学校特集
富士見丘中学高等学校2018
掲載日:2018年9月3日(月)
新宿から電車で5分の京王線・都営新宿線直通「笹塚駅」より徒歩5分という、好アクセスを誇る富士見丘中学高等学校。2020年に創立80周年を迎える女子伝統校ですが、21世紀型の先進的な教育実践により、文部科学省のSGH(スーパーグローバルハイスクール)に指定されています。
広報部長の佐藤一成先生が「SGHとして4年目となりますが、これまで以上に生徒たちと真摯に向き合ってきた結果、思っていた以上の成果につながっています」と語るように、今年の卒業生は海外大学へ8人もの進学者を輩出するなど、大躍進を遂げています。
真のグローバル化が進む同校の教育を佐藤先生に伺いました。
日常がグローバルな環境
「国際性豊かな若き淑女の育成」を教育目標とする富士見丘学園。海外留学は他校に先駆け1972年から展開、全校生徒のおよそ20パーセントの生徒が帰国生という、校内は多様性に満ちた環境です。中2から高2の希望制で行っている英国短期留学は、ホームステイをしながら語学研修、現地姉妹校交流などを行う3週間のプログラムを実施。高1または高2に選抜制で行うイギリス、カナダ、オーストラリアの各姉妹校への3ヶ月留学・6ヶ月留学では、生徒たちの著しい成長が見られます。
このようにかねてより定評がある富士見丘学園の国際交流や英語教育。例年数人の海外大学進学者がいましたが、今年の卒業生の進路はさらに世界へと広がりました。
今春の卒業生100名中、海外大学へ13名が合格し8名が進学。うち4名が23位のロンドン大学キングスカレッジ(イギリス)や31位のトロント大学(カナダ)、45位のクイーンズランド大学(オーストラリア)など、QS世界大学ランキングで50位以内の大学に合格しました。その他マウントホリヨーク大学(アメリカ)などのリベラルアーツカレッジにも受かっており、この実績は帰国生だけでなく国内生も共に切磋琢磨した成果となっています。
これまで学んだ英語力を実践するチャンスです。
国内大学へ目を転じると、37名が東京外国語大学(2名)や慶應義塾大学(1名)、早稲田大学(3名)、上智大学(5名)などのスーパーグローバル大学へ合格・進学。
佐藤先生は「SGHのプログラムで3年間学んだ生徒たちが、グローバルな進学へ意欲が高まった表れではないでしょうか。SGHの取り組みがアドバンテージとなり、進学結果につながったと思っています」と話します。
同校では中1から段階的な進路指導が行われており、具体的な将来像を描くことを重視。そのため、自己実現につながる進路選択をする生徒が多く、進学結果には上のように多様性が現れています。
海外大学への進学相談も受け持っている佐藤先生は、ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)に進学した生徒について、進路選択のきっかけを教えてくれました。
「この生徒は動物が好きで獣医になるという意志があり、当初は日本の獣医学部を受験する予定でした。2017年4月にブリティッシュコロンビア大学主催の説明会が本校で開かれました。海外にはアニマルバイオロジーという分野があることを知り、学問に取り組む姿勢などを聞いているうちに、得意な英語を生かして学びたいと考え、その段階で同大学も進学先として視野に入れました」
豊富な実験や観察を多数行っています。
このように海外も含めた大学の説明会が校内で実施される環境があるだけでなく、ネイティブ教員によるエッセイライティング指導や現地の大学とのやりとりについてのアドバイスなど、丁寧な進路指導が徹底されています。
広い視野で進学先を捉えられる素地があるとともに、相談の際に対応できるノウハウと実績、さらに具体的なサポート体制が整えられているのです。
「今春の結果を受けて、上智大学の指定校枠が1枠増えました」と佐藤先生は笑顔で話します。SGHプログラムへの取り組みが好循環となった結果です。なお、今春の富士見丘高等学校の卒業生の実に33パーセントは、GMARCH以上の大学に進学しています。ここからも入学時からの大きな飛躍が実感できるはずです。
少人数でじっくり育成
大学への進学だけでなく、これからの社会で必要とされるのが表現力や発信力です。佐藤先生は、
「日本の教育に足りないもの、日本の子どもに欠けているのは、論理的に話す力です。日本の子どもたちは学力面では世界に見劣りしていません。それでも自分に自信がないために人前で堂々と話せない子が多いことが日本の課題です。
本校では生徒たちがそうした殻を破り自信をつけられるよう、論理的に発表する機会を豊富に設けています」と話します。
富士見丘学園では、思考力と表現力の養成に重点を置いたカリキュラムが敷かれています。同校のSGHは「サステイナビリティ(持続可能性)」に関する課題研究をテーマとし、この研究のために必須となるのが、英語力と表現力及び探究学習を進めるための様々なスキルです。
それらを養う教育は確実に結実しつつあり、例えば毎年3月に開催される「全国スーパーグローバルハイスクール課題研究発表会(SGH甲子園)」では、昨年は英語プレゼンテーション部門、今年はラウンドテーブル型ディスカッション部門にて、2年連続優秀賞を受賞しました。
「SGH甲子園のような成果が次々と出ることにより、賞を取った生徒はもちろん、それ以外の生徒にとっても自分たちは堂々とできるという自信になっています。それにより、競争意識や目的意識を持って学習に取り組む姿勢につながっており、非常に良い傾向です」と佐藤先生。
こうしたプレゼンやディスカッションは、最初から上手にできるわけではありません。
友達の発表を見ることで、例えば目線の配り方や話し方、話すペースはどうなのかなど、互いに様々な気づきをもたらします。「生徒たちはいいところは吸収しつつも、私だったらこうするなどと考えながら、評価し合う環境で刺激を与えています。プレゼンの回数を重ねることで、次第にどんなものが説得力のある良い表現なのかを理解していきます」(佐藤先生)
生徒たちからは「やっているときは大変だったけれど、やったことに意味があった」という意見が多数寄せられており、それぞれが自分自身の成長を実感しています。同校では相互評価をすることによって、教え合ったり、試行錯誤を重ねたりしながら表現力を磨き、課題を乗り越えた達成感で自信と自分の考えを堂々と論理的に表明する力を付けています。
SGHの具体的な取り組みとは
ICT教育も積極的に取り組んでいます。
富士見丘学園のSGHプログラムでは、中学段階から様々な実践を行っています。
探究学習を進める上で重視されているのが、主体的で協働的な学習スタイルを確立する「スタディスキル育成プログラム」、英語4技能をバランスよく育成し、英語での情報発信力を強化する「英語発信力向上プログラム」、外部の方々とのコラボレーションを推進する「行動力向上プログラム」です。
中学生はこれらスタディスキルアップのLHRを月1度ほど実施。中学1年生は4~5人のグループを作り、投げかけられる課題や問いに対して互いに意見を出し合うなかで、協働的学習の術を身に付けていきます。ここで養われるのは、役に立ちそうなものは何でも活用してみる挑戦心や疑問があれば何でも質問する積極性、自分の考えをまとめて発信する力、あわせて人の意見に批判はしない協調性やバランス感覚なども学びます。
中学2年生では、11月に武蔵野美術大学と連携した美術展を校内で開催しています。生徒たちがキュレーター(学芸員)となり、大学院生や大学生が描いた絵を来場者に紹介。武蔵美の教授から指導を受けながら、生徒たち自身が美術館のイメージ作りや企画・タイトルの発案、ポスター制作などを行います。
昨年取り組んだ現中学3年生からは「大変だったけどやってよかった」という声が多く上がりました。自ら見つけた課題をみんなで解決方法を探りながら、力を合わせて一つのものを作り上げていく達成感と大きなやりがいを得られる契機となっています。
さらに生徒会では、国連が掲げるSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な世界に変革する17の目標)に取り組んでいます。
このような下支えのプログラムがあり、高校以降の探究活動につながっています。
高校でのSGH実践例
必要とする世界の現状をゲーム形式で学びました。
高校1年生は、サステイナビリティの観点から様々な社会問題に向き合う課題解決型授業「サステイナビリティ基礎」を実施。チームティーチングで行われる教科横断型授業や慶應義塾大学の留学生の方と一緒に行う「グローバルワークショップ」、大学生とともに被災地を訪ねる「釜石フィールドワーク」で構成されています。釜石のフィールドワークは今年4年目を迎え、現地の方に直接話を伺いながら復興への議論を重ねてきました。生徒たちは被災地の現状を目の当たりにし、実体験に触れることで苦悩を抱えながらも大きく成長して課題解決のために奮起しています。
高校2・3年生では「サステイナビリティ演習」として、高大連携のゼミ形式で「災害と地域社会」、「開発経済と人間」、「環境とライフスタイル」という3つのテーマに分かれて課題研究を行います。
例えば佐藤先生が担当する「災害と地域社会」は、慶應義塾大学SFC環境情報学部の研究室と連携。「年間を通して生徒たちの成長を見ていただいたり、今年はここをもっとこう伸ばしたいという意識を研究室の方たちと共有しています」と佐藤先生が語るように、毎年内容を刷新しながら実施されています。
現高3が高2の時には、首都直下型地震が起こった時にはどんな状況が考えられるのか、具体的にイメージしてもらいたいと防災小説を創作しました。
「これまでの事実を語るだけでは、その記憶は風化していきますし、過去の出来事と思われてしまいます。そこで未来の出来事をリアルに伝える工夫を小説として考え、去年の文化祭で発表しました。中国語に堪能な生徒がいたため、台湾でのフィールドワークでは中国語でのプレゼンにも挑戦。防災小説に触れたことにより、自分は何を考えたのかという意識調査を校内や台湾で実施し、アクションのその先までを包括できるような活動としました」(佐藤先生)
マレーシアでフィールドワークを実施します。
現高2生たちもこのプロジェクトに取り組みますが、今年は「アジアの災害」を大テーマとして、日本だけでなくアジア各国の災害を比較したり、地名と災害の関係を調べたり、2年後に迫った東京オリンピックに来日する外国人への防災対策について現状はどうなっているのかなどをグループに分かれ探究しています。
なおこの課題研究は、必ずグループで行います。その狙いについて佐藤先生は、
「一人ひとりの研究では、自分のやりたいことを好きなように進められますが、グループでの探究というのはそれぞれの得意不得意があります。自分とは違う考えの生徒と共に研究をしていくなかで、どう課題を探究して突き詰めるのか、チームで答えのない課題を解答に導いていくのか、かつそれをおもしろく進めていくのかというのが、これからの世界で必要な協働の力です」と話します。
参加し、利用者の方々と温かく交流しました。
また単なる研究ではなく、"自分たちに何ができるのか"という視点を必ず入れること、上記の意識調査のようにアクションを起こしたことにより、さらにその効果を考え、研究に反映できるよう促しています。例えば東京オリンピック対策では、何が足りなくて、何が必要なのか、提言できることを自分たちで考えるだけでなく、実際に都の担当者にも話を聞きに行く予定です。
この探究活動で肝としているのが、人事ではなく、自分事として考えていくことです。
「生徒たちは社会課題に対して、自分に何ができるのかを考える授業であり、やりがいを感じていると思います」(佐藤先生)
自分の目で見て体験した経験は、生徒たちの意欲に大きく火を付けるもの。「自分も何かしたい」と、ボランティア活動など実際に行動に移す生徒も出てきています。
磨く英語4技能の力
世界で活躍できる力を養っています。
先にも触れた通り、多くの帰国生を擁する富士見丘学園には、専任のネイティブ教員が6人います。「英語特別コース」に籍を置く帰国生の英語の授業は、2つのレベルに分かれて行われています。完全な取り出しの場合、週8時間のネイティブによる授業が受けられ、英語力の維持・向上をはかっています。
国内生も週に3回はネイティブによる英会話のほか、チームティーチングによる授業や単語力、読解力、速読力を養う「Extensive Reading」など独自のプログラムにより、英語4技能の力を培っています。
中2から高2では週1時間の「Online Speaking」に取り組み、リスニング力とスピーキング力を着実に養っています。この授業では「自己評価シート」を使い、振り返りも行っています。講師の先生からもどの程度テーマへの理解ができたのかなどの評価をいただきます。生徒自身も「Online Speaking」を楽しめたかという確認のほか、レッスン中には言えなかった表現を認識するなど、次の学びへと確実につなげています。
プログラムが揃っています。
発信力を重視する同校では毎週末、中1と中2は英語日記、中3以上は英語エッセイを提出。ネイティブ教員と日本人教員による丁寧な添削指導により、ライティング力の強化にもしっかり取り組みます。
これらは高校の「サステイナビリティ演習」で最終的に英語で論文をまとめるための素地となっています。
こうした取り組みにより、同校の昨年の中3はGTECでの3技能の合計点が高2の全国平均を超えるという、特筆すべき結果となりました。
ライティングではなんと高3の全国平均を上回る得点を獲得。中3生の英検準2級取得率は67%で、高3の準2級取得率の全国平均は15%をはるかに凌駕する結果となっています。
「本校ではスピーキング力の向上を実感する生徒が90%超います。最終的にはSEFRのB1~B2レベル以上が60%を超えることを目標としています。生徒たちの英語力は年々上がってきているので、来年あたりには達成される予想です」と佐藤先生。
校内でも国際交流の機会が豊富にあります。
同校の生徒たちに共通しているのが、英語で積極的にコミュニケーションする力が身に付いているということです。
「度胸があるというのか、英語で話そうとする気概があるところが本校の生徒の特徴です。帰国生だけでなく日本で英語の勉強を頑張ってきた小学生は『英語特別コース』にぜひチャレンジしていただきたいと思います」(佐藤先生)
一般生と帰国生は同じクラスなので、多様なものの見方や柔軟な考え方を持つ帰国生たちとともに生活を送ります。校内はすでにグローバル化に対応しているということです。
「自分には何ができるか」を考え、アクションに移す姿勢が涵養された生徒たちの活動に先生方も大きな期待を寄せています。
外部とのつながりを求める姿勢や発信する力を重視する富士見丘学園の今年の文化祭は、SDGsに結びつけたイベントや発表が行われます。
「我々もどんな文化祭になるのか楽しみです」という、同校の先生たちのワクワクを共有しに、9月29日(土)・30日(日)の富士見丘学園の文化祭へぜひ足を運び、生徒たちの活躍の様子をご覧ください。