学校特集
関東学院六浦中学校・高等学校2024
掲載日:2024年12月26日(木)
関東学院六浦は校訓「人になれ 奉仕せよ」を掲げて、隣人愛を育む人間教育を大切にしています。キリスト教精神を土台に、国境を超えて「共に励まし合う人」「社会に奉仕する人」「平和を尊重する人」を育てる同校ですが、2014年に黒畑勝男先生が校長に就任して以来、次代をシビアに見据えた革新的なグローバル教育を推進してきました。生徒たちが社会に出ていく10年後、20年後にはグローバル化は日常風景で、「グローバリゼーション」という言葉自体が死語になっているであろうというスタンスをとりつつ、その改革にはますます拍車がかかっています。それは、例えば「選択制グローバル研修」「留学」「海外大学進学」などに表れていますが、改革のスタートからちょうど10年を経た今、同校のグローバル教育に惹かれて入学する生徒が増えていると言います。グローバル事業部長の小林慶太先生と、グローバル事業部アウトバウンド課長の宇野真泰先生にお話を伺いました。
愛の心を持った、地球市民を育てる教育を展開
物事の「学び方」を学び、自立した学習者になって学び続けてこそ「人」になる。「人」になって、広く世界を見つめてこそ「自分は何をしたいのか、何をすべきなのか」が見えてくる。そして、貢献への志が涵養されていく。校訓「人になれ 奉仕せよ」が表す風景です。
今、世の中は私たちが経験したことのない速度と規模で変化していますが、同校は生徒たちがグローバリゼーションが当たり前となる次代を生き抜き、それぞれの立ち位置で活躍できる力を養うことを教育の根本に据えています。
そこで、中学では「地球市民講座」や、内容と言語の統合型学習「CLIL」による英語の授業、日本語の4技能を磨く「言語力活用講座」など、じつにプラグマティックな学びを展開。そして、2021年度からは高校に「GLEクラス」を設置しました。GLEとは、「Global Learning through English」のこと。重点を置くのは「高い英語力、日本語で書く力、探究力」の3つの力の育成です。「自分軸を確立し、グローバル社会で未来を切り拓く」をビジョンに掲げ、「高いコミュニケーション能力を有し、他者と協同し、主体的に創造する力を持つ人」を育てることを目指しています。
※「GLE」の詳細はコチラ→https://www.kgm.ed.jp/education/gleclass.html
このように、同校は次代を生きる、次代に活きる力を育てる学校ですが、今回は、実際に国内外に出ていくグローバル教育に焦点を絞ってご紹介しましょう。
中・高それぞれで、少なくとも1回ずつ参加する「選択制グローバル研修」
なるべく早い時期にこそ国内外の多様な文化に触れ、多様な背景を持つ人々と交流して世の中に在る多様性を知る。カルチャーショックを伴うこの圧倒的な体験は、生徒たちが生まれてから10数年間で培われてきた価値観の変容をもたらし、世の中への、そして自分自身の将来への眼差しを持ち始める出発点となります。
この探究的な学び「選択制グローバル研修」は、「中学3年間で1回以上参加」、かつ「高校3年間で1回以上参加」が必須となっています。また、短期・一年の留学も選択制グローバル研修に含まれます。
小林先生:「一般的な修学旅行とは違い、一人ひとりが自分の関心のあるものを選び、訪れた先でさまざまな体験をしながら自分で学びを深めるのがこの研修です。本研修の特徴の一つでもありますが、現地のフィールドワークでは参加者を縦に割って異学年でグループを組みます。グループ単位の事後発表では、みんなで集まって発表をどうするか相談をしていますね」
「選択制グローバル研修」は単なる旅行ではなく、自分の興味・関心に基づいて主体的に選ぶもの。その種類は19(2024年度)にも及びます。
2 長崎研修
3 北海道研修
4 釜石防災研修(岩手県)★......過去の教訓から学び、防災意識を向上させ、予測される未来の災害に備えるために何ができるかを考える。
5 沖縄研修
6 スキー・スノーボード研修(長野県)★......大自然の素晴らしさと厳しさを体験しながら、異学年で構成された集団の中で主体的に行動する力を養う。
7 屋久島・種子島研修(アラスカ研修と隔年で実施)★......縄文杉までトレッキングしながら、SDGsの視点で自然を見聞。また、世界一美しい射場と称される種子島宇宙センターを訪ねて、科学技術の結集を直接見聞きする。
8 カナダ夏期研修
9 マレーシアJr.研修★
「『多様性』の意味を考えよう!」をテーマに、目覚ましい発展を遂げる他民族国家で人々の暮らしを徹底的に探索。
10 ブルネイ研修
11 マレーシアSr.研修
12 カンボジア サービス・ラーニング研修★......校訓「人になれ 奉仕せよ」を具現化し、現地の小中高生との交流を通して「共生」について考える。
13 台湾研修
14 ドバイ研修
15 アラスカ研修(屋久島・種子島研修と隔年で実施)
16 マッキンリーヒル語学研修
17・18・19 Plan Your Trip(自主企画研修/北陸方面、京都・奈良方面、中部方面)
そして、今年度の中1で海外への研修に参加した生徒は80名。学年全体の43%に上ります。
宇野先生:「年度初めに全校生徒と保護者に研修の案内冊子をWEBで配信していますが、それを見ながらその年度に何をしたいのか考えて説明会に出るよう伝えています。そして、研修後はGoogleスライドやドキュメントを使って事後レポートを作り、年度末には研修の発表会を行って次年度に繋げていきます」
研修には異文化を体験する多種多様なラインナップが揃いますが、17〜19番目の「Plan Your Trip」は、生徒が個人、またはグループごとに全行程を作る研修です。企画を立て、実地を踏み、事後に報告書にまとめる。申し込む時点で企画書を提出して審査を受けるのですが、グループの人数は多くても4名まで。その理由について、小林先生は「人数が多すぎて、他者の考えに便乗する生徒も出てくると学びになりませんので」と苦笑いします。
小林先生:「中学のマレーシア研修を引率したことがあるのですが、特に低学年はほとんどの生徒が初の海外です。ですから『食事が合わない、トイレがあまり綺麗じゃない』『日本は恵まれた環境なんだ』など、良い意味でも悪い意味でもカルチャーショックを受けます。でも、田舎にホームステイをしながらジェスチャーを交えた片言の英語でやり取りするうちに、人種が違うから怖かったけれど、実はみんな優しいんだとわかってくる。異文化交流を身近に感じ、『グローバルな人』という意味をかなり理解して帰ってきます」
ちなみに「マレーシア研修」を設ける目的についてですが、マレーシアは6億人を超えるASEAN諸国の中心的存在であり、宗教一つをとってもイスラム教、仏教、キリスト教、ヒンドゥー教などが共生しています。それぞれが独自の文化を大切に守りつつ、一方で違いを受け入れて尊重し合っていることが、これからの世界のあるべき姿を示している国だからです。
小林先生:「カンボジアでの研修はサービス・ラーニングで、日本人が経営する学校で現地の子どもたち向けて授業を行います。カンボジアの場合は、中学で一回行った生徒が高校生になってまた行くことも多く、高校生が中学生をリードする流れができています」
各プログラムの詳細については上記のURLにてご覧いただき、ここで、今年度新設された「ブルネイ研修」に参加した生徒たちの感想をお届けします。
東南アジアのボルネオ島北部にあるブルネイ・ダルサラーム国は、天然資源に恵まれ、経済水準の高い国ですが、近年は「経済多様化」を掲げて、若手起業家の育成が急ピッチで進められています。一般家庭にホームステイをし、新しい国づくりを担う若者と交流した生徒たちの感想には、それぞれの目覚めや感動が生き生きと描かれています(以下、すべて一部加筆修正)。
■中3女子/Aさん
名前も聞いたことのなかった国に、ここまで情が湧くとは思っていなかったので、お別れの時に感情が溢れてしまってびっくりしました。ブルネイが大好きになり、写真を見返しては戻りたいと思っています。
この研修を通して学んだことは、とりあえず挑戦してみるということです。失敗を恐れず、恥ずかしがらずに、とにかくなんでも挑戦してみることの大切さを知ることができました。頑張っていろいろなことに挑戦し、本気で向き合ったからこそ最高な思い出ができました。このプログラムを計画してくださった先生方や参加した生徒のみなさんに本当に感謝しています。ありがとうございました!
■中3女子/Bさん
ブルネイの方はみんな明るく良い人ばかりで、大好きになりました。そして、英語が話せるだけでこんなにコミュニケーションが活性化し、こんなにたくさんの人と話すことができるんだと実感しました。英語の勉強をもっと頑張って、またブルネイに戻りたいと思います。
また、異文化の食べ物や衣装、生活を体験することによって視野が広がり、もっといろんな国に行きたいと思うようにもなりました。留学したような感覚になる場面もいくつかあって、心から楽しいと思え、そんな体験をまたできるようにするために、英語の勉強を頑張ろうと改めて思っています。
宇野先生:「選択制グローバル研修では、ブルネイとカナダでホームステイがあります。今回のブルネイ研修の事後学習では、現地とオンラインで繋げました。そうしたら、ホストファミリーが画面に出てきた時に、涙がツーっと出てきたと言っていた生徒がいました」
中3から「短期・一年留学」を推奨する意図とは?
同校では、在学中に短期・一年留学への参加を推奨しています。カナダ・アメリカ・オーストラリア・ニュージーランドの4カ国への留学説明会は校内で実施しています。ちなみに、説明会を実施していない国への留学も申請することができます。
宇野先生:「GLEクラスの1期生が今年大学1年生になりました。ちょうどひと回りしたわけですが、高校入試でもGLEクラスを目指す受験生が増えていて、入学前から留学や海外大学進学を視野に入れている生徒が一定数います。短期・一年留学に行く生徒も年々増加していますが、留学に行った生徒が『もう一度!』と、選択制グローバル研修で同じ国に行くケースもあります」
小林先生:「中学1年生・2年生のうちはまだ留学を具体的にイメージできなくても、選択制グローバル研修に参加することで覚醒するようですね。今年の中3で3学期(2025年1月)から留学する生徒は5名いますが、その生徒たちを含めて今年度は75名、中3〜高2の約12%が留学を経験しました。円安など悩ましい問題はあるのですが、留学経験者が増えてきて、その良さを伝えてくれていることが良いサイクルを生み出している。ようやく今、そんなふうに感じ始めています」
これまで継続してきた10年間の教育改革の成果が、目に見える形で表れ始めた証と言えるでしょう。
留学を推奨する理由は、見聞を広げて海外大学への進学を促進するに留まらず、日本の大学に進学する場合にも強力なアドバンテージになるから。感性が柔軟なうちに外の世界を見て、感じて、実感を伴った行動へと繋げる力を獲得できるからです。
宇野先生:「特に一年留学では英語を学ぶ以前に、親元を離れるという大きな経験をしますので、ある意味で『サバイバル』と言えます。いかに生き抜くか、そのためにいかにコミュニケーションをとるか。困ったことがあったら先生に『助けてください』と自分から発信しなくてはいけませんし、食べ物に慣れ、友達をつくることも大事です。英語力は結果的に、副産物としてついてくるもの。何より、自信を持って、自立して帰ってくる生徒が多いです」
小林先生:「行ってすぐにホームシックになることもわりと多いですが、それを乗り越えて(笑)」
では、ここで、2024年度に留学を終えた生徒たちの声を聞いてみましょう。
■カナダ1年留学/高2男子
今回の留学生活では、今まで常識と思っていた考え方や行動は、国や環境が違えば変わるということを学びました。異なる文化や価値観に対する理解が深まり、柔軟性と適応力、寛容さを身につける機会にもなりました。実は、私は日本にいた時は海外の方に対してあまり良い印象を持てない時があったのですが、実際に彼らと交流して触れ合い、考えが変わりました。彼らはみんなとても良い人たちでした。
今の社会は簡単に大量の情報が手に入りますが、その情報だけを信じるのではなく、実際に確かめてみることの大切さにも気づきました。そして、先入観を捨てて自ら進んでコミュニケーションをとり、相手を理解しようとすることで自分も認めてもらえるということも学びました。
今後は、留学から得た自信と経験を活かして常に新しいことに挑戦し、自己成長を続けていきたいと思います。さらに、異文化間での円滑なコミュニケーションができるように努め、他者を認め、いろいろな意見に耳を傾け、自分の意見もはっきり伝えられるような心の豊かな人間になりたいです。この10カ月の留学体験で、私は非常に多くのことを学ぶことができました。今後の進路を考えるうえでも、10代でこのような経験ができたことはとても貴重なことだと思っています。
■ニュージーランド短期留学/高2女子
ニュージーランドは、自然に囲まれストレスフリーな世界だと感じました。ニュージーランドではモールは18時に閉店し、ホストファザーは17時には仕事から帰ってきました。夕方からは家族と過ごすことが日本よりも多かったです。それにより家族愛はすごく強く、家族同士で電話をして切る時に「愛してる」と伝えることを当たり前のようにやっていたことが素晴らしいと感じました。
私は今回の留学で英語も学びましたが、自分の気持ちを相手に伝える大切さや、自分のやりたいことや可能性は無限大ということも学びました。そのことを心に置いて、これからの人との付き合いに活かしたり、将来に繋げていきたいと思います。
■カナダ1年留学/高2女子
留学を決めた人、迷っている人に私が何か伝えられることがあるとすれば、「正直、思っているような留学生活を過ごすことはできないかもしれない」ということです。差別も思っているよりも残っているし、文化の違いに戸惑うことも、友達の会話についていけずに言語の壁に苦戦することも、親元を離れて寂しくなることもあります。実際に私はすべてを経験しました。誰かにとっては、辛いことのほうが多い留学生活になるかもしれません。ですが、自分次第でどうにでもなります。苦しいままでいることも、楽しくなるように何かを変えることも自分次第だと思います。
留学期間中に壁にぶつかって落ち込んでしまったら、それは成長している証拠だと思います。嫌なことが多くても、それ以上に本当に素敵な出会いがたくさんあります。何にも代えがたいものが見つかると思います。せっかく決めた留学、感謝を忘れずに、自分の力で全力で学び、楽しんでください。
今回の留学を終えて、世界の人々とコミュニケーションをとることの楽しさを改めて感じることができました。私は、この経験を活かして国際系の道に進み、将来は外国の方と関われる職業につきたいと思っています。そのために足りない部分の勉強を続け、自分の夢に近づけるように精進していきます。
海外大学への進学と、日本の大学への進学を並列に考える
ボーダーレス化が進み、世界と隣り合わせで生活することが当たり前になった今。だからこそ、同校はこの10年間、海外までフィールドを広げて進路の選択肢を増やすことに尽力してきました。現状は1学年約200名のうち5%弱が海外大学に進学していますが、今後はもっと増やしたいと言います。そのための取り組みを、いくつか抜粋してご紹介します。
① ハワイ カピオラニ・コミュニティカレッジ(KCC)との提携
KCC卒業後、関東学院大学の3年次に編入することも可能(学部制限あり)。ハワイ大学などへの既存の編入制度以外の選択肢もある。
※1期生がKCCでの2年間を修了した後、奨学金を得てハワイ大学に進学し、成績優秀で卒業。
② USデュアルディプロマプログラム
同校のカリキュラムとは別に約2年間のプログラムで学ぶもの。同校の卒業資格とアメリカの高校卒業資格を同時に得ることができ、アメリカの19大学への推薦入学が可能。
③ マレーシアの大学への指定校推薦
Talor's University、Sunway University、INTI International University&Collegeの3大学への推薦枠がある。
④ UPAS(海外大学進学協定校推薦制度)
主に高校3年間の成績を使って、欧米約100校の協定校へ出願が可能。大学と専攻選び、出願書類の準備に関してのサポートがある。
■テイラーズ大学(マレーシア)進学
GLE(Global Learning through English)クラス/男子/2024年3月卒業
高校時代に留学したいと思っていたのですが、部活を最後まで続けたいので断念しました。英語と経営学をハイクオリティで学びたかったので、日本の大学の国際経営学部に進学することも考えましたが、留学したい思いは消えなかったので高2の秋頃から海外大学を目指し始めました。そして、マレーシアの大学のオープンキャンパスに参加した時にマレーシアの大学に惹かれたため、テイラーズに進学を決めました。
現在はファンデーションコースに通っていますが、修了後はビジネス学部のマーケティング学科に進む予定です。専門科目としてマーケティングと会計学の授業を取り、それ以外にも英語の授業やクリティカルシンキングの授業も受けています。どの教科も一コマは講義形式の授業で、もう一コマはグループワークの授業です。課題量は多いですが、授業以外の時間にグループで集まってやることが多いので、その分、コースメイトと仲良くなれるのはいいですね。
関六には英語に触れられる環境がたくさんあり、フィールドワーク系の授業や模擬国連、教科横断的な授業スタイルが多くあったことはとてもよかったです。そのおかげで、大学での授業スタイルに柔軟に対応できていると思います。また、関六は指定校推薦にマレーシアの大学が含まれているため、海外大学に向けての勉強時間を多く取ることができたのもよかったです。
私はGLEクラスに所属し、英語を使って大学受験をしようと考えていたため、海外大学に行くことを選択肢の一つに入れることができました。そして、高2の時にマレーシア留学サポートセンターさんがGLEクラス向けに説明会を開いてくれたので、マレーシアの大学が本格的に選択肢の中に加わりました。海外大学に入学するにはTOEFLやIELTSなどの英語資格を用いて受験しますが、GLEクラスの生徒は1年に一回IELTSを受けることになっているので、海外大学を受験することが自然と視野に入ってきたと思います。
小林先生:「今年行ったマレーシア研修では、マレーシアの大学に進学した卒業生3人が手伝ってくれました(笑)」
校訓「人になれ 奉仕せよ」を今の時代にどう具現化させるか。そして、次代を生きる生徒たちに今、どのような力を授けるべきか。その思いを主軸に、「世界の現実を体感して視界を広げる」教育改革に乗り出してから10年。
同校は「(共通言語としての)英語は現代の識字力である」「1日も早く世界の実情を知る体験をさせることが急務」という強い思いで、生徒たちに意識の変容を促し、グローバルな対応力を身につけさせる教育をダイナミックに展開し続けています。そんな同校で学んだ生徒たちは、自分たちの手で「多文化共生社会」の在り方を創造し、力強く支えるフラッグ・リーダーとなっていくに違いありません。