学校特集
自修館中等教育学校2018
今年度からは5・6年生で「選択探究」も導入
掲載日:2018年9月1日(土)
開校から今年でちょうど20年目。開校当初から「探究」と「EQ(こころの知能指数)」を教育の柱とする自修館中等教育学校ですが、なかでも同校の顔である「探究」は、20年を経てさまざまに結実しています。ここで、改めて同校の「探究」の実態と成果をご紹介しましょう。若い学校ならではですが、生徒はみんな、意気と元気にあふれています。「こぢんまりと収まるのはつまりません。新しいことにチャレンジしようと創立した学校ですから」と言う、入試広報室長の佐藤信先生にお話を伺いました。
「探究」で、生徒たちはどう変わるのか。
先輩たちの「今」をご紹介
同校オリジナルの授業である「探究」とは、誰もがもつ「探究心」を引き金に、ものの見方や考え方を学び、自分の可能性を広げる能力を最大限に培うもの。自分が探究したいテーマを決めて1年生から4年間学びを継続し、4年生で2万字にも及ぶ探究修論を書き上げて完結するのですが、折々にプレゼンも実施します。
ここではまず、その詳細をお伝えする前に、「探究」を経て生徒たちがどのように成長していくのか、在校生と卒業生のエピソードからご紹介しましょう。生徒たちが、自分自身が内包する芽に気づき、それを自分で引き出し、追究していくことで一つの花を咲かせていく様子がおわかりいただけると思います。
現在4年生の男子が3年生だった時のこと。
「ウナギの養殖」を探究テーマにしていた彼は、「探究文化発表会・自修祭」で探究活動のプレゼンを行いました。「シラスウナギはなぜ採れなくなったのか」に始まり、「そもそもウナギはいつ頃から食べはじめたのか」「ウナギのさばき方」など、その生徒が興味を惹かれた道筋が見えてくるような見事な内容で、審査員として参加していた卒業生たちからも絶賛され、2位に輝いたそうです。
佐藤先生:「本校ではプレゼンを通して目覚め、スイッチが入る生徒が多いのですが、この生徒もそうです。しゃべるのがそれほど得意ではなかったのに、そのプレゼンでは生き生きとしていました。『ウナギの養殖』を切り口にしながらも、そもそもなぜウナギを食べる文化があるのかとか、さばき方にも違いがあるなど興味が広がり、さらに探究していくことで、ものの見方に幅が生まれたのです。ちなみに、この生徒が「さばき方」を取り上げたのは、いろいろ調べていくうちに『背開き』と『腹開き』があることを知ったからです。『背開き』は関東の開き方、『腹開き』は関西の開き方。そのことから関東は武家社会、関西は商人の町、という文化の違いにも行き当たるなど、『養殖』を起点にして、視界がどんどん広くなっていったのがよくわかる内容でした」
探究のゼミごとの展示も充実
校内を飛び出し、世界で研鑽を積む生徒もいます。現在5年生の女子。
彼女は3年生の時に日本青年会議所が主催する「少年少女国連大使」に応募し、神奈川県代表としてニューヨークの国連本部での研修に参加し、「教育」をテーマにプレゼンを経験。その後、フランスのユネスコでもフランス人の高校生とペアを組み、「途上国の教育問題の現状と解決策」を研究してプレゼンしました。海外でプレゼンする時は英語ですから、英語力習得の重要性も痛感したそうです。まさに「グローバルに探究」し、今も挑戦を続けている彼女ですが、帰国後の活動報告だけでも、3・4年生の2年間で40数回ものプレゼンを経験したそうです。
佐藤先生:「彼女もどちらかといえば引っ込み思案だったのですが、ゼミの中でプレゼンをしていくうちに、目を見張るほど変わっていきましたね。彼女は近隣の小学校に行って活動報告をすることもあるのですが、『あのお姉ちゃんみたいになりたい』と言って、今年入学してきた生徒もいます」
現在、大学院の博士課程で分子細胞医学研究室に所属するOB。「DNAに保存された遺伝情報を読み取る『転写』の仕組み」という、何やら難解な研究をしている彼は、もとはといえば「カミキリムシ」に魅せられた少年でした。小さいころから昆虫や動植物が好きで、同校の「探究」では「カミキリムシが生態系に与える影響」を調べたそうですが、その後、少年の視界は広がり、今は分子メカニズムを推測・検証することに力を注いでいます。
佐藤先生:「その彼ですが、テストのたびに呼び出されるくらい、中高時代は英語ができなかったんです。興味をもったことにはとことん突き進むのですが、それ以外はあまり、という感じで。ところが、今では研究のうえでも必要に迫られるのでしょう、普通に英語を話していますよ」
このことからも、「探究」で育てられた思考力や判断力、発信力といった太い幹さえあれば、ツールである英語などの枝葉は、必要に応じて自ら習得していくことがよくわかります。つまり、「探究」とは主体性や自主性をも育てるのです。
「人に興味を抱かせる伝え方を『探究』で学んだ」というOBは、中学時代から「『仮面ライダー』を撮りたい」という夢があり、在校中にもさまざまな映像を撮っていたそうですが、大学は芸術学部へ。そして番組制作会社に勤めた後、ライブ配信番組のプロデューサーをし、今は映像制作の腕を買われて某大手企業にヘッドハンティングされたばかりとか。彼は言います。「芸能人やインフルエンサーと呼ばれる人々も、活躍している人はプレゼン能力がずば抜けています。また、普段の暮らしのなかでも自分の考えをわかりやすく伝えることは重要ですが、これがきちんとできる社会人は意外に少ないのです。だから、自修館で『探究』を頑張れば、将来も社会で活躍できると思います」と。
佐藤先生:「彼の話を聞いていると、仕事がおもしろくてしようがないようです。ただ、『仮面ライダーを撮りたい』というのは変わらず、そこは今もブレていません(笑)」
ほかにも、大学院に通いながら外食系のネットベンチャーを立ち上げたOBもいれば、御殿場から片道2時間かけて電車通学していたOGは、帰りの電車で「自分がその日にとったノートをすべて英訳する」という努力を重ね、世界でも難関であるイギリスのランカスター大学へ進学しました。
(2・3年生)
このようなエピソードを先生から聞けるのも、卒業生が頻繁に母校を訪れているから。また、大人になった今、卒業生と先生がお酒を酌み交わすなど交流が続いているからこそです。同校の1期生はちょうど30代半ば、社会の最前線で活躍している年代です。この卒業生たちとのつながりの濃さも、「探究」が生んだ同校の大きな魅力、財産でしょう。
佐藤先生:「卒業生たちの横や縦をつなげてあげると、一緒に何かを創りはじめたり、そこからまたおもしろいことが生まれています。それに、本校の卒業生は『自分の思いを伝えたい。しゃべらせてください』と、後輩たちに発信したいという意欲が満々なので、よく学校に来て話してもらっています。良い意味で「規格外」の人も多いのですが、在校生には、『それもアリなんだ』と、ぜひ思ってほしい。せっかくの人生、こぢんまりと小さく収まってはつまらないですから」
では、これらのエピソードのように、生徒たちをここまで成長させる「探究」とは? 次に、その詳細をご紹介します。
6年間を貫く「探究」で物事の学び方、
ひいては生き方を体得する
「探究」とは、同校の教育目標「自学・自修・実践」を象徴する総合学習です。既存のものに頼るのではなく、自分で新たに創り出す力、それを相手に伝える力、物事の本質を追究する姿勢とスキルを身につけさせるため、創立以来、同校が教育の大きな柱とするものです。
佐藤先生:「幅広い教養やチームワーク、行動力、プレゼンテーション力などを培うことが目的ですので、『探究』は将来の仕事や人との交流など、人生そのものに活きていきます」
先生がこう語るように、『探究』する過程では、異なる考え方を理解しようとする姿勢や、途中で行き詰まっても諦めずに方法を探り、状況を突破していく力も必要になってくるため、まさに「総合的な人間力」のベースを形成するものといえます。
ここで、「探究」の4年間の流れを見てみましょう。
※同校では、「生徒たちの生活リズムを安定させたい」との意図から4学期制をとり、各学期間に適度な長期休みを配置している
わかりやすい例に、「探究」の入口として実施される、入学1週間後のオリエンテーションがあります。八ヶ岳へ行くのですが、同じクラスでもまだお互いのことがよくわからないので話も弾みません。そこで、新聞紙を使ってタワーを作るなど協働ゲームをしながら距離を縮め、そこからクラスを4つの班に分けて「探究」活動に入りますが、テーマは生徒たちが決め、役割分担も自分たちで割り振ります。
そして地元の企業などの協力を得て[取材→とりまとめ→プレゼン]という一連の流れを体験するのですが、この時、先生方はアドバイザー役に徹します。どうしても行き詰まった時には「こういう見方もあるよ」と助言することはありますが、「こうしなさい」と指示することは決してありません。
こうして先生方が見守りに徹し、生徒たちの主体性を引き出していくと、生徒同士の意見交換がだんだんと白熱して、逆にどの班も活動が終わらなくなってしまうのだとか。
このように、きっかけさえつかめれば、生徒たちはどんどん突き進みます。そして、それを極めてプラグマティックに推進しているのが、同校の「探究」といえます。
佐藤先生:「物事を見る時、まずは既成概念にとらわれず、おもしろがり、自由に考えていくことが大事です。そういう意味では1年生はまっさらですから、枠組みのないところで自由に発想しますね。逆に、学年が上がると知識と経験が増えていくぶん、自分で枠組みを作ってしまいがちです。それをどう壊すかが課題でもありますね。そのためには、我々教員も頭が固くならないようにしなければと思っています」
そして、今年からは5・6年生で「選択探究」が始まりました。これまでは、4年生で探究修論を書き終えれば「探究」の授業は終了だったのですが、この「探究選択」をとれば、まさに「入口」から「出口」まで6年間一貫して、授業として「探究」を続けることができるわけです。
東大のAO入試など、すでに新形態の大学入試は始まっていますが、この「選択探究」の導入は、2020年からの新大学入試にも活きる強力な道筋となります。現在、受講している生徒は6人ですが、これからの動きや成果が楽しみです。
佐藤先生:「進め方としては、4年生で探究修論を書き上げるまでに、生徒本人が自分でアポイントをとって大学などに取材に行っていますので、5・6年生ではその人的つながりを生かしたり、教員が人脈としてもつ大学とも連携をとってやりとりしながら、探究を深めていくことになります」
EQ理論に基づく
「セルフサイエンス(SS)」で心を磨く
「探究」と同様、同校の教育のもう一つの柱となっているのがEQ教育。
EQとは「Emotional Intelligence Quotient(心の知能指数)」の略語で、「人といつまでも仲良くつきあっていくには、相手の感情を読み取ったり、自分の感情をうまく表現する能力が必要」という考え方のもと、自分の心や行動を分析し、コントロールする方法を科学的に体系化したものです。
「セルフサイエンス」の授業
前期課程(1~3年生)ではEQ理論に基づき、自分の感情を表現する技術を学びながら、自分発見と他者理解を目指す「セルフサイエンス」という授業が週に1回行われます。この授業は、指導のためのライセンスを取得した先生が受け持ちますが、数学や英語など、さまざまな教科の先生が兼任しています。
佐藤先生:「たとえば校長が1年生に向けて行う授業では、顔を見ながらニコッと笑って『こんにちは』と言ったあと、今度は怒った顔で『こんにちは』と言い、『どう感じる?』と問いかけます。同じことを伝えても、言い方や態度によって相手の気持ちも変わります。だからこそ、自分の感情をコントロールすることや、コミュニケーションの取り方が大事なんだよ、というところから始めるのです」
また、「ワークシート」を用いて質問に答えながら自分の心を分析したり、相手を尊重したうえで自分の考えを伝えるコミニュケーションスキル「アサーション」に取り組んだりと、多様なコミュニケーション・トレーニングを実践しています。
そして、各先生方もしっかりとEQ理論を学んでいるため、日常の学校生活もそれに基づいて指導されます。
(3・4年生)
佐藤先生:「たとえば、1年生の最初の頃はまだ学校生活に慣れていませんので、授業前もザワザワしていることがあります。そんな時も『座りなさい』とは言いません。『今、何時? 時計を見て』と。そして、ジーッと待つ(笑)。自分たちで気づかせるのです。そうしていくと、だんだん日常生活のことも生徒同士でチェックし合うようになりますね。生徒たちには、期待してあげることが大事です。認められたという自信は、もう一歩を踏み出させますから」
先生に「これはダメ」「こうしなさい」と指示されて動くことは簡単ですが、先生が発信してばかりいると生徒は発信しなくなると言います。だから、できまるまで『待つ』のが同校の指導姿勢なのだと。
ほかにも、土曜日の放課後に行われる「土曜セミナー」(社会的体験や文化教養を身につけるもの)や「土曜講座」(教科的意味合いの強いもの)も多数開催され、生徒たちの人としての器を大きくしていきます。また、「スポーツ大会」や「合唱コンクール」、「探究文化発表会・自修祭」などの行事も「探究」と「EQ」の成果を発揮する場となり、毎年大いに盛り上がっているのも同校らしいところです。
このように、自らも視界を広くもとうとする先生方の指導のもと、「探究」では物事の道筋を見つけていく方法を、「EQ」では人と上手にコミュニケーションをとり協働していく方法を学び、「探究×EQ」で人としての総合力を身につけて、自分の未来を見つめていく生徒たち。そんな同校だからこそ、大学でも、その先でも「自分のやりたいこと」を開花させていく卒業生が多いのでしょう。
同校らしい学びを入口から。
2019年度、「探究入試」を新設
来年の2月1日午前に、入試が新設されます。それは、同校の象徴でもある「探究」を軸とした「探究入試」。その意図を、佐藤先生はこう語ります。
教科学習も同じ
佐藤先生:「本校は新しいことを始めようとしてスタートした学校ですので、初期の頃は教員も生徒もエネルギーの固まりでした。ところが、だんだんと周りから『面倒見の良い学校』という評価をいただくようになり、それはそれでありがたいのですが、ここでもう一度、原点回帰をしようと。『待ちの姿勢』ではなく、いろいろなことに興味や関心をもち、やってみたいという意欲があって、ワクワクしながら楽しめる受験生に来てほしいということを、改めて発信したいと思います」
同校はたしかに「面倒見が良い」イメージがありますが、その「面倒見の良さ」とは誰もが乗れるレールを用意することではありません。「こういうことをやってみたい」「この思いを発信したい」という、一人ひとりの生徒が胸に秘める思いをきちんと出せるように導く、ということです。手取り足取り教えるのではなく、興味の糸口を各所につくり、生徒と対話し、気づきを促すという形で。
そしてもう一つ。この新入試は、近隣の公立中校一貫校を志望する受験生も視野に入れています。毎年、平塚中等教育学校や相模原中等教育学校と同校を併願する受験生が多いのですが、公立中高一貫校の入試「適性検査型」と同校で実践される「探究」の方向性が類似していることから、その受験生たちがさらに受験しやすくなるようにとの配慮でもあります。ぜひ、注目してみてはいかがでしょうか。
スポーツ大会では、元気が爆発!
EQ実践の場でもある、合唱コンクール
最寄駅の小田急小田原線「愛甲石田駅」からは徒歩18分。スクールバスも運行していて、「愛甲石田駅」からは5分乗車、東海道線「平塚駅」からは25分乗車。学校に近づくと視界が開け、大きな空の下、豊かな緑の中に同校が見えます。
ちなみに「愛甲石田駅」までは、電車で厚木駅から5分、秦野駅からは14分、町田駅からは19分、横浜駅からは42分。「平塚駅」までは、電車で茅ヶ崎駅から5分、藤沢駅からは12分、横浜駅からは32分となっています。