学校特集
西武台新座中学校2024
生徒の成長を支える先生方の真摯な姿勢
掲載日:2024年9月1日(日)
西武台新座の生徒たちを取材すると、毎回彼らの真綿のような素直さにとても驚かされます。誰に対しても物おじすることなく自然体で自分の考えを主張できる姿、また人の話にも真剣に耳を傾けられる姿を見ると、多感な時期にどうしてここまで素直でいられるのだろうと不思議にすら感じます。
入学時から1人1台ずつiPadを支給して、論理的思考力やプレゼンテーション能力を高めるプログラムに力を入れているということが、生徒の発言力を大きく伸ばしていることは間違いありません。しかし生徒がここまで素直に育っている本当の理由はプログラムそのものよりも、先生方の生徒一人ひとりに対する真摯な姿勢です。
そんな先生方が生徒の成長を強く実感できる機会が中学課程にいる間に行われる「成長プレゼン」だと言います。「成長プレゼン」について詳しく話を伺いながら、先生方がどのように生徒の成長を支えているのか探ってみました。
芝田直樹先生(左)
現在中3の担任。中2から中3にかけて2回の成長プレゼンを担当
田邉真緒先生(右)
成長プレゼンを最初に行った学年である現在高3の担任。
生徒を主役にした三者面談で
生徒の成長を実感
成長プレゼンとはどのようなものですか?
芝田先生
生徒が保護者と担任の前で、将来の目標と今の自分の現状を説明し、目標のために必要としている課題や当面の目標をプレゼンするというものです。今までは中2と中3の2回行われましたが、2024年度からは中1でも始まりました。将来の夢を叶えるために今の自分は何ができていて何ができていないか、できていない部分を補うためには何をすればよいかということを自分の頭で整理して、保護者や教師に共有します。現状を生徒と家庭と学校でしっかり共有し、自己実現をサポートするために家庭や学校は何ができるかということについて話を深めていくものです。
田邉先生
成長プレゼンは私が担当している8期生(現在の高3)からスタートしました。公立中学なら三者面談にあたるものです。公立の場合は基本的に成績や内申に基づく高校入試の話で、どちらかというと保護者と教員が話の中心になります。しかし中高一貫校ならその枠にとらわれる必要はありません。本校では生徒が主役。なら三者面談でも生徒の言葉からスタートしていくのが本校らしい形だということで生まれました。
中高一貫校だと高校入試がない分中だるみが派生しやすいですが、その時期に生徒が現状をしっかり把握して目標と課題を自分で考え、自分の言葉でプレゼンするというのは意義深いですね。具体的にはどのよう形でやるのですか?
田邉先生
8期生の時は「人生の夢について語ってもらう」ことをテーマとして提示しました。まずは人生の夢を宣言し、だからどこの大学で何を学びたい、そのためにはどういう準備が必要か、ならば今何をするべきか、ということを逆算的に考えてもらいました。 本校では中1からiPadを使っているので、生徒たちが自分でGoogle SlideやKeynoteなどを使ってゼロからプレゼンを作ります。学校からフォーマットなどは何も指定していません。
芝田先生
今の中3も同じです。プレゼン形式自体は自分たちの発想と考えを基に自由にやってもらっています。生徒から最初に提示される夢に、生徒の個性が本当によく表れるからです。
高校入試がないからこそ、まずはどんな自分になりたいか、どんな夢を描くのかという生徒主体の考えを大切にしています。
生徒自身の言葉だからこそ
いくつもの気付きが生まれる
生徒が自由な形式でプレゼンすることにはどのようなメリットがありますか?
田邉先生
生徒が自分自身の言葉で語ってくれるので、とても納得できるということです。その子たちの感性がそのままプレゼンに出てくるので、「ああ、だから普段からこういう行動をとっているのか。だから普段こういうことを大事にしているのか」と、教員からしても日々の指導で感じていたことへの気付きがたくさんあります。保護者の方からも、「そういうことを考えていたのね」という発言が良く聞かれます。
芝田先生
保護者の方のそういう反応は本当に多いですね。やはりあわただしい日常の中では、なかなかお子様の意見をじっくり聞く時間というのは作れないと思います。
田邉先生
日々の発言はどうしても断片的ですが、方向性を据えてじっくり話を聞く機会があることで、教員も保護者の方も生徒に対する理解が本当に深まります。ご家庭が子供に対してどのようなポジションでいればよいか、我々教員がどのようにケアをしていけばよいのか、とても明確になります。何より大切なことは生徒自身が、ご家庭や教員のサポートを納得して受け入れられるようになることです。
芝田先生
日々の学校生活では、われわれもどうしても教える側の枠で生徒を判断してしまいがちです。その枠の中から問いかけても彼らはなかなか思っていることを素直に話してくれません。でも成長プレゼンで一度その枠から離れて自由に発言する場を作ると、その子が本心で思っていることを素直に話してくれるので、我々も気付きが大きいのです。
学校が決めたレールをスムーズに走れる生徒を作るのではなく、生徒が自分で考え出した道を、どのように学校がサポートできるかということを、文字通り生徒の言葉を中心に、ご家庭と教員が真剣に話し合うことができる場なのですね。
生徒の夢を主軸にしながら
何をするべきか一緒に考える
成長プレゼンは2回行われますが、中2の時と中3の時でどのようなところに生徒の成長を感じますか?
芝田先生
自己分析の仕方がより細かくなってきていることと、将来の夢がより明確になってきたというところです。自己分析に関しては、例えば中2の時は数学が苦手だから今後頑張るという程度だったものが、中3になると数学のどの部分が苦手で、それを克服するために何をするべきか、ということまで具体的に説明できるようになっています。将来の夢についても、中2の時には非常に漠然としている、あるいは夢が何も思いつかないというケースも散見されますが、中3になると、自分はこういうものになりたい、だからこういう勉強をしたい、そのために今取り組むべき課題は何か、というように細分化して考えらえる生徒が増えています。
将来の夢と今の自分を連続して考えられるようになっているのですね。
芝田先生
将来の夢に関しては、直接人に携わる仕事をしたいと思っている生徒が非常に多くなっています。中2の頃は好きだからという理由でサッカー選手になりたいと話していた生徒が、中3の成長プレゼンでは人に直接携わる職業を上げるケースが増えています。その理由は様々ですが、例えば人の悲しみに寄り添い助けるような仕事をしたいなど、心に関係するキーワードを話す生徒が増えてきていると感じます。
田邉先生
目の前の成績で将来を制限するのではなく、自分をしっかり見つめたうえでプレゼンする生徒がすごく増えており、生徒の内面的な成長が見えてきています。成績や素行という学校の評価軸に縛られずに自分を見つめるので、型にはまらない大きな成長を目の当たりにすることもあります。
芝田先生
乱暴な言い方をすれば、現時点での成績が伴っていないのに医学部に行きたいという生徒がいたとします。それでも本校の教師は無理だとは決して言いません。他の誰でもない本人から出てきた志望だからです。本人のやる気スイッチが入れば取り組み方も変わりますし、学びの浸透度も驚くほど変わります。なので、医学部を目指すなら今足りないもの、やるべきことは何だろうということを、生徒の夢を主軸にしながら教員がサポートする形で提案できます。
教員が真剣に生徒の声に耳を傾けるから
生徒も本気になる
2回のプレゼンを経て、生徒がそこまで内面を深く見つめて、将来から逆算して今やるべきことを考えられるまでに成長するというのは本当に驚きです。成長プレゼンの取り組みがここまで成功している秘訣は何でしょうか。
田邉先生
我々教員が真剣に生徒に向き合い、とことん生徒の言葉を理解しようとする姿勢が大事です。教員が生徒自身から出てくる夢に対して無理だろうと思ってしまったり、成長プレゼン自体を軽くみてしまったりすると、決して生徒の本心を知ることはできず、とても希薄なものになってしまうからです。
芝田先生
私は成長プレゼン本番前に必ず生徒とリハーサルをしています。プレゼンそのものを指導するためではなく、生徒が何を考えているか、何を言おうとしているかということを深く理解したいからです。もっというと、自分のクラスでは中2から中3にかけて何回も二者面談を行っています。常に生徒に今の自分の立ち位置や課題を問いかけることを通して、自分自身の考えを言語化することができるからです。
生徒自身が考え、自身の言葉で話すことを本当に大切にしていらっしゃるのですね。
芝田先生
自分が主役ですから、何事も全て自分事だと思ってやることで成長プレゼンが意義深いものになります。自分の将来のことだからちゃんと自分で考えるように。それをサポートするのが教員の役割だよと常に話しています。その役割を果たすために、生徒が一番伸びるためには教員として自分は何ができるだろうということは、常に真剣に考えています。
成長プレゼンを体験したことは
大学入試にも大きなアドバンテージに
成長プレゼンを最初に始めた8期生は今高校3年生ですね。
大学入試を控えているわけですが、成長プレゼンを経験したことは今の彼らにどのように影響していますか?
田邉先生
自分の強みを理解しているからか、とても主体的に受験する大学や入試方式を選んでいます。また入試が近付いても浮足立つことがありません。成長プレゼンを通して大学入試はあくまでも自分の人生の一過程だと認識しているからです。みんなそれぞれ自分の考えに基づいて、やりたいことベースで受験戦略を立てているので、他のクラスメートに対してライバル心を抱いたりギスギスしたりするようなこともありません。むしろ自己実現のための入試を楽しもうという生徒が多いように感じます。
芝田先生
入試を楽しもうということは私も常日頃生徒たちに言っています。そのためにも偏差値という外の尺度に縛られて大学を選ぶのではなく、生徒が真剣に将来を考えて、ベストだと思う大学を選んでほしいと思っています。
田邉先生
もちろん私たちも、いわゆる名のある大学に合格してくれたらとても嬉しいですし誇らしいです。でも学校としては、生徒一人ひとりが自分にとってのベストを作れる大学を自分で選ぶことが大切だと考えています。今は生き方が本当に多様化しています。どこの大学を卒業したか、どこの企業に就職したかという外側の評価軸に頼ることなく、自分自身の経験から生まれる自信を掴むことができるように指導しています。
有名大学の合格実績ばかりを強調する学校も少なくない中、本当に生徒の考えを中心にして、生徒のためを思った指導をされているのですね。卒業生が遊びに来ることも多いそうですが、よくわかる気がします。
芝田先生
卒業生は本当によく遊びに来てくれます。大学生はもちろん、大学を卒業して社会人になった人たちも学園祭に顔を見せに来てくれたりします。
田邉先生
今年度新任で働いている教員3人は本校卒業生で、うち2人は中学からの生徒です。
この学校が本当に好きで戻ってきてくれているという言葉を聞いて、我々も本当に嬉しく思っていますし、生徒を主役に据える西武台新座の教育を、彼らとともにますます盛り上げていきたいと考えています。
最後に、在校生やこれから西武台新座に入学してくる生徒に期待していることを教えて下さい。
芝田先生
どのような場面、立場であっても、社会で立派に活躍できる人になってほしいということです。成長プレゼンを一つの例として、西武台新座では教員との対話を通して自分自身を深く見つめ、将来を見据える機会がたくさんあります。それを糧にして、どのような場面であっても、そこにいる人と積極的に関わり、社会に貢献できる人になってほしいと願っています。
田邉先生
人生は一回しかないので、好きなものをたくさん見つけて、楽しんでほしいと願っています。好きなことに夢中になる中で仲間が生まれ、その中で自分の頑張りが誰かを助けるきっかけになれば、そこからいくつも道が開けていきます。だから受験も大いに楽しんでほしいし、その先の大学生活も含めて、自分の人生を好きになってほしい。受験が迫る今だからこそ、とくに高3生にこのことを伝えたいです。