学校特集
桜丘中学・高等学校2017
掲載日:2017年10月5日(木)
2014年度の中学・高校の入学生からiPadの本格活用を始めている桜丘中学・高等学校。今年度も「オンライン英会話講座」や、個人の学習進度に最適化する「アダプティブ・ラーニング」など、新たな取り組みが始まっています。
ICTの先進的な取り組みで知られる桜丘ですが、学校の魅力はそれだけではありません。特に中学生は学校行事が多彩で、能動的な活動が盛んです。例えば「ハウス制」は中学3学年をまたぐ小グループの人間関係の中で、中3のリーダーシップが養われています。
創立から93年、建学の精神でもある「勤労と創造」は、現代版の「翼(教養)」と「コンパス(判断力)」へと継承され、グローバル時代の土台となるこれらの素養は、学校生活のさまざまな活動の中に散りばめられています。
次の段階に踏み出したICTの活用や、ますます充実する英語教育など、桜丘の多様な取り組みについて、副校長の高橋知仁先生にお話を伺いました。
iPadで見る人の心をつかむプレゼン能力を磨く
桜丘中学・高等学校では、授業はもちろん学校行事やクラブ活動など学校生活のあらゆる場面でiPadが使われています。例えば、中学の生徒会が中心になって、2016年度から参加しているユニクロ主催の「届けよう、服のチカラ」プロジェクト。これは、着なくなった子ども服を回収して世界中で服を本当に必要としている人々に届ける、子どもたち主体の活動です。
中学全体や桜華祭で集めたけれど、まだまだ足りない! そこで高校生の力も借りようと、中学生が自分たちでプロジェクトの趣旨をスライドショーにまとめて高校の各クラスを回り、協力をお願いしました。中学の入試説明会でも受験生や保護者に呼びかけています。どうすれば見る人の心をつかめるか、多くの賛同者を得られるか、iPadは生徒の創意工夫を助けるツールとしてすっかり定着しています。
中3のリーダーシップを育む「ハウス制」
桜丘というと先進的なICTの取り組みが目を引きますが、「基本は、フェイス・トゥ・ フェイスの対面関係を大事にしています」と髙橋先生は強調します。
正解がない時代に課題に向き合い最適解を導き出すには、体系的な知識の「ハードスキル」だけでなく、「ソフトスキル」といって、コミュニケーション能力、創造力、分析力、柔軟性、チームビルディング、傾聴力など、人間関係に影響を与える力が求められています。
ソフトスキルは能動的に他者との関わる中でこそ身につきます。「本校は特に中学の行事が多く、座学以外の能動的な場面を頻繁に設けています。これらの経験を通して、いろいろな人間関係を学んでもらいたいと思っています」(髙橋先生)。
通常の学校の人間関係は、同い年の横のつながりや、好きなことに共通点がある部活動の縦のつながりが中心です。今年度から始めた「ハウス制」は、中学の3学年をまたぐ、それでも部活動の先輩・後輩よりもゆるい、いつもと違う人間関係で活動します。
5月に中学全員でマザー牧場へ行きました。中1~中3の160〜170人を6つのハウスに振り分け、行動しやすいように1つのハウスをさらに4つの班に分けました。班の最小単位は1学年2名ずつ、計6名です。始めはぎこちなかった班行動も、飯ごう炊飯とバーベキューはみんなで分担して作り、後片付けも協力して行いました。
ハウス制では中3が一番年長です。リーダータイプではない生徒も、後輩たちに「何の係をやりたい?」と聞いて役割を振り分けていました。やらなければならない環境に身を置くことで、だんだんとリーダーらしくなっていくのです。
クラスMCで必ず「1日リーダー」になる
委員などクラスのリーダーは同じ顔ぶれになりがちです。そこで、毎日1人ずつクラスのリーダーになるのが「MC(Master of Ceremonies)制度」です。これも「自分がやらなければいけない」環境をつくっていますが、日常生活の中で経験するのがMC制度の特徴です。
MCはクラス担任と打ち合わせをして朝礼と終礼を仕切ります。最初は打ち合わせのメモを見ながら下を向いて小声で話していますが、次第に「相手にきちんと伝えよう」と思うようになります。高校になると、MCの様子をiPadで撮ってもらい、それを見て「もう少しゆっくり話そう」などと工夫するようになります。
MC以外の生徒はフォロワーとして「聞く態度」を身につけます。MCが「○○係さん、連絡です」と言ったら、相手は必ず返事をするのがルールです。相手がきちんと反応してくれるとMCは安心します。MCを経験したフォロワーの生徒はMCの緊張感がよくわかるので、きちんと顔を上げて話を聞こうとします。「リーダーの気持ちがわかるフォロワー」が増えると、クラスの雰囲気もよくなっていきます。
「これからの社会は相互補完的な関係性が必要になります。リーダーやフォロワーが場面に応じて交代する中で、いろいろなことを吸収してほしい」と髙橋先生。桜丘は仲間と共にたくましく生き、感動を分かち合える、仲間を大切にできる生徒を育てています。
高3のあるクラスでは、MCが"講師役"になって1人1題ずつ、大学の入試問題を解説しています。1つの大学の入試問題をクラスみんなで解き終えると、一体感で「大学入試がんばろう!」と前向きな雰囲気になっていることでしょう。
いつもと違う一面が見られる「タレントショー」
世界大会で優勝するツワモノも!
多彩な行事の中でもユニークな企画が、中学の「タレントショー」です。自薦・他薦問わず、個人が得意なことや好きなことをみんなの前で披露します。一人でも多くの生徒にスポットライトを当てるのがねらいです。
15組ほどがエントリーし、漫才、コーラス、チェロ、ものボケ、バンド演奏、コントなど、普段とは違う一面を見せてくれて大いに盛り上がりました。バトントワリングを演じた中3の男子は、夏休みに世界大会に出場して部門第1位を獲得するほどのスゴ腕です。
このように、自分の特技や好きなことを発揮するチャンスがあると、生徒は学校で自分の居場所を見つけられ安心できます。すると、精神的にも落ち着いて学習にも身が入るようになります。
高2のCLは 10週間セブ英語研修で全員が英検2級合格
英語力をより磨きたい生徒は、高校進学時に「CL(Creative Leaders)クラス」を選択できます。CLは今年で3年目、1期生の高3に確かな成長が見られています。
高2のCLは10週間のセブ英語研修が必須です。1日6時間のマンツーマンレッスンと2時間のグループレッスンを受ける、まさに英語漬けの毎日です。一番効果を感じるのはスピーキングのようです。1期生はこの研修後、全員が英検2級に合格、準1級に合格した生徒もいました。
CLクラスでは英語以外の言語にも触れようと、毎年フランス語とロシア語の講座を行っています。フランス語講座は各学年のレベルに応じた内容を展開。高1は1~10の数え方、あいさつや自己紹介を、高2は年齢を言えるように11~20の数え方や出身地を練習し、高3は男性名詞と女性名詞などフランス語をより専門的に学びました。フレーズを覚えたらペアワークで自分のものにします。高2と高3は昨年学んだことをしっかり覚えており、フランス語講師のMathieu先生も感心していました。
話す力をみっちり鍛える「オンライン英会話講座」
従来から多様な英語教育のプログラムを用意している桜丘。英語の4技能のうちトレーニングの差がつきやすい「話す力」を鍛えようと、今年度から「オンライン英会話講座」を始めました。提携しているセブ島の語学学校の先生と、生徒自身のiPadを通してのマンツーマンレッスンです。
初年度は高1の希望者が対象。「英語がもっと話せるようになりたい」と意欲的な30名程度が参加しました。25分間、つねに英語での発話を求められる濃密なレッスンに「生徒はかなり鍛えられている」と、髙橋先生も手応えを感じています。
平均点アップや問題の向き合い方にICTの効果を実感
桜丘ではICTを活用すると学力にどんな効果があるのかも検証しています。特にグループワークでICT活用が学習の助けになっています。
高1の地理公民では、論述問題でロイロノート・スクールを使いグループでやり取りをしました。従来の講義形式ではあまり関心をもたなかった生徒が、意見交換する中で関心を持つようになり、テストで低点者の得点が底上げされて平均点が全体で約18点上がりました。
また高1の英語では、テスト前に履修範囲の定着としてロイロノート・スクールを使い、なぜこの選択肢が正解で、こちらが間違いなのかをグループで話し合いました。この取り組みの前後で生徒の問題に対する意識を調べたところ、覚えたつもりの知識があやふやだった(知識不完全の自覚)、解答の根拠をもっと考えるようになる(正解根拠への関心)など、生徒が「何となく」から脱しようとしているのがわかりました。
アダプティブ・ラーニングで個別学習を後押し
生徒のやる気を個別対応!
また今年度から、生徒一人ひとりの学習進度に合わせた学習内容を提供する「アダプティブ・ラーニング」を、英検・数検対策の個別講座に導入しました。中1〜高1の希望者約80名が受講。理解度が異なる生徒に対し、一斉講義ではカバーしきれないところを個別対応できるようになりました。それでもシステム任せにせず、モチベーションの管理や進捗状況を教員がチェックし、次週の計画を一緒に立てるように配慮しています。
上位の生徒はより高い目標を持ってどんどん学び進むことができるので、アダプティブ・ラーニングによる学習は向いているでしょう。一方、下位の生徒はタブレットでの学習にあまり反応が良くないことがわかりました。そこで桜丘では、「学びたい」というエンジンがかからない生徒に対しては、マンパワーで個々にメンタルケアをすることでモチベーションを刺激しています。
生徒の励まし役として学校が期待しているのが「TUTOR(チューター)」です。チューターは、おもに桜丘の卒業生を中心とした大学生たちが、お兄さん、お姉さんのように学習や進路、生活などの相談にのってくれます。
チューターが中学生のやる気を刺激
中学の夏休みの講習は、今年は例年よりも習熟度を細かく分けました。下位のクラスは個別指導に近い形でチューターがメインで教えたところ、生徒から好評でした。年齢が近く"斜めの関係"にあるチューターには、愚痴や悩みを言いやすいのでしょう。夏休み中の三者面談でも親御さんから感謝の声が寄せられました。
中学の教員からも「夏休みだけでなく継続したい」と提案があり、早速10月から毎週、英語と数学について下位の生徒を対象に、チューターが個別指導に近い形で教えることになりました。スピーディーな対応は、「生徒のためにできることをやる」という教員たちの思いが同じ方向を向いているからでしょう。
「基礎知識が足りずにわからないから学習のモチベーションが低い、自信もないという悪循環に陥っている生徒に対しては、チューターたちが教員とは別の角度から、生徒たちをフォローしています。教員とは違う刺激を受けることを期待しています」と高橋先生。
高校生はチューターが常駐している部屋(URC)を頻繁に利用していますが、中学生は高校生への遠慮や下校時間が早いこともあり、活用したくてもできていませんでした。これなら中学生もチューターの助けを借りやすくなるでしょう。
ICTとマンパワーの融合で次のステージへ
桜丘のICTの活用は次の段階へ踏み出しています。知りたいことは簡単に検索できるようになったけれど、学ぶ意欲を高められるのは「人」しかいないと、髙橋先生は言います。「これからの教員の役割は、学びの魅力をいきいきと語って生徒の心を動かし、『認めてもらえる』『見守ってもらえる』安心感を与え、精神面でも支えることにあると思います」
生徒も「勉強しなければいけない」ことはわかっていますが、自分1人で黙々と取り組むのは精神的にきついものがあります。"伴走者"がいると心強いものです。桜丘が長年取り組んでいる「SSノート(Self-Study notes)」は、生徒と教員、保護者とつなぎ、学ぶ習慣と姿勢を自然に身につけていきます。中学生の「家庭学習帳」は、宿題以外の自主的な取り組み内容を教員がしっかりサポートします。
「つねに生徒の反応を見ながら、『だったら、こんなことをやってみよう』とフットワークよく柔軟に動けるのが、本校の教員らしさです」と髙橋先生は胸を張ります。生徒の心を動かす桜丘の取り組みに注目です。
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