学校特集
国立音楽大学附属中学校2018
掲載日:2018年10月10日(水)
1949年、日本初の音楽高校として国立音楽高等学校が設立され、同時に国立中学校が誕生しました。1975年には国立音楽大学附属中学校、国立音楽大学附属音楽高等学校と改称し、さらに2004年、高校が国立音楽大学附属高等学校と改称。長年「音中・音高・くにおん」の愛称で親しまれ、「自由・自主・自律」の教育理念の下、音楽に囲まれた環境で豊かな心を育んできた同校ですが、改革の歩みを止めず、2010年には中学に「音楽コース」とともに「普通コース」を設置して併設型一貫校に。また2017年には高校普通科が「特別進学コース」と「総合進学コース」の2コース制になり、2019年度入試から、中学の「普通コース」の名称を「文理コース」に変更することを決定。この「文理コース」「音楽コース」にそれぞれ2つのプログラムを開設して、新入生を迎えます。このように、いまや音楽大学の附属校に留まらないステップアップを目指す同校の教育について、校長の星野安彦先生、副校長の滝澤秀先生ほか2名の先生方にお話を伺いました。
多様化する進路希望に応え、
コース名変更やプログラムの充実を図る
●コース名変更と適性検査型入試の導入
同校は数ある音大附属校の中でも、「普通コース(文理コース)」を併設した希有な存在です。同校では、複雑多様化する社会構造に対応するため、さまざまな教育改革に取り組んできました。その一環として、7年前に開設した中学の「普通コース」は、2019年度入試から「文理コース」に名称を変えることになりました。
普通コースを発展させた「文理コース」は、さらに「特別選抜プログラム」と「総合プログラム」に分かれています。「特別選抜プログラム」は、難関国公立・私立大学合格への学習スタイルを確立したい生徒を対象とし、「総合プログラム」は基礎力を定着させ、自ら考える力を伸ばしたい生徒を対象としています。
名称変更について、「高校普通科に『総合進学コース』と『特別進学コース』の2コース制を導入して2年が経ち、中学入学時から総合大学への受験を目指す生徒が増えたこと。中学から高校への連携を強化するためです」と、星野校長は話します。
そこで、2019年度からは2月1日午前入試において、一般入試のほかに「適性検査型入試」を導入することが決定しました。これは近隣の立川国際中等教育学校・南多摩中等教育学校への受験生に向けたもので、集合時間・検査時間・休み時間にいたるまで同じ時間で行います。
「適性検査入試は『2020大学入試改革』を念頭に総合力が試されるもので、休み時間も30分と長いのです。小6の受験生には忍耐のいる長さで、集中力も必要とされるものです」(滝澤副校長)
「文理コース」を2プログラムに分けたことで、従来の「音楽コース」も「音楽実技プログラム」と「音楽準備プログラム」の2プログラムに改編しました。
「音楽実技プログラム」は、実技のレベルアップをより一層目指したい生徒を対象とし、「音楽準備プログラム」は、鍵盤楽器を除く楽器や声楽をこれから学んでみたい生徒を対象としています。
このように、同校は2019年度より2コース4プログラム制の新しい入試システムを導入し、大きく変わります。
各プログラムの特徴について、もう少し詳しく説明していきましょう。
●文理コースの「特別選抜プログラム」と「総合プログラム」とは?
「文理コース」は、音楽が身近にある環境で知性と感性をバランスよく育み、表現力・思考力・判断力に優れた人間形成を目指します。アクティブラーニングを取り入れた研究・発表など、表現力を重視した教育を行っていきます。
通常はホームルームや音楽の授業を含め、「音楽コース」との混合クラスで授業を受け、体育祭や芸術祭、合唱コンクールなどの学校行事も全員一緒に参加します。
「音楽コース」の生徒たちが専門授業(実技レッスン・ソルフェージュ・創作)を受けている時間は、「文理コース」の生徒たちにはアクティブラーニングを中心とした別授業が行われます。
また、国語・英語・数学の3教科を「特別選抜プログラム」に在籍する生徒は別クラスで受けます。さらに、「特別選抜プログラム」の生徒には高校の普通科で採用している学習コーチングを導入し、学習方法の指導を個別に受けながら、学習計画を自分で考え自主的に学ぶ力を養います。つまり、中高6年間にわたって一人ひとりが自分に合った勉強面のアドバイスを受けられる体制になるのです。
「演習などを多く取り入れた内容で、学力をより深く定着させる内容です」(滝澤副校長)
また、「音楽コース」にも優秀な生徒がとても多いのですが、その生徒たちも一定の学力に達していれば、特別選抜プログラムの授業を受けられることは特筆すべきでしょう。
一方の「総合プログラム」では、基礎力を定着させ、自ら考える力を養う教育を実践。アクティブラーニングなどを行い、課題解決力や表現力の育成に力を入れます。
●「音楽コース」の「音楽実技プログラム」と
「音楽準備プログラム」とは?
創立当初より専門的な音楽の基礎教育を行う「音楽コース」ですが、普段は「文理コース」と同じ授業を受けて基礎学力を養い、音楽に必要な創造力と構築力を養っています。
新たに開設される「音楽実技プログラム」は、レッスンやソルフェージュ、創作(作曲)などを通じて、実技のレベルアップを目指す生徒が対象。
そして、「音楽準備プログラム」は、これから音楽を専門的に学んでみたい生徒が対象になります。1年次に鍵盤楽器以外の楽器または声楽を選択して、レッスンやソルフェージュなどを基礎から学んで下地を作る。2年次から「音楽実技プログラム」に移行するための準備期間という位置づけです。音楽や楽器の素養がなくても、6年間しっかり学べば、国立音大への道が開かれる画期的なプログラムなのです。
中学受験時には、ハッキリした未来を描けていない小学生も少なくありません。
「音楽は好きだけれど、音大までは視野に入れていない。音楽を学ぶ=敷居が高い、そんなイメージを解消して、可能性の幅を広げたものです」と、広報部副部長の五十嵐稔先生。そこには、「門はできるだけ開かれたものにしたい」という意図が込められています。
「自由・自主・自律」の気風が
自己肯定感を育む
●入学後も、コース変更や主楽器変更が可能
中1~高1の前期までは、試験に合格すればコース変更や主楽器変更ができる制度を設けています。中1~高1前期までなら、[文理コース→音楽コース][音楽コース→文理コース]の変更だけでなく、文理コースの中で[特別選抜プログラム→総合プログラム][総合プログラム→特別選抜プログラム]というプログラム変更も可能です。
中高6年間の多感な時期だからこそ、生徒たちの心は揺れ動きます。挫折を味わったり、思い描いた未来とは違う世界へ興味を覚えることもあるでしょう。そうした生徒一人ひとりの可能性を発見し、それぞれの個性に寄り添い、柔軟な方向転換や進路変更も生徒たちの選択の一つとして尊重しています。
実際にコース変更の例は数多くあります。音楽が好きで中学の「音楽コース」に入学し、さまざまな刺激を受けたことで高校では普通科への進学を選択。上智大学の外国語学部英語学科に進んだ生徒もいます。
「その生徒は来春、本校で教育実習を行う予定です。両コースの存在が刺激となって、新しい可能性を見つける生徒も多くなっています」と、広報部部長の山㟢斉一先生。
●互いに刺激し合う「音楽コース」と「文理コース」
「音楽コース」と「文理コース」を併設する中高一貫校は、決して多くはありません。同校では、音楽に情熱を傾ける生徒と音楽以外の分野にチャレンジしたい生徒が互いに刺激し合い、リスペクトし合いながら切磋琢磨する関係が築かれています。
創立時から「自由」な教育方針を重んじるのが同校の伝統です。生徒たちはあらゆる活動の中で自らを律し、自由の意味を考えながら「個」を尊重することを学んでいきます。
制服がないことや学校行事を自分たちで企画・管理して行うなど、「自由・自主・自律」の気風が、自分たちは認められているという絶対的な安心感を与えています。そして、それは一人ひとりがもつ自己肯定感の強さをも育んでいるのです。
ハイライトは2色対抗リレー
多様化する進路希望に対応するために、2コース・4プログラム制の導入に踏み切った同校。
「流動性の高い不確実な時代に船出していく生徒たち一人ひとりを、どんな社会にも対応できる人材として育てていきたいですし、彼らの未来を育む柔軟な教育体制をさらに構築していきたい」と、星野校長は話します。
2コース・4プログラム制の導入の根底には、そうした教育者の使命感が流れているのです。
そして、「音楽芸術を基本とする本校では、自由な精神と個の尊重から表現の自由が生まれると考えています。どのような進路であれ、生徒が自分自身の意志でやりたいことを見つけることが重要だと思います。個性的な発想を生み出すためにも、何事にも自主的に取り組んでいける人間に育ってほしいですね」(星野校長)
期待が高まる高校普通科の
「総合進学コース」と「特別進学コース」
●生徒一人ひとりに合わせた、きめ細やかな指導
近年、着実に高い進学実績を出してきた高校の普通科は、2017年度より「総合進学コース」と「特別進学コース」の2コース制を導入しました。生徒たちの学習意欲も高く、その進路も多種多様なものとなっています。
「総合進学コース」は選択制カリキュラムを実施し、文系、理系、芸術系などさまざまな進路を希望する生徒たちが学んでいます。それぞれの進路に応じた選択授業を少人数で行い、生徒一人ひとりに合わせた学習指導や問題作成などの、きめ細かなサポートが特徴です。
選択授業の数は多く、受験に特化した補習や講習も実施。通常の授業に加え、朝・放課後の補習やマンツーマン補習を行い、生徒一人ひとりが「わかる」まで丁寧にサポートして、徹底して基礎学力を養います。
「特別進学コース」は、国公立大学や難関私立大学、海外大学への進学を目指します。
難関大学突破に向けて、問題演習を多く取り入れており、生徒の自律した学習を促すためにプラスティーによる「学習コーチング」を導入。
「高校3年間をかけて学習スケジュールを組み立て、目標大学合格に向けた力を養います」(滝澤副校長)
さらに月に3回程度、「特進講習」(土曜)を行って、学力の底上げを図っています。
●総合大学への進学実績を伸ばす高校普通科
自由と自主性を重んじる校風で培われた才能が、音楽以外の分野でも発揮され、普通科の現役進学率は9割を超えます。国公立、早稲田、慶應、上智、東京理科、GMARCHや理系大学への合格者数も年々増え続け、過去3年間で約80校300学科という幅広い進学実績を残しています。
ちなみに、その9割のうちの約2割は内部推薦制度で国立音楽大学へ進学。同大学の「演奏・創作学科」「音楽文化教育学科」などが推薦可能な学科で、卒業後は音楽教諭や幼児教育、音楽業界などさまざまな分野で活躍しています。
「レールに乗せて、少し押すところまでやるのが教育」と先生方が言うように、音楽を基軸としてながらも、生徒の可能性を広げるために多様な道筋を創出する同校。
高校普通科が2コース制となって、初の卒業生の結果が出るのは来春です。同校のこれからが、ますます楽しみです。