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学校特集

宝仙学園中学高等学校共学部理数インター2020

生徒の自由なチャレンジを後押しする“知的で開放的な広場”
いま“日本一入試方法が多い中学”として注目されている、極めてユニークな「フツーの学校(自称)」。

掲載日:2020年12月24日(木)


宝仙学園共学部理数インター

沿革
  1928(昭和 3)年4月 中野高等女学校 設立。
  1945(昭和20)年4月 学校法人化。
  2006(平成18)年4月 高等学校女子部 保育コースを設置。
  2007(平成19)年4月 宝仙学園中学校 共学部理数インター設立。
  2008(平成20)年4月 創立80周年を迎える。
  2015(平成27)年4月 高等学校女子部 保育コース10周年を迎える。
           2月 「公立一貫校型(適性検査型)入試」新設。
  2016(平成28)年4月 共学部理数インター10周年を迎える。教科『理数インター』導入。
           2月 「リベラルアーツ入試」新設。
  2017(平成29)年2月 入試『理数インター』新設。
  2018(平成30)年2月 「グローバル入試」、「AL入試」新設。
  2019(令和元)年2月 「AAA入試」、「新4科(翌年から新4科特別総合)入試」新設。
  2020(令和2)年2月 「読書プレゼン入試」新設。
  2021(令和3)年2月 「オピニオン入試」新設。

校長  富士 晴英

所在地 〒164-8628 東京都中野区中央2-28-3
    TEL:03-3371-7109
    https://www.hosen.ed.jp/jhs/

交通  東京メトロ丸の内線・都営地下鉄大江戸線「中野坂上駅」から徒歩3分。


 東京都中野区にある共学の私立中高一貫校「宝仙学園共学部理数インター」。真言宗豊山派の歴史ある名刹・宝仙寺を経営母体とする宝仙学園が、この共学の中高一貫部を新設したのが2007年4月。一風変わった校名を持つこの私立中高一貫校は、いま、"日本一入試方法が多い中学"として、多様な「学習歴(=活動歴)」を持つ多くの小学生との"出会い"を実現し、学内はもちろん、中学入試の世界にも新風を吹き込んで多方面から注目されています。「すべての学習歴は理数インターに通ず!"日本一入試方法が多い中学ですが、なにか?"」、そう宣言する、自称「フツーの学校」で、いま多くの"出会い"と"チャレンジ"が生まれています。「知的で開放的な広場」という新コンセプトを掲げ、生徒の自主的な活動やチャレンジを後押しする形で促し、大きな成長の手応えを感じているという同校の現在の教育と、コロナ禍で迎える来春2021年入試に向けてのメッセージを、今回は同校校長の富士晴英先生のお話と、教頭で広報部長の中野望先生にご案内いただいた教科『理数インター』の授業をご紹介します。

コロナ感染がさらに増加して
社会状況が悪化したとしても、
工夫して必ず入試は実施する!

宝仙_校長の富士晴英先生
校長の富士晴英先生

 コロナ禍で行われる来春2021年の中学入試に向けて、宝仙学園共学部理数インター(以下、記事中では宝仙理数インターと表記)でも、3月から5月の休校期間を経て登校を再開した後、9月からようやく学校に来てもらっての説明会が実施できるようになりました。そうした毎回の説明会では、校長の富士晴英先生は冒頭で必ず、参加した保護者に向けて、 「仮に来年の入試時期にコロナ禍が悪化して、どういう社会状況になったとしても、必ず入試はやり切ります」と伝えてきたといいます。
そしてそれが、願書を出してくれた受験生と保護者に対する私学の責任だと富士先生は考えています。
「仮に中高の校舎が使えない状況になっても、幸い本校は系列小学校や大学と隣接したひとつの学園キャンパスですので、互いに融通して校舎・施設を利用することができると考えています」と富士先生は言います。
 しかし、それでも対応し切れない状況が入試本番では生じる可能性も考えられます。
「都の私立中高協会から一般入試でのオンライン入試の実施は自粛という申し合わせが出された以上、どのような方法でも入試を必ず実施するとは名言できませんが、本校が「日本一入試方法が多い中学」と自ら謳っているのは、同時に「日本一柔軟な学校である」ことを意味しています。だからこそ、入試は何としても無事にやり切るのは当然のことです。
 ですので、受験生と保護者には心配することなく、安心して入試の日をお迎えください、と伝えています。状況が心配される場合には、本校のホームページをこまめにチェックしていただければ、必ず受験生と保護者が安心して入試に挑める体制をとって、それをお知らせします」と富士先生は強調します。
「いまのところお伝えできるのはそのくらいですが、それだけでも説明会の冒頭でお伝えすることで、少し安心していただける受験生の保護者も多いようです」
 確かに、来春2021年入試に向かう現小6の受験生と保護者は、これまでの中学受験生が経験したことのないようなコロナ禍の不安のなかで受験準備をしてきました。この富士先生の言葉が安心材料になれば、落ち着いて入試を迎えることができることと思います。
 もともと帰国生入試では、以前から世界各国に滞在している受験生に向けて、「Skype入試」を実施してきた宝仙理数インターは、コロナ対策で帰国生入試への導入校が一気に増えた「オンライン入試」の先駆けでもありました。そして海外からの帰国や移動が不自由な現在、この海外帰国生へのオンライン入試の導入は、大変多くの保護者に歓迎されています。
「まずは、どのような状況になっても入試は実施しますよ! と宣言することが、受験生と保護者にとっていま必要なメッセージだと思います。何より受験生と保護者にとって、良い中学受験になるように考えることが大切だと思っています」」と富士先生は言います。

「公立一貫校型(適性検査型)入試」と、
「リベラルアーツ入試」の新設が、
多様な受験生との‟出会い"を広げた!

宝仙_毎年、受験生が入試に挑んでいる間に、富士校長と在校生が保護者に向けて学校生活の様子を紹介してくれる。
毎年、受験生が入試に挑んでいる間に、富士校長と在校生が保護者に向けて学校生活の様子を紹介してくれる。

 今年で校長6年目を迎えた富士先生。それまで実施していた「4科目入試」と「公立一貫校型(適性検査型)入試」、「帰国生入試」に加えて、首都圏の私立中では最初の自己アピール(プレゼンテーション型)入試である「リベラルアーツ入試」を新設したのが、校長1年目の2016年入試でした。
 また、同じく「公立一貫校型(適性検査型)入試」導入2年目の2016年入試では、2月1日にもこの入試を実施し、何と男女で500名を超す受験生が集まり、一気に公立中高一貫校との併願受験生が首都圏で最も多い私立中のひとつとなりました。
「あれほど多くの受験生が来てくれるとは思いませんでしたね。それまで実施していた2月2日は外さずに、2月1日にも「公立一貫校型(適性検査型)入試」を加えたことも、多くの受験生との出会いの間口を広げることにつながりました」と富士先生は当時を振り返ります。
 宝仙学園共学部理数インターの創立10周年を迎えたこの2016年が、その後の同校の進化に向けてのひとつのターニングポイントになったようです。

宝仙_2020年入試では計10種類、2021年入試では計11種類の中学入試を実施する!
2020年入試では計10種類、2021年入試では計11種類の中学入試を実施する!

 そしてその後、宝仙理数インターは、年毎に入試の種類を増やし、「グローバル入試」、「英語AL入試」、「入試『理数インター』」、「AAA(トリプルA=世界標準)入試」、「新4科特別総合入試」、「読書プレゼン入試」を加え、先の「4科入試」、「公立一貫型入試」と「帰国生入試」にプラスして、今春2020年までに何と10種類もの多様な入試を実施するに至っています。
「もうここまで来たら、毎年入試を増やしていきたいですね(笑)」と語る富士先生は、こうした多様な入試を導入したからこそ実現した、多様な個性を持つ子どもたちとの出会いを心から楽しんでいる様子です。
 そういえば、「リベラルアーツ入試」を新設したときに、小学生がこれまでに打ち込んできた、スポーツや芸術や音楽などの習い事を含むすべての活動歴を、「学習歴」と位置付けて、出願書類に加えたことが思い出されます。そして、このコンセプトが、宝仙理数インターの全種類の入試を紹介した独特のユニークなリーフレットの表紙に謳われた「すべての学習歴は理数インターに通ず!」というキャッチコピーに反映されています。
 さらにそこには "日本一入試方法が多い中学ですが、なにか?"という、ちょっと笑いを誘うようなサブ・コピーも加えられています。
 そして来春2021年には、さらに「オピニオン入試」というユニークな入試を新設します。

新入試のリーフレット(PDF)

宝仙理数インターの「答えのない学び」
教科『理数インター』と、それを反映した
入試『理数インター』導入の背景!

宝仙_国語科の発案によって2020年入試から新設された「読書プレゼン入試」の様子。
国語科の発案によって2020年入試から新設された「読書プレゼン入試」の様子。

「それまでに導入してきた新たな入試は、校長の私や幹部の発案によるものでしたが、2020年に新設した「読書プレゼン入試」は、国語科から提案があって実現しました。授業の現場からの発案で、本校の教育が中学入試にも反映するこうした形が良いと思っています。
 たとえば本校では、2017年に「入試「理数インター」」を新設する前年の2016年から「教科「理数インター」」の授業を導入していました。今年からの「読書プレゼン入試」を新設する前にも、そうした読書プレゼンを国語の授業のなかで行っていました。

 また、本校では生徒に1人1台のiPadも持たせて、作品を作らせたりしています。つまりクリエイトするためのツールとして授業のなかで使っているのです。先ほども中学生が文化祭で使うビデオ動画を作成するのに校長と校長室の様子を入れたいとか、技術の授業でショートビデオを作成するので、あれこれやってくれと頼まれ、私も生徒のリクエストに応じました(笑)。
 そういう日頃の教育実践の土壌があって、その反映としてユニークな入試を実施していきたいですし、本校はそういう学びをすでに実践しています。
 来年から新設する「オピニオン入試」についていうと、それなりの事実の裏付けとか、多種類の情報をキャッチして比較したり精査したりして、あれこれ考えたうえで自分の考えをまとめていくプロセスを経ていないと、それはオピニオンとは言わないと思うのですね。好き嫌いだけで意見を言うのではない世界に足を踏み込んでほしいと考えて、この入試を新設することにしました」と富士先生は言います。
 その来年新設の「オピニオン入試」とはどういう入試なのか、内容が気になるところです。
「「オピニオン入試」については、この中野先生と入試広報部で案を練った末に、二段階で試そうということになりました」と富士先生。
「教科「理数インター」の中心になっている米澤先生とも相談して、難度の面も検討しながら、10月末の説明会で「オピニオン入試」のテーマを発表することにしました。そのうえで、入試当日にはプラスアルファのテーマを与えて、そこで条件をつけた課題を再構築して、発表まで進めてもらうというやり方にしました。つまり、授業の作法と同じです。大きなテーマについて各自が準備してきて発表し、周りの友達がいろいろ意見を言ってくれると、またそうした意見を取り入れて、もう一度自分の考えをまとめて発表するという、そういう授業をしていますので、それと同じ形を考えています」と、教頭兼広報部長の中野望先生が説明してくれました。

事前の大テーマについて事前学習し、
入試当日は新たな初見の課題について
自分の「オピニオン」を形成して伝える!

宝仙_2016年から授業に導入された教科『理数インター』のコンセプトと学びの形態を中学入試に反映させた入試『理数インター』の様子。
2016年から授業に導入された教科『理数インター』のコンセプトと学びの形態を中学入試に反映させた入試『理数インター』の様子。

 事前に大きなテーマを伝えて、事前の学習をしてきてもらうという形も、中学入試ではユニークです。
「たとえば「SDGs」というテーマを伝えて、17個のアイコンについて自分なりに調べてくれば、それは十分な事前学習になっていますよね。そのうえで新たな観点が出てきたときに、準備してきたものと新たに出てきたものとの齟齬や共通点を見出し、別な組み合わせを考えて内容がまとめたりすることができます。
 つまり、単純な即興ではなく、前提としてベースになる知識や問題意識をもったうえで集まってもらい、そこで所見の課題に取り組むわけですから、まさに探求学習やアクティブラーニングですよね」と富士先生。
 つまりは、事前に伝えられた「PBL(=課題解決型学習)」の大テーマについて各自が事前学習をして、入試本番では初見の課題に取り組むという形です。これは社会に出たときに、様々な職業でも求められるプレゼンテーションとも同じです。手ぶらで来て好きなことを話せというプレゼンはほとんど存在しません。そう考えると、この新しい入試が楽しみになってきます。
「とても楽しみですね」と富士先生。
 しかし、受験生にとってもなかなか準備の手間のかかる入試でもあります。
「そういうことにチャレンジしてみたいという受験生が来てくれると思いますので、そう多くの受験生はいないかもしれませんが、きっと面白い小学生と出会えるのではないかと思います」と中野先生は期待します。
「会ってみたい受験生ですよね。その意味では、プレゼンテーション型の「リベラルアーツ入試」を導入してから現在まで私たちの考えと期待は一貫しています。どんな子どもたちが、それぞれどんな「学習歴」を持って本校に来てくれるのか、会ってお話がしてみたいという、その一点です。そういう意味では、こうした新たな入試のバリエーションは無限に考えられると思っています」と富士先生の考えはさらに広がります。

私立中の「多様な入試」の可能性と
コロナ禍での対応で明らかになった
新たな公私間の教育格差

宝仙_プレゼン型や入試『理数インター』などの多様な入試に挑む受験生は、最初にこの「日本語リスニング」テストを受ける。
プレゼン型や入試『理数インター』などの多様な入試に挑む受験生は、最初にこの「日本語リスニング」テストを受ける。

 こうして、"日本一入試方法が多い中学"であり続けている宝仙理数インターですが、どのようにして、同校の"多様な入試"が根付いてきたのでしょうか。
「他校では、せっかくプレゼン型の入試を導入しても、その後やめてしまったケースも何校かありますよね。それではもったいない気がします」と中野先生は言います。
 プレゼン型入試を導入しながらやめてしまったケースでは、どうしてもその入試結果をポジティブにとらえきれなかったようです。
「しかし、長く続けないと成果も分からないですよね。本校も「リベラルアーツ入試」の導入初年度は、私と、いまは副校長の右田教頭(当時)の二人だけで、受験生のプレゼンの面接官の役を担当しました。
 他の先生方からすると、校長と教頭がやろうと言ったのだから引き受けてもらおう、という感じだったのかもしれません(笑)。それでも私たちはかまわず自分たちで引き受けました。それで入学してくれた受験生がいい子であれば、学内の理解も変わってくると考えていました」と富士先生は導入初年度を振り返ります。
 現在の新タイプ入試を続けている学校で、導入初年度はたった1人の入学者であっても、その子が新しい可能性を感じさせてくれる子だったことで、いまでは中学入学者の半数近くをその新タイプ入試で迎え入れている学校もあります。
「自信をもって続けていけば、やがて流れも変わりますよね。他の私立中の先生方にも、できれば長く続けてほしいですよね」と富士先生は願っています。
「10月末に「新入試説明会」を実施しましたが、参加申し込みが満員で締め切りになったのは例年よりも早かったですね。中学受験という市場のなかには、こうした新しい入試を楽しみに待っていてくれる人もいるのだと思います。そういう人たちといかに出会うかということですよね」と富士先生は考えています。

宝仙_取材日に見せたいただいた中3の教科『理数インター』の授業。伝統ある茶室をリニューアルした部屋で、畳に座ってグループワーク!
取材日に見せたいただいた中3の教科『理数インター』の授業。伝統ある茶室をリニューアルした部屋で、畳に座ってグループワーク!

 ところで、いまの小6、つまり来年2021年入試の受験生数はさほど減らないか、もしかすると少し増えるかもしれないという予想があります。しかし小5以下は少し違ってきます。やはりコロナ禍の影響と、その後の経済的な打撃なども相まって、受験生数が減少に向かう可能性もあるのではないかと心配されています。
「私もそれを気にしています。今年のコロナ禍があって、その後の景気や消費動向を見ていたら、この先の中学受験が心配になりました。
 ただ、リーマンショックのときには、確かに景気は悪くなったけれど、公立学校の質が落ちたわけではありませんでしたよね、「ゆとり教育」のときのように...。
 しかし今回の3月~5月の休校期間における公立学校と私立学校のオンライン授業などの対応の差は明らかになりました。公立学校の多くでは、ペーパーの課題を渡して、締め切りを決めて集めるなどしていましたが、教育というのは、短いスパンのなかで、生徒一人ひとりの成長に付き合うことだと私は思っています。それがコロナ禍だからできませんというのは、リーマンショック時には問題にならなかった公私間の教育格差が、今回は明確になったと思うのです。そのときにどういう対応をしてくれたかという点を見ている保護者も多いですよね。
 とくに東京の場合には高校に入れば、教育支援金がありますので、そこまで考えてプランニングしたときに、まず中学の3年間私立中にわが子を通わせて頑張れるかと自問自答する家庭や保護者が、前よりは多くなっているのではないでしょうか」と富士先生は感じています。
 確かに、今回のコロナ禍によって、わが子の教育に臨む保護者の期待や視点の変化があったはずです。
「本校で行ったプレミアム相談会のときにも、この3月~5月の休校期間のオンライン対応で評価が分かれたと思います、と言ってくる保護者もいました」と富士先生。
 なかには、お子さんを私立と公立の両方に通わせている保護者や、お子さんを公立学校に通わせている私立中高の先生方が、最もその格差を感じたようです。
 また、この間マスコミでよく取り上げられた「学習の遅れ」のケアという面はもちろん、それ以上に私立中高では、「学校とつながっている」実感を持てたことが良かったという保護者が多くいたようです。

オンライン教育の可能性と
登校してのリアルな対面教育との
両方の良さを探る実証的な試みを!

宝仙_教科『理数インター』では、その日のお題についてグループの仲間と話し合ってアイディアを出し合い、発表する内容をまとめていく!
教科『理数インター』では、その日のお題についてグループの仲間と話し合ってアイディアを出し合い、発表する内容をまとめていく!

 その後、ほとんどの私立中高が6月からは登校を再開しました。ただし私立中高のなかにも、「コロナ以前に戻そう」と考える学校と、休校期間のオンライン対応で得られた効果や教訓を生かして、登校してのリアルな対面の教育と、オンライン教育の両方の良い面を今後に生かしていこうと考える学校があります。
「本校は登校を再開した現在でも、あえてオンラインでの対応も続けています。月曜から金曜までまんべんなく週1回オンラインの授業を続けていくと、結局「すべての授業がオンラインでできる」という検証になりますよね。
 ただ、そのオンライン授業の評判が良いか悪いかというと、登校できるいまは、生徒はやはりリアルの方が良いというわけですよね。それは嬉しいことですし、そうでなければN高と違う私たち全日制の学校は成り立たないわけです。しかし、コロナ禍のオンライン対応を生徒も学校も経験したいまでは、たとえば台風が接近しているので休校といった従来のような対応が許されなくなってきたかもしれません」と富士先生。
 確かに今年10月の台風の際にも、即時オンライン授業への切り替えをした私立中高がありました。
「もちろん本校もそうしました」と中野先生。
 逆に今後の学校教育では、そうしたハイブリッド対応が当たり前になる可能性も考えられます。
「10月半ばまでに、ちょうど1周オンライン授業の検証ができましたので、次はさらに、オンラインならではの授業はどんなことができるか?という一段階先の課題に取り組み始めました。当分そうした検証を続けていくつもりです」と中野先生は意慾的です。  今後はそれぞれの私立中高が、そうした検証をして、それぞれの教育方法を形作っていくのかもしれません。また入試でもそれは共通かもしれません。
「オンライン入試を改めて、校内でタブレットを使って入試をするケースも出てきましたが、そうした入試にどれくらいの受験生が集まるのかも、今後の入試のあり方と可能性を探る、ひとつの検証になりますよね」と富士先生は考えています。
「もし首都圏模試センターのような公共性のある模試会社がオンライン模試を開発して実施したら、なぜ模試ではできて、入試ではできないのか、という意見が出てきますよね」と富士先生。
 模試についても、コロナ感染状況の拡大によって、保護者や塾からの要望も刻一刻と変化していきました。
「もっともですよね。何よりそういう受験生と保護者の意見や要望と向き合うことが何より大事なことですよね」と富士先生は考えています。
 ところで入試当日の激励について、学校から塾に対して何か要望やメッセージは出す予定でしょうか。
「とくにいたしません。それは私たちが言うことではなく、本校としては、それぞれお越しになる方々に決めていただければ良いと考えています。いらした方に対して制限をするのは失礼なことだと思いますので...」
 とはいえ、学校側が密にならない環境をつくろうとしているところに、さらに密になるような行動は避ける方が良いのではないかという考え方も多くの塾にあるようです。来春2021年の入試では、新たなオンラインによる激励などが生まれるのかもしれません。
「それぞれの考えで、そうした工夫が生まれることは良いと思います。それも楽しみですね」

フツーの学校のフツーの生徒でも
ここまでのアウトプットが可能になる
教科『理数インター』の学びの効果

宝仙_岩波ジュニア新書から2020年7月に刊行された『できちゃいました!フツーの学校~富士晴英とゆかいな仲間たち』。「しくじりOK!失敗OK! さあ、やってみようよ!」というメッセージが帯にも紹介されている。
岩波ジュニア新書から2020年7月に刊行された『できちゃいました!フツーの学校~富士晴英とゆかいな仲間たち』。「しくじりOK!失敗OK! さあ、やってみようよ!」というメッセージが帯にも紹介されている。

 この後、編集部では、中学3年生の教科『理数インター』の授業を取材させていただきました。
「この授業は導入から5年目になります。その翌年から新設した入試「理数インター」が4年目になります」と中野先生が教えてくれました。
 このグループワーク形式の探求型の授業「教科「理数インター」」の手応えはどうなのでしょうか。
「今年7月に岩波ジュニア新書から刊行された「できちゃいました!フツーの学校~富士晴英とゆかいな仲間たち」という本のなかでもお伝えしていることなのですが、たとえば本校は入試の偏差値でいえば、フツーの学校です。そこに入学してくるふつうの生徒に対する教育はどうしていくかを考えたときに、本校はインプット一辺倒の教育ではなく、アウトプットする比率をもっと高める教育をしようと考えました。
 それには、子どもたちを信じて、そういう機会を与えていく、失敗することが、実はチャレンジする力を育てることにつながっていくと信じる姿勢が必要です。入学時から偏差値の高い一握りの生徒ではなく、ふつうの生徒にそういう機会を与えているわけです。

宝仙_教科『理数インター』では、先生たちがグループの話し合いの様子を見て、ところどころで考えるきっかけになる声かけをしてくれる。
教科『理数インター』では、先生たちがグループの話し合いの様子を見て、ところどころで考えるきっかけになる声かけをしてくれる。

 教科「理数インター」での発表や議論を見ていると、これでホントに中3なのか、と感じることがあります。ふつうの子どもでも、このレベルまでできるのだと驚かされます。まさにこれが手応えですね。アウトプットする機会は一握りの高偏差値の生徒だけではなく、ふつうの子どもたちにもあって良いし、その方が面白い学校になるのだと...。とくに中1の生徒は、教科「理数インター」の授業が大好きですね。なかには教科「理数インター」の授業があるから本校を選んだという生徒もいます。
その意味では、入試「理数インター」に学校名をつけて良かったと思っています(笑)。これで入学してくれるのならば、お互いに幸せですよね」と富士先生。
 それはまさに、"入試は学校の顔"を体現した入試です。教育の世界でアクティブラーニングの必要性が論じられた当初、そういう学びは、もともと頭の良い子だからできる、という意見を持つ教育関係者もいましたが、それを普通の子でもできる、と概念を変えてくれた私立学校のひとつが宝仙理数インターだと私たちは感じています。

宝仙_グループのなかには、男女4人で非常に元気に意見を交わし合うところも!
グループのなかには、男女4人で非常に元気に意見を交わし合うところも!

「本校でもすべての教科でそれをやろうと考えているわけではありません。基本的な知識がないのに、さあ考えてみようといっても始まりません。国・数・社・理と英語の5教科の授業のボリュームはしっかりあるうえで、教科「理数インター」があるわけですから問題はないはずです。むしろインプットされるだけの授業や大学進学実績だけで、学校の良し悪しを測るという評価軸は、やはり一面的だと思います。
 どれだけ生徒がアウトプットできるチャンスを設けているか、そういう学びを楽しんでいるかという点に注目してほしいですね。教科「理数インター」の授業は週に一回だけであっても、本当に一滴こうした刺激を垂らすだけで、生徒は全然変わってくるんです」と富士先生は、こうしたアウトプット中心の学びの効果を実感していることを明言します。
 何かが生徒自身のなかで弾けているのでしょうね。
「そうですね。それならば国語科では「読書プレゼンをよってみよう」とか、英語科では「英語プレゼンテーションコンテスト」に向けた予選を授業のなかでやってみようとか、既存の教科のなかでもどんどん発信させるチャンスを試そうというように授業が変わってきます』と富士先生は、先生方の変化も実感しています。

『面白い学校をつくるには?』という課題を
生徒と教員が学びのなかで共に考え、
実現していく「知的で開放的な広場」

宝仙_この日の授業では、中学生の「あるある」から「授業が眠くなる」ときの対策ができる新商品を考えるというお題が...。
この日の授業では、中学生の「あるある」から「授業が眠くなる」ときの対策ができる新商品を考えるというお題が...。

 授業の取材後に、教科『理数インター』を中心で担ってきた米澤先生にお話を伺いました。
 今日の中3生の『理数インター』の授業は何か事前のお題があったのでしょうか? 「中学生の生活のなかの「あるある」から、新商品を創ろうというお題で、あるグループは「授業が眠くなる」という「あるある」から新商品を考えていました。今日が5回目の授業でした。とくに学校のなかだけに限っての「あるある」でなくても良かったのですが、中学生の生活というと学校生活の発想が多かったですね」と米澤先生。
 その前段階として興味深いお題もあったようです。
「登校を再開して、1回~3回までは、「面白い学校をつくるにはどうする?」というテーマで、グループワークでアイディアを出し合い、発表し合ったりしてきました。生徒のアイディアから面白いテーマができないかと期待していましたが、なかには「校則」についてとか、学校内の空間でハンモックがあると楽しいとか、入り口には海があって背後には山があると良いとか、ハチャメチャなアイディアもありました(笑)」と米澤先生は教えてくれました。

宝仙_グループの話し合いやアイディア出しが進むタイミングで、米澤先生から次の課題やアドバイスが伝えられる。
グループの話し合いやアイディア出しが進むタイミングで、米澤先生から次の課題やアドバイスが伝えられる。

 いまの高校2年生が教科『理数インター』導入の初年度だと思いますが、学年が上がるにしたがって、生徒さんの取り組みに違いも出てくるのでしょうか。
「中1や中2の最初のうちは、わりと発想が固いのですね。真面目というか、入試での〇✖の延長で「答えがある」枠組みのなかで考えるとか、そういう面も感じます。そこで私たちは、決まりきったものを「そうではなくしたら、どうなるの?」と授業のなかで突いたりしていきます。すると、もっと自由に考えて良いのだという空気が中2の後半くらいから中3になると生まれてきます。明後日の方向に行ってしまうこともありますが...、でもそこから新しい発想が出てくると思っています」と米澤先生は期待しています。
 中3くらいになると、少し男女をお互い意識し始めている感じもしましたが...、次の段階では男女の壁を超えられるのでしょうか。

宝仙_なかには前半は男子と女子で話し合い、後半で互いのアイディアを伝え合うグループも。
なかには前半は男子と女子で話し合い、後半で互いのアイディアを伝え合うグループも。

「確かにグループによっては、そういう感じは少し出てきますね。授業では別に仲良しだけでグループ作りをしているわけではなく、即席で決めますので、それは個々のグループの雰囲気次第ですし、社会に出てからも同じですよね。いろいろな人と協働していかなくてはなりません。ですから授業では「リーダーの定義」についても話しています。何でもリーダー自身がやらなくてはいけないわけではなく、場の空気をつくっていくとか、人に何らかの影響を与えていくのもリーダーだよと」と米澤先生は、将来求められる協働力も育てることを意識しています。
 これまで、クエストカップでも賞をもらっていると思いますが、そうした目標があると取り組みにも力が入るのでしょうか。以前に取材をさせていただいたときには、宝仙学園のキャンパスのなかにある井戸水で、ユニークな新商品「宝仙水」を作ろうというお題でした。
「先ほどの授業では7グループありましたが、まだエンジンのかかっていないグループもあったようです。でも年明け頃になると変わってきます。クエストカップをめざすのも、実は本気なのだということに生徒が気づいてくれて、雰囲気も変わってきます」

宝仙_グループワークの様子を見ながら説明をしてくれた教頭兼広報部長の中野望先生(写真左上の男性)。
グループワークの様子を見ながら説明をしてくれた教頭兼広報部長の中野望先生(写真左上の男性)。

 それまで先生方は、じっと見守りながらも、いろいろな声かけをしていくのですね。
「私たち教員が決して生徒のアイディアや意見を否定はせずに、声かけをしていくことで、生徒が「自分たちは肯定されているのだ」と感じて「もっと自由に発想や発表をして良いのだ」と思ってくれるようです」と米澤先生。このスタンスが、校長の富士先生の言う宝仙理数インターの「知的で開放的な広場」を作り育てているのでしょう。クエストカップには毎年出場しているのでしょうか。
「クエストカップは、例年2月下旬に立教大学で行われていたのですが、今年はコロナ感染が広まり始めた時期でしたので、オンラインでの開催になりました。しかし、そうなったことで、いろいろな地方からも気軽に参加できた面もあったようです。
 本校は今年で3回目の出場になりますが、いまの中3は過去2回、中2は去年からエントリーしています。中2のテーマは新商品づくりではなく、企業から出されたお題に対してアイディアを出していく形です。中1は今年から参加で、身近な困ったことを解決するには、自分たちがどう行動するかというテーマです。

宝仙_個々の生徒のアイディアが書かれた付箋のなかには、ユニークなイラスト付きのメモも!
個々の生徒のアイディアが書かれた付箋のなかには、ユニークなイラスト付きのメモも!

 いまの高2の生徒が、新商品を考えるテーマで優秀賞をもらっています。高1の生徒は、オンライン開催で優劣はつけられませんでしたが、全国の場で発表するなかに3チームが出場しました」と米澤先生。
 富士先生のお話でも、最近の宝仙理数インターの生徒は、人前で発表することにほとんど抵抗がなくなっているとか...。教科『理数インター』を導入したことで、学校全体の雰囲気が変わってきているようです。
「いまの高2から教科「理数インター」の授業を導入しましたが、まず中学生たちが活発になり、明るくなったなという印象があります。さらに高校生になると、しばられずにもっと自由になったと感じています。規定の枠のなかだけでなく、もっと自由に「こうしてみませんか?」と生徒から提案してくるケースも出てきて、学校の活動を楽しんでいるように感じます」と米澤先生は、生徒さんの成長の手応えを感じています。

宝仙_授業の最後には、グループごとに代表者が発表し、クラスの仲間の発想や新商品を共有することで、さらに新たな気づきを得る!
授業の最後には、グループごとに代表者が発表し、クラスの仲間の発想や新商品を共有することで、さらに新たな気づきを得る!

「電車でいうと、先頭の列車に引っ張られているのではなく、自走しているという感じです。教員がいなくても、自分たちの車輪で動いているイメージですね」と米澤先生。"自走"という表現が頼もしく感じます。
 発表の機会、アウトプットすることじたいを、生徒自身が楽しもうとしているという...、その雰囲気の変化(=進化)を、見守ってきた先生方が感じられることが大きな手応えになっているようです。
 「面白い学校をつくるには?」というコンセプトを生徒と教員で共有し、学校生活を明るく活気づけている宝仙学園共学部理数インターの、過去~現在~未来に向けての進化を、今後も楽しみにウォッチしていきたいと思います。

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