学校特集
昭和学院中学校・高等学校2017
掲載日:2017年10月1日(日)
東京に隣接する千葉県市川市に1940年に創立された昭和学院は「明敏謙譲」の校訓の通り、明朗にして自主性に富み、品位高く個性豊かな多くの人材を輩出してきました。伝統に甘んじることなく2012年に新カリキュラム導入、2015年には中1からの特進クラス設置と改革を断行し、2016年からは千葉県の私立中高では初めてとなるマイプレゼンテーション入試も導入しました。
今年度は中学生全員にiPadを配布、そして2018年度入試では新たに「適性検査型入試」もスタートします。改革を大きく押し進めている校長・大井俊博先生に、マイプレゼンテーション入試の効果や数々の改革の手応えなどについて伺いました。
新入試で潜在能力を秘めた生徒が入学
校長就任2年目を迎えた大井俊博先生は、都立御三家とも言われる都立中高一貫教育校・両国高等学校附属中学校で手腕をふるってきた方です。大井先生は「校長が変わる=何かが動いている、と感じてもらうチャンス」ととらえて、就任1年目からさまざまな改革を断行してきました。
大井先生が行った改革の1つが、新しい形の入試「マイプレゼンテーション入試」です。これは学力試験では計れない、さまざまな潜在能力のある子どもを入学させるもの。千葉県の私立中高では初めての導入ということもあり、大きな注目を集めました。
昨年度は推薦マイプレゼンテーション入試10名、一般のマイプレゼンテーション入試10名の募集で、2回合わせて20数名が入学を果たしました。
「面接では楽器やバトンを持ってきて曲や技を披露したり、空手を見せてくれた児童もいました。中でも圧巻は、ロボットプログラミングを学んでいる児童でした。自作のロボットを持ってきてプレゼンし、面接官の理科教員の難しい質問にも臆せず理路整然と答えていました。その生徒は入学後もプレゼンなどでリーダーシップを発揮しています」と大井先生は誇らしげに話します。
まさに先生の狙い通り、「光るものを持った子」が入学し、回りの生徒も大いに刺激を受けているそうです。
「中学受験のために通塾していた子と学力の差があっても、全く問題ありません。1つのことを極める集中力を持っているから、伸びしろが大きいんです。学力以外の潜在能力を持つ子を発掘できたことに大きな意義を感じています」(大井先生)
中1から英語はオールイングリッシュ
さらに「中学の授業の大きな変革もわが校のウリの1つです」と大井先生は断言します。
たとえば中学の英語の授業は「オールイングリッシュ」が基本です。英語の授業では日本語は使わず、生徒への説明などもすべて英語と身振り手振りなどで行います。小学校で多少は英語を学んでいるとはいえ、ほとんどの生徒が"ゼロベース"からのスタートですが、それでもほとんど問題ありません。
「学校説明会など入学前の段階で"オールイングリッシュ"だと伝えてあるので、生徒にも保護者にも違和感なく受け入れてもらえています。授業の最初は歌を歌ってリラックスした雰囲気を作り、文章の説明は簡単なフレーズを使ったり、単語を1つずつ区切ってテキストやイラストを指示しながら説明したり。ペアワークやグループワークも多く採り入れて授業を進めている他、洋書の多読にも力を入れています」(大井先生)。
これらの手法は、英語教育に力を入れている都立両国から学んだもの。都立両国に昭和学院の英語の先生を15人ほど派遣し、アクティブラーニング、オールイングリッシュや多読の進め方、活用法などを直接教えてもらったのです。
一方的な講義形式の授業ではないので、友だち同士で主体的に学び合い、時には教え合う姿も増えてきました。自然に友達同士で意見を交わしたり教え合うのはアクティブラーニングの醍醐味。こうした学習のスタイルが中1から自然と身についていくのです。
京都修学旅行では留学生と一緒に班行動
「本校の目玉として英語教育の3か年計画を就任早々に提示しました」と大井先生は話します。中1からのオールイングリッシュによるアクティブラーニング、中2で国内でのイングリッシュキャンプ、中3で全員参加のオーストラリア語学研修を実施します。でも、今の中2、中3にも同じようにチャンスを与えるため、先行的に各学年で英語を楽しみながら使えるような機会を作っています。
イングリッシュキャンプも、今年の中2から前倒しで実施。中2では初の試みとして6月に国内で合宿を行いました。学校から行きやすい成田空港近くのホテルで2泊し、3日間は英語漬けで過ごします。往路のバスから外国人講師が同乗して英語だけの世界に。しかし英語の歌を歌ったりゲームをしたりして次第に場がなごんでいきます。
そのホテルは、外国の航空会社のクルーの常宿なので、泊まっている外国人クルーたちと一緒に夕食をとります。「最初はクルーがジョークを言っても緊張で凍り付いていましたが(笑)、少しずつ気持ちがほぐれてきてだんだん笑顔で応じられるようになりました」と大井先生は話します。
2日目の夜は即興の英語劇を発表し、3日目は集大成として成田空港に行き、通りすがりの外国人に声をかけてインタビューを実施。盛りだくさんのプログラムをこなす3日間となりました。
「生徒たちは行く前は"行きたくない" "無理"と意気消沈していたので"失敗してこい!それもいい経験だ!"と送り出しました。でも、やるしかないと覚悟を決め、自分で考え、学び、アクションを起こすという一連のプロセスを経験し、生徒たちには大きな自信になったようです。帰ったあとは英語の授業もアップテンポになり、成長したなと感じます」と、大井先生は笑顔を見せます。
中3の京都修学旅行も同様に、京大や立命館大などの留学生にアテンドを依頼して外国人との密な交流を図りました。6~7人の班に留学生1人がついて、一緒に観光したり食事したりして1日を過ごします。「年齢の近い外国人と話すことで、留学や海外での生活を具体的にイメージすることができ、海外大学受験も視野に入ってくるなど大いに刺激を受けたようです」(大井先生)
今年の中3は卒業後の3月に、先行的に希望者を募ってオーストラリア語学研修を実施します。ここでも先生方の働きかけで、今までにないプログラムをとり入れることが決まっています。これまでは現地校の授業は見学のみに留まっていましたが、今回からは英語のレッスンの他にいろいろな授業を現地の生徒たちと一緒に体験させます。すでに15名が参加を希望しており、先生方も手ごたえを感じています。
中学生全員にiPadを配布
昨年度は試験的に特進クラスにだけiPadを導入しましたが、今年度は中学生全員にiPadを配布しました。
その効果を大井先生はこう話します。
「特に中1の授業が楽しそうなんです。ついていけない生徒や寝ている生徒はいなくて皆ニコニコして積極的に授業に参加しています。これは先生が一方的に喋ったり、知識を教え込むような授業では見られない姿です。ICTを活用することで、大人しい生徒も授業に参加し、自分で考えて理解するようになっています」
夏休みのオープンスクールでは、実際に受験生にiPadを使った授業を体験してもらいました。初めてタブレットを使う子どももいるから、在校生が横について使い方を教えながら授業を受ける試みです。優しいお兄さん、お姉さんに教えてもらいながら授業を受けることができ、最初は緊張していた受験生もしだいに笑顔に。保護者からも「こんな授業が受けられるなら、ぜひ子どもを昭和学院に入れたい」という声も上がっていました。
英語以外の他の教科でも、アクティブラーニングにも積極的に取り組んでいます。理科や社会でも合計30人ほどの先生が都立両国中高の研修会や私的研究会に参加して授業の組み立て方や進め方を実地で学んできました。レベルの高い他の学校の先生方と交流することで刺激を受け、先生方のモチベーションも上がってきているのです。
先生方の意識にも変化が
昭和学院を訪れると、生徒の表情がいきいきと輝き、学校全体にパワーがみなぎっているような印象を受けます。そんな学校を支えているのは先生方です。
実は改革の第一歩として大井先生が取り組んだのは先生方の意識改革だったと言います。
「公立は先生の異動があるから変化に伴う危機感がありますが、私立の先生は異動がないから変わるきっかけが少ないのです。古くから続く昭和学院の伝統だけに縛られず、古いものを活かしながら新しい風を世に先んじて採り入れたい――いわゆる"不易流行"の考え方を先生たちにも実践してほしかったのです」。
大井先生は就任早々、職員会議のスタイルを変えました。これまでは全教員が校長と向き合う形だったのを、教員側はテーブルを横にして教員同士、お互いの顔が見えるようにしました。そして相互に話し合いができるようにしました。また、「校長からの話は短く簡潔に済ませ、教務や進路の報告も極力減らしました。その代わり、"来年の文化祭をどうするか"などテーマを決めて、先生方でグループを作って話し合い、議論してもらいます。そして各グループで意見やアイデアをまとめて発表してもらうような、特別職員会議も行ないました」。
これはいわば、教育の現場で始まっているアクティブラーニングの「職員室版」。その成果はすぐに現れました。「私が就任したころは、職員室では黙々と机に向かって教材の研究や授業計画を作っている先生が多かったんです。ところが職員会議が糸口になって先生同士のコミュニケーションが増え、職員室にも活気が生まれました」。
「チーム昭和」を唱える大井先生の思いは始業式や朝礼などで生徒に伝えていますが、生徒の身近にいる先生方が同じ思いで生徒と向き合い、生徒に声をかけることで生徒に浸透していきます。学校全体がプラスのスパイラルでいい方向に向かって動き出しているのです。
2018年度は適性検査型入試も新設
学校改革はこれからも続き、入試改革の第2弾として2018年度から「適性検査型入試」を導入します。これは都立中高一貫教育校の「適性検査」に準じた内容で、2020年の大学入試改革までを見据えた入試形式です。テストは「適性検査Ⅰ」「適性検査Ⅱ」の2つで、Ⅰは読解力や表現力を見る国語的な試験。Ⅱは教科横断型の思考力・判断力・表現力を推し図る問題で、これらを総合して評価し合否を判定します。
昨年度のマイプレゼンテーション入試は通塾してこなくても受験できることもあり注目度が高く、受験生も増加しました。2018年度の適性検査型入試は都立中高一貫教育校や偏差値の高い学校の併願校という位置づけが期待されます。実際、来年度の都立受検者の中には模試で同校を併願に選ぶ子も増えているそうです。
また、1回目となる2018年1月の適性検査型入試の問題は、若手の先生方が中心になって作問にあたっています。「若い先生たちの柔軟な発想に期待している」と話す大井先生。若手の先生方が提案した問題をベースに各教科の先生方が検討を重ねて1月の入試を実施する予定です。
「都立中高一貫教育校の適性検査はかなりの難問なので、わが校の適性検査型試験はもう少し優しい"昭和学院バ―ション"と考えてください。ただ、問題は都立の適性検査をイメージしたものにする予定なので、公立一貫校の適性検査の過去問を解いて受験に備えてもらえればいいでしょう」(大井先生)。
数々の改革で注目を集め、人気が高まっている同校。大井先生は「ここがチャンス」と意気込みを見せます。今年度は新たに若手教員26人で同校の未来を考える「将来構想プロジェクト」を立ち上げました。これは同校の強み、弱み、課題を把握し、学校をどう変えていくかを考えるプロジェクトで、年度内には校長への提言をまとめる予定。「来年度からはさっそく提言の内容をとり入れて行きたい」と大井先生は早くも来年に目を向けます。
動き続け、走り続ける昭和学院。去年より今年、今年より来年と着実に飛躍していく同校の動きから、目が離せそうにありません。
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