学校特集
富士見中学高等学校2018
掲載日:2018年9月1日(土)
2020年の創立80周年が近づき、その記念事業の一環として進めてきた新校舎の建設も、残る図書館棟がいよいよ今夏に完成する富士見中学校・高等学校。学びの中核として、さらに教科をつなぐ中継点として、探究の学びに対するハード面の強化が一層期待されます。
また多文化交流の充実度にも目を見張るものがある同校では、生徒たちが「海外へ」行くだけでなく「学内で」留学生と交流し、校内模擬国連「富士見会議」や「世界一大きな授業」など、世界の課題を考える機会も年々増加。多様なプログラムが生徒の潜在能力を引き出し、学外の活動にチャレンジしたり、海外へ目を向けたりする生徒も急増しています。
自分に、他者に、課題に向き合う力を鍛えて、「社会に貢献できる自立した女性」を育てる富士見中学校・高等学校。今回の取材では、同校が特に注力している「多文化交流」と「探究」について、国際交流部主任の大関朝美先生と司書教諭の宗 愛子先生に伺いました。
多文化交流は共同作業で心の距離がぐっと近づく
ここ数年、富士見が一段と力を入れているのが学内外の多文化交流です。そのねらいを、国際交流部主任の大関朝美先生は、「自分の文化を発信するとともに、文化背景の異なる他者を受け入れ、協働する姿勢を養いたい」と語ります。
アメリカまたはオーストラリアへの海外研修、ニュージーランド学期留学・1年留学は高1の希望者が対象ですが、富士見の多文化交流の特色は、海外へ行かなくても学内で体験できることです。交流イベントは毎月発行する「多文化交流通信」で紹介し、生徒の参加を呼びかけています。
今年4月、ニュージーランドの高校生47名が富士見生宅にホームステイし、学校では中3~高2の生徒たちと交流しました。訪問した生徒たちがブラスバンドや合唱団の所属と聞くと、放課後に生徒主導で合同ミニコンサートを開いて親睦を深めました。
「協働する力は、教員が教えて身につくものではありません。さまざまな文化背景の他者と接する中で、生徒自身が感じ取るものだと思います。そのきっかけは生徒一人ひとり違いますから、学校はできるだけ多くの"シカケ"を用意するようにしています」(大関先生)。中国の留学生とショートムービーを制作したときは、共同作業によって心の距離がぐっと近づきました。
留学生とのディスカッションは発見と刺激の連続
昨年度から、ニュージーランドと台湾の高校生が4週間、富士見で学ぶ留学制度が始まりました。留学生は高1か高2のクラスに入り、興味のある教科を学年に関係なく選び、生徒たちと一緒に学びます。つまり生徒たちは日常の学校生活の中で文化の違いを感じることができるのです。
留学生とのディスカッションはこちらが思いもしなかった意見が返ってくるので、生徒たちは興味津々!留学生は自国のことをよく勉強しているので、その姿を見た富士見生は「日本のことをもっと説明できるようにならなければ!」と、大いに刺激を受けました。一方の留学生も「富士見生はしっかり勉強している!」と感心。仲良くなるだけでなく、お互いに認め合い、刺激し合う関係性が構築されています。
正解のない課題と向き合う校内模擬国連「富士見会議」
ビジネスやアカデミックな視点で世界の課題に目を向け、世界の仕組みを理解しようと、今年2月に開催された校内模擬国連「富士見会議」。
外部の模擬国連大会に出場経験のある高2がフロント(議長・副議長・秘書官2名)を務め、23名の中高生が各国大使として「国連本部のカフェメニューを決める」という議題を話し合いました。自国の国益と参加国全体の国際益のバランスをどう取るか、正解のない課題の「最適解」を協働して導き出す力、すなわち富士見が育む「課題と向き合う力」が試される絶好の場です。
「時間内に決議案を採択できたときの達成感、安堵感、一体感を参加者みんなで共有できたことが何よりの喜びでした」と会議の熱気を話す大関先生。今回は決議案採択に貢献した中3の生徒に最優秀大使賞が贈られました。学年に関係なく「いいものはいい」と認め合えるのは、学内という安心感、信頼感があるからでしょう。第2回は「シリア情勢」という骨太なテーマに挑戦します。
自分の殻を破り「外」に目を向ける生徒が増えてきた
今年度から始められた「世界一大きな授業」への参加も世界の課題を考える良い機会になっています。これは持続可能な開発目標(SDGs)の目標4「質の高い教育をみんなに」を実現しようと、世界の現状に目を向け、教育の大切さを考える地球規模のイベントです。参加を呼びかけたところ、高2の生徒がファシリテーター(先生役)を買って出ました。中高生が参加し、各自が「自分にできることは何か」を考えました。
(写真は「世界一大きな授業」)
このように学年を超えた話し合いの場は、授業とは違った「思考」の場になります。下級生は先輩を見て少し背伸びをしてみる、上級生は後輩の手本になろうとますます張り切る。大関先生が好感触を得ているのは、生徒主体のイベントであることも大きいようです。
「新たな多文化交流の都度、生徒たちはこれもできる、あれもできるという発見が多く、こちらの期待を上回る成果を出してくれています。新しいことにもチャレンジするようになり、以前に比べて「外」に目を向ける生徒が増えています。学外のイベントに参加しよう、留学プログラムを利用しよう、海外で働いてみたいと、近年は生徒の視野が一段と広がっていると実感しています」(大関先生)。
中学の探究学習はスパイラルな学び!
富士見が長年続けている探究の取り組みに、中3の「卒業研究」があります。従来はあくまで中3のプログラムの位置づけでしたが、中1から探究のプロセスを体系的に習得して、探究の学びのレベルアップを図ります。探究の力は、「課題設定」→「情報収集」→「整理・分析」→「まとめ・表現」というプロセスを繰り返すことでらせん状に高まっていきます。中1は課題設定の「問う」、中2は「調べる」、中3は「伝える」ことに力を入れます。
中1の1学期は、理科の授業で百科事典や図鑑を使って植物を調べ、夏休みの「生きもの探究教室(長野)」で身に付けた知識を生かしました。中2は「上野・浅草フィールドワーク」を通して、インタビューやフィールドワークを展開。さまざまな情報収集を経験します。
中3の卒業研究では、中1・中2で培った探究の力を活かし、自分でテーマを決めて一年かけて取り組みます。そして、中間発表として9月の芙雪祭でそれまでの研究をまとめた冊子を展示。3学期にはポスターセッション(発表5分、質疑応答4分)を1人ずつ行います。1年かけた研究の発表が1回だけではもったいないと、発表の機会は年に2回設定。「2回できる」と思えば、たとえ1回目は失敗しても、「2回目がある!」と前向きになれます。
高3英語の探究は受験生でも本気の取り組み
ここでは探究的な要素を取り入れた高3の英語の授業を紹介します。SDGsの17の目標の中からテーマを選び、自分が設定した聞き手、例えば問題を抱える途上国の人たち、グローバル企業、日本の若者などに向けて「Wake upを伝える」をテーマにプレゼンテーションを行いました。
情報収集やプレゼンを組み立てる際にアドバイスしてくれるのが、図書館司書の宗愛子先生です。「聞き手が納得できるように、何を持って根拠とするか、どんな資料が必要かといったことを生徒自身に気づかせます。高3は論理的思考力が身についているので、『これが根拠になるかな?』と聞くと、足りないところを察知して自分で軌道修正できました」。
受験勉強の妨げにならないように、プレゼン資料は紙芝居形式にして準備は最小限にとどめる一方、プレゼンツールの見栄えに頼らず発表の中身で勝負できるように、準備に1~2カ月かけました。「こちらが感心する意見も多く、何より生徒が主体的に取り組んでくれました」と宗先生。受験勉強の傍ら、宗先生に進んで相談しに来た生徒も少なくなく、「もっと調べたかった」という声も。「ここが足りなかった」と自己分析する姿に、高3の成長を感じることも多かったそうです。
当然、英語の授業の一環ですから、発表や質疑応答、最後の振り返りまでが英語を使って行われます。富士見生がなぜここまでできるのか。それは中1から英語の4技能を段階的に鍛え、中3からビブリオバトルなどのプレゼンと質疑応答で繰り返して、スキルを磨き上げた結果です。「ビブリオバトルは一番読みたいと思った本『チャンプ本』に選ばれたくて、生徒は必死になっておもしろい本を探します。『読む(インプット)』に対するモチベーションが『伝える(アウトプット)』にもつながっているのです」
(宗先生)
「探究」に図書館がサポートできることはたくさんある
工夫されたディスプレイ(写真は旧図書館)
探究学習の充実に学校図書館の有効活用は欠かせません。「図書館では卒業研究をはじめ探究を全面的にサポートしています」と宗先生。「資料が見つからない」など生徒の「困った」つぶやきに耳を傾け、相談に乗ってくれる心強い存在です。
情報を集めたけれど、集めた情報をそのまま書き写すことを防ぐため、富士見では調べた情報の「整理・分析」にB6版の「情報カード」を使用しています。「このようなフォーマットがあると探究に取り組みやすくなる」と宗先生。調べたことをカードに記入、調べれば調べるほどカードは増えますが、カードを並べると情報が俯瞰でき、取捨選択や優先順位がつけやすくなります。すると、「何を伝えるか」「どう書くか」が自然と見えてくるのです。
2016年度に赴任した宗先生に富士見の印象を聞くと、「芙雪祭の装飾のクオリティの高さに驚いた」と言います。そこで「この豊かな表現力をさらに引き上げるためには、知識やスキルアップなどで中身を充実させること」と感じた宗先生は、まず生徒が「図書館に行きたい!」と思えるように、積極的に情報発信・展示を行いました。テーマごとに蔵書を紹介する「ブックリスト」、日替わりのオススメ本「今日の一冊」、いま世の中で話題のニュースの関連本や新聞記事などなど...。最近はレポートの作成に悩むと図書館に立ち寄る生徒たちが増えてきたそうです。
また、定期発行している「図書館通信」は、図書館をあまり利用しない生徒にも図書館のメッセージを届ける大事なツールとなっています。「中1と中2は共通の発行もありますが、学年ごとに発行するのは、取り組んでいることも、伝えたい情報も違うから」と宗先生。中1・中2はたくさんの本に触れてもらおうとオススメ本の紹介を中心に、中3は卒業研究の助けになる情報を定期的に発信しています。
作家との交流など学外との「つなぎ役」も担う
富士見では、図書委員会を中心に読書に関連したイベントも企画しています。
昨年度は、芙雪祭でビブリオバトルを行い、他校の図書委員を招待して読書会を主催しました。読書を介して、学年や学校を超えたコミュニケーションを楽しんでいます。
なかでも『水の継承者ノリア』(末延弘子訳 西村書店)の作者、エンミ・イタランタさんとの交流は貴重な体験となりました。当日はオールイングリッシュでのやり取りに緊張しながらも、「聞きたい!」「伝えたい!」という熱意でコミュニケーションを取りました。また事前に作品をしっかり読み込んだことで、当日たくさんのことを吸収できました。
学問本の著者(オーサー)が学校図書館などへ訪問して読者の生徒と自由に語り合う「学問本オーサービジット」にも参加。少人数で行われるため、アットホームな"座談会"のような距離感で著者と意見交換をすることができました。普段の授業では味わえない"ワクワク感"が体験でき、学問の入口を知る好機となっています。
新図書館"Learning Hub"は富士見の学びの核
今夏、図書館棟が完成しました。新図書館の名称は"Learning Hub(ラーニングハブ)"。
「一人静かに読書する場所」といった従来の図書館のイメージを一新する意味もあると、宗先生は新図書館への思いを語ります。
「図書館は個人の学びだけでなく、仲間とコミュニケーションしながら学びが深まるように支援する場でもあります。豊かな学びができるよう、図書館が富士見の『学びの核』にあることを、名称でも表現しました。また、探究をはじめ各教科を結ぶ拠点として、さらに富士見生と学外とのつなぎ役も果たしたいと考えています」
図書館棟は普通教室のある本館3階と接続。1フロアを1クラスが探究できるスペースとし、グループワークがしやすいように、組み合わせ自由な可動式テーブルと小型ホワイトボードを採用。無線LANやプロジェクターも備え、より深く、より主体的な探究が可能となりました。
新校舎というハードウエアが完成し、多文化交流や探究といったソフトウエアも軌道に乗ってきた富士見。どれだけ高く、遠くへジャンプしてくれるか、富士見生のこれからの飛躍が楽しみです。