学校特集
麗澤中学校2024
掲載日:2024年3月14日(木)
1935年、法学博士・廣池千九郎先生は「知識を活かすものは品性と道徳性である」と、道徳を学問として学ぶ「モラロジー(道徳科学)」を創建し、「道徳」と「実学(外国語と経済)」を教育の柱に「道徳科学専攻塾」を開きました。それが、麗澤の起源です。真の「知徳一体」を目指す教育を展開し続けて89年。高度な教科教育は言うに及ばず、自分と目の前の相手だけではなく、世間、つまり目に見えぬ遠くの人をも思う「三方よし」の精神を教育哲学とする同校では、社会的活動も活性化しています。校長の櫻井讓先生と、社会科・SDGs研究会顧問の瀧村尚也先生にお話を伺いました。
麗澤の学びは、世界が教室。
知徳一体の教育で、「本物の叡智」を身につける
「道徳」の授業を6年間継続
「麗澤の学びは、世界が教室。」には、言語技術教育や英語教育、道徳教育や探究学習「自分(ゆめ)プロジェクト」など、多様な学びを通じて、本物の叡智を身につけてほしいという願いが込められています。また、同校の教育理念「知徳一体」には、学んだ知識を人や社会のために活かすには、徳(心の力)が何より大切であるとの意味があります。
例えば、ノーベル賞の父・アルフレッド・ノーベルは、土木工事の安全性向上のためにダイナマイトを発明して巨万の富を得ましたが、一方で戦争に使用され「死の商人」とも呼ばれました。そこで、遺産をノーベル賞創設に当てたと言われます。
善と悪は表裏一体。知識も同じです。誰でも等しく活用することができるものの、どういう考え方で使うのか。だから、廣池先生は「知識を活かすものは品性と道徳性である」と説いたのでしょう。
校長も「教育の究極の目的は『恩に報いることのできる人間』を育てることです」と語ります。「知る、感じる、報いる。本校では、この3つの段階を考える教育を大切にしています」と。
櫻井校長:「6年間を通して週に1回道徳の授業があります。担当教科に関係なく、すべての教員が授業を受け持ちますが、教条的なことを一方的に押しつけるものではありません。幸福について科学的に追求する『考え方の学問』として、教員と生徒が『生き方』を共に学び、人間力を高めるために行っていますので、教材はありますが、教員が自分の経験を例に引いて話し合うことが多いですね」
年に12回行われる校長講話(各学年につき年2回)も同様です。校長は「空理空論になっては意味がない」と、学年ごとに生徒が抱えているであろう、進路や人間関係での疑問や悩みを想定して生徒たちに語りかけているそうです。
「5つのL」を育成する教育を展開
このような人間性を育む教育を基盤としながら、本物の叡智を獲得させるために「5つのL」を伸ばす教育を展開する同校。5つのLとは、「Language(英語力)」「Liberal Arts(教養)」「Logical Thinking(論理的思考力)」「Literacy(情報活用力)」「Leadership(リーダーシップ)」を指します。
とくに論理的思考力を鍛え、根拠に基づいて説明できる表現力を養うために同校が実施する「言語技術教育」(※)と「英語教育」(※)は出色です。ちなみに、言語技術という骨格を身につけているため、英語学習での成果も飛躍的に伸びるなど、この二つは密接に連関しています。
※「言語技術教育」の詳細はコチラ→https://www.hs.reitaku.jp/study/languagearts/
※「英語教育」の詳細はコチラ→https://www.hs.reitaku.jp/study/english/
ここでは、言語技術について詳細に説明するのではなく、4年生が書いた「言語技術と数学の関係性」と題したエッセイの一部を抜粋・要約してご紹介しましょう。
同校は他校に先駆けて2003年から「言語技術」を実施していますが、具体的なものを抽象化することで論理的思考力を身につけ、思考のプロセスを言葉で伝えるこのプログラムは、企業やプロスポーツの世界でも導入されています。
その生徒は「言語技術は他教科にも直結する能力を高められる」と言います。
「具体的なものを抽象化するには情報を正確に読み取り、視点を変えて多角的に見渡して共通するものを見つけなければならない。言語技術の授業では、このような思考プロセスを経て情報を取捨選択し、伝える順序を考え、他者が理解できるように言語化する。このように具体的なものを抽象化し、さらに言語化して伝えるには徹底した論理的思考力が必要とされるため、言語技術という教科を通して高い思考力を身につけることができるのだ」と。
その一例として数学の学習との共通点を挙げたうえで、「言語技術を身につけることで、私たちは大学受験での成功に近づけるだけでなく、『問題解決プログラム』でもある人生そのものを豊かにできるのである」と書いています。
「言語技術は『問題解決プログラム』である人生そのものを豊かにできる」。生徒が自分で編み出したこの言葉からは、その学びを「体験」したからこその実感がひしひしと伝わってきます。
このように知識を蓄えることはもちろん、人としての大きな骨格を培う教育の中で、生徒たちは自ら動き出しています。
1935年、創立者の廣池先生はイギリスのパブリックスクールをイメージし、戦前では珍しい全寮制で男女共学という学校を創りました。人間教育(道徳教育)の実践の場として、寮生活が最適と考えたのです。当時は日本全国、また海外からの生徒が入寮していたそうです。
そして1992年、寮制を維持しながらも、地域の学校として開かれた教育を提供するために通学制も導入。2002年には、中学を開校して中高一貫校になりました(入寮できるのは高校生のみ)。
SDGsというメガネを通して、物事を俯瞰することを学ぶ。
教育理念を体現するSDGs研究会「EARTH」
SDGsの精神は同校の気風そのもの
円卓が並び、壁面全体がホワイトボード兼スクリーンになっているICTルームなど、施設設備面でも先端の学習環境が整う同校ですが、その中で次代に求められるスキルを着実に身につけつつも、変わらず大切にしているのは、やはり自分の足で立ち、他者と協働・協創していける人を育てること。
今でこそ、SDGsという言葉は周知されていますが、同校の教育理念「知徳一体」「知恩・感恩・報恩」「国際的日本人」は、まさにSDGsに合致したものといえるでしょう。
同校には、SDGs研究会「EARTH」があり、中高合わせて約70名が精力的に活動しています。
活動内容は「レモネードスタンド(※)」や「フェアトレードコーヒー(※)」をはじめ、フェアトレード紅茶企画、ボランティアサイト運営企画、多世代へのSDGs啓発企画など、多岐にわたっています。
※レモネードスタンド:小児がんの子どもたちを支援するもので、校内で募金活動を行い、お礼としてレモネードを提供して募金額を寄付。
※フェアトレード:発展途上国から原料や製品を適正価格で購入し、生産者が正当な利益を得られるようにする取り組み。
この「EARTH」は、2018年から有志が集まって「チームEARTH」として活動してきましたが、他の生徒たちの関心を呼び、どんどん活性化して、2020年に部活動に昇格しました。
ちなみに、通常の部活動では学校から部費が支給されますが、EARTHは部費をもらわず、持続可能な活動を行うことができるビジネスモデルを自分たちで構築しています。
例えば「フェアトレードコーヒー」では、バリスタの資格を持つ瀧村先生からハンドドリップの技術を教えてもらい、自分たちで淹れたコーヒーを保護者会やイベントで提供したり、生徒たちが描いたイラストが印刷されたドリップバックも販売しています。
瀧村先生:「SDGsではお金の観点もとても大事です。たくさん必要というわけではなく、お金をどう扱うか。どう得るかよりも、どう使うかが大事なのです。それを生徒たちに考えてほしいのです。生徒たちによく言うのは、商品を売っているわけではなく、あくまでも目に見えない多くの誰かの思いを届けるんだと」
生徒たちは販売するだけではなく、自分たちでリーフレットを作り、買ってくれた方一人ひとりになぜこの活動を行っているのか、どうしていきたいのかを自分の言葉で伝えています。
櫻井校長:「本校が大切にしているのは『感謝の心・思いやりの心・自立の心』です。感謝がなければ相手を思いやる気持ちは生まれませんし、周囲の人だけではなく、先人の知恵に触れたり、顔の知らない遠くの人のことも考えられるようになってこそ、広い視野に立ち、本当の意味で自立した国際的日本人になれるのだと思います」
校長の言う「感謝・思いやり・自立」の心を持つためには、素直さや謙虚な心、そして考える力と伝える力が必要なことは言うまでもありません。そして、そこに導くために大前提となるのは、知性と品性を育む「知徳一体」の教育環境です。
瀧村先生:「SDGsは『三方よし』そのものですが、本当に険しい道です。生徒たちは、真剣に悩んでいますし、私自身も日々、生徒と一緒に悩んでいます(笑)。まずはSDGsというメガネを通して、世界の出来事をいかに自分事としてとらえるか。そこを大切に、解決策をさまざまに模索しています」
2022年からは、「この商品の生産者から消費者に届くまでの流れを可視化するだけでなく、この商品を通じて障がいのある方が働きやすい社会を作りたい」という生徒の強い思いから、第四弾のコーヒードリップバックの袋詰め作業を障がいのある方に就労支援として委託することを実現させました。また、より多くの人にご来店していただきたいと考え、出店時の接客に手話を導入しました。
瀧村先生:「生徒の思いを聞いたときは、正直びっくりしました。商品の完成だけで満足せず、その先をしっかりと見据えていたのです。新しい挑戦への期待と不安の両方があった中でのアクションでしたが、最後までやり抜いたことで商品化を可能とさせました。今回の商品を通じて、生産者を守るフェアトレードを超え、生徒の想いによってトレーサビリティの確保だけでなく、新しい雇用を生み出すことを実現したんです。今後、この繋がった輪が途切れることのないように、持続的に活動を行っていきたいと思います。」
考えに考えて、行動し始めても行き詰まる。自分たちが良いと思っても、第三者にとっても良いものでなければ、本当に良いことであるとは言えない。
これが、SDGsの難しいところですが、しかし、生徒たちは諦めません。今も、試行錯誤の最中です。
生徒たち自身の中に、「三方よし」の精神が確かに芽吹いているようです。
「自分自身が楽しむこと」が大切
瀧村先生:「校長もよく『大切なのは、自分自身が楽しむこと』と言っていますが、私も生徒たちに『この活動を楽しいと思えないならやめたほうがいいよ』と伝えています。苦しいことからは逃げたくなるものですが、生徒たちはそこに耐えるくらいの気持ちを持って活動していますし、仲間と協働して、一緒に悩んで出した答えはかけがえのないものです。私は生徒が真剣に、目を輝かせて『ああじゃないか』『こうじゃないか』と考えている様子を見るのが大好きなんです(笑)。教師冥利に尽きますね。また、嬉しいことにその考え方や行動姿勢は、全校生徒にちょっとずつ広がっているように感じています」
ところで、瀧村先生はある大学の先生から「18歳くらいまでに培われた感覚は、大人になってからの考えや行動に大きく影響を及ぼす」という話を聞いてハッとしたと言います。
瀧村先生:「例えば、男性のトイレは青で、女性のトイレは赤で表示されることが多いですが、その先生は『なぜ、そうなのか?』と言うのです。私自身は、一切気にしたこともなかったのですが。そういう考え方を持って成長していく人と、考えないまま大人になるのとでは全然違いますよね。いかに物事を多面的に、多角的に見ることができるか。その意味からも、SDGsを通した教育はとても大事だと思っています」
今、盛んに言われる「多様性」です。これまでに蓄積された既成概念から、守るべきは守りつつ、どう自分を解放するか。極めて難しいことですが、今後、いっそう求められていくことでしょう。
瀧村先生:「生徒のレポートを読んでいると、『この文献、全然知らなかった』と、私自身も勉強になるのですが、そういった興味・関心を、中高生の間に『学ぶ意義』にまで昇華できれば、大人になっても学び続けることができると思います」
櫻井校長:「昔の学校教育では『答えのない問い』にはなかなか出会えませんでした。でも、特に今の社会では多様な視点から、しかも論理的に考えていかないと、さまざまな問題の解決には行き着きません。本校では、そのような学びをいっそう大切にしていきたいと思っています。悩むことでしか、人は成長しませんので(笑)」
同校には、他にもキャリア教育の一環である「自分(ゆめ)プロジェクト」での多彩な取り組みや、数多くの体験型探究学習プログラムなど、多様な視点を育てる場が豊富です。
体験して、実感する。そして、考え続ける。それこそが持続可能な学びです。高度な教科学習はもちろん、このような姿勢を同時に培うことは、先のエッセイを書いた生徒が言う「問題解決プログラムである人生」を支える大きな基盤になるに違いありません。
校長は「本校には物事をストレートに受け止め、素直に反応する生徒が多いように思います。人の役に立つことを大切にしたいと考える。そして、それを楽しくやっていますね」と言います。そして、「この学校で、『学ぶ意義』を学んでほしい」とも。
知識を学び、見聞を広げることはもちろん大切です。でも、何より実際に自分で一歩一歩始めてみる......真の人間教育・平和教育とはこういうことかもしれない。先生方のお話を聞きながら、そう実感させられました。
2017年に竣工した食堂「けやき」。平屋建ての独立した別館になっていて、中高生合わせて約1200名が一堂に会することができるほど、ゆったりとした贅沢な空間です。
同校では、中学校及び高校の全学年で給食制が導入されており、月曜日から土曜日まで、全員がこの食堂で昼食をとります。給食では、日替わりで「定食」、「丼」、「麺類」、時には季節や行事に応じたメニューなどが提供されます。高校の寮生は、朝食や夕食もここで食べます。
バラエティに富み、栄養バランスの整った温かい給食は、生徒に大変好評で、保護者の方々にとっても嬉しく安心な体制です。