学校特集
江戸川学園取手中学校・高等学校2017
今年、創立40周年を迎えた同校。24年前、高校に「医科コース」を設けて以来、医学部への進学者は1300名近くにのぼります。昨年から、生徒たちの主体性のさらなる涵養を目指して、中学も「東大ジュニア」「医科ジュニア」「難関大ジュニア」の3コース制に転じ、同校での学びはますます活気づいています。「授業が一番」をモットーにしながら、道徳を中心とする「心の教育」や一流にふれる「イベント教育」など、緻密に、ダイナミックに展開される学びのなかで、生徒たちは『世界型人材』になるべく、元気に明るく前進中。そんな同校の教育について、校長の竹澤賢司先生に伺いました。
「規律」とは、「思いやりの心」で支えられるもの
教育方針として「規律ある進学校」を謳う同校ですが、「規律」とは「思いやりの心」に支えられるものと校長は言います。「人格を磨くことは学力向上につながり、夢や目的をもって一生懸命勉強に打ち込むことは人格形成につながっていく。学校は『人づくり』の場です。ですから、生徒の夢は学校の目標なのです」と。
ここで、改めて同校の基本骨子をご紹介しましょう。
教育方針 規律ある進学校
教育実践 「心力」・「学力」・「体力」の「三位一体」の教育
校 訓 誠実・謙虚・努力
これらはすべて、しっかりと自立した大人になるための基本そのもの。自分を見つめ、他を思いやり、頑張るべき時にきちんと頑張ることができる姿勢を培うものです。
環境も人をつくる
竹澤校長:「歴史を紐解いてもそうですが、この変化の時代、努力している人にとって変化はチャンスになりますが、努力していない人には変化はピンチになります。そして、変化の時こそ2倍も3倍も努力して、道を切り拓いていけるような人材を育成してこそ教育だと思っています。魅力的な人材というのは、豊かな心を持っている人のこと。懐が深く、相手を理解するだけの教養を備え、しっかりした理念を持ち合わせていれば、相手によって態度を変えたりすることなく人品のクオリティーを維持できる。ですから、掛け値なく純粋に考え、行動できる中高時代にこそ、そういった基本を磨く必要があります」
ところで、よくいわれる「グローバル人材」ではなく、なぜ「世界型人材」なのでしょうか。
竹澤校長:「私は国語の教師でもあるのですが、日本語の豊かさは、まさに世界に誇る遺産です。ですから、日本語のもつ意味を大事にしてほしいのです。『型』は人をつくります。学問とともに礼儀やマナーも身につけ、我慢する力や継続する力も自分の型として体得する。そういったアイデンティティーこそ、『世界型人材』の根っこになるのです」
人格を磨く「心の教育」
心と身体のバランスも取りにくく、悩み多き中高時代。「ブレない心を育てることは、すべての軸になる」「タフな学力を支えるのは人間力」という考えから、同校では道徳をはじめとした「心の教育」に力を入れています。「道徳の授業」は中1(年14回)と高1(年8回)で実施。また、「校長講話・副校長講話」「ロングホームルーム」「合同ホームルーム」などでも同様の学びが実践されています。
竹澤校長:「心は鍛えるものです。そうでなければ、本当の優しさは生まれません」
「道徳」の授業と、「校長講話」
「道徳」は70分授業で、先生による講話が35分、話し合いと意見発表が30分、そしてまとめで5分。「友人の多様性を受容する」「ルールについて考える」など、毎回決められたテーマに沿って意見交換をし、人としてどうあるべきかを考えていくのです。
また、中1対象の「校長講話」は年に6回実施されますが、ここでは「リーダーの条件とは」というテーマで、野口英世や孔子、マザー・テレサ、二宮尊徳、リンカーン、福沢諭吉など(17年度の例)について取り上げ、生徒たちと同じくらいの年齢の時に偉人たちがどのように過ごしていたかを例に引きながら、リーダーの資質について語られます。
「心の教育」は、「書くこと」によって根づく
「道徳」の授業でも、「校長講話」でも、生徒たちは自分の感想をノート1ページに書いて担任の先生に提出します。ノート1ページ分といえばけっこうな文量ですが、その理由について校長はこう語ります。
竹澤校長:「書くことなくして考えは深まりません。書くことによって考えが整理でき、大事なものが自分の中に残る。そして、自分が納得したことは実行に移そうとしたり、他人に話そうとするなど、アクションを起こすようになります。それをくり返していくと、心も成長していく。ですから、本校では『心の教育』に限りませんが、『書くこと』は欠かせないのです」
生徒たちはもちろんですが、先生も同様です。生徒たちの感想に対して、なんと先生も同じくらいの文量のコメントを添えて戻すのです。「教師は個々の成長具合を見ながら、生徒をプラス思考に向かわせなくてはなりません。教師自身も研鑽しなければならないのは当然のことです」と校長。
このように生徒と先生が密度の濃い心のキャッチボールをくり返していくなかで、生徒たちは物事を深く考える習慣、そして道徳観を身につけ、人格を磨いていくのです。
ちなみに、書くことが普段から習慣づいていることから、大学受験のための小論文対策も特別必要ではなかったと語る卒業生も少なくありません。
「反抗期」は「自立期」でもある
夏休みに行われる勉強合宿に出かける際、不安に思っていた中学生がいたそうです。理由は勉強のことではなく、「普段はお母さんが起こしてくれるのに、一人で起きれられるのだろうか」というものでした。でも、結果的にその生徒は自分で起きることができ、自信をもてるようになったのだとか。
竹澤校長:「これも心の教育の一つですが、保護者の方には、中学に入ったら自立させてほしいとお願いしています。自分で起きられなかったら遅刻してもいいじゃないかと。失敗を重ねていくなかで主体的な行動が芽生えていく。さまざまなことに疑問をもち、悩み、葛藤するのが思春期です。だからこそ、一定の『親離れ』『子離れ』が必要なのです。自分の足で歩くしか人生はないのですから」
学力を磨く「3コース制」
昨年から、中学でも「東大ジュニアコース」「医科ジュニアコース」「難関大ジュニアコース」と、3コース制を導入しました。しかし、これは早い時期から進路を定めることを目的としたものではありません。
竹澤校長:「志望は途中で変わることもあるでしょう。それでかまわないのです。それよりも、早い段階から自分の夢や目標をイメージできれば、仲間と互いに切磋琢磨できるでしょうし、さまざまな『気づき』も得られます。そのように、自分の進路を考える羅針盤を持つことが大事だと考え、中学からコース制にしました」
※各進級時には、希望と学力によりコースを見直すチャンスが計5回あります。
中等部では各コースともカリキュラムは共通ですが、それぞれ希望の進路に合わせたプログラムを総合学習などで実施しています。たとえば「東大ジュニアコース」では東大教授の出前授業や東大キャンパスツアー、「医科ジュニアコース」では病院の実地見学や、いのちの学習会などです。
また、コース制がスタートした昨年は、「東大ジュニアコース」も「医科ジュニアコース」も1クラスでしたが、中2に進級した今春、両コースとも2クラスに増えました。これは、他コースの生徒たちが「東大ジュニアに行きたい」「医科ジュニアで学びたい」と、頑張った結果です。
生徒たちの旺盛な意欲と、その希望を柔軟に受け入れ、体制変更の手間を惜しまない先生方の懐の深さ。そこからも、「生徒の夢は学校の目標」というスローガンを掲げる同校らしい、確固たる思想がうかがい知れます。
モットーは、「授業が一番」
すべての学びの根幹は授業にあり、です。そして、予習・復習の自学習のサイクルを身につけて「学びの型」をつくり、基礎学力の定着を図っていくのです。
50分授業が基本ですが、教科の特性を活かして「道徳」などの70分授業や100分授業(中1〜高1)、110分授業(高2・3)も適宜実施しているのは同校ならでは。また、土曜日は原則的に隔週登校で、100分授業を2コマ行っていますが、ここではたとえば英数国の難問や論述問題に取り組んだり、理科の充実した実験が行われます。
また、放課後に実施される課外授業は希望制ですが、中等部では苦手をつくらないよう不得意科目のフォローアップに力を注ぎ、高等部では得意科目をさらに伸ばすためハイレベルな内容に取り組みます。このような「取りこぼさない」「待たせない」体制も、同校の教育の厚みを示しているといえるでしょう。
ちなみに、中高それぞれ「理数融合講座」や「フランス語講座」など、学年の枠を超えた「無学年制課外」を実施しているのも同校の特色です。
高等部の各コースの特長あるプログラム
赤門の前で
そのものズバリ、東京大学への現役合格をめざすコースですが、「東大に合格させる」ことが第一義なのではなく、先生方は学問の素晴らしさにワクワク・ドキドキするような授業をめざしていると言います。ワクワク・ドキドキがあるからこそ、たとえば東大推薦入試で求める「尖った才能」を発掘し、開花させることもできるのでしょう。
以下は、同コースで行われているプログラムの一例です。
年に約3回、東大教授による「出前講義」を行い、同大で展開される学問にふれます。昨年度のプログラム例は「核融合エネルギー開発の最前線」「未来のロケット推進」「染色体を解析して分かること」など。
・東京大学「金曜特別講座」今年度より、「高校生のための金曜特別講座」をインターネット配信してもらう「金曜特別講座」をスタート。同校の大ホールにいながらにして東大の講座に参加できるもので、中等部生の積極的な参加も目立っているそうです。今年度前期のプログラム例としては、「ニュートリノの小さい質量の発見」「未来材料:チタン・レアメタル」「読み破る政治学」など。
中等部から高等部の「医科コース」に上がる際、同校では全員に校長面接があります。医師にはとくに人間性や倫理観などが重要であるとの考えからですが、最終的には生徒本人の意欲と保護者の意向も踏まえながら総合的に判断されます。医科コースでもさまざまなプログラムが実施されますが、以下は抜粋です。
・ 現役医師による「医科講話」(月1回/16年度実施例)「今学んでいることが役に立つ!〜最先端診断機器の基礎は今学んでいる数学〜」「医療現場〜患者さんの苦悩〜」「 "再生医療・万能細胞 "から見る光と影」 など。
・ 「チュートリアル」チュートリアルとは、多くの大学医学部で教育の柱として採用されているもの。医療系の映画を観たあと、高1〜3がいくつかのグループをつくり、医大生のチューターも加わりながら問題点をピックアップし、議論をしながら解決策を考えます。正解の見えにくい問いに対して真摯に向き合う経験を積み、チーム力やプレゼン力、質問に対する対応力などを鍛えます。
すべてがグローバルスタンタードをめざす教育
中等部では総合学習として、学年ごとに「社会科見学」が行われますが、これは社会の仕組みや歴史上のさまざまな出来事を知り、知識を広げ、探究心を喚起するキャリア教育ともいえるものです。中1では国立歴史民俗博物館や伊能忠敬記念館などを訪れ、中2では国会議事堂や日本科学未来館へ。
そして中3では栃木県の足尾銅山へ出かけます。経済の発展と自然環境は表裏一体ですが、足尾銅山は公害問題の象徴でもあります。禿げ山と化した現地では今なお植林が続いていますが、実際に現場を訪れ、専門家から話を聞いて物事の光と影を学んだあとは、生徒たちの手で植林も行います。
昨年から始まった「ディレクトフォース出前授業」は、世界を舞台に活躍した企業や官界OBの方々で構成する一般社団法人「ディレクトフォース」の協力を得て実施されます。
毎回12人くらいの方が来校し、日本を背負って立つ子どもたちに自らの経験や信念を語り、対話する取り組みです。
人生の大先輩の方々との対話は、生徒たちにとって自分が手にしている羅針盤の針がふれる、大きなきっかけとなっているようです。
真のリーダーを育成する「国際教育」
MITのグレート・ドームの前で
国際教育も幅広く行われていますが、全員参加のものとして、中3の関西・中国地方への修学旅行と高2の「カナダ修学旅行」があります。
中3の修学旅行は「歴史教育」「平和教育」「国際教育」をテーマに行われますが、「歴史教育」としては明治維新胎動の地である萩市へ。幕末の先覚者・吉田松陰が主宰した松下村塾を訪れ、日本の歴史を学びます。また「平和教育」としては広島市の原爆資料館を訪ね、被爆した方々の体験を聞きながら世界平和への祈りを胸に刻みます。そして「国際教育」としては、日本の大学で学ぶ留学生たちと英語を用いて異文化交流を図るといった、充実の内容になっています。
また、2014年から「アメリカ・アカデミック・ツアー」(中2〜高2/希望者)も実施していますが、これはハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)、国連本部やスミソニアン博物館を中心に研修を行うもの。
「井の中の蛙大海を知らず」「「私の夢は、外資系金融機関で働くこと」「私の将来の夢は、国連で仕事すること」......これらは、生徒たちのツアー終了後の感想文のタイトルですが、タイトルを眺めているだけで、初めて見聞きしたことに胸を突かれ、心が揺さぶられたことがわかります。
ほかにも、昼休みを利用してネイティブの先生とおしゃべりを楽しむ「イングリッシュカフェ」(毎週火~金)や、夏休みに実施されるオーストラリア短期留学(中3・高1/希望者)など、多彩な取り組みがあります。
一流を体感する「イベント教育」
「イベント教育」とは、同校のオーディトリアムで行われる、日本の古典芸能や世界的芸術家によるコンサートを鑑賞、また社会の第一線で活躍している方々の講演会などを聞くもの。
これまでの例では、建築家の安藤忠雄氏や漫才の西川きよし氏、考古学者の吉村作治氏、野球解説者の桑田真澄氏などの講演会や、ベルリンフィルハーモニー木管五重奏や東京交響楽団のコンサート、雅楽、伝統芸能の「鼓童」などがあります。
一流の世界にふれ、さまざまな分野に視界を広げて、ここでも感性を磨くとともに個々の「気づき」につなげています。
このように、同校の教育はどの側面を切り取っても同じ顔が見えてきます。つまり「人格を磨き、学問を磨き、国際社会に貢献できる『世界型人材』を育成する」という、大きな大きな目標です。
竹澤校長:「1本の木がどんどん幹を太くしていくように、学齢とともに人間的に成長していくために、心の中にきちっとした軸を育てていく。自分の幹を太くしていってこそ、自分も他人も幸せにでき、互いにwin--winの関係を築いていけるのだと思います。これが、『世界型人材』になるためには重要なことです」
夢や志が人を育てる。この信念のもと、フィールドの広い、密度の濃い教育を展開する同校。生徒を見つめ、時代を見つめ、先生方が研鑽を積む同校だからこそ、その改革が止むことは恐らくないのでしょう。「これからの江戸取」にも注目です。
多様なフィールドで、それぞれに輝く生徒たち
赤組の応援パフォーマンス
毎年5月に行われる体育祭。今年は創立40周年記念とあって、殊の外盛り上がりました。同校の体育祭は6学年縦割りで、4色対抗で競うのですが、その中で大記録も樹立!
中1から高3までがバトンをつなぐ「4色対抗リレー」や「4色対抗応援合戦」など、体育祭名物はいくつもありますが、なかでもクラス対抗の「プロジェクト・ジャンピング(長縄跳び)」は圧巻でした。
今年優勝したのは高3の医科コースのクラス。これまでの最高記録は150数回でしたが、今年はなんと206回! クラス全員が気持ちを合わせ、速いスピートに乗って飛びつづけた時間は2分間。これも、最高学年が証明してみせた「心力・体力・学力」の三位一体の教育の成果の一つです。
出場チームのみなさん
●科学の甲子園で全国6位に!
今年の3月、「科学の甲子園全国大会」に参加したのは、過去最多の全国682校。都道府県ごとの選考を通過した47校計361人が全国大会に臨みました。そして県代表として参加した同校の生徒たちは、初出場ながら総合6位に入賞。また、実技競技(化学実験)で最も優れた実験スキルを発揮した優秀校として認められ、産学官の連携による科学技術系人材育成を推進する企業特別賞も受賞しました。
●創造力の甲子園「MONO-COTO INNOVATION 2017」全国決勝大会に出場決定!
「MONO-COTO INNOVATION」とは、中高生の創造力、実践力を育み、競い合うプログラム。さまざまな企業からテーマが出題されるのですが、それに対して参加者が革新的なアイデア・プロトタイプを創ることをめざす「アイデアをカタチにして競い合う、創造力の甲子園」のことです。
夏休みに行われた今年の予選大会には全国約80校、250名がエントリーしましたが、同校の高1の男子3名、中2の女子1名で結成されたチームが予選を通過し、12月に行われる決勝大会に出場が決定しました。
●数学甲子園でも全国6位に!
夏休みに行われた「数学甲子園」も、過去最高の253校579チーム(2,353名)が参加しましたが、同校から出場した7チーム(33名)のうちAチームが予選を通過。そして、9月の本選で同校は全国6位に輝きました。
来春から、制服が一新!
品格と知性のある洗練されたデザインというのも嬉しいポイントだ
創立40周年を迎えたのを機に、来春から制服をリニューアルします。伝統のジャケットのグリーンはさらに深く、男子のスラックスはオリジナルのグレンチェック、女子のスカートはスコットランドの老舗タータンチェックメーカー、キンロックアンダーソン社とのコラボレーションチェック。スカートの柄は、中高で微妙に違います。そして、胸のエンブレムは中等部がゴールドで、高等部がシルバー。よりスタイリッシュに、「品格と知性」を感じさせる制服に生まれ変わります。
学校説明会・公開行事はこちらからご確認ください。