学校特集
東京家政大学附属女子中学校・高等学校2017
掲載日:2017年9月4日(月)
1881(明治14)年の創立以来、一貫して女性の自立に力を尽くしている東京家政大学附属女子。
建学の精神「自主自律」のもと、生活信条「愛情・勤勉・聡明」を実践できる女性を育ててきました。「家政ビオトープ」を含む約9万平方メートルの自然豊かなキャンパスは、生徒たちの心を和ませる同校の財産です。
伝統を紡ぎながら、近年は自ら主体的に考え行動し、自分の未来を自分で切り拓く「未来学力」の育成に励んでいます。アクティブラーニングの「協同学習」をはじめ、「Kaseiセミナー」の探究活動や、なりたい自分に近づくための「ヴァンサンカン・プラン」など、さまざまな教育改革を打ち出しています。同校は今まさに変わろうとするエネルギーで満ちあふれています。
今年度校長に就任した篠原善廣先生と、教頭の荒籾和成先生に、同校の教育改革と生徒の成長ぶりを伺うとともに、同校の魅力を探っていきます。
精神的・経済的・知的な自立を目指す
「女性の自主自律」を願い創立された東京家政大学附属女子。建学の精神「自主自律」とともに同校の生徒の人間形成の基盤となっているのが、生活信条「愛情・勤勉・聡明」です。「愛情」は思いやりの心、自己理解・他者理解を促して人間関係を築く力、コミュニケーション能力を培います。「勤勉」は学ぶ意欲の向上と学習習慣の確立による学力の向上を、「聡明」は女性らしい豊かな感性、すなわち心配りや温かさを持ちながらも、的確な判断力を育みます。
「高い人格と主体性を持って、多文化共生社会で活躍できる女性」の育成を目指し、篠原校長は3つの自立の必要性を強調します。「変化が激しく多くの課題が山積する時代において、女性が真に自立するには、精神的自立、経済的自立とともに、知的な自立が伴うことだと考えます。知的自立とは、その場の状況に応じて自分で考え判断できる知性、学力と言い換えられます。本校では自主自律とともに、中高6年間でこの3つの自立の土台を築きます」。
夜8時まで自習室を開放し自学自習を促す
篠原校長が今年度、校長に就任して生徒や教員に盛んに呼びかけているのが、知的確立につながる「学力の向上」です。まずは自学自習の習慣をつけようと、5月から高校生の自習室の利用を夜8時まで延長。自習室は従来の選択教室に加え、大会議室とコンピュータ室も開放しました。考査前は100人以上が利用し、ほとんどが夜8時まで勉強していました。
学校なら集中して勉強できるとあって、部活動を終えて夕方6時から自習室で勉強する生徒もいます。「同じ部活動の友達同士、一緒に頑張ろうという雰囲気になっています」と荒籾先生は言います。自習室の利用を延長してから生徒の質問もとても増えています。
2学期からは専用の自習室を新設。大会議室を改装して、パーティションで仕切られた個別の自習ブースを60席用意しました。土足で入室できるようにして、地下の昇降口を経由せずに、1階の自習室から下校できるようにしています。
一方、教員にも変化が見られています。考査前には数学の教員2名(交代制)が自習室で質問を受けるようにしたところ、生徒の長い列ができました。また夜8時まで生徒が残っているならと、高2の数学科と英語科の教員がこの時間に自発的に講習を開きました。
学力向上の取り組みは徐々に改革が進んでいます。高校生は2学期から放課後の講習を週3日に増やします。一人ひとりに目をかけ、手をかけ、声をかける面倒見の良さも同校の特徴の1つです。「生徒が変わるためにはまず教員自身が変わろうと、授業力の向上にも力を入れています」(篠原校長)。
「協同学習」で主体的に学ぶ姿勢が定着
「受け身の授業からの脱却」を目指して、同校は、すべての教科を通じてアクティブラーニングで学び合う「協同学習」に取り組んでいます。生徒同士が意見を出し合い、協力して課題をクリアしていくことで、主体的に学ぶ力、チームで課題を解決する力、多角的に物事を見る力など、21世紀に求められる「未来学力」を鍛えます。
2013年度から導入して5年目、生徒の成長に確かな手応えを感じています。「中2や中3を見ると、グループで課題に取り組む際は何をすればいいか、すぐに行動に移すことができており、アクティブラーニングが定着してきていると感じます」(荒籾先生)。
今年度の中1からは個人にiPadを配布。
アクティブラーニングとの親和性が高いICTの活用で、生徒の興味関心をより引き出せる授業を目指します。
「Kaseiセミナー」で探究する意欲を刺激
協同学習で培った力を生かすプログラムとして、2016年度から始めたのが「躍進i教育」です。この「i」は、「intercultural communication(異文化間コミュニケーション力)」、「information literacy(情報リテラシー)」、「inclusive community(様々な人たちを包み込む社会)」の頭文字を取ったもの。自分らしさを発揮しつつ、さまざまな価値観を持つ人たちとの"共創"がコンセプトです。
その取り組みの一環の「Kaseiセミナー」は、中2〜高1対象の探究型講座です。自分で学ぶ力、協力して学ぶ力をつけ、主体的に学ぶ意欲を喚起するのがねらいです。夏休みに開催する講座は、体験型で、校外での活動が多く、主催教科も多様です。「ちょっと楽しい東京散歩」(国語科)は上野周辺を散策して文学や日本文化に触れます。日本科学未来館のワークショップに参加(理科)するなど、今年度は14講座を用意しました。
英語科の講座「Art and English at the museum!」は、芸術の研究を専門としていたアリシア先生と一緒に美術館で芸術鑑賞するプログラムです。
国立新美術館で「ジャコメッティ展」を鑑賞するにあたり、ジャコメッティについてティームティーチングで事前学習をしました。身体を線のように長く引き伸ばしたジャコメッティの彫刻作品を真似て作ってみたり、ジャコメッティが創出した独自のスタイルについて考えました。当日の鑑賞後には館内の研修室を借りて、各班に与えられたテーマのフィードバックやプレゼンテーションを実施しました。「英語で芸術を学ぶ」というやや背伸びをした内容ですが、アリシア先生のわかりやすい説明に生徒は引きつけられています。
シンガポール海外修学旅行がスタート
2015年度からは、生徒の成長段階に応じた学びのステージ「3ステージ プラス1」を導入しています。中1の「第1ステージ」は、基本的な生活習慣や学習習慣を確立して基礎学力を育てます。中2〜高1の「第2ステージ」は高め合う学びを、高2の「第3ステージ」では探究し合う学びへと発展させて、未来学力の育成を図ります。そして、高3の「プラス1」では各自の進路実現に向けてチャレンジします。
グローバル化に備えて英語教育の充実にも一層力を入れています。ネイティブ教員5名を揃え、ティームティーチングやスピーチ指導、1対1の英会話レッスンといった手厚い指導が受けられます。英語で調理実習をするイマージョン講座や、イングリッシュキャンプ(中2・高1)など英語漬けのプログラムも実施しています。
グローバル社会で活躍するエキスパートを育てようと、より高いレベルの英語を学べる「E CLASS」を、セカンドステージから設置しています。
「英語に限らず学習意欲の高い生徒が集まっており、学力の伸びが期待できます」と荒籾先生。
海外研修は授業で習得した英語力を試す絶好の機会です。今年度から中3の修学旅行は多民族国家シンガポールへ渡航が決定しています。現地の人たちや学校の生徒らとの交流を通して、多文化共生社会の経験も楽しみです。
「企業インターンワーク」で課題解決に挑戦
同校には「ヴァンサンカン・プラン」という総合的なキャリアプログラムがあります。25歳の自分を思い描き、その理想を実現するために、自分は今、何をすべきかを考え、行動できるようになるために、6年間にわたり、さまざまなプログラムを体系化したものです。
2016年度から取り組んでいるプログラムが、高1の「企業インターンワーク」です。企業から与えられたミッションをグループで取り組み、プレゼンテーションします。生徒はアクティブラーニングで習得したことを生かして活発に取り組んでいました。
全国大会には同校から1チームがエントリーし、ノミネートされました。このチームがセブン&アイから受けた指令は、「今まで誰も思いつかなかった夢のコンビニエンスストアを提案すること!」です。夢のコンビニを模型という形で表現し、奨励賞を受賞しました。
豊かな自然環境が感性や思いやりを育む
「中1全員との面談で本校に入学した動機を聞くと、『学校の自然の豊かさ』を挙げる生徒が多い」と篠原校長。同校は「板橋区加賀」という地名が示すように、江戸時代、加賀藩前田家の下屋敷があった場所。JR埼京線「十条駅」から徒歩5分という好立地にありながら、9万平方メートルもの緑豊かなキャンパスは、同校の大きな魅力です。
広大なキャンパスには2000本の樹木、200種を越える野草、約25種の野鳥が生息。子どもたちの自然体験が少なくなっている昨今、同校の自然環境は生徒の心身の成長に大きく寄与しています。
中高校舎の中庭にある「家政ビオトープ」には、120種類の野草、メダカやドジョウ、チョウやセミなどの生き物がたくさん生息しています。春先、中1の教室で飼っているオタマジャクシは、手足が生えてきたらビオトープに放します。ビオトープは理科の授業や総合学習、課外授業などにも利用されています。
ビオトープの管理・維持は「中学ビオトープ委員会」が中心になって行っています。定期的に観察会を開くほか、小学生向けの夏の体験講座や文化祭でも紹介しています。隔年実施の「全国学校・園庭ビオトープコンクール」にも毎回応募しています。2015年は「日本生態系協会賞」を受賞し、6回目の入賞を果たしました。私立女子中高の活動は全国的に珍しく、学校の自然環境を生かした継続的な活動が評価されました。
育ち盛りを栄養面で支えるスクールランチ
中学生は全員ランチルームで給食を取るというのも、同校の特徴のひとつです。専属の栄養教諭(管理栄養士)が献立を作成。日本食の長所を生かした栄養バランスの良い日替わりメニューは、ご飯が主食の一汁三菜+乳製品が主体です。日本人が不足しがちなカルシウムは、「ミルクゼリー(木苺ソースがけ)」のようにしてしっかり補います。
スクールランチは、みんなで食事をする楽しさ、生きる上で基本となる食の大切さ、食についてのさまざまな知識と判断力を培う食育の場となっています。学期末には学年ごとに食育教室を開催。例えば中1は日本の食文化を、中3はダイエットの正しい知識を教わります。成長期の3年間、しっかり食べて学んだことは、将来一人暮らしで自炊をするとき、家庭を持って家族の食事を作るときに大いに役立つことでしょう。
学外との接点を増やして自信をつける
アクティブラーニングなどの効果で、生徒は自主的に行動できるようになってきました。それでも篠原校長は「もっと自分を出していい」と言います。多文化共生社会で活躍するために、互いの価値観を理解するには、自分から相手を知ろうとする積極的な姿勢が求められます。「思いやりがあり、落ち着きがあるという本校の生徒のよさを生かしながら、一歩前へ出る、自らチャレンジする姿勢を養いたい。そのためには『企業インターン』のように学外で発表する機会を用意したいと思っています」(篠原校長)。
学外の人たちと接すると生徒は鍛えられます。学校説明会では在校生がアドミッションスタッフとして協力しています。
保護者の質問に、最初は「上手く伝えられなかった」という反省が多いのですが、続けて参加している生徒は受け答えがうまくなり、「がんばっているわね」と褒められ自信をつけています。説明会の合間に、「何か質問はありませんか?」と腰を下ろして声をかける生徒に、篠原校長は頼もしく感じています。
現在取り組んでいる同校のさまざまな教育改革が、これからどんな花を咲かせ、実を結ぶのか楽しみでなりません。
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