学校特集
桜丘中学・高等学校2024
新たな視点で希望の進路を目指す
掲載日:2024年9月20日(金)
今年100周年を迎える桜丘中学・高等学校は、1924(大正13)年に「勤労」「創造」を校訓に掲げて創立されました。一人ひとりの生徒に丁寧に向き合う指導と先進的な取り組みで大学進学実績が毎年着実に伸びており、受験者数も年々増加している人気校です。JR線・東京メトロ南北線「王子駅」や都営地下鉄三田線「西巣鴨駅」から徒歩7~8分と交通の便の良さも魅力です。生徒の真の力を育むカリキュラムや進路指導、きめ細かい目配りや革新的な取り組みについて、探究科教科長・中野優先生と高大社接続推進課課長・内野佑紀先生にお話しいただきました。
先進的な取り組みで生徒の才能を開花させる
桜丘中学・高等学校はキャリア教育や高校の多彩なコース制などの取り組みで、めきめきと頭角を現している学校です。2020年から4年連続で国公立大学合格者が増えており、2023年には70名と、約4人に1人が国公立大学合格を果たしています。
→最新の実績はこちらhttps://sakuragaoka.ac.jp/senior/achievements/
めざましい実績を挙げている秘訣は、先生方の発案で実践しているさまざまな取り組みにあります。探究科教科長の中野優先生から詳しく紹介していただきました。
【主体性や柔軟性などのソフトスキルを可視化】
学校教育では知識の習得や活用が重視され評価されますが、AIや技術や発達してきた現代では思考力や判断力、主体性などの資質や能力(コンピテンシー)も重要です。しかし、テストの得点やコンテスト入賞といった分かりやすい能力は評価しやすい一方で「人に寛容」「柔軟性がある」といったソフトスキルや強みは、評価しにくいのが現状です。
「そこで、従来は『見えないスキル』と言われていた主体性や協働性、柔軟性なども含めて生徒の能力や個性を可視化し、個々の成長をしっかり評価しようと考えました。そのために2年前から導入したのがコンピテンシー診断です」と中野先生は話します。
同校がとり入れたのは、資質・能力を診断してデータ化する「Ai GROW(アイグロウ)」というシステム。これを使うことで、これまで見えなかった多角的なスキルを見える化することに成功しました。元々は高校のキャリアデザインコースで、生徒の多面的な成長を可視化するために始めたのがこのプログラムで、高校生は現在も診断結果を大学の志望理由書作成や面談での自己PRなどに活用しています。
中学では全学年で学期ごとに診断テストを行い、3年間で自分のソフトスキルがどのように成長したり変化したか、振り返りができるようになっています。
「思わぬ自分の強みに気付くきっかけにもなるし、グループワークでは診断結果を元に、班編成を決めることもあります。いろいろなスキルを持つ生徒を同じ班にすることで、能力を最大限に生かす班を構成できます。逆に『今回は苦手分野に挑戦しよう』と伝えた上でリーダータイプではない生徒を班長に任命することもあります」(中野先生)。
診断結果は本人と保護者に通知し、面談でも活用しています。「自分で思っていた通り」というケースもあれば、「発表は苦手だと思い込んでいたけれど、発信力や表現力のスコアが高かったから、思い切って挑戦してみよう」とチャレンジのきっかけになる場合もあります。「自分の強みが分かっていない生徒も多いので、数字を見せることで挑戦するエネルギーにつながったという生徒は多いですね」(中野先生)。
【高校コース選択につながる鹿児島研修旅行】
高校では2021年度からコース制をとり入れており、一貫生も高入生も高校から4コースのいずれかを選びます。*2026年度に更なるアップデートを目指し、コース再編予定
●難関選抜「スーパーアカデミックコース」
●文理特進「アカデミックコース」
●グローバル探究「グローバルスタディーズコース」
●キャリア探究「キャリアデザインコース」
将来のキャリアを見据えてコースを選択しますが、まだ中学の段階では迷うことも多く、保護者のアドバイスで決めたり、友達と一緒にコースを選ぶ生徒もいるのが実状です。しかし主体性を持ってコースを選択しないと、高校入学後にミスマッチが起きることもあります。
そこで今年度から新たな取り組みとして、中3の研修旅行の行き先を鹿児島とし、興味関心に合わせた7つのコースを設定しました。研修旅行は9月初旬に2泊3日で実施しました。
例えば高校で「スーパーアカデミックコース」を目指す生徒は鹿児島大学など国公立大学を見学するコース、「キャリアデザインコース」を希望する生徒はカンパチ漁業体験を通して一次産業に触れるなど、興味の方向性を確認しながら現地で多彩な体験を積むことができます。通訳案内士や留学生と一緒に外国人観光客に英語で観光ガイドや日本の文化を説明するコースもあり、単なる研修旅行ではなく進路選択に好影響を及ぼすプログラムが準備されているのです。
「1学期に10時間の事前学習を行って興味関心を掘り下げておくのも特徴です。たとえば過去の農村体験は単に農家宿泊や農作業参加でしたが、今回は地域の課題や消滅可能性のある市区町村について学んでから参加するので、学びが深く密度の濃い研修になりました」(中野先生)。
また、1次産業体験者だけでカンパチの解体を見るのはもったいないと考え、解体ショーはホテルで行い全員が見学することに。鹿児島で工場やホテルを運営している京セラの協力も得て、京セラ役員による講演も実施するなど完全オリジナルの特別プログラムとなっています。
終了後は体験や学習した内容をまとめて発表しますが、総仕上げは12月の三者面談。生徒は保護者と担任の先生の前で「将来、こういうキャリアを歩みたいから、高校はこのコースに進学したい」とプレゼンし、自らの意志をしっかりと表現する予定です。
ほかにも中2で実施する「起業家精神教育」では「100周年記念グッズ」「防災グッズ」などのテーマに沿って商品を企画して銀行員の方に対してプレゼンを実施。昨年度は融資OKとなった案件はネット上で仮想販売を実施し、売上が多かったグッズは実際に製品化・販売も計画しています。こうしたさまざまな取り組みに加えて先端のAI技術なども活用し、生徒が自分の意志で興味関心を見定め、キャリアを選ぶための引き出し作りに取り組んでいるのです。
緻密なデータに基づく進路指導
桜丘の大学進学実績が年々伸びているのは、生徒の希望に寄り添う進路指導の賜物でもあります。とはいえ、生徒の希望に沿って志望校を絞り込むのではなく、むしろ志望校や学科の選択肢を広げていく手法をとっているのが特徴です。「この学科で学んでも違う学科で学んでも自分の望む未来が手に入る」と考え、1つの学問に固執せず、時には文・理の枠を超えてさまざまな学科を横断して受験する生徒もいます。マッチングする大学や学部学科が多いため、自然と合格実績も伸びているのです。
そんな同校ならではの緻密な進路指導について、内野佑紀先生からお話しいただきました。
【進路を「拡げる」ことで可能性が無限大に】
受験する大学の学部学科を決める時は、「希望の職種につながる学部学科を選ぶ」という選択方法が一般的です。しかし、高校生の段階では、将来やりたい仕事が決まっていなかったり、キャリアに対する漠然としたイメージしか持てないことも多いものです。そこで高1の5月に全員参加の「進学合宿」を行っています。目的は学問について知り、視野を広げるきっかけを作ることです。
まずは大学は研究する場所であるという基本を押さえ、学問の多さ、文理または融合領域を始め新しい学部学科などについても紹介します。右図のワークシートを使って「この研究をするならどの学問か」をピックアップしていきます。「学問とはこれほど細分化されていて、自分の琴線に触れるものは文理の枠を超えてさまざまな学科にわたっている」と気づいた生徒たちは「こんなに沢山の学問があり、キャリアに紐づいている。そんな選択肢も知らないまま単純に学部学科や大学の名前だけで志望校を決めようとしていたのか」と驚くのです。
「自動車関連の仕事に就きたいから工学部の機械科を目指す」と言ってた生徒は、「環境と楽しさを両立する車を作りたい」という目的にたどり着きました。
「エンジンやガソリン車は縮小して電池やモーターが主流になる可能性がある。音が出て運転実感を味わえて、環境にも配慮した車を作りたいという思いから、その生徒は最終的には水素エネルギーを研究する学科に進学しました」(内野先生)。
目的を見つめ直し、目的を実現できる進路を選ぶ――この作業を1年生という早い段階から始めることで、生徒の意識が大きく変わり視野が広がっていくのです。
【中1の数学体験ツアーで苦手意識をなくす】
進路選択の幅を広げるための取り組みは、中1から始まっています。最近は大学文系学部入試でも数学が課されたり、文系学部卒でもIT関連の仕事に就くケースもざらにあります。どんな進路でも理数系の知識が必要になる可能性があるので、理数科目への苦手意識をなくすことは重要です。
「本校の進路選択の基本理念は"絞る"はなく"拡げる"で、苦手意識は進路を狭める要因の1つになります。実際、高校のコースを選択する時『数学が苦手だから文系に進みたい』と消去法で進路を選ぶ生徒もいます。しかし望むキャリアをつかむためには、苦手科目を減らし、選択肢を狭めないことが重要です」と内野先生は話します。
生徒にアンケートを取ると、中1の2学期から数学に苦手意識を持つ生徒が増えることが判明しました。そこで今年初の試みとして、中1の7月に東京理科大学の『数学体験館』を訪れ、数学の楽しさを五感で体験する「数学ツアー」を実施しました。
インストラクターの解説を聞いた後、「マンホールのふたはなぜ円形なのか、いろいろな形のふたで確かめる」「直線、円弧、サイクロイド曲線、楕円弧の滑り台のうち、どれがいちばん早くボールが落ちるか」など、器具を触ったり物を作成したりしながら"数学"を体感します「計算だけが数学ではないと分かった」「日常生活には数学があふれていると感じた」「遊びのような数学があることに驚いた」「数学に対する苦手意識が薄れた」など、生徒たちの感想からは、数学に対する親近感が生まれ、興味が高まったことが伺えます。
ほかにも早稲田大学所沢キャンパスでの施設見学、フェリス女子大学でアントレプレナーシップの授業参加など複数の大学と連携を続けており、今後はこうしたつながりをさらに増やして生徒や職員同士にも活動の場や視野を広げていく予定です。
【模試データ分析や中学自習室の拡充も実施】
卒業生の模試や校内成績と入試結果をすべてデータ化しているのも、合格実績伸長に直結する取り組みの1つです。高1からデータを蓄積し、試験後に「ここが足りないからこうやって補強しよう」という振り返りと指導を必ず行います。試験結果のデータベースは先生方が作成し、必要な学習内容を予定に落とし込んで実行するPDCAサイクルが確立しています。ゴールに合わせて今何をすればいいかを生徒も理解し、自分なりのペースメイクができるのです。「卒業生の成績と入試結果がデータ化されているため『この日に受験できるのはこれらの大学で、これまでのデータから合格確率が高いのはこの大学』といった分析も生徒に提示します。おかげで生徒自身が納得して受験校を選択できます」。(内野先生)。
また、校内で勉強を完結できる仕組みも作っています。卒業生チューターに質問できたり、友だち同士で教え合える学習室など、生徒が自分の好きな学習形態を選べるような学習室が複数設置されているのです。
その中の1つが、今年度から新たに設置された中学生専用の放課後学習室「SS Lab(桜丘スタディーラボ)」です。東大など難関大学の学生チューターが常駐して勉強を教えてくれるだけでなく、日替わりで学習計画の立て方や集中力の維持のさせ方などのレクチャーや、「中1の知識で解ける東京大学の入試問題にチャレンジ」といった演習の時間も設けています。
中1~中3が合同で授業を受ける時間もあり、憧れの先輩と机を並べられる、後輩が見ているから背筋が伸びるなど、縦割りならではの効果も生まれています。
先生方が発案し、自らの働きかけで実現しているプログラムや取り組みは、生徒の反応や効果を見ながら継続したり形を変えたりしてさらなる効果を生んでいます。興味を持った方は、ぜひ文化祭や学校説明会などに足を運んで、充実した教育内容や先生方の熱気、校内の活気に触れてみてください。