学校特集
武南中学校2017
掲載日:2017年9月1日(金)
校内に入ってすぐに目を引くのは、各教室にも職員室にも、廊下と仕切る壁やドアがないこと。これは、「グローバルリーダーとして必要な、確固たる人間性と知性の育成」を目指すために、「開かれた心」をもった生徒を育てたいという同校の理念の現れです。中高一貫教育「BUNAN Advanced」を掲げ、中高一貫コースをスタートさせて5年目。「BUNAN Advanced」とは、先進的な教育の創生と、生徒全員が先進的コースの一員であるという二つの意味を込めたもの。世界で活躍するリーダーには他との共存・共生を目指し、社会を変革する心が必要と、「豊かな教養を身につける」「人間力を高める」「世界を知る」を指導の柱としていますが、その教育内容について津島亜沙子先生にお話を伺いました。
学校生活
先生と生徒、異学年との距離も近い環境のなかで
人間としての基盤をつくる
オープンスペースでオープンマインドを育む同校は、先生と生徒の距離が近く、学年を超えた交流も特長です。
津島先生:「学年を超えた縦のつながりが密なことは本校の強みだと思います。たとえば、学年が上がって思春期に入ると挨拶も口ごもったりするのですが、中1が大きな声で先輩に挨拶しますから、照れながらも挨拶を返していますね。これは思わぬ効果でした(笑)」
少人数制だから先生は生徒全員を知っているし、生徒も先生全員を知っている。生徒同士も学年を超えて知っている。生徒たちが安心感をもって、のびのびと学校生活を送っていることがわかります。
同校には「平凡を非凡に務める」という考え方があります。挨拶はただ口にするのではなく「相手に届くようにする」、ノーチャイム制で「時間管理意識をもつ」、つねに「清掃・整理・整頓・清潔を心がける」など、学校生活全般において小さな努力の積み重ねを大切にし、社会の一員としての規範を身につけていくのです。
ちなみに、その一環ですが、同校の生徒たちはお弁当を食べたあと、歯磨きをします。1学期に1回、保健委員が中心になって「歯磨きキャンペーン」も実施されますが、最近の集計では中1の歯磨き率は99%だったとか。
今、将棋界では藤井聡太四段という中3のプロ棋士が話題ですが、同校では中高一貫コースを立ち上げた4年前から、中学で「囲碁・将棋」が取り入れられています。もちろん、生徒たちは通常の部活にも所属しているのですが、この囲碁・将棋は必修の部活扱いとして月に2回、土曜日の4時限を使って中学生全員で実施されます。
津島先生:「日本文化にふれさせたいということもあるのですが、『先を読む能力』を育む目的で始めました。囲碁では、毎回日本棋院から10人くらいの指導者の方にいらしていただくのですが、中1は美術・技術室で基礎を学び、中2・3はメディアホールで対局します。2学年が一斉に碁盤に向かっている姿は壮観ですね」
中3くらいになると大会に出て表彰される生徒も出てくるなど、一定の成果が表れています。
文化祭や体育祭なども中高別や学年区切りではなく、学校全体で取り組みます。文化祭では教科の展示とクラスごとの出し物がメインになりますが、このクラスごとの出し物がユニークです。
昨年、高校のあるクラスで「ジェットコースター」を作りました。模型ではありません。本物のアトラクションです。
教室いっぱいにレールを組み立て、1〜2人乗りのトロッコを走らせるのですが、それを見た中学生たちは「来年は、自分たちもこういうのをやってみたい!」と、目を輝かせたそうです。さて、今年は中学生のクラスで先輩の発想に迫る出し物を見ることができるでしょうか。
英語教育
公立校の2倍、年間"280時間+α"の英語教育で
「使える英語」を習得
同校では学年によって週に数回7時限まであるなど、授業時間数が標準よりもかなり多くなっています。たとえば公立校の英語の授業時間数は年間約140時間ですが、同校の中1・2では245時間、中3では英会話の時間も含めると350時間。なんと2倍の時間を確保しているのです。「読む・聞く・話す・書く」の4技能を徹底して磨くことはもちろん、さまざまな取り組みを展開していますが、これらの学びは実践の場である校外研修や海外研修につながり、また2020年からの新たな大学入試にも活きてきます。
津島先生:「英語習得には2700時間が必要といわれますが、4年前に中高一貫コースをスタートさせるときに、授業できちんと英語力をつけられるプランを立てようというところからカリキュラム作りが始まりました。これからは、日本にいても諸外国の人々とふれあう機会が増えてきますから、『使える英語』を育てていかなくてはなりません。手をかけながら楽しく学ばせていますので、英語に対して前向きな生徒が多いですし、モチベーションをもちやすい環境をつくることができていると思います」
津島先生:「英語は使わなければ意味がありません。いかに使わせるか、そこに重点をおいて指導しています」
リスニングもただ聞き流すのではなく、ノートの取り方や問題の解法、ディクテーション(聞いて書き取る)やシャドーウィング(聞いて即座に復唱する)も大切にしています。また英文を読んでタブレットに録音し、そのデータをALT(Assistant Language Teacher/日本人教師を補佐する外国語指導助手)に送ると、先生が評価をつけながら手ほどきをするといった指導も実施。ちなみに、送信された音声を生徒がイヤホンで聞くなど、英語ではリスニングの試験にもタブレットを活用しています。
このように、「できる、使える」英語の習得を目指していきますが、モチベーションを持続させるために英検も活用しています。
津島先生:「目標は、中3までに英検準2級を取得することです。なかには中3で2級、中1・2でも準2級を取るなど、かなりの成績を挙げていますね。若い教員も多く、さまざまなアイディアを出しあいながら授業をつくりますので、生徒たちも英語が好きになっていくようです」
英語にふれるのは授業だけではありません。中学全学年でスピーチコンテスト、中2と高1でのイングリッシュキャンプのほか、文化祭での発表やコンテスト、海外研修など、学校行事の場でもふんだんに用意されています。
津島先生:「昼休み時間も20分間くらい、英語の曲を流しています。あえて1カ月間同じ曲をかけつづけるのですが、そうすると自然に口ずさめるようになりますので、英語の授業のときにみんなで歌うこともありますね」
このように、重層的に練られた取り組みによって会話力やプレゼンテーション力を磨き、生徒たちは「使える、生きた英語」を身につけていくのです。
ICT教育
先端を行くICT環境も、学習や学校生活を大きく支える
全教室に電子黒板があり、生徒も先生もタブレットを持つ同校では、「いつでも・どこでも」使えるように、全館が無線LANでつながっています。デジタル教育のハウツー本に、先進的なICT教育の実例として紹介されたこともある同校ですが、全教科の授業ではもちろん、自宅学習やホームルーム活動、保護者とのコミュニケーションにもICTが活用されています。
津島先生:「これからの世の中で、情報処理のためのツールとしてICTを使いこなせることは必須です。そのために、教科書やノートと同様の一つの教材として活用していますが、生徒自身もタブレットを使いながら能動的に取り組むため、物事への興味や関心が高まっているように感じます。デジタル・ネイティブの今の中高生にとっては、紙よりも入りやすいという側面もあるのかもしれません」
また、たとえば数学では図を拡縮したり三次元の図にして見せるなど、可視化によって理解も早まることから、そこで生み出された時間でより充実したアクティブラーニングが実践できていると言います。
津島先生:「教員にとっては事前準備に時間がかかるようになりましたが、指導案がかっちりと構築されていますので、メリハリのある効率的な授業が可能になりました」
そして授業以外にも「フォーサイト」という手帳と「クラッシー」というアプリをセットで活用しています。
津島先生:「フォーサイトというのは日々の学習や生活のふり返りができる手帳ですが、BASL(BUNAN Advanced Self Learning)と呼んでいる放課後の30分間で、その日行った学習を確認し、帰宅してからの学習計画を立てます。これは、自分の時間をプランニングするための良い習慣づけになっていますね。一方のクラッシーというのは自学自習をサポートする機能もついているアプリですが、ここに自宅学習の時間などを記録していきます。自分の足跡が蓄積されるためふり返りに活用するとともに、自分は頑張ったつもりでも、友達はもっと勉強しているなどといったこともわかりますので、励みにもなるようです」
両方を毎日、担任の先生に提出または送信するのですが、生徒にとっては自己管理能力が身につくとともに仲間との切磋琢磨の原動力になり、先生方にとっては生徒の現状や推移を一元管理する「生徒カルテ」として指導のための重要な資料となっています。
異文化体験
世界を見聞し、そして日本を見つめる。
全員参加の海外・国内研修旅行
同校では幅広い教養と豊かな人間性を培うため、教科学習に加えて校外研修にも力を入れています。主要教科はもちろん、美術作品やミュージカルを鑑賞したり、歌舞伎や文楽、能などを通じて古典芸能への造詣を深めたりと、芸術系も充実。
そして、これらの研修の前には調べ学習や講演会、ワークショップなどを行い、研修後にはレポートを作成し、日本語や英語でプレゼンテーションを行うなど事前・事後学習も徹底しています。
また、たとえばオペラや能楽、文楽、歌舞伎などを鑑賞する前には古典的、社会的なアプローチを試みたり、英語で書かれた作品を読んだりと、教科横断的な指導も実施。このように、事前に多角的に知識をインプットし、事後には体験から得た感想をアウトプットする機会が設けられるため、見聞を広め、自分で考え、自分の言葉で発表する表現力が培われていくのです。
ここでは6年間で3回実施される全員参加の研修旅行をご紹介しましょう。中2でベトナムに行き、高1でアメリカ、そして高2では京都・奈良へ。異文化を体験して視野を広げてから、改めて日本人としてのアイデンティティーを見つめるという意図から、この順番で実施されています。
中1の冬から1年以上の事前学習を経て臨むため、ベトナム語での簡単なあいさつや生活様式はだいたいわかったうえで訪問します。また、研修中は5つ星ホテルに宿泊するといった安全面も万全です。
津島先生:「JICA(Japan International Cooperation Agency)の協力を得て、水環境改善プロジェクトの活動現場を視察したり、ホーチミンの農村を訪問したり、現地の中学校と交流するなど、研修内容はバラエティーに富んでいます。国立レクイドン中学校との交流授業も体験しますが、レクイドン中学校には日本語コースがあるので、生徒たちは日本語も英語もペラペラです。自分たちも2年間英語を学んでいるのにと、生徒たちはカルチャーショックを受けるようですね。もっと英語を頑張らないと世界に通用しないんだと認識して帰ってきますので、それが、英語学習へのモチベーションにもつながっていきます」
そして、JICAの活動や現地の同世代との交流などをとおして日本とベトナムの違いを知り、自分の将来や、日本や世界の未来を考えるきっかけになっているそうです。
ベトナム研修で、現地校の生徒たちと
国立レクイドン中学校では交流授業にも参加
この3月に初めて行われた高1の「ボストン研修」では、ホームステイも経験しながら、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学のキャンパスツアーや、大学生とのリーダーシップセッションを行いました。また大学の授業にも参加し、学生と一緒にプレゼンテーションなども経験。
津島先生:「事前学習では、ハーバード大学から日本に来ている留学生もお呼びして、スライドを使いながら約50分間、英語で話していただきました。大学での講義内容や友達関係の築き方などについてなどでしたが、生徒たちは興味津々、とても熱心に聞いていましたね。ですから、研修もとても充実したものになりました」
そして、研修旅行の総仕上げとして行われるのが、高2で京都・奈良を訪ねる「古都研修」です。海外での体験を経て、さまざまな視点をもったあとに改めて日本に立ち返り、日本古来の文化や歴史にふれるわけです。
津島先生:「この研修は11月に行われますが、今年は京都・奈良の大学に通う留学生と一緒に巡る予定です」
温かな校風のなかで、さまざまな角度からものを見て視野を広げることを最も大切にしながら、着実に人間力と学力を積み上げていく。このような同校に吹く風の清々しさは、校内に一歩足を踏み入れて生徒たちの顔を見ればすぐにわかるはずです。学校説明会や公開行事にお出かけになり、ぜひ実感してみてください。
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