学校特集
品川女子学院中等部・高等部2024
掲載日:2024年9月1日(日)
京浜急行線北品川駅から徒歩3分、JR線品川駅からも徒歩約12分と、好アクセスの場所にある品川女子学院。2025年に創立100周年を迎える伝統校で、より充実した教育環境を目指すべく、同年夏にはホールや図書室、カフェテリアなどが入る新校舎が完成します。体験と座学を組み合わせたエネルギッシュな学びを重視し、学校生活のあらゆる活動が独自に打ち出した方針「28project」に紐づいています。同校に赴任して9年目、社会科担当・広報部の河合豊明先生に「28project」について、またJR東日本と生徒が共同制作したショートムービーの取り組みなどについてお話を伺いました。
内容も数も大充実!
アクティブな学び「社会人による特別講座」
将来、一人ひとりの生徒たちが社会で活躍することを見据えた学習に力を入れている品川女子学院。すべての活動の根底には同校の教育の特色である「28project」があります。
河合先生「28という数字は、"28歳"を意味します。28歳というと、仕事ではキャリアを積み、社会に貢献できるようになり、プライベートでは結婚や出産と向き合うことが多い年齢です。本校ではこの年齢を女性のターニングポイントと捉え、生徒が28歳の自分を思い描き、それを実現するためには何が必要か、どう行動すべきかを模索し、理想とする未来に向かっていくためのプロジェクトとして位置づけ、実施しています。能動的に人生を設計できることを目指し、6年を通してさまざまな取り組みを行っています」
同校では、日々の授業、総合学習、課外授業、学校行事といった学校生活で行われることのほぼすべてがこの「28project」に基づいています。なかでも、2002年頃から先駆的に取り組んでいる「社会人による特別講座(希望制)」は、より実践的な学びが得られる場のひとつです。
河合先生「特別講座は年間で40~50本あり、希望した生徒を対象とし、主に放課後の時間を使って行われます。企業や大学の方々、専門家などを講師にお招きしてさまざまなテーマで行われますが、ただ講師の話を聞くだけの受動的な内容ではないことがポイントです。ときに校舎を出て企業を訪問したり、社会人の方と共同作業を行ったりという、体験型かつ主体的な学びの時間となっています。教科の授業では学べないことを学べる貴重な内容です」
【2023年度実施特別講座(一部抜粋)】
「あなたのお金の使い方が世界を変える」 講師:三井住友信託銀行 対象学年:2~5年
「ベンチャーキャピタルって?」 講師:Skyland Ventures 対象学年:3~5年
「DE&I&アンコンシャス・バイアス(UCB)ワークショップ」 講師:ジョンソンエンドジョンソン 対象学年:3~5年
「オープンオフィス」 講師:サンシャイン水族館 ※ほか、トヨタ自動車、コクヨ、CHINTAIでも実施 対象学年:1~5年
「品川区議会議員特別講座」 講師:品川区議会議員 対象学年:1年
「理科特別講座」 講師:東京電機大学 対象学年:2~6年
「美術企画を考えよう!」 講師:武蔵野美術大学造形学部芸術文化学科 対象学年:1~6年
「松嶋シェフとがめ煮を作ろう」 講師:松嶋啓介シェフ 対象学年:4・5年
「フィード・ワン食育講座」 講師:フィード・ワン株式会社 対象学年:1~6年
「LGBTQについて知ろう!」 講師:生徒企画(4年) 対象学年:小学4・5年 など
このように、講師として招く企業の業種から設定するテーマまで、バラエティに富んでいる特別講座。同様の取り組みを行う学校はほかにもありますが、ここまで数・内容共に充実している学校は珍しいでしょう。企業が多く集まる品川という土地柄も奏功し、同校では長年にわたって積極的に推進しています。
JR東日本とショートムービーを制作!
達成感や成功体験を経て大きく成長
さまざまな企業・大学と繋がりを持つ同校。東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)とは、2019年のデジタルサイネージ広告の制作など、以前よりさまざまな取り組みを行ってきたといいます。なかでも予想外の展開を見せたのが、2023年にJR東日本建設部門と実施した「駅・まちの建設現場を見つめよう」です。
河合先生「もともとは、品川駅の工事を見学するという講座内容でした。当初、参加希望者は20名くらいではと予想していましたが、実際は1~5年(高2)までの85名が集まりました。生徒たちは、みんな興味津々で工事現場を見学。すると、そんな生徒たちの姿を見てJR東日本の方が、新たな企画を提案してくださったのです。それは、生徒たちが『駅の中にどんな施設をつくったら中高生が喜ぶか』をテーマに企画を考えてプレゼンを行い、そのうち2案が採用されるというものでした。そこで生徒たちは7つのチームに分かれ、それぞれが企画を考えて、JR東日本の本社でプレゼンを行いました」
採用された2案のうちのひとつは、「着替えブース(有料)をつくる」。学校帰りに私服に着替えられる場所がほしい、という中高生らしい願いをカタチにしたアイデアです(※品川女子学院は原則として寄り道禁止です)。現在、ブースのデザインや備品なども生徒たちが考案する方向で企画が進行中だといいます。
そして、もうひとつの案が「工事について、もっと情報発信を行う」。生徒たちは、工事見学を通し、工事が安全面に配慮して行われていることを知ったり、工程の興味深さを感じたりしたことで、それをもっと世に発信すべきだと考えたのです。
河合先生「『楽しい、すごいをもっと伝えたい』をコラボビジョンに掲げ、JR東日本の方々と話し合いを進め、動画を制作することになりました。ストーリーを考え、台本を作成したのは、5年生と2年生(当時)の4名です。自身の体験や感情と重ねて書いたようです。映像制作会社の方々も参加し、スタジオを借りて撮影するなど、どんどん本格的な制作となっていきました。当初は3分くらいのショートムービーを想定していたのに、最終的には約30分もの作品になっていたんです(笑)」
完成した作品は、「SAKURA~夢つなぐ未来~」。イオンシネマ幕張新都心にて、関係者上映会も行われたそうです。
「SAKURA~夢つなぐ未来~」のあらすじ
品川女子学院に通う高校1年生のさくら。彼女は近頃、父親と話す機会が減っていた。そんな日々の中、ある日学校で『将来やりたい仕事』についてのレポート課題が出た。上手く書けず将来の不安や父親との関係性に悩みながら眠りにつくと、目覚めた世界は18年前の両親が働く職場だった。そこでさくらが生まれる前の父と母に出会う。将来が不安で何をしたら良いかわからなくなっていた彼女は近頃話せていなかった父親と出会う。父の口から仕事に対する想いを聞き、辺りを見渡すと父の想い描いていた快適な生活を送る人々の未来があった。そして、彼女は将来やりたい事が見つかり学校でのレポートにて父の仕事の魅力を語る。そこから5年後、さくらは......。
制作・出演には4年生と2年生(当時)の希望者約20名が参加。撮影は冬休みや春休みを利用して行われました。河合先生は、このショートムービーの撮影を通して生徒たちに見られた変化について次のように話します。
河合先生「出演者の生徒たちは、最初は単に『映りたい』『目立ちたい』という気持ちが強かった印象でした。もちろんプロの俳優ではありませんから、セリフも棒読みだったり、あまり覚えてこなかったり。ただ、私が久しぶりに現場を訪れたときには、空気がガラッと変わって、雑談もせずにみんな真剣に取り組んでいました。そのきっかけは、JR東日本の方々が撮影現場に見学に来られた際、『頑張ってね』『楽しみにしているね』と声をかけてもらったことだったようです。大人たちからの大きな期待を感じ、しっかりとやらなければ、というスイッチが入ったようですね」
親や教員以外の大人と交流し、ときに意見を交換しながら進める「社会人による特別講座」。生徒が実践的なスキルを身につける場でもあるといいます。
河合先生「こうした活動を体験した生徒たちは、『まわりを見渡す目』が身についていきます。例えば、自分の要望を伝えるにしても、友人や親に伝えるときと、企業の方に伝えるときとでは違いますよね。自分たちの想いを理解してもらうためには、どう交渉してどう伝えれば相手に理解してもらえるか。たくさんの情報がある中で、相手に伝えるべき情報は何か。論理的に考えたり、相手の状況を想像したりしながら、試行錯誤して実践を重ねていきます。特別講座では、そういった体験もたくさん得られるのです」
社会に出てから学ぶような高いコミュニケーションスキルを中高生のうちから身につけておけば、日常生活が豊かになるに違いありません。生徒たちは達成感や成功体験を得て、結果的に自己肯定感を高めることにも繋がっている、と河合先生は言います。
生徒主体で進める総合学習
社会で活躍するための「起業マインド」を醸成
品川女子学院が教育目標として掲げる「私たちは世界をこころに、能動的に人生を創る日本女性の教養を高め、才能を伸ばし、夢を育てます」。この言葉通り、同校では能動的に人生設計できるよう、さまざまな取り組みを進めています。その取り組みの中では下記5つの力を身につけ、「起業マインド」を育成することを目指しています。
・基礎学力:活動のよりどころとなる知識・教養
・問題発見力:身近な興味・関心から社会と関わる問題を発見する力
・共感力:感情に左右されず、他者の立場や考えから影響を受けながら、自分の意見を改善する力
・発信力:自分の意見やアイデアを提案し、他者に影響を与える力
・内省力:自分の行動を振り返って分析し、将来に向けた行動を見つける力
目指す「起業マインド」とは、必ずしも実際に起業することのみを指していません。「起業マインドを持つ人」=「自ら社会の問題を発見し、多様な人を巻き込んで、問題解決に一歩を踏み出す人」と定義し、あくまでも心構えのひとつとして捉えています。こうした「起業マインド」を大きく醸成する学びが、総合学習です。
河合先生「2年生では、『社会と自分のつながりを考える』という目的から、京都で宿泊行事を行います。一般的に京都と聞くと、神社仏閣を巡るイメージがありますよね。しかし本校は、日本の伝統技術や製品を手がける老舗企業を訪問したり、フィールドワークを行ったりします。生徒自らがアポを取って、東京の会社と京都の会社のスタンスの違いを探ったり、京都の企業が課題を抱えていたら、それを解決するような提案を行ったり。実際、私が担任していたクラスでは京都の組紐の会社を訪問しました。事前に生徒たちは『後継者不足で困っているのではないか』と仮説を立てていたのですが、実際に伺ったらまったくそんなことはなくて(笑)。では課題は何なのか、あれはどうか、これはどうだろうか。そんなことを繰り返していくことに大きな意義があります」
生徒たちは、京都でさまざまな企業、ビジネス、地域社会との関わり方を知り、社会貢献について学びます。そして、3年生になると「起業体験プログラム」に取り組みます。これは3年生全員と4・5年生の希望者が文化祭を通じて取り組むプログラムで、模擬店を株式会社として起業するという内容。事業計画の作成から、会社の登記、資金獲得のためのプレゼンなど本格的な手順が、生徒主体で行われます。
年4回の面談で細やかなサポート
教員は軽く背中を押す役割
「社会人による特別講座」や総合学習からもわかるように、生徒たちが早くから将来について考え、必要な力を磨く機会を豊富に用意している同校。一人ひとりに対する細やかなケア・サポートを行うため、担任教員と生徒の面談は年4回(学年によっては年5回)行っており、将来どんなことをしたいのか、何に興味があるのかについてじっくりと話を聞くそうです。
河合先生「面談では生徒の興味のある分野をさらに深められるように『今度、こんな講座があるけど受けてみたら? こういう観点で見ると繋がりがありそうだよ』というような話もします。生徒は素直に受け止めてくれて、行動に移してくれることが多々あります。ただこちらは、生徒の背中をほんの少し押すという感覚。あくまで生徒の意志や主体性を重んじています」
こうした取り組みが影響するのか、同校では文理選択や学部学科選びのタイミングで専門性を意識した進路希望を出す生徒が多いそうです。また、コロナ禍を機に医療への関心を持つ生徒が増え、現在の高3生は、文系・理系が3クラスずつになっています。
最後に、河合先生は同校に通う生徒の雰囲気について、次のように教えてくれました。
河合先生「明るく活発で、チャレンジ精神にあふれている元気な生徒が多いですね。小学校で児童会長やクラス長をやっていた生徒が全体の4割強います。そんな雰囲気もあって、おとなしい生徒も次第に引っ張られて活動的になっていく様子が見られます。また、本校ではさまざまな行事やイベントなどをすべて生徒主体で進めるため、一部の目立つ生徒だけが何かを行うということはなく、すべての生徒が何かしらの役割を担って運営しています。それぞれの得意なことを互いに理解し合って、物事を進めていく様子が見られます」
2025年に100周年という大きな節目を迎える品川女子学院。2020年、2022年にそれぞれ新築した2つの校舎は随所に生徒のアイデアが取り入れられています。明るく、いきいきとした生徒たちの姿が印象的でした。2025年夏には新校舎も完成し、ますます活気づくことでしょう。興味のある受験生親子は、ぜひ学校説明会や見学の機会に訪れて確認してみてください。