学校特集
国立音楽大学附属中学校2017
"音中" "音高"の愛称で親しまれている国立音楽大学附属中学校・高等学校は、1949年に創立された男女共学校です。中高一貫校として誕生した同校の教育理念は、「自由」。制服もなく、校則らしい校則もない自由な校風の中で、生徒たちは自由の意味を考えながらのびのびとした学園生活を送っています。音楽に情熱を傾ける生徒たちを育ててきた同校は、2010年に中学に「普通コース」を設置して併設型一貫校となり、さらに2017年には高校普通科が「特別進学コース」と「総合進学コース」の2コース制になりました。伝統ある音楽教育を続けると同時に、新たな改革に踏み出した同校が目指す教育について伺いました。
"音中" "音高"が目指す教育
自由・自主・自律を追求する6年間
数ある音楽大学の附属校の中でも、普通コースをもつ中学校、普通科をもつ高等学校は希有な存在です。「じつは、本校に中学普通コースや高校普通科があることを知らない人もまだ多い」(広報部副部長の五十嵐稔先生)そうですが、音楽以外の道を希望する人のために設置された中学普通コースは早くも7年目を迎えています。
中学では、両コースの生徒は混合し、ホームルームを含め、ほとんどの科目と学校行事を全員一緒に学んでいます。それぞれ独自の授業が行われるのは、音楽コースの実技試験が行われる期間などに限られ、普通コースでは、音楽コースとは別の教材を用いて課題や問題に取り組みます。
普通コースに通う生徒と保護者の志望動機の大半は、音楽に囲まれた環境で6年間を過ごし、豊かな感性と知性を育みたいというもの。長い伝統を誇る同校だけに、なかには親子3代に渡って同校の卒業生というケースもあるそうです。
「自由」を教育理念として、戦後間もない時期に誕生した同校が目指す教育は、「自由・自主・自律」の追求であると、校長の星野安彦先生は話します。
「音楽芸術を基盤とする本校では、自由な精神と個の尊重から表現の自由が生まれると考えています。しかし、何をやるのも自由だけれど、それが行動・表現となった時の影響までは、若い生徒たちには思い至ることができません。精神的に自由であるとはどういうことか。自由とは何かを自主的に考え、自らを律しながら、社会との向き合い方、他者との関係を構築していってほしい。そのための道筋を、本校の6年間で身につけてほしいと願っています」
生徒と先生方の距離が近いのも、のびのびとした校風の同校ならでは。たとえば校内での携帯電話の使い方であったり、昼食の購買スペースであったり、疑問があると「どうして? なぜこうなるのですか?」と、教員室にやってきてどんどん質問や要求をしてきます。時には"好き勝手"な問いかけもありますが、頭ごなしに否定することなく、先生方は「なぜだと思う? どうすればできるか考えてみよう」と、生徒自身が答えを見つけるように仕向けます。
「あの頃を振り返ると、先生方がよく我慢してくださっていたと思います」と苦笑するのは、同校出身でピアノを教える、五十嵐稔先生(1985年卒業)。生徒の意志と個性を尊重しながら、人としての豊かな心を育むのが同校の特徴です。
音中の授業内容は?
附属小学校から上がってきた生徒と中学受験を経た入学生は、違和感をもつことなく自然に仲良くなっていきます。中1では、音楽と合唱の授業は両コース共通で受け、「音楽コース」は週に2.5時間の音楽の専門授業(レッスン・ソルフェージュ・創作)を行い、「普通コース」は普通コースのみの国語・英語・音楽の授業を行います。
創立以来週5日制であり、土日は練習や勉強など、自分を磨くための時間にあてています。
また、夏期・冬期の期末テスト終了後、音楽コースでは約1週間実技試験がありますが、その間、普通コースの生徒たちは少人数での特別授業を受けます。さらに、「アクティブラーニング」や模擬試験、その解説授業、ほかにも必要に応じて、随時補習が実施されています。
互いに切磋琢磨し、刺激しあう両コース
音楽コース・普通コースの生徒たちは、どのように過ごしているのでしょう。
専攻をもち、日々練習に打ち込む音楽コースの生徒。一方で、音楽的環境の中で知性を磨く普通コースの生徒たち。休み時間の教室や廊下で、楽器の練習に励む生徒たちがいたり、時には校内放送で、「○○さん、レッスン室に来てください」と催促されることも日常風景です。時には、レッスンや実技試験でうまくいかなくて泣いている生徒の姿を、普通コースの生徒たちが目の当たりにすることもあります。
「でも、失敗しても生徒たちはへこたれないですね。失敗した理由は練習不足や実力不足など、自分のせいだとよくわかっていますから」と、五十嵐先生。こうした時に涙する厳しい時間も、「多感な時代に享受できる宝物の経験」と話します。
「普通コースの生徒たちは音楽に熱中する生徒たちの頑張りに心動かされ、逆に音楽コースの生徒たちは普通コースの音楽に縛られない個性に気づく。学校で刺激を受けることで、新しい世界に目が開かれていくことも多いようです」(星野校長)
レッスンが厳しいのは当たり前。しかし、それ以外の部分では最大限、生徒たちの個性を尊重するのが同校の伝統。自分が認められているという絶対的な安心感を得て、「人は人、自分は自分」というアイデンティティを育みます。積極的に夢に向かって突き進もうとする生徒が多いのは、そうした自己肯定感の強さともいえます。これこそが、他校にはない音中・音高の強み、大きな魅力です。
入学後も、コース変更ができる
(バスもあり)
共に学ぶ中学3年間は、刺激と気づきの連続です。逆に言えば、音楽芸術や自分自身に対する「迷いと悩みの3年間」でもあるのです。「ずっとピアノを続けてきたけれど、高校は普通科に行きたい」など、志望が変わることも少なくありません。そうした生徒たちのために、中1から高1の前期までは、試験に合格すればコース変更ができるシステムを取り入れています。「普通コース(普通科)→音楽コース(音楽科)」「音楽コース(音楽科)→普通コース(普通科)」と、転コース(転科)ができるのです。
併設型一貫校の利点を生かし、柔軟に方向転換ができるのも同校の良さ。生徒たちが幅広い視野に立って自らの可能性を考えられるようになったためか、普通コース開設7年目の現在、"中学音楽コース→高校普通科→一般大学"という進路も増えています。
音楽はアクティブラーニング
合唱は最高のアクティブラーニング
同校伝統の行事
アクティブラーニングとは、自ら進んで考え学ぶ姿勢を示す言葉です。音楽を追求する同校のアクティブラーニングは、日常の中にありました。
中学で最も盛り上がる行事の一つが合唱コンクールであり、音楽コース・普通コースにかかわらず、全員が「合唱」の授業を受けています。それは、「『合唱』は自分を発見し、確認し、生かしていく総合的な学習の場」(星野校長)であると位置づけているからです。歌詞の意味を理解し、表現し、仲間とハーモニーをつくり出す。そのプロセスそのものが、音楽を通じたアクティブラーニングといえます。
また、「校内演奏会」では企画運営から曲目解説、プログラムづくりも含めて生徒自身が行います。そして、学校説明会の司会や校舎案内も、生徒が自ら手を挙げて積極的に参加しています。先生方は「何をやりだすかと、ハラハラしています」と笑いますが、生徒たちの自主性を尊重し、さまざまな業務を委ねています。
日頃から楽器で表現することに長けている音楽コースの生徒に比べて、発表や表現の場が少ない普通コースでは、アクティブラーニングに特化した授業を行っています。「授業の課題は、『遊園地とテーマパーク』。比較、情報整理、魅力のポイントなどの課題をグループごとに担当し、討論しています」(滝澤秀副校長)
音楽を通じて身につける人間力
「アクティブラーニング」や演奏会など発表の場を経験することで、生徒たちは表現力や発信力を養っていきます。「とにかく、打たれ強い」とは、担任の先生方の感想。
一つのことをコツコツ続ける集中力や努力する姿勢、協調性や大勢の人の前で発表する発信力の強さ、マネジメント感覚など、どれもが社会に出た時に必要とされる能力でもあります。こうした人間力、社会に貢献する能力が、音楽、または音楽がある環境を通じて自然に培われていく。そここそ、同校ならではの最大の魅力といえるかもしれません。
変化を続ける中学普通コースと高校普通科
㈱プラスティーによる学習コーチング
高校普通科は、2017年から「総合進学コース」と「特別進学コース」の2コース制になりました。音中から進学した"伸びしろ率が高い"普通科の生徒たちは進学への意欲が高く、進路希望も多種多様になっていることをふまえて、それに対応する学習環境を整えるため。それが、2コース制設置の理由です。
文系・理系・芸術系など多様な進学を目指した「総合進学コース」は、選択制カリキュラムを実施しています。それぞれの進路志望に応じた選択科目を豊富に設け、生徒一人ひとりに合わせた学習指導や問題作成など、少人数教育の利点を生かした深い学びとサポートを可能にしました。
とくに、物理や数学など理系の選択授業では、ほぼ個別指導(生徒2人に対して先生1人のケースも)に近い形の授業が行われています。
「特別進学コース」は、国公立大学や難関私立大学、海外大学への進学を目指します。生徒たちの自律した学習を促すため、特進コースでは、㈱プラスティーと提携して学習コーチングを導入しています。「学習コーチング」とは、個別の進路に合わせた勉強のやり方を教えるため、教科指導以外に週に一度、学習コーチによるアドバイスを受けるというもの。「勉強面の個人トレーナーのような存在で、高校3年間をかけて学習スケジュールを組み立て、さまざまな課題をこなしていきます」(滝澤副校長)。また、月に3回程度「特進講習」(土曜)を行い、目標大学合格に向けた力を養成します。
ここで大切なことは、学習コーチと相談しながら生徒自身が自主的に取り組み、カリキュラムを作っていることです。「言われたことだけをこなす受け身の姿勢ではなく、生徒自身が『1週間の学習計画』をスケジュール化し、自分でチェックしながら効率的に勉強を進めていきます」(星野校長)
復習サンドイッチで記憶を定着
着実に学力を伸ばす
高校普通科に2つのコースができたことで、授業にも変化が表れています。同校では各教科50分授業で行われていますが、社会科では、授業の始まりの5分間で前回の授業の復習をし、終わりの10分間は、習った内容のポイント整理と小テストを行うというスタイルで行っています。授業そのものは正味35分間ですが、学んだ記憶を確実に定着させることを目的にした、効果的な勉強方法の一つです。
また、音楽や楽器の素養がなくても、中学入学段階からの6年間で音楽大学を目指せるだけの力をつけるカリキュラムも構築中とのこと。今後も、意欲的にさまざまなカリキュラムを導入していく予定です。
卒業生が語る、"音高"で学んだこと
「音楽や芸術を愛する自由な校風というと、ともすると行き過ぎて崩れてしまうところもありますが、本校にはそれがありません。とても不思議な学校」と滝澤副校長。他校から赴任してきた滝澤副校長が、もっとも驚いたところだったそうです。
中学音楽コースと普通コース、高校音楽科と普通科の併設という希有な教育体制をもち、生徒一人ひとりに寄り添った教育を行っている同校。音楽に情熱を傾ける生徒と、音楽以外の分野にチャレンジしたい生徒が同じ屋根の下で過ごす同校を、"学びの楽しさ、世界へ関心を抱かせ、視野を広げてくれた大切な場所"と表現したのは、今春、巣立っていった卒業生代表の言葉です。
もともと音大志望だったその生徒は、高校普通科から一般大学へ進学しました。音大志望もいれば、音楽にはあまり関心を示さない人まで、さまざまな生徒がいる環境の中で学び、出会い、進路を変えたのです。「音楽科の生徒の熱心さが普通科に伝わる。また普通科の知的な人材が音楽科を刺激する。それが音高の良さだと考えています」。そして、「音高は自由な学校ですが、自由を律する強さがなければ、どんどん落ちていく怖さがあります」
先生方の手が一切入っていないその答辞には、「自由・自主・自律」の意味と「個」の輝きがみごとに表現されていました。
多様化する進路希望に対応するために、さまざまな教育改革を実践し、現在も検討を重ねている真っ最中。そのように、同校の教育の裾野をもっと広げていきたいと話す星野校長。そして、音楽芸術を基盤とする同校だからこそ、「どんな進路であれ、生徒自身が目的を自覚できることが重要だと思います。単に覚えるだけの勉強からは、個性的な発想も人として大切な部分も育ちません。個性的な発想を生み出すためにも、何事にも自主的に取り組んでいける人間に育ってほしいと考えています」と、話してくれました。
友達と一緒にお弁当。
パンやおにぎりは校内でも販売している
中1で「遠足」、中2で「秋の旅行」
中3で「修学旅行」を実施
卒業生の幅広い進路
ハイライトは3色対抗リレー
同校の卒業生は、音楽に限らずさまざまな分野で活躍しています。リオ五輪のヨットセイリング470級の吉田愛選手や、世界的バレエダンサーである熊川哲也率いるKバレエカンパニーの正式団員になった生徒もいます。在校生には、日本棋院の院生も。
自由と自主性を重んじる校風の中で培われた才能が、音楽以外の分野でも発揮されているのです。
中学から高校へは約9割が内部進学。そのうち高校音楽科へ9割、高校普通科へは1割進学しています。
普通科では約9割の生徒が4・6年制大学に進学しています。そのうちの約2割は国立音楽大学への内部推薦制度での進学。同大学の「演奏・創作学科(コンピュータ音楽専修のみ)」と「音楽文化教育学科」が、普通科から推薦可能な学科です。
音楽以外の他大学への進学実績も堅調で、国公立、早稲田、慶應、上智、東京理科、GMARCHや理系大学への合格者数も年々、伸びています。高校普通科2コース制の成果が表れるのは、2年後から。さらに、進学実績が伸びることが予想されています。
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●指定校推薦中央大学/成蹊大学/成城大学/獨協大学/東洋大学/専修大学/神奈川大学/玉川大学/日本歯科大学/麻布大学/女子栄養大学/東京電機大学/工学院大学/フェリス女子大学/大妻女子大学/実践女子大学 など約80校300学科
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