学校特集
桐朋女子中学校・高等学校2017
掲載日:2017年12月5日(火)
「桐朋女子の教育は入試から始まる」と謳い、独自の口頭試問形式の入試を続けて50年。半世紀の節目にあたる2017年度から、新たに「論理的思考力&発想力入試」を導入しました。教科教育に、行事や生徒会、部活などの教科外教育を加え、これら二つの活動を通して、「知性」と「感性」を育てていくことが桐朋女子の教育の根幹です。6年間にわたる中高一貫教育の利点を生かしたブロック制(Aブロック=中1・中2、Bブロック=中3・高1、Cブロック=高2・高3)という教育体制をはじめ、2年前から始めたDLP(デュアル・ランゲージ・プログラム)など、同校独自の取り組みとその成果について、校長の千葉裕子先生にお話を伺いました。
DLPを柱に、『ことばの力』を育成
ブロック制の取り組み
桐朋女子では、6年間の学びをより効果的なものにするために、ブロック制を採用しています。1975年から取り入れた、Aブロック(中1・中2)、Bブロック(中3・高1)、Cブロック(高2・高3)の3つに分けるこの制度は、体力差や精神年齢などギャップが大きい中学生と高校生のスムーズな接続を考えた結果、生まれたものなのだとか。
Aブロックは「基礎の時」と位置づけ、桐朋女子の生活に慣れるとともに、基礎学力を確実に身につけます。Bブロックは「伸長の時」。体験や経験を積み重ねながら自己理解を深め、自ら考え表現する力を養います。Cブロックは「展望の時」です。個性に磨きをかけ、創造力を開花させながら社会のために自己を生かす力をつけていきます。
このように、6年間を大きく3ステップに分けて指導することで、内面的に大きく成長させ、いずれは時代をリードできる創造性豊かな女性を育てていくのです。
世界に通用する力を鍛えるDLPとは?
DLPとは、日本語と英語の力を鍛えることを通して、世界で通用する論理的思考力を身につけ、これら2つの言語を駆使して、高度な発信力を獲得することを目的としたプログラムのこと。
人は「ことば」を通して考え、「ことば」によって他者に考えを伝えます。70年以上の伝統をもつ桐朋女子では、「ことばの力」はすべての活動の土台になると考え、重要視してきました。「ことばの力」を育てることで、論理的な思考力を養い、さらなる飛躍へと繋げることができると考えているからです。
そうした教育理念の下、同校では中1から高3まで段階を踏んで、「ことばの力の育成」「世界を読み解く力の育成」「高度な英語発信の実践」を目指したDLPを実践しています。
また、英語や数学でも「ことば」を重視した指導が行われ、たとえば数学の単元テストでも、途中の考え方が伝わるように書くことが要求されます。また、中1の数学と英語の授業はクラスを分割した少人数で行い、中2以降はコース別に授業を行うことで、先生が生徒一人ひとりの進度を把握し、つまずきをフォローしています。
AブロックでのDLP...『論理エンジン』を活用
中1・2の国語の授業では、『論理エンジン』(水王舎)を教材に使い、主語と述語など文章の論理的な関係を学習し、文章の要点を読み取る訓練を重ねます。
問:以下の文の要点を10字でまとめなさい。
「ふいに壁の鳩時計がかわいらしい音色で鳴り出した。」
よくある答え:「音色がかわいらしい。」
正しい答え:「鳩時計が鳴り出した。」
...主語と述語を抜き出すことで、文の要点をつかむことができます。
BブロックでのDLP...英語の授業で行う「言語技術教育」
こうしたAブロックでの基礎の上に立ってBブロックで導入したのが、「言語技術教育」です。週に1回(45分)、英語の授業で実施する言語技術教育は、同校の卒業生でもある三森ゆりか氏が代表を務める「つくば言語技術教育研究所」と連携して行うもので、3年前から先生方が同研究所の研修会に幾度も参加するなど、周到な準備を重ねてきました。
千葉校長:「桐朋女子では、日常的な生徒同士のやりとりや教員に対する言葉遣いを含めて、ことばの力を意識させる教育を行ってきました。Bブロック(中3・高1)の生徒たちが現在実践している言語技術は、欧米では早くから取り入れられている教育プログラムです。一方的に教師が教えるものではなく、つねに『あなたはどう考える?』『何故そのように考える?』と生徒に問いかけるスタイルなので、大変活発な授業になっています」
授業のしめくくりには、生徒たちが深めた議論をもとに、毎回200〜400字の作文を書きます。ここで、言語技術の授業の具体的な事例をいくつか紹介しましょう。
①「文字を書くとしたら、鉛筆とボールペンのどちらを選ぶか」について議論する。論点を整理し、いずれかの立場で意見文を書く。
②物語を聞き、その内容が相手に伝わるように文章で再現する。
③フランス共和国の国旗を知らない人が、それを頭の中で想像できるように説明する。議論を通して情報を整理し、説明文を書く。
さまざまなテーマについて、ペアあるいはグループで議論したり、質問と答えを繰り返しながらことばで表現する訓練を行っていきます。
上記③のフランス国旗を例にとると、色、形などどんな情報を先に伝えるかで、相手への伝わり方が違ってきます。また、議論する時にも「私はこう思います。なぜなら、こういう理由があるからです」という論法を意識することで、「分析」「理由」「結論」といった論理的思考力を身につけます。
言語技術の授業は、最初は日本語で行いますが、Bブロックの2年間で、英語でも同じことができるようになることを目指しています。
千葉校長:「日常的にレポートを書く機会が多い生徒たちからも、『書くことに抵抗がなくなってきた』『文字数で書く内容がイメージできるようになった』という声が多く聞かれます。言語技術導入後の国語や社会などでは、『生徒たちの文章の要約力がアップした』と教員が話すなど、目に見えて生徒たちに変化が表れています」
CブロックでのDLP...自由選択の教科横断型「DLP外国語特別講座」
言語技術教育は、「ことばの力」を向上させるだけでなく、必要な情報を整理する能力、相手に理解させるコミュニケーション能力、表現力などさまざまな力を育むことにつながっています。
Bブロックまでの授業を通して身につけたことばの力を土台とし、2018年度からはCブロックの自由選択科目の中に、教科横断型の「DLP外国語特別講座」を設置します。
千葉校長:「Cブロックの『DLP外国語特別講座』では、高1までに培った知識や教養、分析能力を土台に、英語による指導も取り入れながら、世界を見据えたプログラムにしていきたいと考えています。日本語と英語を駆使して問題を解決する生徒たちは、同時に実践的な英語力も養っていくことでしょう。自由選択科目ですが、国際的な問題に興味がある生徒、世界を視野に入れた将来を考えている生徒などは、興味をもつのではないでしょうか。
DLP教育は、問題設定など教員の発信力も問われますし、生徒たちが書いた作文も毎回添削してアドバイスを与えるなど、負担も少なくありません。でも、プロセスを大切にする教育を続けてきた桐朋女子だからこそ、実践できる教育方法だと思っています。言語技術をカリキュラムに導入しているのは、都内では本校だけではないでしょうか。こうした積み重ねが、国語や社会、英語だけでなく、数学や理科でも理解力の向上につながってくれればと願っています」
学校外で表れたDLP教育の効果
夏休みに行う宿泊型のプログラム
グローバル社会に不可欠なコミュニケーション能力とは、単に英語が話せるということではありません。世界に通用するロジックに則って考え、自分の意見をきちんと表明し、文化的背景が異なる人たちとも相互理解を深めることができる能力のことです。
DLP導入の大きな狙いは、①「世界に通じる論理的思考力を伸ばす」②「ことばの力を育成する」③「世界を読み解く力を育成する」④「高度な英語発信の実践」の4つですが、その教育効果は、日常的な生活態度の変化として表れてきました。
千葉校長:「学校外での出来事ですが、ある生徒が『大人の方にある事柄について問われて答えたら、とても理路整然としていると褒められた』と、うれしそうに報告をしてきました。家庭内でも『お母さん、私はこう思います。その理由は二つあって、一つは○○、もう一つは○○だからです』という話し方をして驚かれたというエピソードも耳にしました。普段からとりとめなく抽象的に話すのではなく、論理立てて説明することは意味のある積み重ねだと感じています」
そして、DLPは教科活動に限りません。「英会話シャワー」やサウスカロライナ州立クレムソン大学への「米国夏季研修」(高1〜3/2週間)などがあるほか、2018年度からはニュージーランドの高校に1学期間留学する「ニュージーランド・ターム留学」(高2)もスタートする予定です。
このように、論理的に考え発信する実践の場も豊富に用意され、生徒たちはそれまでに培った力に磨きをかけていきます。
独自の教育メソッドから生まれるダイバーシティ(多様性)
Cブロックの生徒は、自分で時間割を作る
DLP導入以外にも、桐朋女子ではさまざまな独自の教育を行っています。通知表がないこと(面談による成績伝達)や、 Cブロック(高2・高3)の生徒が自ら作る時間割もそうした実践の一つです。Cブロックでは、自分の進路に応じて各自で授業を選択することができるのです。
千葉校長:「Cブロックでは、必修科目以外にさまざまな自由選択科目が用意されています。生徒たちは将来の希望の実現に向けて、自分の意志で必要な授業を選択していきます。たとえば美術系に進みたい生徒は、デザイン、絵画、立体造形など専門的な時間割を集中的に組むことができます。教員も一人ひとりの個性や指向を念頭に、時間割作りの相談にのっています。来年度の時間割作りは、10月からすでに始まっています。
また、通知表ではなく面談で成績を伝える方法も、本校の特色です。生徒自身の学習や生活を振り返ることで、次の課題を見つけてもらいます。プロセスを重視することが本意であり、たとえば数学でも、途中までの考え方が合っていれば加点をしますが、年に数回行う教員と生徒の面談のやりとりでは『なぜB評価なのか』『足りないところはどこか』など、評価の理由を伝えます。そのように対話することで生徒も納得し、次のステップに自主的に繋げていけるからです。
こうした時間割作成も面談による成績伝達も、自立して歩む女性に成長するための大事なステップであり、桐朋女子の多様性の源であると考えています」
集団行動で発揮する女子脳の力
学年対抗で行われる体育祭
春の体育祭と秋の文化祭は、同校の二大行事です。とりわけ、毎年5月下旬に行われる体育祭は中1から高3までの学年対抗で、前年度の冬から企画作りに入るほど生徒たちが頑張る行事です。
桐朋女子では、入学時に決められた学年カラーが6年間持ち上がりとなり、「学年色」が決まっています。「○年卒・緑」とか「○代目・白」という呼び方で、学年ごとの団結力がいつにも増して高まるのが、体育祭なのです。
千葉校長:「体育祭は、学年対抗で行うスタイルも70年近く変わらず、多くの卒業生が桐朋女子でのいちばんの思い出にあげる行事となっています。全校生徒が一堂に介する行事ですから、中1生が5年後の自分の姿を上級生に重ねたりすることも。最大のハイライトは全員参加で行う『応援交歓』で、各学年で5分ずつ応援パフォーマンスを披露し合います。その衣装・振付・垂れ幕などは、すべて生徒自身が企画・制作を担当しています。
最後の参加となる高3生は、学年色を強調した衣装やダンス、垂れ幕の制作にも力が入ります。毎年凝った垂れ幕を作るので、体育祭前の本館ロビーは制作作業で占拠状態(笑)。『間に合わない、仕上がらない』と泣きそうになりながら頑張った末の本番ですから、その感動と達成感はとてつもなく大きいようですね。みんなの士気を高めるために、学年全員分のミサンガを徹夜で作ったリーダーもいました(笑)」
女子の脳は、集団行動に向いている
体育祭は、「女子脳を最大限に刺激する行事です」と千葉校長は話します。女子校であるメリットを生かし、女子脳を意識的に活用した集団行動で得られる達成感や満足感を、次の一歩を踏み出すエネルギーに変えていく。つねにチャレンジを繰り返しながら成長していくことこそ、桐朋女子の教育の真髄であると。
千葉校長:「私自身も本校の卒業生ですが、自分の経験を通して考えると、見事に女子脳を活かした教育プログラムだったと、校長という立場になって初めて腑に落ちることも多いですね。右脳と左脳のあいだにある脳梁(大脳の中間部にあって、右脳と左脳の皮質を結ぶ役割をもった繊維質の組織)は、女性のほうが密度が濃いといわれます。つまり、感性と論理の連携をとりながらまとめていく能力は、男子より女子のほうが高い(笑)。みんなで何かを成し遂げようと横のつながりで行うことへの満足度が高く、そういう思考をしやすい脳なのだそうです。脳の満足感は自己肯定感にもつながると思います」
桐朋教育は入試から始まる
50年以上続く、口頭試問
桐朋女子では昭和40年代から、つまり約50年前から「桐朋教育は入試から始まる」と言い続けてきました。その特徴が「口頭試問」というユニークな入試方法です。「口頭試問」は、試問前に準備室で取り組んだ課題をもとに先生とやりとりをするスタイルで、単に知識の量だけでなく、生徒の個性や個々の潜在能力を大切にしたいという意図で設けられたものです。
そうした教育の根本姿勢を踏まえたうえで、新しい入試スタイルも導入しています。半世紀以上続いた「口頭試問」型のA入試に加え、2012年度から始まった国・算・社・理の「4教科」型のB入試、さらに2017年度から導入された記述中心の「論理的思考力&発想力入試」(論発入試)と、現在は3つのタイプの入試を設けています。
2017年度から始まった「論理的思考力&発想力入試」
新たに導入された「論理的思考力&発想力入試」(論発入試)は、「言語分野」「理数分野」の二つに分けて行われる記述中心の入試です。公立中高一貫校を志望する小学生も受けやすいように、「適性検査」も意識しながら口頭試問の記述式という形式になっています。一つは「文章を読んで意味をつかみ、内容を把握する力、さらにそれを発展させる発想の豊かさ」を見る問題。もう一つは、「資料や図表を読み取る力、基本的な数の扱い、論理的な思考力、判断力」などを見る問題です。
<問題>
(建築家の隈研吾氏の長文を読んで)本文では、建築家の目から見た、人間の自然に対する関わり方について述べられています。あなたは人間にとって自然はどのようなものであると考えますか。また、あなたが建築家以外の職業についているとしたら、人間と自然との関係を良いものにしていくために何ができますか。次の四つの条件を満たすように、三百五十字から四百字で答えなさい。
●条件
1.「人間にとって自然は、」で始め、人間にとって自然はどのようなものであると考えるか、最初にはっきりと書くこと。
2.本文を読んであなたが知ったこと、または考えたことを交えて書くこと。
3.学校の授業や本などを通して知ったこと、またはあなたが実際に体験したことを交えて書くこと。
4.「私が○○だとしたら」と、どんな職業を考えたかはっきりと示してから、何ができるかを書くこと。
結論に至る過程の考え方・発想力を重視
生徒たちが主体的に運営している
記述中心の入試は、評価や採点が難しいのですが、2017年度の入試では、結果的に一人の先生がすべての答案を確認したのだとか。満点ではなくても、解答の中から「すぐにわからなくても(またはできなくても)簡単に諦めない」力を感じ取ることを大切にしているそうです。話すことが苦手なタイプの受験生は、B入試や論発入試での受験を選択できます。
A・B・論発と入試スタイルは違っても、どれも伝えたいこと、自分の考えや思いをもつことが重要。筋道を立てて粘り強く考える力や自分の考えを表現する力、発想力を問う評価基準は、3つの入学試験の共通事項です。
千葉校長:「受験生の発想や思考の過程も見たいと考えています。出題も、そういう受験生の思考や発想の広がりを引き出すものでありたいと、作問を工夫しています。2017年度入試では実際に3タイプの入試を行いましたが、入学後に特段の差異は見られないようです」
つまり、入るドアは違っても、いったん学校生活が始まればみんな一様に同校の教育の色に馴染み、それぞれ自分の能力を伸ばしていくことができるということでしょう。 いずれの入試スタイルでも、粘り強く課題に取り組み、順を追って考えを進めていくことができるかどうか。それを最も大事に考える同校での教育は、大人になってからも大きな軸となることは言うまでもありません。
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