学校特集
国学院大学久我山中学高等学校2024
掲載日:2024年12月1日(日)
2024年9月に東京理科大学との高大連携協定が発表され、その取り組みに注目が集まる国学院大学久我山中学高等学校。近年は医学部進学者をはじめ理系の大学進学実績が伸びるなど、特色あふれる理系教育の成果が現れています。
そこで今回は、理科の課外教室である「くがラボ」の実験教室を見学。実験の様子を見せていただくとともに、「くがラボ」を実施した背景や、同校の理科教育の理念・方針について、近藤秀幸先生(理科学科主任)と井上俊之先生にお話を伺いました。
第1回のテーマは「液体窒素を使ったマジックショー!」
国学院久我山中学高等学校では、かねてより「理科巡検」や「理科実験」などの課外学習教室を行っています。
今年度からは「くがラボ」と名づけ、より力を入れるとともに内容を充実させています。その第1回講座となる「実験教室の」テーマは、「液体窒素を使ったマジックショー!」でした。
「実験教室」は男子部・女子部の垣根を越え、中学1年生から3年生を対象に、希望者による申し込み制で実施をしています。ある土曜日の放課後に行われた第1回に参加したのは男子生徒7名、女子生徒4名の計11名。白衣に着替えた生徒たちは、これから始まる数々の"マジックショー"に期待を膨らませます。
第1回の講座を担当するのは、化学担当の井上俊之先生。本題の液体窒素に入る前に、まずはドライアイスを用いたいくつかの実験が始まりました。固体が気体になる性質を利用した「フィルムケースロケット」では、生徒一人ひとりに実験道具が手渡され、"マジック"を体験。予想以上のダイナミックな動きに、あちこちから歓声があがりました。
その後もいくつかドライアイスを利用した実験が行われ、いよいよ本日のメインテーマである液体窒素のボンベが登場。初めて目にする物質に、生徒たちも興味津々の様子です。今回は液体窒素の入ったメスシリンダーに、バラの生花や造花、カラーボール、ドライアイスなどを入れて物体がどう変化するかを実験。手で触ると粉々になるバラ、沸騰する液体窒素など、数々のマジックは大成功に終わりました。
「不思議だな」「面白いな」と感じることが自走力を高める第一歩に
今回の実験教室で特に特徴的だったのが、生徒たち一人ひとりが主役となり講座が運営されていたことです。代表者が行う実験に関しても、井上先生が希望者を募ると生徒たちが一斉に手を挙げました。全生徒が何かしらの実験に関与できるような仕掛けもさることながら、生徒たちが主体的に取り組もう、学ぼうとしている姿が印象的でした。
「くがラボ」の取り組みに関して、理科学科主任の近藤秀幸先生は「生徒たちの自走力を高めることが一つの目的」と話します。自ら思い描くキャリアを実現するためには、大学受験という一つの関門がありますが、うまく乗り越えられる生徒は共通して自走力が高いそうです。
「自走力が高い生徒は、内発的動機づけがしっかりとしています。そのためにも、物事に対して"面白そうだな"と思える力を養いたいのです」
まずは興味の入り口を広げる目的で、今回の実験教室もあえて中学1年生から3年生に対象を絞りました。結果として1年生の参加が過半数以上を占めましたが、「ねらいどおりです」と話すのは井上先生。
「くがラボのコンセプトは『行ってみたら、やってみたら、聞いてみたら、面白かった』です。まずは足を運んでもらい、理科って面白いなと感じてもらえたら」
実際に、今回の実験教室に参加した生徒たちは、「初めて見る液体窒素の性質にびっくりした」「理科は難しいと思っていたが、楽しかった」と話しながら満足げな様子で実験室を後にしていました。
そのような感想を聞いた井上先生は、「今回扱った液体窒素は、生徒たちにとっては見慣れないものだったでしょう。こんな不思議なものがあるんだ、と興味を持つきっかけになっていればうれしいですね」と話します。
「今回は、目の前の現象がなぜ起きるのかという疑問を持ってもらうことで、自ら仮説を立てる大切さを感じてもらいました。"不思議だな""なぜだろう"と思うことが、その後のアクションにつながる第一歩です」と井上先生。
単元の学習だけでなく、普段の生活を通して疑問を持つ姿勢や感性を大切にしていく。あらゆる学問につながる学びの本質を垣間見た気がしました。
参加しやすい環境づくりが今後の課題
第1回の開催となる今回の実験教室は、中学校の全生徒を対象にメールで参加者を募りました。初めての取り組みということもあり、今回は複数回にわたってリマインドを行ったとのこと。また、多くの生徒たちの目に触れるよう、中学1、2年生の担任に掲示の協力を仰ぎました。
無事に成功を収めた第1回の実験教室ですが、「これだけ充実した講座なので、本音はもっとたくさんの生徒に参加してもらいたかったですね」と近藤先生。文武両道の同校だからこそ、講座の開催時期や曜日、時間帯にはかなり気を遣うと言います。
今後は、部活などで忙しい生徒たちにも、すきま時間で気軽に参加してもらうための工夫も考えているそうです。参加をすればその楽しさを知ってもらえるため、まずはきっかけをどう作るかが今後の課題。
ちなみに、2023年度は課外授業の一環で中学3年生を対象とした「南極教室」を実施。南極の観測隊員とオンラインでつなぎ、現地の様子を紹介してもらう企画でしたが、普段見ることのできない世界に生徒たちは大喜びでした。
また、「くがラボ」のもう1つの取り組みとして、毎年「理科巡検」を実施しています。フィールドワークを通して、実際にモノに触れたり見たりできる体験型のイベントですが、2024年度は富士に行き、地質と植生を中心に学んだとのこと。行きのバスのなかでは先生たちが背景知識をインプットするなど、予備知識がない生徒たちでも参加しやすい仕組みづくりがなされています。
企業などの協力を仰ぎ、世の中との接続が見える講座を企画したい
今後の「くがラボ」は、引き続き理科巡検と実験教室を軸に展開していくとのこと。特に実験教室に関しては、今後は教員だけでなく企業や大学、研究所などの協力も得ながら進めていく予定とのことです。
「まずはジャンルを問わず、生徒たちに面白そうだと思ってもらえる企画を立て、徐々に体系化していければと考えています。最初は参加のしやすさを考慮し、企業や大学の方を招く出張型の講座を予定していますが、いずれは宿泊型で研究所訪問などもできたらいいですね」と近藤先生。
井上先生も、「企業の方々にご協力いただくことで、世の中と理科がどうつながっているか、理科を学んだ先にどのようなことが待っているかがイメージしやすくなるのでは」と話します。単なる教科への興味だけでなく、それらの学びが実社会でどう活きるのか。職業選択やキャリアの幅を広げる意味でも、「くがラボ」が果たす役割は大きいといえるでしょう。
なお各講座において、生徒たちの意見やアイデアが反映されやすい点も「くがラボ」の大きな特徴です。
今回実施したドライアイスの実験やバラを用いた実験も、すべて事前のアンケートにおいて生徒が希望した内容でした。講座内ではアイデアを出した生徒の名前も伝えられるなど、主体的な姿勢を評価することを意識されている様子が垣間見えました。
また、複数学年が混合で1つの実験に取り組むからこそのメリットもあるといいます。「学年に応じて現象を説明できるようになるため、説明できる生徒の手を借りて考察を深めることにも意味があります」と井上先生。たしかに、今回の実験教室でも、上級学年の生徒が率先してガスバーナーを扱ったり、化学変化の理由を説明したりしている様子が印象的でした。
「自立した探究者」を育てるための段階を踏んだ教育が特徴
最後に、国学院久我山の理科教育が目指す方向性について、近藤先生と井上先生にお話を伺いました。
「本校の理科教育は『自立した探究者を育てる』をテーマに掲げています。そのような目標に向け、学びに向かう力(興味・関心)、考える力(思考・表現)、結び付ける力(体系化・判断)を養えるような取り組みを実践しています。特に、『実験』や『体験』を重視しており、数よりも『質』にこだわった経験ができる工夫をしています。
本校の『理科会館』は50年前に建てられた設備ですが、とても優れた環境なんですよ。それぞれの分野に応じた機能的なつくりが特徴で、例えば化学室は色の変化が見えやすいように実験台が白い壁になっていたり、生物室には双眼と単眼の顕微鏡がそれぞれ配置されていたりします。また、4階には天体望遠鏡がありますが、これはプラネタリウムにおいて世界シェアの約40%を誇るトップメーカーが製造したものです。理科会館一つをとっても、生徒一人ひとりの興味・関心を広げられるような環境が整っていますね」(近藤先生)
「中学の理科では、探究的に学ぶことを重視したプロセスが特徴的です。最終的なゴールを中学3年生に定め、1年生から段階的にステップを踏むことで、先ほど近藤先生のお話にあった3つのスキルを高めるような仕掛けを施しています。
例えば、1年生ではいろいろなものに興味を持つことを目的に、調べ活動や博物館見学などを通して、面白いと感じる事柄や疑問に思う事象を見つけます。2年生では過去の理科系コンクールで入賞した作品の研究に取り組むことで、研究や探究に必要な思考のプロセスを理解します。そのうえで、3年生では各自でレポートを作成し、外部のコンテストに挑戦していきます」(井上先生)
かつては多くの学校で行われていた自由研究も、今はインターネットの普及により、形骸化してしまったり、実施自体を取りやめてしまったりという学校も増えています。一方で、自ら興味を持ったことを探究していく姿勢は社会に出ても必要不可欠であり、そのようなトレーニングは多感な中学・高校時代だからこそ行う価値があるものだともいえるでしょう。井上先生も「正解がないことを自分の頭で考える現代において、理科を使って探究できるのは貴重な機会です」と強調します。
同校では、理系の高校生に添削指導や目的別選択演習・講習を行うなど、きめ細かいフォローを強みとしており、理系の進学率も年々増えています。ここに現在強化している中学3年間の理科教育の取り組みが加われば、国学院久我山ならではの新たな潮流が生まれるのではないでしょうか。
「自然科学を通じてさまざまな力を培い、自らの進みたい道に向け、自立して探究していく生徒になってほしい」と語る近藤先生。
現代社会を生きる力を鍛える教育としても、今後の展開にますます期待が高まります。