生と同じぐらいの偏差値、もしくはそれ以上になるのです。医学部に現役合格した生徒も、中入生でした」
●中学生が、全国規模のキャリアプログラムでグランプリを獲得
同校ではキャリアプログラムの一環として、中学生を対象に学内外問わずさまざまなプログラムを紹介し、アウトプットする場を設けています。
「『Move onプロジェクト』も3年目を迎えた今、生徒たちは明らかに積極的になりましたね。生徒たちの意識が、『自分たちからどんどん外へ出ていこう、学びにいこう』と変わってきています。中1の時からいろいろなプログラムを提示してきた結果、自ら積極的にどんどん応募し、参加しようとする姿勢を見せるようになりました。自分から動くことへの抵抗感がなくなり、主体的に行動するようになってきたのです。これは、キャリアプログラムの成果の一つだと思います」(横尾先生)
中学では、昨年と今年、障害者競技で活躍するパラリンピック選手の方の講演を聴き、その後、実際に中3の生徒が競技を体験するという催しを実施。中学教頭の浅見武先生が、その時の様子を話してくれました。
「実際に競技を体験したのは中3ですが、昨年はゴールボール、今年は車椅子バスケに挑戦し、体験する中3も観覧する中1・2もたいへん盛り上がっていました。生徒たちは、体験することにより当事者意識がもてたのでしょう。そして、関わることの大切さやその意義について学んだのだと思います」
また、中1は道徳教育の一環として「自分史」作りにも取り組みます。
過去の自分と向き合い、内省し、将来への思いを写真付きの作文にして発表。その中からクラス代表を選び、クラス代表は全国的規模で開催される「トゥワイス・アウォード 自分史?過去編」に応募するのですが、昨年度は応募者総数804名の中から、同校の生徒3名が全国大会に出場することができました。そして、1名が見事グランプリを受賞。スペインにサッカー留学した経験と今後の夢を熱くプレゼンしたその生徒は、俳優兼演出家の審査員から「あなたの気持ちが心にずんずん響いてきました」とコメントされたそうです。
●大学や企業と連携した高校のキャリアプログラムも充実
高校では、大学や企業と連携したキャリアプログラムがあります。
「東北大学主催の『科学者の卵 養成講座』という講座があります。これは、自然科学に興味のある高1と高2を対象にした講座で、東北大学の講義に参加し、自ら設定した課題を解決することで、理数系の力を伸ばそうというプログラムです。
高3のある生徒は、高1・高2と2年間東北大学に通って、このプログラムに参加。宮城第一高等学校の生徒との共同で『毒? 栄養? 植物と重金属の関係性をあばけ!!』と題した研究をし、最優秀賞を受賞しました」(横尾先生)
また、高1の総合的学習では、テレビ局の仕事について話を聴く機会があります。
そして、報道に興味をもった生徒たちが、フジテレビの協力のもと、実際に報道番組作りにチャレンジするという取り組みにつながっていくのですが、これは同校の名物プログラムになりつつあります。
さらに、十文字学園女子大学の付属校ということも同校の強みです。
「高1の総合的学習の授業で、この秋、十文字学園女子大学の先生の講座を10講座ほど開講する予定です。先生方には、幼児教育や食物栄養といったご自分の専門分野や趣味など、ご自身がやりたいこと、興味をもっていることをテーマに話をしてほしい、そして、生徒たちが主体的に学べるようにとお願いしています。今後、この講座を高大連携としてうまくつないでいきたいと考えています」(横尾先生)
2020年大学入試改革の
準備も着々と整う
●来年から高1には一人1台ずつパソコンを
一昨年には各教室に電子黒板を導入しました。「来年度から高1は全員、一人1台パソコンを持つ予定です」と浅見先生が言うように、 ICT化にも積極的な同校。パソコン一人1台の導入の前段階として、現在の中3からクラウドサービスを利用した『Classi(クラッシー)』というシステムを利用しています。
「『Classi』は、行事や学習の振り返りなどに使っています。これらの記録は蓄積され、それが、2020年の大学入試で採り入れられる「eポートフォリオ」としても活用できます」(浅見先生)
●発想がおもしろい! 数学の授業
ICTを使ったデータの活用といえば、中3の数学の授業でおもしろい取り組みを行っています。
「『データの蓄積』という分野があり、ここでは『相関係数』を学びます。相関係数について基礎的なことを学んだあとに生徒自らがテーマを決め、テーマに沿ったデータを取り、互いに相関関係にあるのかどうかを調べるのですが、これがとてもユニークなのです」と、浅見先生。
たとえば、「『寝る子は育つ』は本当か?」を調べたグループがありました。そのグループは中3の生徒全員に身長と睡眠時間のアンケートをとり、睡眠時間と身長、それぞれの人数を箱ひげ図にし、睡眠時間と身長の相関関係を散布図にして、仮説「寝る子は育つ」を検証したのです。相関係数を導き出すのはもちろんですが、仮説を立てるに至った経緯、分析、結果までをパワーポイントで作成。最後にポスターセッションで発表しました。
テーマ設定のきっかけは、友達同士の会話で「寝る子は育つ」という諺が出てきたことでした。でも、睡眠時間が短いのに身長が高い人はいる、では「寝る子は育つ」という諺は本当なのだろうかと疑問をもったのだとか。
そして、気になる結果ですが、「相関関係はないが、健康のためにも早く寝たほうがよい」という結論に達したそうです。
そのほかにも「持久走のタイムが速いと50メートル走が速いのか?」というものや「コンビニのおにぎりのカロリーと値段に相関関係はあるか」など、ユニークな調査が行われました。
「正直なところ、統計の資料は数字だけを見てもつまらないですよね。そこで、このように教員たちも試行錯誤しながら工夫しているのです。基礎をしっかり学び、そのうえで生徒自身の発想力をフルに生かして調べるというこの数学の授業は、知識の習得だけでなく、思考力・判断力・表現力を身につけ、多様な人と協力して学ぼうという点でもおもしろいのです。今後、このような授業をもっと増やしていきたいですね」(浅見先生)
●英語でもICTを活用。希望制の海外研修にも多数が参加
同校は英語でもICTを活用し、知識・技能の定着を図っています。
「たとえば、2016年に導入したオンライン英会話では、外国の語学学校の英会話講師と1対1で話すことができます。また同年、音読学習支援システム『Repeatalk(リーピートーク)』も導入しました。生徒の音読がパソコン上に録音されることにより、正しく読めているかどうかも評価してくれるので、音読学習が定着します」(浅見先生)
(中3~高2)
また、実践的な英語学習の場として海外研修があります。
「まず中3の春休みに、希望者のみですが、オーストラリアのブリスベンに行く10日間の研修旅行があります。この研修旅行は、中学3年間で学んだことを生かし、チャレンジの場にするという意味があり、全泊ホームステイで行われます。この研修旅行を始めた当初、希望者は28名しかいなかったのですが、今年は9割以上の120名が参加。『希望制』とは言えないほどに定着してきました」(浅見先生)
高2では、7月から9月の3カ月間のターム留学がありますが、この留学の目標は「留学後、英検の級を1ランクアップさせること」です。2017年にターム留学をした生徒は6名でしたが、帰国後の英検で、準2級の生徒が2級に、2級の生徒が準1級にランクアップ。確実に力をつけています。
●「批判的思考力」を身につけ、鍛える
同校では、「ディスカッション」「ディベート」「プレゼンテーション」などのアクティブラーニングをとおして、他者との違いや共通点を認識し、他者と協働する精神を育み、発信力を身につけることも大切にしています。このアクティブラーニングで必要になるのが「論理的思考力」「批判的思考力」「創造的思考力」の3つの力です。
「『批判的思考力』は、十文字学園女子大学の人間生活学部の池田まさみ教授の指導のもと、今年から始まったばかりの授業です。たとえば新聞記事を読んで、『この出来事に対してこの意見やコメントは合っているのか』を考えます。新聞に書かれてあることがすべて真実とは限らないですし、事実と記者の観点が違う場合もあることを学んでいくのです。『批判的思考力』は、たとえば『友達のメールを鵜呑みにしてもいいのか』など、生徒たちの身近な問題にも通じるものです。この授業は道徳や学活の時間に行っていますが、来年度からは必修となる道徳の授業で行う予定です」(浅見先生)
多元型入試と特待入試で
多彩な生徒が入学!
●帰国生には取り出し授業を実施。
一般入試で入学した生徒との相乗効果も
「3年前から行っている『多元型入試』ですが、この春の入試で定着してきた印象がありますね」と言うのは、入試募集対策室長の和田吉弘先生です。
「多元型入試」とは、「思考型」「チャレンジ型」「得意型」「スーパー型」「帰国生」と、受験生がそれぞれの特性を生かせる入試のことです。たとえば、「思考型」であれば試験内容は記述式の総合問題で、「得意型」であれば英語か算数のどちらかの教科を選んで受験できます。
「『思考型』の入学者は3年前の初年度は3名でしたが、この春は11名に増えました。『得意型』はまだ2年しか実施していませんが、今年は9名が入学しました。また『帰国生入試』ですが、この春、5名が入学しました。『得意型』の英語で入学してきた生徒と合わせれば、すでに英検2級を持っている生徒が2名も入学したため、一般の生徒にも良い刺激を与えています」と、和田先生。
入学後、帰国生や英検3級から2級レベルの生徒には、Advanced Placement English Class(アドバンスド・プレースメント・イングリッシュ・クラス)として、ネイティブの専任の先生による英語の取り出し授業が行われます。
「このクラスは昨年は4名でしたが、今年は7名に増えました。また、英語が得意な生徒が増えることで、他の生徒たちにも良い影響を与えています。一般受験で入学した生徒は英語の得意な生徒に英語を教えてもらい、国語など帰国生が苦手な教科を教えるなど、相乗効果としてうまくいっているようです」(和田先生)
●最大3年間、授業料などが全額免除となる「特待生制度」にも注目!
改革をスタートして以降、ますます多様な個性や能力をもった生徒が入学するようになった同校。同時に、十文字を第1志望にする受験生が増え、今年の入学者では半数以上が第1志望として同校を選びました。
そんな人気の一因として、「特待入試」もあります。同校の「特待生制度」には3種類あり、なかでも今年度から導入された「特待S3」は、9割以上の得点で入学金および入学時施設費と授業料が3年分免除になるという注目の制度です。
●3種類の特待生制度
免除内容 | |
---|---|
特待S3 | 入学金および入学時施設費と授業料3年間免除 |
特待S1 | 入学金および入学時施設費と授業料1年間免除 ※2年目以降は成績をもとに要審査 |
特待Sn | 入学金を免除 |
「特待で入学した生徒も昨年は15名、今年は24名と、年々増えています。そんな特待生の5年後、6年後が楽しみですね」と和田先生。
いろいろな個性や能力をもった一人ひとりの生徒を、温かく、ていねいに伸ばしていく同校。特待生になるには入試で8割から9割の得点が必要になりますが、「どんどんチャレンジしてほしい」と和田先生は言います。
「伝統」と「革新」でつねに進化している十文字に、ますます注目です。
学校説明会・公開行事はこちらからご確認ください。