学校特集
和洋九段女子中学校高等学校2017
自分の意見を言える生徒の成長に好感触
掲載日:2017年8月21日(月)
2017年に創立120周年を迎えた和洋九段女子中学・高等学校。今年度は教育改革の目玉の1つ「グローバルクラス」がスタートしました。1期生を中心に、今年の中1はとにかく元気いっぱいです。彼女たちの存在は、学校が新たなステージへと飛躍するトリガー(牽引役)となる期待を抱かせています。
問題解決能力を養う「PBL(Problem Based Learning)型授業」も、全教科・全学年で浸透してきました。周りの目を気にせず自分の意見を発言できるようになっているのは、PBLの成果と言えます。
「グローバルな舞台で活躍する心持ち」と「コミュニケーション能力」を育む世界標準の教育を推進している和洋九段。その現在進行形の取り組みについて、入試広報室長の川上武彦先生にお話を伺いました。
今年の中1は型にはまらない子が多い
開口一番、「今年の中1は元気がいい」と川上先生。入学式の日から、隣の生徒に「どこの小学校の出身なの?」と自分から話しかけ、待ち時間の教室はにぎやかでした。「最近の生徒は素直な一方、消極的なところがあります。それだけに、今年の中1の元気のよさは大歓迎。特に新設のグローバルクラスは、その傾向が顕著です」(川上先生)。
先輩たちも、「私たちが中1のときとはちょっと違う」と感じているようです。入学したばかりの中1は、学校のどこに何があるかわかっていません。話したことがない先輩には声をかけにくいものですが、「○○はどこですか」と、自分から働きかけができるのが今年の中1です。
入学してちょうど1カ月、ブリティッシュヒルズの研修で、夜の自由時間に施設内のパブ(カフェ)へ行ったグループがありました。「そんな中1は初めて」と引率した教員は目を丸くしたとか。レッスンと違い、リラックスした雰囲気でのコミュニケーションに、生徒たちは「すごく楽しかった!」とうれしそう。英語で注文したクランベリーレモン(ノンアルコール)は"思い出の味"になったでしょう。またあるグループは、早々に就寝したと思いきや、早朝4時30分に起きてラジオ体操を始めました。予想外の行動に教員は驚きの連続ですが、はつらつと学校生活を送っている中1を温かく見守っています。
守りだけでは子どもの能力を伸ばせない
新校舎が完成した和洋九段は、「PBL(Problem Based Learning)型授業」を導入したり、「グローバルクラス」を開設するなど教育改革の真っ只中です。中1の変化について、川上先生は、「この1年、本校の教育改革について、学校説明会で繰り返し伝えてきたことが受け入れられた結果ではないでしょうか」と分析します。
学校説明会では保護者の質問が明らかに変わりました。これまでは「うちの子は勉強についていけるでしょうか」「勉強が遅れたらどのようにフォローしてもらえますか」というように、面倒見のよさが期待されていました。子どもに失敗させたくない、つまずかせたくないという思いが垣間見えます。
ところが昨秋頃から、そうした質問はほとんど聞かれなくなったそうです。その代わり、ネイティブ教員の出身大学や英語の教材など、授業について突っ込んだ質問が増えました。子どもの潜在能力を伸ばすために、"守り"から"攻め"の姿勢に転じたかのようです。アクティブラーニングで問題解決能力を養うPBL型授業に不安を抱く保護者には、「控えめなお子さんこそ、社会で必要とされる世界標準の力を本校で身につけましょう」と言葉をかけているそうです。
グローバルクラスは初日から英語で挨拶
2017年度から「グローバルクラス」がスタートしました。帰国生など英語力を備えたお子さんだけでなく、英語を使いこなせるようになりたい、留学したいなど英語学習に意欲のあるお子さんが集まりました。
英語の授業はレベル別に行います。英検準2級程度の力がある生徒は、「アドバンスト」で最初からオールイングリッシュで授業を受けます。中学から本格的に英語を学ぶ生徒は、「インターメディエイト」で日本語を交えた授業から始めて、段階を踏んでオールイングリッシュの授業に移行します。
1期生19名は、まず3名がアドバンスト、16名がインターメディエイトです。英検準2級程度の英語力に達した生徒は、学期ごとに順次アドバンストへ移行します。「アドバンストにもう一歩」の生徒には、放課後の講座や課題などでアドバンストへの移行を手助けしています。
そして、早い段階から朝礼や清掃、ホームルームのほとんどで英語を使います。入学式の最初の挨拶は早速英語でした。グローバルクラスは中学卒業時に英語検定2級以上、高校卒業時に英語検定準1級以上を目指し、海外大学への進学も視野に入れます。
PBL型授業が全教科・全学年で浸透
和洋九段は、昨年度から全教科・全学年で「PBL型授業」に取り組んでいます(図1)。PBLが最もなじみやすい教科が社会科です。現実社会の課題の解決策をグループで話し合うスタイルは、まさに社会科の学びに沿うものです。議論できる基礎知識が十分備わる中3・高1の社会科では、5割以上がPBL型授業。大学入試対策が中心の高2・高3も、PBLの要素を授業に取り入れています。
もちろん中1もPBLを実践しています。中1の礼法の授業では、「和室と洋室、どちらが良い?」というトリガークエスチョンについて考えました。家庭科の授業で学習したばかりの「日本の住まい方・日本各地の住まい」の知識や視点をフル活用し、アンケートを取るなどして和室と洋室それぞれの長所を客観的に分析。グループの代表者が図やグラフを用いてプレゼンテーションし、今後の和室・洋室のあり方も予想しました。
PBLの目的は、「主体的に、協働できること」です。課題は与えられるのではなく、自分で発見し、自ら考えます。個人でできることは限られているので、周りを巻き込み協働する力を育みます。
PBLの実施にあたり、特に情報収集やプレゼンテーションにICTの充実は欠かせません。今年度から中学生全員がタブレット端末を保有。1人1台のICT環境により反転授業が自然と行えるようになっています。
正解のない問いに向き合い最適解を導く
PBLの要は、生徒の多様な発想を呼び起こす「トリガークエスチョン」にかかっています。トリガークエスチョンに正解はありません。PBLでは根拠を見つけて最適な解を導き出すプロセスを大切にしています。
「あなたは将来子どもを何人産みたいですか」という問いを考えるとき、「子どもがかわいいからたくさんほしい」「育てるのは大変だから産まない」といった感情論は通用しません。聞き手が納得するように論理的に説明するために情報収集をします。すると、待機児童の増加や労働力不足、社会保障の財源不足といった社会問題、さらには経済問題が見えてきます。また、産む・産まないは個人の問題であることから人権問題にも及びます。これらの問題はすべて教科書に載っている内容です。
ときには正解がある問いを取り上げることもあります。国際法と国内法の効力関係を考えるのに、国籍取得の事例を挙げました。アメリカ発イギリス行きのイギリスの航空機に乗っていたギリシャ人が、カナダ上空で出産。「生まれた子供の国籍はどうなるか?」という問いを考えました。
PBL効果で自分の意見を率直に発言
PBLを導入して最も感じている効果として、川上先生は、生徒が自分の意見をはっきり言えるようになったことを挙げます。PBLを経験する前の生徒は、他者の視線を気にしてなかなか自分の意見を話したがりませんでした。当然ながら、ディスカッションも盛り上がりません。
自分の意見を率直に話せるようになったのは、グループブレストで「他者の意見をきちんと聞く」などの姿勢が身についたからでしょう。責められたり、人格批判されない安心感は自己肯定感を醸成します。また、他者の意見を聞く雰囲気が多様な意見を促します。自分と異なる価値観に触れることで視野が広がり、コミュニケーション能力の向上にもつながります。
「グループブレストを通じて、生徒は自分の価値基準で相手を説得できないことに気づいていると思います。意見が違っても歩み寄ることはできないか、お互いが納得できる妥協点を探るようになっています」(川上先生)。
新評価「学校ルーブリック」を採用
和洋九段女子ではPBLの導入に伴い、生徒の力を適切に見極められるように、独自の評価基準を採用しました。「学校ルーブリック」には、各教科・単元で取り組む課題と、具体的な到達レベルをマトリクス形式で明示しています(図2)。知識を獲得・咀嚼し、知識を活用して、問題解決を図り、インプット・アウトプットの力を身につけます。縦軸に「個人」「集団」「社会(世界)」を設定しているところは同校の特徴でしょう。
定期考査の結果以外の評価は、従来は最大20%まででしたが、中1については最大50%に拡大しました。PBL型授業でプレゼンテーションをまとめたレポートや、グループディスカッションのブレストシートなども評価の対象です。定期考査には思考力を試す問題を出題します。ここぞというときに力を発揮できることも大事ですが、日々の努力をきちんと評価してもらえるというのは、生徒にとって心強いのではないでしょうか。
多様になった海外研修プログラム
海外研修のプログラムも増やします。20年続くシドニーのホームステイ(15日間)や短期留学(10カ月程度)のほかに、留学のハードルを低くするターム留学(3カ月程度)を新設しました。
2018年度からは、マルタ共和国での欧州語学研修(15日間)も始めます。マルタは英語を母語としないヨーロッパ人の語学研修先として知られ、語学学校など留学生を受け入れる体制が整っています。
新設する欧州語学研修について、川上先生は次のように説明します。「オーストラリアのホームステイは、現地の学校の生徒との交流など初めての語学研修に適したプログラムで、例年40〜50名が参加しています。そこで欧州語学研修では、2回目の語学研修先として、英語の習得により重きを置いたプログラムを提供します」
PBL型授業と英語教育で培った能力を試す機会となる「ニューヨーク記者体験プログラム」も、2018年度から実施する計画です。国連やコロンビア大学、IBMなどを訪れて作成したレポートや、バッテリーパークなどの街に繰り出してインタビューした記事を、現地の日本人向けの媒体に掲載します。
これらのプログラムはグローバルクラスと本科クラス共通の希望制とし、必要に応じて選択できるように対象学年を限定せず幅を設けます。
さらに、現在の中1から、中3の修学旅行先はシンガポールに決まりました。シンガポール大学の学生との交流も予定しています。
教育改革に邁進している和洋九段。学校が変わろうとしている雰囲気を生徒たちもしっかり伝わっています。生徒と教員、保護者が一丸となって成長しようとしている和洋九段の今後に目が離せません。
ニューヨーク記者体験では街頭インタビューも!
中3の修学旅行で訪れるシンガポール!
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