学校特集
浦和ルーテル学院中学校2018
掲載日:2018年9月26日(水)
浦和ルーテル学院は、2018年7月、青山学院大学と系属校協定を結びました。これにより、2030年度から青山学院大学への進学基準を満たす生徒は同大への全入が可能となりました。2030年まではまだ間がありますが、それまでの12年間は、一定の募集枠の範囲内で進学基準を満たす生徒は入学できる、という経過措置がとられることになっています。同校はこれまでも首都圏で最も「学力を伸ばしてくれる学校」(森上教育研究所調べ:GMARCH対象、偏差55以下校、2016年)として定評があり、東京大学をはじめ早慶上智、GMARCH といった難関大学への進学も毎年3 割を超えています。今回の協定締結の主旨や同校の特色について、校長の福島宏政先生にお話を伺いました。
神様からの贈り物(=生徒の才能や個性)
を、最大限に伸ばす「ギフト教育」
「本学院の教員はつねに生徒への声がけと対話を心がけ、生徒一人ひとりについての理解を深めています。それぞれの学力や個性、志望をしっかり把握しています。教師間で情報を共有して、生徒が求めているものをキャッチし、最適の指導を行っています」と校長の福島宏政先生は言います。
「すべての教師がすべての生徒のことを知っています。進級する際、前の担任から新しい担任へ『この生徒はこういうことが好きだ』とか『こんなことが得意だ』という個人カルテを作成して引き継いでいきます」
つまり、担任が代わっても、一人ひとりの生徒を継続して育てていく体制が整っているのです。そのため、小中高で職員室は一つしかありません。小中高の垣根を超えて、先生方が密にコミュケーションをとりながら生徒一人ひとりを見守っていくのです。
そんな見守りのなかで育てられた生徒たちの進路は、医学系から芸術系までバラエティーに富んでいます。毎年、音大を受ける生徒も数名いますが、「音楽室に小中高全教員が集まり、本番さながらの雰囲気と緊張感のなか、器楽や歌など、実技試験の予行練習をします。たった一人のために、学校全体が動くのです」と、校長。
さらに、大学の自己推薦入試などを受ける生徒に対しては何度も模擬面接を行い、毎回試験官を替えてもいます。また、大学入試で「地学」を選択する生徒がいれば、それがたとえ一人であったとしても受験講座を開講し、マンツーマンで指導するのだとか。
生徒の才能を見いだし、少人数制で徹底して学力を伸ばし、希望の進路を実現していく。才能を自分のためだけでなく、世界の人のために活かし、周りの人に感謝されることで、その人も幸せな人生を歩む。このような教育を同校では「ギフト教育」と呼んでいます。生徒の才能や個性は神様からの贈り物(ギフト)であり、そのギフトを最大限に伸ばして、世界に貢献する人間を育てることが教育の使命という考え方です。
「我々教員は、『君のここが良いところだよ』『ここをもう少し頑張れば、もっと良くなるよ』と、生徒一人ひとりの『ギフト』を見つける手助けをしているにすぎません」
青山学院大学との系属校協定のねらいとは?
そんな浦和ルーテル学院はこの度、青山学院大学と系属校協定を結びました。同校の系属化は、来年(2019年)4月より開始され、12年後に完成します。
「系属校とは、青山学院大学の教育理念を理解して、同大学が定める進学基準を満たす生徒を育成できる学校であり、系属校推薦入学を認められた学校のことです」
系属校協定を結んだねらいは、次の三点になるとのこと。
「第一は、"キリスト教教育の使命の継続・発展"のためです。本学院は創設以来、聖書に基づく教育によって有為な人材を輩出してきました。今後もキリスト教教育の火を絶やさず、いっそう力強く使命を達成するために、共通の教育理念を掲げる青山学院と系属関係を結んだのです」
第二は「教育改革の時代の高大連携」です。従来から小中高、その先の大学との接続を理想にしていた同学院にとって、系属校の考え方は必然だったかもしれません。
「青山学院大学は本学院の生徒たちの美点をいっそう引き出し、世界に奉仕する指導者に育ててくれる大学として、私たちは厚い信頼を寄せています」
第三のねらいとしては、「教育の質的向上」が挙げられると言います。
「高い水準の大学との連携を通して、教育の質の向上に取り組む環境を整えることができます。系属校化によりグローバル化やICT化など、新しい時代の要請に応える教育を充実させることがでけきると考えています」
系属校化によって、これまでの教育方針、校訓、校歌、校章、制服などが変わることはありませんが、校名は「浦和ルーテル学院」の前に「青山学院大学系属」を冠する形に変更される予定です。
「浦和ルーテル学院は、これからも一人ひとりを大切に育て、その才能を発見し、人のために生かす教育を、いっそうの熱意をもって推進していきます。神様の導きのもとで、きめ細かく温かみのある家族的な校風を決して失うことなく歩み、建学の精神『神と人とを愛する人間、神と人とに愛される人間』を力強く掲げて、さらなる発展をめざしていきます」
6年間をかけて綿密に行われる学びの実際は?
中学生は火曜日から金曜日までの7時限授業で、基礎学力の定着と、自主的な学習習慣の確立をめざした教育を受けています。また、理解が遅れがちな生徒には先生が声をかけ、朝や昼休み、放課後などを利用して個別に補習を実施。この早め早めの対応が功を奏していきます。
高等部のカリキュラムは、高2からは文系と文理系に分かれ、さらに、高3からは文理系が文系・理系に分かれるという二段構えになっています。
「進路に関しては生徒の個性や希望を個別に聞き、ご家庭の意向も取り入れながら指導し、希望や能力、適性を見て選択の範囲を絞っていきます。最終的に決断するのは生徒で、我々教員はその意志を尊重し、最大限の後押しをしていくだけです」
高3になると、通常の授業は5時限までで、6時限目以降はそれぞれの志望に対応した「受験講座」になります。ここでは全員の個別学習プランを作成し、英語は習熟度別に行うなど細やかな指導が行われています。
中高6年間にわたる手厚い指導は、確実に成果を生み出していますが、下表は、2017年度に卒業した生徒たちの学力伸長度を表したものです。 ※東大進学生のみ2015年度卒
中1 | 高1 | 高校卒業時 | 合格大学 | |
---|---|---|---|---|
A君 | 60.3 | 81.5 | 82 | 東京大学 |
B君 | 55.4 | 66.7 | 79 | 早稲田大学 |
Cさん | 52.2 | 64.4 | 68 | 筑波大学 |
Dさん | 48.6 | 54.4 | 74 | 上智大学 |
E君 | 48.0 | 56.7 | 64 | 星薬科大学 |
F君 | 46.0 | 63.5 | 71 | 中央大学 |
Gさん | 43.5 | 49.7 | 62 | 明治学院大学 |
Hさん | 38.9 | 43.2 | 65 | 立命館大学 |
早くから成果を上げる生徒もいれば、エンジンのかかりが遅い生徒もいます。しかし、それぞれが6年間をかけて力をつけていっていることがわかります。実際、4割の生徒が偏差値60以上(GMARCHクラス)の大学に進学しているそうです。
生徒全体で見ると、それぞれが6年間で平均20くらい偏差値を上げ、ほぼ全員が現役で合格しています。
「生徒たちにはオープンな"学び合い"の気風がありますね。例えば、お互いに模試の結果を見せ合い、アドバイスし合います。友達の成績が良いと自分も頑張ろうとしますし、諦めそうになる友達がいると周りの仲間が励まし盛り上げます。その結果、突然成績が伸びるという生徒もたくさんいるんですよ」
「フィールド・プログラム」は、実践的なギフト教育
生徒の才能や個性(=ギフト)を見いだし、希望の進路を実現していくギフト教育のなかには、実践的な活動もあります。
「本学院の生徒は、コンピュータが得意で自分でプログラミングをする生徒、歴史好きで自ら計画して史跡めぐりの旅に出る生徒、天体観察が好きで宇宙に詳しい生徒など、さまざまな才能や特技、個性にあふれています。そんなさまざまなギフトを生かせる場として、中学では、ギフト教育の具体的な活動『フィールド・プログラム』を用意しています」
プログラム名称 | 内容 |
---|---|
フィールドA (アーツ:人文系) |
美術や音楽、文学作品をテーマに、歴史探求や外国研究のアクティブ ラーニングを実施。国内の世界遺産や美術館・博物館などを訪問する研修にも参加 |
フィールドE (イングリッシュ:英語系) |
英語劇やスピーチ、ディベートなどの活動を行うほか、インターナシ ョナルスクールとの交流やイングリッシュデイ、大使館訪問などに参加。将来は短期の海外研修も |
フィールドS (サイエンス:自然科学系) |
電子機器の組み立て、理科実験、初歩のプログラミングなどに挑戦。 先端科学施設、天文台、大学の研究室訪問なども |
生徒たちは、上の3つのフィールドの中から興味関心のあるフィールドに所属します。また、学びの集大成として、漢検や英検、数検など各分野に関連の深い検定取得もめざします。才能や個性を生かしたこの「フィールド・プログラム」は、当然ながら進路選択の際にも多いに役立っています。
敷地は約3万㎡。グラウンドも広い!
お昼は、お弁当で楽しいひと時
伝統の英語教育と国際交流で
4技能が着実に身につく
同学院の歴史は1953年の小学校創立から始まります。創立時より小学校から英語教育を実践してきた同学院。英語教育には伝統と定評があり、現在、中学では、卒業までに英検準2級取得を目標にしています。
「中学では発音や会話表現など、自然に英語に接する下地づくりをしています。それと同時に単語や文法などの基礎基本を徹底し、さらに、授業のなかで英語劇を行ったり英語で原稿を書いてスピーチするなど、アクティブな英語活動も行っています。これらの積み重ねにより、スピーキングなど4技能は着実に身につきますし、実際、中学卒業時には7割近くの生徒が準2級を取得しています。さらに、いわゆるスーパーグローバル大学(東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、上智大学など)に多くの生徒が進学しているのです」
教育目標の一つに、「グローバルな視野を持ち国際的に貢献できる人間を育てる」があり、そのためのプログラムも用意されています。
例えば、中3~高2の夏休みには、4週間のアメリカ研修を実施(希望者)。この研修の目標は「英語能力の育成」「人間理解」「アメリカの生活・文化の体験」「キリスト教理解」です。前半の2週間はカリフォルニア州にある姉妹校に滞在し、英語研修やボランティア活動などを通じて、異文化理解と国際感覚を養います。後半2週間は、アリゾナ州フェニックスに移動し、同学院と同じルーテル系の教会員の家にホームステイをします。
「ステイ先で生徒は"お客様"としてではなく、"家族"として迎えられます。はじめは戸惑っていた生徒たちも、2週間後、ホストファミリーとの別れの際には大粒の涙を浮かべて帰国の途に。これは、生きた人間理解の貴重な体験であり、生徒たちの目を世界に大きく開かせるきっかけになっています」
このアメリカ研修とは別に、高校在学中に1年間、アメリカの姉妹校で学べる「高校在学中留学制度」もあります。
「現地校での単位はすべて本学院での単位とみなされ、帰国後、学年を落とすことなく復学することができます。この研修や留学をきっかけに、アメリカの大学に進学する生徒もいて、多くの卒業生が海外で研究職、芸術活動など多彩な活躍をしています」
一方で、アメリカの姉妹校からの中高生たちが来校することも。その際は生徒の自宅にホームステイをするので、日本に居ながらにして国際交流ができる最適な環境となっています。
中学からの新入生も手厚く指導。
英語はスピーディーにサポート
ところで、内進生は小学生のうちから本格的に英語を学んでいます。中学から入学した生徒は、そのギャップをどのように埋めていくのでしょうか。
「まず、入学前の春休み中に徹底した補習を行い、中学校英語にスムースに入っていける下地をつくります。本格的な授業開始後も放課後のサポート学習や定期試験後の補習を行い、さらに夏休みには4技能の集中講座を実施しています。そうすると、2学期の終わりには、中学から入学してきた生徒のほうが高得点を取ることもありますね」
2019年度入試も4種類。
自分に合った方式で受験ができる
入試でも生徒一人ひとりの才能(ギフト)を大切にしたいと考える同学院。受験生の個性や能力を存分に発揮してもらいたいと、次の4種類の入試を設定しています。
タイプ | 試験内容 |
---|---|
2教科型 | 国・算の2教科。教科学習を中心に取り組んできた受験生向けの方式 |
適性検査型 | 公立中高一貫校で行われる入学者選抜適性検査に準じた入試方式 |
英語型 | 国・算のほかに英語の筆記と面接(英検3~4級程度)を行う。 英語が得意な生徒、帰国生に向けた入試 |
プレゼン型 | 国・算のほかにテーマに沿ったプレゼンテーションを行う。 学習面にだけおさまらないポテンシャルを評価する |
それぞれがTPOに基づいて判断する
プレゼン型の「プレゼンテーション」は、ホームページ上では「自己アピール」という表現でも掲載されています。生徒それぞれが持ち合わせ、中学入学までに培った才能や個性の中身を、生徒自身の言葉で聞かせてほしい。そんな同学院の声が聞こえてきそうです。