学校特集
晃華学園中学校高等学校2017
掲載日:2017年4月10日(月)
晃華学園の「放射線研究会」(有志による団体)が、「サイエンスキャッスル2016」でICU賞を受賞しました。プリンが放射線の遮蔽に有効であることを調査した内容が、高く評価されました。「放射線研究会」は、物理の名物教師・田中幸先生の呼びかけに応じた生徒たちによって、数年前から研究を続けてきた団体です。今回は、放射線の遮蔽にプリンが活用できるという先輩の研究成果を引き継ぎ、高2の生徒3名が共同研究を行い、学外で認められる成果を挙げたのです。3名の生徒は、通常のクラブ活動では、かるた同好会、科学同好会、天文同好会、家庭科同好会などに所属して積極的に活躍していますが、放射線に興味を持ち、限られた時間の中で実験を繰り返し、研究発表まで漕ぎ着けました。「(今回の受賞は)時間を見つけてはコツコツと研究活動を続けた賜物です」と、生徒たちの成長をそばで支えてきた田中先生は目を細めます。晃華学園には彼女たちのように、多方面に好奇心を抱き、 自分の意思で様々な活動に取り組む生徒がたくさんいます。それは、身近にいる先生が専門分野に精通し、研究熱心で、自身の体験に基づいたエピソードを日常的に伝えると共に、生徒たちの「なぜ?」という疑問や、「やりたい」という意欲を尊重し、支援を惜しまないからできること。毎年のように東京大学をはじめ、難関大学に多くの卒業生を輩出しているのも、枠にとらわれない活動があちこちで生まれ、 生徒が各々の探究心を伸ばしたり、社会貢献の意義に目覚めたりする環境があるからです。創立から50数年経ち、急速に時代が変化する中でも、生徒一人ひとりが笑顔で学校生活を送り、自身の個性や能力を開花させている理由を、田中幸先生と入試広報部の砂口優子先生に伺いました。
生徒の高い志、秘めた可能性を伸ばし、今年も現役で医大に合格!
砂口先生:本校はキリスト教精神を基盤にした全人格教育を謳っていますが、理科教育もたいへん充実しています。近年では、医療系の大学・学部(医学部、歯学部、薬学部、看護学部など)への進学が目を引きます。ずば抜けて理数系の教科が得意だというよりは、自然の偉大さに興味を抱いたり、人の役に立つ仕事に携わりたいといった理由で、理系を選択する生徒が多いように思います。ごく普通の素朴な生徒が、地道に努力した結果が、合格実績につながっていると思います。
田中先生:生徒たちは、6年間で大きく成長します。たとえば実験でも、最初は全然うまくできなくても、コツコツ努力を続けて成果を出すことができるようになります。物理は努力がなかなか報われない科目ですが、入試直前まであきらめずに勉強していると必ず「分かった!」というブレイクスルーの瞬間が訪れます。卒業式で「努力したら報われました!」という生徒もいます。(笑)
コツコツ努力するのは、女子の特長でしょうか。
田中先生:普段のクラブ活動の様子を見ていても、限られた時間で集中する、効率を上げることを念頭に置いて練習しているようです。私はソフトテニス部の顧問をしていますが、公式試合や合宿中も、すきま時間で英単語を覚えたり、宿題をこなしたりしています。上級生の姿を見て、下級生も自然と学習とクラブを両立するコツを身につけています。 特に、英語、数学、国語などの教科は、中学生からこまめに小テストを実施しますので、少しずつステップアップしていく、目に見えて成果を得られることも生徒たちのやりがいになっていると思います。
砂口先生:勉強とクラブの両立は大きなテーマです。様々な課題が与えられたとき、優先順位をつけて行う訓練は、彼女たちが大人になった時にも、仕事と家事の両立などマルチタスクをこなすのに大いに役立ちます。クラブ活動に打ち込んで自信をつけて、勉強の成績も伸びた生徒が大勢います。さらに、中学生と高校生が一緒にクラブ活動をしますので、様々な年齢、自分と異なるタイプの人と出会うことによって、興味や関心の幅が広がり、大きく成長するきっかけにもなります。勉強とクラブの相乗効果は計り知れません。
全国レベルの放送同好会
かるた部員は東京チームの一員として、
全国高校総合文化祭に参加!
放射線研究会のメンバーも「継続は力なり」!
その成果が企業の研究にも役立つことに!!
田中先生:「放射線研究会」のメンバーも、それぞれが所属するクラブ活動もしながら、抱いた疑問を解明しようと、時間を作っては集まって実験していました。
そもそも、どのようなきっかけで活動が始まったのですか。
田中先生:私は某電機メーカーの出身です。担当は原子力発電所の設計でした。放射線の授業で当時のエピソードや、文科省関連団体の研究支援があることを話すと、有志(初代の生徒/現大学3年生、4年生)が集まったので、原子力発電所の見学などを行いました。ちょうど東日本大震災前のことです。その後、震災で原子力発電所(建屋)が爆発し、様々な情報が錯綜する中で、なにが起きているのかを詳細に生徒に話すことができたのは、私が発電所の全容を把握していたからです。「サイエンスキャッスル」を主催するリバネスからお誘いを受けて、震災後に県立福島高校と交流したことも研究に取り組む大きなきっかけになりました。放射線の遮蔽には、分厚い金属やコンクリートが使われます。教科書にもそれは載っていますが、他に適したものはないかという視点で調べることにしました。
砂口先生:100種類くらい試したと聞きました。
田中先生:そうです。様々なものを測定しました。夏休みのある日、生徒が持ってきたプリンをためしに測定すると、高い効果が得られたので驚きました。プリン、ゼリーの類を繰り返し測定して、その結果を当時の「サイエンスキャッスル」で発表しました。今回の取り組みは、初代の研究から5年経っています。ブランクはありましたが、今回の高2の生徒たちが興味を持ち、それまでの研究を引き継ぐ形で取り組んでくれました。まず「プリン以外にも遮蔽効果が高いものがあるのでは?」という視点で調べましたが、プリン以上のものは見つかりませんでした。そこで成分別に卵、牛乳などを測定し、調べていく中で、タンパク質の原子が不規則に配列しているため(アモルファス構造)、放射線が通りにくいことが分かりました。似た構造のプラスチックの遮蔽効果が高いという研究団体からの報告があり、私たちの研究の方向性が間違っていないことが確認できました。2016年は北海道の高レベル放射性廃棄物処理の研究センターを見学することができ、その成果と合わせて、「サイエンスキャッスル」で報告し、ICU賞の受賞につながりました。さらにその先を研究してくれる生徒が出て来ると面白いと思っているところです。
生徒も教員も好奇心旺盛!"共"に"育"つ=教育力
教科、行事、クラグをつなぐコラボレーション
砂口先生:この「放射線研究会」のように、教員の呼びかけと生徒の要望がうまくマッチして、内発的に新しい活動が生まれるのは、本校では珍しいことではありません。一つの現象を多角的に見たり、見聞を広げたりするという観点から、複数の教員が関わる教科横断型のコラボ授業を行ったり、古典で「奥の細道」を学んだ中3の生徒が、松尾芭蕉の足跡をたどる「深川文学散歩」に参加したりするなど、手作りの企画がたくさんあります。ユネスコスクールに加盟する本校で、昨年は大きな成果がありました。ひとつは、高1の生徒が「カンボジア・スタディツアー」に参加し、途上国の援助に携わったこと、もう一つは、10年目を迎える「模擬国連」に高校生2チームが選抜されたことなどが挙げられます。日々の小さな気づきや取り組みが、実はグローバルな現代社会とつながっていることを生徒たちが肌で感じています。創立50年(2013年)を迎えた時に策定した本校オリジナルの「カトリック総合学習プログラム」では、「生命」「自然と環境」「正義と平和」「奉仕と福祉」「女性の使命」の5つの柱を掲げ、学習や行事を連携させて学ぶモデルができました。1学年160人程度の小規模な学校だからこそ、教員や生徒の工夫やアイディアで、小回りの利く新しい取り組みが可能となっています。
田中先生:「アクティブなカトリック校」といわれる理由は、そういうところにあるのでしょうね。生徒会主催の「教養講座」では、教員が自分の趣味や特技に合わせて講座を開くのですが、授業を発展させた専門的な内容や、生活に役立つ情報などが満載です。
砂口先生:私は田中先生の「速読の方法」に興味を持ちました。自身の体験を踏まえて女性の生き方について語る教員や、19世紀の書物をルーペで観察する書誌学的なアプローチをする教員もいます
田中先生:生徒会主催の「社会科見学」も盛んですよね。JAXAや国立天文台、テレビ局、新聞社など希望者を募って、見学に行きました。
砂口先生:クラブ同士のコラボもありますね。天文同好会が昨冬、学校で天体観測をした時に、家庭科同好会が夕食を担当するという、女子校ならではの企画を実現し、とても楽しんでいましたね。
理系進学者が多いのも自然のなりゆきですね。
お話をうかがっていると、生徒さんの「知りたい」「学びたい」という気持ちを先生方がしっかり受け止めて、見守る環境ができあがっているように感じます。
田中先生:例年、理系進学者が4割から5割いますが、本校の理科教育で目指しているのは、理系進学者を増やすことだけではありません。女子校なので、生徒たちは将来、家庭を持ち、子育てに関わる可能性が高いです。子供の素朴な疑問に向き合える「理科好きのお母さん」になってほしいというのは理科教員の共通の願いです。理科では4分野(生物・地学・物理・化学)を中1から専門の教員が教えます。中1の初歩から大学入試の仕上げまで、学年に応じて本質的なアドバイスをできることが本校の強みだと思います。
「ワンダーラボラトリシリーズ」の著者コンビ
(左)田中幸、(右)結城千代子
中1の生徒には、「あなた方の理科の先生は『私』ではありません。『自然』です。だから『自然』に問いかけて答えをもらうんですよ」と話します。実験室ではマッチを擦るテストから始めます。それができないとガスバーナーの操作にすすめません。最近はご家庭で電磁調理器に慣れている子も多く、「ガス栓をひねって」という指示が通じない子も増えていますが、6年間で最大160回もの実験を行い、生徒自らが気づき、考えることを大切にしています。実験をすれば必ずレポートを書かせるので文章を書く力もつきます。実験レポートでは、結果と考察を筋道立てて自分の言葉で書くように指導しています。教員がチェックして返却するので、高校生になるときちんと考察を書けるようになります。
女子の特性を活かした授業で、理科の扉を開く
田中先生:女子校の長所は、女子の特性を活かした授業ができる点です。私は男子校、共学校で教えた経験もありますが、本校で教鞭を執るうちに、男子と女子ではものの見方や感性がまったく違うことに気づかされました。たとえば女子は平面から立体をイメージするなど三次元の空間を把握するのが苦手な生徒が多いです。それを踏まえて、地学の教員は地層の断面図を教えるときに、パンを持参して斜めに切って見せたり、ブロックを積み重ねたりといった工夫をしています。女子は色彩感覚に優れており、きれいなものには目を輝かせるので、化学の実験も視覚に訴える授業を行っています。現在8名の理科教員のうち、5名が女性です。女子の特性をよく理解した上で授業を展開できるのは、理科教育においても良い環境です。
砂口先生:女性教員が理系を教え、仕事と家庭(家事、育児、介護など)と両立している。その姿は生徒たちにとって、女性の生き方を考える上で、身近なお手本となっています。
理科教育で、特に留意していることはありますか。
田中先生:理系進学者の内訳を見ると、建築や機械工学、宇宙物理学など様々な分野を選択していますが、特に医療系に進む生徒が多いのは、本校がミッションスクールであることと深い関係があると思います。生物では、生命の大切さを伝えることに主眼を置いています。命の尊厳については、宗教的なテーマとも関連します。生物の実験で、有精卵を観察した時に、残った卵を生徒たちが大切に暖め、孵化させて、昨年3月にヒナが誕生しました。
砂口先生:野生に近い種の黒いヒヨコです。理科の実験助手が引き取り、手厚くお世話しています。すくすくと成長し、夏休み頃から卵を産み始め、通算200個くらいになりました。
田中先生:時々、卵をおすそわけしてもらいます。ゆで卵が大変美味しいんです(笑)
砂口先生:時々、学校へ里帰りしますので、すっかり学校の人気者です。非常にひとなつこい性格で、誰が抱いてもおとなしく気持ちよさそうにクークー鳴いています。本校の学校説明会にも登場し、ご来校の皆様にもおなじみになっています。「卵」のつながりで付け加えると、小柴昌俊先生がノーベル物理学賞を受賞された時、本校で講演会をしてくださったことがあります。若い生徒たちに向かって、「夢の卵をたくさん持とう」というお話をしてくださいました。その通りだと思います。現代は一つの専門分野を極めるだけではなく、各分野が相互に融合していく複雑な時代です。たくさんの卵=夢を掛け合わせて、新しい時代を切り開いていく生徒たちを育てたいです。
科学者たちも「自然の神秘」を探求していた!
科学と宗教はつながっている!
田中先生はなぜ、物理の先生になったのですか。
田中先生:生まれて初めて分からないものに出会ったからです。他の科目は、やればできると思えたのですが、物理だけは考えても考えてもわからない。そこが面白かったので、大学で一番わからないものを学ぼうと思い、物理学科に入りました。
砂口先生:すごいですね。得意分野を活かして進路を決める人が多いと思いますが、田中先生の進路選択は斬新です。理科の4分野の中でも、電気や重力など目に見えないもの扱う物理は、女子にとって一番ハードルが高いと思います。
田中先生:抽象的な考え方が好きだったんですよね。いわゆる「リケ女」ではないので、実験技術を身につけるために苦労しました。男子はラジオをくみたてるなど実物をいじることから入りますが、私は物理に関する実物を扱ったことがあまりありませんでした。それがコンプレックスであり、いわば苦手を克服して教員になりました。ですから、生徒がどこでつまずくのか、さらに克服すべきポイントもよく分かるのだと思います。
砂口先生:理科の先生は、具体的な現象とその法則を結ぶのが上手ですよね。
田中先生:いきなり「光の屈折」と言っても、なじみが薄いですよね。「光の屈折によって起こる虹は、聖書にも書いてあるとおり神様との契約の印なんだよ」という話から入ると,生徒たちの興味の持ち方も違いが出ます。
生徒さんもキリスト教に触れているからできる話ですね。
田中先生:そうなんです。私は晃華学園に赴任してから洗礼を受けました。以前は科学と宗教の関わりを深く理解出来なかったのですが、両者を勉強していくうちに、多くの科学者が、神の御業(みわざ)を知りたいという欲求から科学の研究を深めたことを知りました。ガリレオやニュートンなど、歴史に名を残す科学者たちは、神様が創造した世の中が、いかに素晴らしいかを証明したいと思っていたのです。そういう彼らのモティべーションを自分でも感じてみたいと思ったのが、洗礼を受けたきっかけです。生徒には「物理を学ぶ上で、ミッションスクールという環境は『アウェイ』ではなく、『ホーム』です」と話しています。
田中先生:ところで本校には教科書や指導書の編集に携わっている教員は複数いますので、今の子供たちに必要な教育を分かりやすく伝える方法を理解していると言えるでしょう。
砂口先生:理科好きの先生が揃っているから、本校の理科教育は面白いのですね。本校校舎の3階は、 通称「サイエンス・ストリート」と呼ばれる理科の専門スペースになっています。4分野それぞれの実験室が並び、授業や実験に適した環境が整っています。生徒たちのレポートも掲示していますので、受験生の皆さんには、ぜひ足をお運びいただきたいと思っております。
わたしがわたしでいられる学校。キリスト教を心の拠りどころに、
柔軟性と包容力のある女子を育てます
晃華学園は、カトリックの「汚れなきマリア修道会」を設立母体とするミッションスクールです。聖書のみことばに由来する「Noblesse Oblige」(ノブレス・オブリージュ)を教育の礎とし、「カトリック精神を根幹とした教育」「家庭の精神における教育」「質の高い全人格教育」「正義・平和に仕える教育」「変化に対応できる教育」を行っています。どのような社会環境におかれても、自分に与えられた個性や能力を磨き、他者のために生かせる女性を育成します。