学校特集
女子聖学院中学校・高等学校2018
掲載日:2018年11月1日(木)
JR「駒込駅」から徒歩7分。静かな住宅街の緩やかな坂道を登った先に女子聖学院の校舎があります。創立は1905(明治38)年。それ以来、110年以上にわたり同校で大切にされてきた精神が、「一人ひとりが神からかけがえのない賜物を与えられている」というもの。その精神のもと、自分自身はもちろん、他者とともに歩むことができる生徒を育てる教育を行っています。さらに、近年では「Be a Messenger」(語ることばをもつ人を育てます)を合言葉に、自らのことばで発信できる生徒を育成しています。
そして、2016年入試からは「ことば」を大切にした「日本語表現力入試」「英語表現力入試」という新しいタイプの入試を実施。また、来年の入試から新しい入試「アサーティブ入試」も導入されます。同校のひときわ「ことば」を大切にした教育と、その先にある「発信力」、そして2019年に実施される新しい入試について、3人の先生方にお話を伺いました。
新聞を作り、演劇を創作し、
教科書を使わない授業でことばの力を育む「国語」
●コミュニケーションや、考えのもととなるのは「母語」
もともと外国人宣教師がつくった学校ということもあり、英語教育や国際理解教育には定評があった同校。しかし、「英語表現力入試」同様に「日本語表現力入試」を実施するなど、英語だけでなく国語(日本語)にも力を入れています。なぜでしょうか。
「本校にはどちらかの親御さんが外国人である、いわゆる『ダブル』の生徒も通っていますが、英語教師だった前校長が、その生徒たちに接するなかで、母語である日本語が大切だと実感したのです」と、広報室長の佐々木恵先生。たとえば、お父さんが日本人でお母さんが外国人の場合、こんなことがあったそうです。
「娘さんとお母さんの会話はお母さんの国の言葉でした。しかし、日本で生活をしている彼女の母語は日本語。思春期、お母さんとの意思疎通がうまくいかなくて悩んでいる生徒を見て、前校長は『大切なのは母語』だと改めて気づいたと言います」(佐々木先生)。思考力は母語で養われます。思春期の微妙な心の揺れや考えは、外国語であるお母さんの母国語では伝えづらかったのかもしれません。「本校は英語に強い印象がありますが、こうしたことから日本語の教育をさらに充実させなくてはと考えたのです。また、将来社会に出た時、家庭や子どもをもった時と、ことばの豊かさは生徒たちの人生に活きてきますし、一生大切にしてほしいものです」(佐々木先生)
このように、「ことば」を人間形成、学力形成の大きな柱に据える同校。では、実際に、国語ではどんな授業が行われているのでしょうか。
●演劇ワークショップなどでコミュニケーションを学ぶ
「ある時、転職の指導をする方とお話する機会がありました。その方が『40代での再就職で必要なのは、論理的思考力と相手を納得させるだけのプレゼンテーション能力』とおっしゃっていたのが印象深かったですね。論理的思考力は大人になってからも必要な力です。そのもととなる日本語の重要性を強く感じました」と話すのは、国語科の筑田周一先生です。
国語では、教科書を使った学習のほかに、オリジナルカリキュラムでも表現力を高めています。
たとえば、中1では相手に伝えることに重きをおいた「自己紹介」や、調べたものを発表する「似て非なるもの」という課題に取り組み、「聞く」「話す」ことを学びます。
の取り方を学ぶ「演劇ワークショップ」
中2になると、先生にインタビューをし、それを新聞記事にするといった授業もあります。
また、これと並行して、外部から演劇関係者を招き、演劇ワークショップを開催します。そのねらいは、異なる価値観をもった人とのコミュニケーションを体験することです。
「学校の中だけですと、コミュニケーションも同年代・同質の仲間同士になってしまいます。そこで、演劇の手法を使い、生徒たちとはまったく異なる価値観をもった大人の方とのコミュニケーションを体験してもらうことにしました。演劇という架空の設定の中でコミュニケートする。たとえば、『北風と太陽』の『北風』のように、最初は相手に無理やり自分の意見に従わせることをやってもらう。しかし、次は『太陽』のように温かい気持ちで相手の立場になって考え、接する。どちらが他人の心を動かすことができるのか、試してみるのです。また、このワークショップのメリットは失敗しても傷つかないこと。つまり安心して傷つき、コミュニケーションを学ぶことができるのです」(筑田先生)
●中3で行う「ディベート」は25年間続く伝統の授業
中1と中2の学習の集大成となるのが、中3の後期に行う「ディベート」です。同校のディベートには25年間の歴史があります。導入当時より指導を行う、ディベート部の顧問でもある筑田先生は、学校教育におけるディベートの第一人者として知られています。
「ディベートとは、あるテーマに対して賛成と反対の立場に分かれて、審判などの第三者を説得させる議論を行うことです。生徒は賛成と反対のどちら側に立っても対応できるように準備を進めるのですが、賛成と反対、それぞれの立場からメリットやデメリットを調べ、書き出し、議論を重ねていき、物事を構造的にとらえていく力を磨いていきます」(筑田先生)
審判を行うのも生徒ですが、審判だからといって脇役ではありません。最終的に、「なるほど」と、両派を納得させるだけの論理的思考力、表現力が必要になります。
このように、ディベートでは論理的思考力を深め、表現力や発信力も高めていきます。ちなみに、高3になると年間約20本もの小論文を書きますが、ディベートで培われた力はそこでも活きてきます。
自分の意見をもちながらも、他者の意見にも耳を傾ける。ディベートは、「自分のことばで発信する教育」「共に生きる教育」を教育の柱として掲げる、同校らしい授業です。
●読書の「芋づるマップづくり」は始まったばかりの新しい試み
中3では今年から「リーディング・ワークショップ」という新しい授業が始まりました。これは1冊の興味を惹かれた本から始まり、そこから関連書籍などを読んでいくという取り組みで、最終的には読んだ本をもとに「芋づるマップ」を作ります。
「まず生徒たちには、『岩波ジュニア文庫』の中から読みたい本を選んでもらいます。最初の1冊が読めたら、生徒たちは興味関心のおもむくままにどんどん新しい本を読んでいきます。後期の国語の授業はすべてこの『リーディング・ワークショップ』になりますが、この授業のねらいは本を読むことで語彙を増やすこと。これは大学受験を意識したもので、論説文を読むにはどうしても語彙力が必要となるのです」(筑田先生)
先述の生徒一人ひとりが作るという「芋づるマップ」ですが、これは芋の絵を描き、その中に書名を、そして葉っぱにその本の感想などを書き込むもの。まさに、芋づる式に生徒の読書世界が広がっていく様がわかり、他の人が見ても興味深いものになっています。
昔に比べて読書量が減っているといわれる昨今、時には、「途中でやめて、別の本に移ってもいいんだよ」と、個々の生徒の様子を見ながらていねいに読書指導を行う同校。この読書体験は語彙力をアップさせるだけでなく、生徒の人生をより豊かなものにするはずです。一冊の本がどのような広がりを見せてくれるのか、今後も楽しみです。
生徒が発案した「進路×同窓会」プロジェクトが
今秋、初めて開催
●「おもしろそうだな」が、1年間にわたるプロジェクトのきっかけに
今年の10月13日(土)に、同校初の試みである「進路×同窓会」が開催されました。これは、生徒が発案した「進路プロジェクト」。大学生から社会人まで24名の卒業生を招き、中3から高2の生徒が卒業生を囲んで進路について話を聞くというイベントですが、同時に、卒業生には同窓会としても楽しんでもらおうという企画です。
このイベントを発案したのは高2の生徒2名。高1だった昨年の6月、先生から「マイプロジェクト」というNPO法人主催のミーティングがあることを知らされ、「おもしろそうだな」と思い、参加することに。この参加をきっかけに、「進路」と「同窓会」を組み合わせたプロジェクトを企画したのだそうです。
ちなみに、「マイプロジェクト」とは、「身の回りの課題に対して自ら考え、行動し、プロジェクトを企画し、発表する」というもので、認定特定NPO法人カタリバが運営を行っています。「マイプロジェクト」での生徒たちの企画に対して、企業や大学の先生などの大人の方々がアドバイス。高校生たちの「生きる力」の育成や「社会参加」をサポートしています。
●ごく普通の女子高生たちが起こした奇跡
「マイプロジェクト」のミーティングで高評価を得た発案者の生徒たちは、昨年の7月、教頭で進路指導部長の塚原隆行先生に、「進路×同窓会」プロジェクトを実現したいと相談に行きました。
「彼女たちは、とくに生徒会活動などをしていたわけでもなく、ごくごく普通の高校生です。そんな彼女たちが、自発的に動き、外部のミーティングに行き、しかも、そのプロジェクトを実現したいと言う。まず、彼女たちの真剣さを感じたので、学校としてサポートできるところはサポートしようと思いました」(塚原先生)
塚原先生が彼女たちの真剣さを感じたのは、14ページにも及ぶ企画書を書いてきた時でした。最初、彼女たちが作った素案はB5の紙1枚だったそうですが、2回目には14ページにも及ぶ冊子になっていました。そこには、スケジュール案や会場図まで書き込まれていたそうです。
塚原先生はその熱意に打たれ、「準備期間も含めると1年間という長い時間になるけれど、絶対に良い経験になるから必ずやり遂げてほしい」と後押ししたそうです。
彼女たちは、まず在校生にプロジェクトを告知しました。すると、同級生17名が協力を申し出てくれたそうです。
「発案者も協力を申し出た生徒たちも、部活動をしていて忙しいはずです。とくに高1・高2ともなれば、中心となって活躍する学年ですから。しかし、賛同者が集まったからこそ、発案した生徒たちも安心感をもち、さらに一歩を踏み出せたのではないでしょうか。同級生同士の強いつながりを感じましたね。また、立場が人をつくったとでもいうのでしょうか。発案者の2人は、リーダーとして忙しく活躍しています」(塚原先生)
●「進路×同窓会」は、懇親会形式の進路イベント
プロジェクトチームは、まず「進路×同窓会」プロジェクトの開催日を2018年10月13日と決めました。そして、在校生にアンケートを取り、イベントでの希望などニーズを調べました。そして次に、招待する卒業生を決定。卒業生は全員で24名、その内訳は学生が19名で社会人が5名です。社会人は保険会社や航空会社勤務のほか、看護師やエンジニア、起業家といった方々です。
また、イベントに参加する生徒は中3から高2まで約50名。卒業生は5つのグループに分かれて、それぞれの教室で待機します。在校生にはあらかじめ話を聴きたい職種を第3希望まで出してもらい、希望に合わせて3つの教室を移動。そこで、卒業生に進路について直接話を聞くのです。
「卒業生が招待される進路プログラムというと、講演会形式が多いですよね。しかし、今回、生徒が考えた懇談会形式だと卒業生との距離も近く、個別に気軽に質問もできる。斬新だと思います」(塚原先生)
懇談会終了後は「お茶の時間」も用意。「お茶の時間では、卒業生同士にも楽しんでもらいたい」という生徒たちの思いがあるようです。
「ふだん本校ではスマホは禁止しているのですが、このイベントに限りスマホを解禁する予定です。生徒たちが卒業生と直に連絡先やSNSを教えあったりして、女子聖の輪が広がればいいと思います」(塚原先生)
また、このプロジェクト、発案者である生徒たちも「これからも続く女子聖のイベントになればうれしい」と、後輩たちに引き継がれていくことを期待しているそうです。
「本校はどんな生徒でも、スイッチが入った時に次に進める、道が開ける学校です」と塚原先生は言いますが、同校のスローガン「Be a Messenger」どおり、語ることばをもった生徒が培った発信力を生かして、次々と新しいことにチャレンジしています。
2019年に初めて導入される「アサーティブ入試」は、
同校の教育の集大成ともいえる入試
●「考える」「記述する」「話し合う」。これまでにない新しいタイプの入試
2016年度入試から「日本語表現力入試」「英語表現力入試」を行ってきた同校ですが、2019年度入試では「アサーティブ(Assertive)入試」を新設します。
「アサーティブ」とは、「他者の意見を受け止めるとともに、自分の主張をしっかりもち、説得的に発信する」という意味。まさに、同校が実践する教育と一致しているといってもよいでしょう。入試広報室長の佐々木恵先生に、試験内容について伺いました。
「試験内容は3つになります。まず[a]は算数の文章題で、ヒントを読み解き、考えながら、考え方を記述するというものになります。小学校で学ぶ基本的な知識があれば難しいものではありません。次の[b]は小学校で学んだ社会的な事例、たとえば、小学生新聞に書いてあるようなテーマに沿った文章を読み解き、自分の考えを作文にするという内容です。最後の[c]ですが、こちらは[b]で書いた文章をもとに自分の考えを発表してもらい、グループディスカッションをします。相手の言葉にも耳を傾け、自分の意見を伝えることができるかどうかを見させていただく内容です」(佐々木先生)
日 時 | 2019年2月2日(土)午前 |
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試験内容 | [a]算数(50分・40点) 小学校で学ぶ基本的な知識を活かし、かつ一歩一歩確かめるように考えを 進めていけば解けるような問題で、考え方を書き記す問題とする。 [b]文章問題(50分・40点) 小学校で学ぶ知識と、そこで養ってきた関心や経験を活かして読み 解け る文章問題。『小学生新聞』で見かけるようなテーマに関する問題で、 「自分の考えをまとめ、作文する」課題を含む。 [c]グループ面接(15分・20点) これまでに培ってきた人間力を活かし、与えられたテーマに沿って自分の 意見を伝え、相手の言葉にも耳を傾け、建設的に会話を交わすことがで きるかどうかを見る。 |
すべてに共通するのは、「小学校までに学んだ知識や人間力がベースになる」ことだそうです。適性検査の学習をしてきた小学生はもちろんのこと、毎日の学習や生活にきちんと向き合っている小学生なら、誰でも挑戦できる入試です。
「思考力をもったお子さん、また思考力を発揮したいお子さんにぜひチャレンジしてほしいですね。そして、入学後は女子聖文化を担い、さらには、新しい女子聖文化を仲間と共に創っていってほしいと願っています」(佐々木先生)
英語力育成に力を入れれば入れるほど日本語が重要になるとの考えのもと、「日本語表現力入試」では表現力や傾聴力を、また、「英語表現力入試」では英文を暗誦してもらうことで受験生の表現力を見てきた同校。
「アサーティブ入試」では、また新たな角度から受験生の潜在能力を発掘しようとしています。そして、いろいろなタイプの、いろいろな可能性をもった生徒たちの入学を待っています。