学校特集
立教新座中学校・高等学校2019
掲載日:2019年11月11日(月)
1874年、アメリカ聖公会の宣教師チャニング・ムーア・ウィリアムズ主教が、聖書と英学を教える目的で開いた私塾が同校の始まりです。立教学院の建学の精神は「キリスト教に基づく人間教育」。そして立教新座では、「共に生きる力を育てる」「テーマをもって真理を探究する力を育てる」を教育目標としています。ミッション系といえば厳格なイメージを抱きがちかもしれませんが、自由闊達な校風で、自主性を重んじる教育を展開する同校。例年7〜8割が立教大学に推薦入学し、その他は医・歯・薬など主に同大にない学部に進学しています。その伝統のもと、次代を見据えて2014年から改めて「リーダーシップ教育」を推進していますが、同校が考える「リーダーシップ」とは、どのようなものなのでしょうか。校長の佐藤忠博先生に伺いました。
グローバル化が加速する今だからこそ
「リーダーシップ教育」を推進
この春、同校に着任したばかりの佐藤校長は、イギリスにある立教英国学院(立教大学の系属校)の校長を、その前には長い間、公立小学校の先生を務めていました。それらの経験を経た佐藤校長が考える「グローバル」とは、どのようなものでしょうか。
佐藤校長:「グローバル化、ボーダーレス化が進むなかで、他国の人々と良好な関係を築かなくてはならないということは当然です。しかし、それ以前に、そもそも私たちにとって『みんなで力を合わせていこう』と考えることのほうが自然なのではないでしょうか。そう考えた時、『グローバル』という言葉はすべてを超えて『垣根をなくす』、つまり『人と人の関わりを大切にする』という意味なのではないかと思うのです」
同校の教育目標は、先述の通り「共に生きる力」、そして「テーマをもって真理を探究する力」の育成です。キリスト教主義の学校であり、佐藤校長自身も祖父が司祭だったため幼い頃からキリスト教が身近にあったそうですが、この校長の言葉はキリスト教に限らず、私たちすべてにとっての普遍的な至上命題といえるものです。
佐藤校長:「私は、二度にわたって英国に滞在しましたが、接する人々に『あなたは日本人』という、ひとくくりの対応をされなかったことがとても新鮮でした。よく言われることですが、日本は島国で、本当は違いますが、単一民族だというイメージを持っています。だから、外から入ってくる人のことを『外国人』と言う。私は、この言葉に違和感を抱いています。私たち日本人は見知らぬ人に出会うと、目の前にいるその人自身に興味を持つ前に、『何人であるか』『職業は何か』と、その人の属性を知りたがる傾向があるように思います。属性はその人のキャラクターの一つなのであって、重要なのは『その人自身』。ですから、生徒たちには目の前にいる人を大切にする人になってほしいのです。地球で生きていくということは、そういうことではないかと思います」
同校が考える「リーダーシップ」とは、自分の能力を磨き、仲間と目標を共有しながら自ら率先して行動すること。誰か一人の強力なリーダーシップに依るのではなく、一人ひとりが力を発揮し、その力を結集してこそ、「より良い世界にする」という大きな目標に近づける、と。まさに、同校の教育目標「共に生きる力を育てる」を体現した姿です。
そして、これはリーダーシップと同時にフォロワーシップをも身につけることを意味しています。
佐藤校長:「本校が目指すのは、『権限なきリーダーシップ』です。そこで必要なのは組織の中での役職や権限などではなく、その人自身が培った能力やスキルです。そして、それを自ら率先して発揮しようとする志です」
この佐藤校長の話から、立教学院の創立者であるチャニング・ムーア・ウィリアムズ主教を表す「道を伝えて己を伝えず」という言葉が蘇りました。
この言葉が意味するところとは異なりますが、私たちはみな一雫の存在にすぎないけれど、その一雫がたくさんが集まれば、やがては大河になるのだと、そんなことを思わされます。
同校にはもともと、自由闊達な中にも謙虚さと志を高くもつことを促す雰囲気がありますが、2014年から立教大学経営学部の「ビジネス・リーダーシップ・プログラム」と連携して「リーダーシップ教育」が本格的に始まりました。
これは、それまでも実践していたことを改めてプログラムとして再構築したものですが、具体的な活動内容には以下があります(抜粋)。
・卒業生によるキャリアに関する講演会
・研修旅行のプレゼンテーション
・リーダーズミーティング
(例:各部活動から代表者が集まり、仲間と目標を共有し、信頼関係を築くにはどうすべきかを1日かけて話し合う)
・フォローアップ研修
(例:リーダーズミーティングで作成したシートをもとに現状を振り返り、今後の課題を探る)
・立教GLP特別聴講生制度
(立教大学の授業「グローバル・リーダーシップ・プログラム」を受講できる)
このようなプログラムを通じて、生徒たちはますます普段の授業でもその時々の話題に関心をもち、主体的に考えるようになっているのだとか。
同時に、社会連携活動も行っていますが、なかでも40年以上前から続く「人権学習」は同校の伝統ともいえるもの。また、泊りがけで老人ホームを訪れる「ボランティアキャンプ」なども特筆すべき活動ですが、これらもすべて「権限なきリーダーシップ」を身につけるための土台となるものです。
「権限なきリーダーシップ」を備えるためには、主体的に考え行動できる「自立した人」にならなければなりませんが、同校には生徒をある程度大人として扱う気風があります。
自立を促すものの一つとして、「選択する場面」が豊富にあることも挙げられます。その第一歩は中1の校外学習。社会科校外学習では8コースの中から日程や場所、一緒に行く仲間などを考慮しながら、生徒自身が行き先を選びます。同様に、理科校外学習も2コースから選択。
また、高3になるとそれぞれの興味・関心や志望する進路に照準を合わせて、自分でカリキュラムを作成します。必修の選択科目のほかに、最低3講座を履修する自由選択科目がありますが、その数はじつに約80講座にも及びます。
同じく高3では、「テーマをもって真理を探究する力」「豊かで的確な日本語の能力」の集大成として「卒業研究論文」に取り組みますが、自分が学びたいテーマを主体的に見出していくことは、解決策を模索していく力や豊かな人間性を育むとともに、将来への道筋を自らの手で拓いていくことにもつながっています。
佐藤校長:「生徒を子ども扱いしないということは、本校の成り立ちが関係しているかもしれません。もともと本校は高校が先にできましたので(立教池袋は中学が先)、中学生の生徒たちが高校生になった姿を見据えて指導しています。ただ、そのためには中学段階では自分が大事にされているという実感をもたせることが重要です。自分が大事にされていると感じることができれば、他人を認め、互いに尊重し合うこともできますから。だからこそ、一人ひとりと丁寧に向き合い、自転車の乗り方を教える時のように、後ろから支えながらもどこで手を放すかといったことをきめ細かく見ていかなければと思っています」
生徒の視界を大きく広げるため、
多種多彩な海外体験の場を用意
文化や価値観の違いを肌で感じるために、海外研修も豊富に用意していますが、中3では夏休みの約2週間、アメリカ・カリフォルニア州を訪れる「アメリカ・サマーキャンプ」(希望制)があります。そのハイライトは、何といっても現地のキャンパーの方々と交流するキャンプ生活。
また、高校では「英国サマースクール」や各種の語学研修を希望制で実施しています。
1年間の派遣留学制度には「立教英国学院」(中2/1名)、オーストラリアの「ブライトン・グラマースクール(高1/1名)」、アメリカの「セント・ポールズ・スクール(高2/1名)」と3種類がありますが、来年度からはイギリスへのワンターム留学(高2/4カ月間/2名)もスタートする予定です。
佐藤校長:「生徒自身が自分と世界のつながりを知るためにも、手を挙げれば参加できるプログラムを、これからも増やしていきたいですね」
また、同校と提携するアメリカ、オーストラリア、南アフリカの高校など4校から交換留学生を同校に迎え入れ、一緒に学校生活を送ります。
この交換留学以外にも、同校にはさまざまな国の中高生が留学生としてやってきます。
佐藤校長:「ホストファミリーを募集する際、学校で一緒に勉強する高校生だけでなく、中学生のご家庭も手を挙げてくださいます。保護者の方が率先してということが多いようですが、生徒にとってもプラスになっていると思います」
最初は片言のやり取りでも、話しかければ返事が返ってきて、それが楽しくてまた話す。それをきっかけに、また別の機会に初めて会う人に話しかけてみる。そうして、人はそれぞれ違った環境に生まれ、それぞれ異なったものの見方や考え方があることを知ると同時に、共通するものも見出していく。このようなドキドキ・ワクワクする高揚感は、次の一歩につながっていきます。
佐藤校長:「そのような、人と関わっていくための大きなモチベーションになる経験を、生徒たちにはたくさんしていってほしいですね」
同校らしいのは、語学に特化したものだけではなく、各教科でテーマを設けた海外研修も行っていること。
過去には「理科研修」としてオーストラリアのケアンズで植林や野生動物保護活動のボランティアを行ったり、オーロラを見に出かけたり、また「芸術科研修」ではブロードウェイでミュージカルを鑑賞しました。
今年は、理科研修として「マレーシア資源の旅」を実施する予定です。語学研修も含めると、今年度の海外研修は9種類。
佐藤校長:「初めて外から日本を見る機会になる生徒も多く、さまざまに刺激を受けるようです。語学研修や教科研修など切り口が何であっても、自分を知り、他者を知るためにも、内側から見る世界と外側から見る世界の両方を体感することが大切だと思っています。教科研修では事前・事後学習も行いますが、事前学習では本校の教員だけではなく、立教大学の教員や企業などの第一人者が受け持つこともあります」
また、同校はアメリカに本拠地を置く国際男子校連盟(International Boy's School Coalitim)に加盟しています。毎年6月に全世界の男子校の先生方が集まって男子校教育のあり方について会議を行う催しですが、日本で加盟しているのは2校のみ。
同校でも、年ごとにさまざまな教科の先生が参加していますが、そこで出会いのあった南アフリカの学校とは提携校となり、昨年には南アフリカからの留学生も受け入れました。
先生方もまた、生徒たちの世界を広げるためにアンテナを高く保ち続けているのです。
「今に夢中になれる人」
の素地を作るのが、同校での6年間
このような同校の教育の中で育った卒業生たちが活躍する現場からは「集団で何かをする時、立教新座出身の人がいると違う」「意見を持ち、自ら判断して物事を進めていける人が多い」という声が聞こえてくることも少なくないそうです。
「それは大変ありがたいことです」と言いながら、佐藤校長は卒業生に対するある思いを聞かせてくれました。
佐藤校長:「学校というのは、成長過程の生徒たちが大人になるための素地を作るところであり、だからこそ我々教員も本気で関わります。とても大事な場所には違いないのですが、生徒たちにとっては通過点の一つであることも確かです。『卒業生がよく帰ってきてくれる』という学校の話はよく聞きますし、我々にとっても嬉しいことなのですが、あえて言うなら来てくれなくてかまわないのです(笑)。なぜなら、中高で学んだことを土台にして次の段階に進んだら、次がおもしろくてしょうがない、というふうになってくれることのほうがもっと嬉しいからです」
年を重ねた卒業生たちが同窓会などで集まる時、たいていお祈りから始めるのだそうです。長い月日を経た後、久しぶりに会う仲間と中高時代を懐かしむのは素晴らしいことです。
ただ、大学生や社会人になりたての頃は「今に夢中」になれる人であってほしいと、そのための素地を今作っているのだと佐藤校長は語ります。
佐藤校長:「学校生活の中では、隣にいる人がどんな人かと関心を寄せ、尊重することが大事です。その延長線上に、海外を含めてまだ見ぬ人たちとの関わりがあります。ですから、生徒たちには、将来、周りの人に働きかけながら『人と人をつなぐ』ことができるような人になってくれればと願っています」
同校で過ごす6年間の中で「自由」と「自律」の意義を真摯に受け止め、他者と共に生きる姿勢を身につけた生徒たちは、それぞれ自分が選んだ場所で、「権限なきリーダーシップ」を発揮しながら活躍する大人になっていくことでしょう。
毎年迷子になる新入生もいるという、約10万㎡にもおよぶ広大なキャンパス。
明るく開放感あふれる校舎はもちろん、冷暖房完備の総合体育館、人工芝の全天候型グラウンド「セントポールズ・フィールド」、同じく全面人工芝化された11000㎡のサッカー場、分割展開が可能な室内温水プール(50m×10コース、または25m×8コース×2面)など、目を見張るばかりの施設が揃います。その恵まれた環境の中で、生徒たちは学習に、部活動にと、毎日充実した日々を過ごしています。
■例年、約8割の生徒が立教大学に推薦入学
中学段階からさまざまな場面で「選択」する機会を設ける同校ですが、生徒たちはその経験を積み重ねながら自分の志望を見出し、自らの進路を決定していきます。
高校3年間の学習成績が立教大学推薦基準を満たしていれば、同大に推薦入学することができますが、高2からは「他大学進学クラス」も設置。
昨年度は8割強の卒業生が立教大学に進学しましたが、同大にはない医・歯・薬系や理工系などを目指す生徒が他大学に進学しています。他大学進学クラスの生徒でも、高3の11月に行われる最終進路調査で立教大学の推薦基準を満たしていれば、推薦入学に変更することも可能です。