学校特集
関東学院中学校高等学校2024
掲載日:2024年7月1日(月)
三春台の高台に位置する同校のキャンパスは、いつ訪れても活気に満ちています。「人になれ 奉仕せよ」をスクールモットーとし、キリスト教を教訓に人格を磨く6年間のなかで、密接に結びついているのが海外研修プログラムです。一人ひとりの生徒が、思い立ったときに、いつでも世界に飛び出して人々と交流できるように、中1から高2までが参加できる、さまざまなプログラムを提供しています。コロナ禍で一時、中断せざるをえませんでしたが、2022年より徐々に再開。「昨年度も約50名がなにものにも変え難い経験をして、現在の学校生活に活かしています」と話す、海外交流委員長の濵本真理先生に、海外研修プログラムのねらいや概要を伺いました。
礼拝から始まる学校生活
「ピースメーカー」を育てたい
同校は、1884年に横浜バプテスト神学校の宣教師によって建てられた学校です。1919年に中学関東学院が設立されました。スクールモットーの「人になれ 奉仕せよ」は、その第1回入学式で、初代学院長がキリスト教に基づく学院の教育理念を端的に言い表した言葉です。
学校の成り立ちや建学の精神、聖書に基づく考え方など、学校の真髄は「聖書」の授業や「礼拝」の時間にわかりやすい言葉で生徒に伝えられ、生徒自身が考えて、自分のものにしていきます。
濵本先生:そのなかでずっと語り継がれてきたのが、J・H・コベル先生という宣教師の言葉や考え方です。コベル先生は『Friendship not battleship』という言い方で『戦艦ではなく友情』ということを言い続けていました。戦時下に関東学院が軍事教練を始めると、平和主義者のコベル先生は喪服姿で学校に来て、「今日は関東学院が亡くなった日だ」と嘆き悲しんだそうです。そうしたエピソードも含めて、生徒に伝承しています。本校が「世界の平和と幸福に貢献できる人」、いわゆる「ピースメーカー」の育成を目標としているのも、コベル先生によるところが大きいのです。
「ピースメーカー」というと、自分とはかけ離れた目標のように感じるかもしれませんが、礼拝から始まる日々の積み重ねにより、考え方や行動に変化が見られるようになり、次第にその目標が自分事になっていきます。
学年ごとに聖書に基づくテーマが設定されており、キリスト教の教えを軸に、自分を見つめる宿泊行事も設けられています。その一つが、神の摂理、生活への感謝、自身への洞察、将来への展望などを求める修養会です。中学1年生・高校1年生・高校3年生という節目の年に、都会を離れ、豊かな自然の中で語り合うことにより、生徒は心に期するものをもって帰ってきます。
その他の学年では、日本や海外で視野を広げ、交流を楽しむ宿泊行事を実施しています。中学2年生は京都・奈良、中学3年生は広島・長崎で日本の歴史や文化を学び、高校2年生は台湾の姉妹校との交流を通して、世界の平和と幸福に貢献することの意味や、自分にできることは何かを考えていきます。
濵本先生:今も世界のあちこちで国と国との争いが起きていますが、人は皆、生まれる時代も、場所も選べません。与えられたものなので、生徒はもとより、若い人たちには、その人のバックボーンにかかわらず、理解し合うこと、関係を築けることの大切さを、身を持って体験し、人生に生かしてほしいという思いがあります。それを言葉で伝えるだけでなく、1つのプログラムとして提供しているのが、「海外研修プログラム」になります。
学年に応じて参加できるプログラムは異なりますが、中1から高2まで、生徒が「行きたい」と思った時に参加できるプログラムを提供しています。
濵本先生:ただ単に、英語のレベルやプレゼンテーション能力を上げるためとか。大学入試に役に立つからとか。そういうことを目的としたプログラムではありません。もちろん、それらがあってもいいのですが、根本的にはキリスト教の教えが土台にあっての国際交流となります。
キャンパスがある横浜は、昔から様々な人が出入りしています。 宣教師が来て、本校もできました。生徒もいろいろなバックグラウンドを持っていますので、 互いに認め合い、皆で良い関係を築いて、学校が小さな社会になってほしいと思っています。そのために礼拝があり、キリスト教の講話があり、国際交流があると考えています。
海外研修プログラムを再開。
異国ならではの気づきに価値がある
海外研修プログラムは、コロナでしばらくの間、中断しなければならない状況でしたが、2022年から希望者に応じて再開しています。
濵本先生:難しい判断でしたが、生徒が行きたい、と思った時に行けなければ、成長の機会を逃してしまうので、夏休みに実施している2つのイギリス研修から再開しました。
1つは、本物を見て触れて自らを高める「サマースクール」(14日間/高1、高2・英検準2級以上が対象)です。名門校の「イートンカレッジ」に滞在し、そこで実施される語学研修に参加します。
濵本先生:参加者の中に、英作文でかなり良い評価をいただいた生徒がいました。それが刺激となり、ますます熱が入って、大学進学で満足のいく結果が得られたのではないかと思います。現在、「イートンカレッジ」が修理をしている関係で、2023年度は「モーバンカレッジ」に行きました。2024年度は「ラグビースクール」に行く予定です。
もう1つのプログラムは、大規模な英語研修が主体の「インターナショナルプログラム」(10日間/中3〜高2・英検準2級程度が対象)です。
濵本先生:このプログラムの特色は、ヨーロッパからも参加者が集まるところです。生徒たちは、ヨーロッパの人たちも英語を学ぶ、ということにまず驚いていました。日本で過ごしていると、案外気づかないものなのです。また、本校の生徒のなかにも、英語を口にするのが恥ずかしい。間違っていたらどうしよう、という思いから、黙ってしまうということがよくありますが、ヨーロッパの学生はそうではなかったようです。生徒は「彼らは一生懸命コミュニケーションを取ります。文法が正しいかどうかなど、全く気にしません。自分が伝えたいことを懸命に伝えようとしている姿を見て、それでも伝わるんだ。友だちになれるんだ、と思った」と、話していました。
海外研修プログラムに参加する意味は、そうした気づきにあります。
濵本先生:例えば「ナショナルギャラリー」(国立美術館)に行くと、素晴らしい芸術作品を無料で鑑賞できます。そのことに驚き、日本の社会にも反映したらどうなるだろうか、と考える生徒もいます。ただ語学を勉強しに行く、観光する、ということではなく、社会のあり方、国の政策のあり方の違いや、文化をどこまで大切にしているか。そういうところにも考えが及んで、問いを持つことにより、学びが広がるのです。
長く滞在するからこそできる体験がある。
やり残しの宿題がその後の学習の力になる
約3ヵ月間、現地校で過ごす「ターム留学」(高1、高2・英検2級以上が対象)は、オーストラリア(2名)とカナダ(1名)、2つの行き先があります。
濵本先生:コロナで途絶えたり、学校が変わったりしていますが、10年以上続いていている留学制度です。長く滞在するため、生徒が異国に馴染んでいく過程でいろいろなことが起きます。思いがけない気づきや経験がもたらされるところがこのプログラムの魅力です。
語学の壁、文化の壁、習慣の壁など、生徒はなんらかの壁にぶつかります。気づきにとどまらず、なんとか解決しよう、と、もがくことができるのが、長く滞在する醍醐味です。帰国した生徒から話を聞くことが多い濵本先生は、「胸が熱くなる話が多い」と言います。
濵本先生:例えば、本校では周りをどんどん巻き込み、リーダーシップが取れる元気のいい男子生徒が「人生の中で初めて孤独を感じた」と言うのです。「ターム留学」は選抜なので、もちろん会話はできていたと思いますし、疎外されていたわけではないと思いますが、孤独を感じて、ある子から「一緒にランチ食べよう」と声をかけてもらった際に、「一人でいる子の気持ちが初めてわかった」というようなことを言っていました。
それからいろいろな交流が生まれ、関係を築くことができたので、もっと英語を頑張りたい、という前向きな気持ちになっていましたが、それ以上に嬉しかったのは、今後、一人でいる子を見つけたら、これまでよりももっと気にかけていきたい、と思ってくれたことです。じつに良い体験をしたな、と思いました。
他にも、バスを乗り間違えてしまった生徒が、ホストファミリーの家までどう帰ればいいのかわからず、不安な気持ちになるなかで、人の力を借りてなんとか帰宅できたそうです。人の親切が身に染みたに違いありません。
濵本先生が「気づきと経験が大事」と話す背景には、ご自身の留学経験があります。
濵本先生:私も高校時代に6週間ニュージーランドに行く機会があったので、生徒から「どのように英語を身につけたのか」と聞かれると、その時の話をします。
お世話になった人たちとお別れする時に、感謝の気持ちを伝えたい、と思ったのですが、なぜか「Thank you」しか出てこなかったのです。英語でコミュニケーションは取れていたのに、自分の気持ちを表現したい、と思ったら、何も言えなかったもどかしさや悔しさを感じて帰ってきました。それが英語をもっと勉強しよう、というモチベーションになったので、帰国した生徒たちにとっても、やり残しの宿題というか、これからどうにかしていかなければいけない、という気持ちが、1番いい原動力になると思います。そういう意味で、ターム留学は実りのある経験になると思っています。
●「ロサンゼルスホームステイ」(約1週間/中1~高2対象)
英語力を問わず、中1から参加できるプログラムです。クリスマスシーズンのアメリカで、ホストファミリーとの生活やボランティア活動を体験します。
●「オーストラリア研修」(10日間/中1、中2対象・英語レベル設定なし)
3月下旬に行くので、晩夏から初秋のオーストラリアをホームステイで体験できます。移民が多い学校なので、世界の文化を体験できます。
●「カナダ研修」(10日間/中3、高1対象・英検準2級程度)
「オーストラリア研修」と同じ時期に行くホームステイプログラムです。大学訪問や現地校での貴重な体験ができます。
アジア圏では台湾の姉妹校と交流。
欧米とは異なる気づきに期待
同校と姉妹校の関係にある、台湾の長栄高級学校でのホームステイ(約1週間/中3~高2対象)も再開しました。
濵本先生:本校と同じくキリスト教を土台としている学校で、高校2年生の宿泊行事でも訪れています。2019年の冬以降、コロナで途絶えていましたが、2023年12月に再開し、 中学3年生2名、高校2年生2名が参加して、ホームステイで台湾の人々との交流を楽しみました。
本校では課外授業で中国語と韓国語を学べます。参加者は中国語を少し勉強していくのですが、現地では英語で話すことも多いようです。
5月には台湾の生徒が来校します。
濵本先生:16名(男女各8名)が来てくださるので、 ホストファミリーを募ると、たくさんのご家庭が申し出てくださいました。中国語によるウエルカムスピーチや、休日には受け入れ側の生徒とともに鎌倉散策などを楽しんでもらおうと考えています。
英語圏にとどまらず、アジアの国との交流を深めていく背景には、同じ地域の国にも目を向けてほしいという思いがあります。
濵本先生:コロナ対策にしても、台湾は他国に先駆けて感染拡大を抑えるなど、見習うべき点があります。 また、少子化問題など共通の課題もありますから、そうした問題点についてお互いに知恵を出し合い、解決策を考えるというような道筋も見えてくるかもしれません。そもそも、日本に来る長栄高級学校の生徒さんは日本文化に興味があります。交流を通して、アジア諸国から日本はどのように見えているのか、いうことに気づくこともできるので、台湾との交流はこれからも大切に継続していきたいと考えています。
キリスト教の教えを軸に、世界の平和と幸福に貢献できる人づくりを目指す関東学院には、人としての器を広げる貴重な体験の場として、海外研修プログラムが用意されています。海外研修プログラムに中学1年生から果敢にチャレンジする生徒もいて、海外での体験から得た気づきを、その後の学校生活に生かして成長を遂げています。同校を訪れた時に感じる活気は、そうした生徒たちの意欲によるものなのでしょう。ぜひ一度、同校を訪れて、その活気を肌で感じてみてください。