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学校特集

世田谷学園中学校・高等学校2022

悪天候のなか、7千名が来場。生徒の情熱が炸裂する「獅子児祭」
そこには、「旃檀林の獅子児」たちの果敢な挑戦があった!

掲載日:2022年11月22日(火)

 1592(文禄元)年に創始した、曹洞宗吉祥寺の学寮「旃檀林(せんだんりん)」を前身とする世田谷学園(通称・世田学)。純度100%、由緒ある男子伝統校です。禅を重んじる曹洞宗の教えを基盤に人間力と学力を磨く同校ですが、硬派な感じかと思いきや自由でのびのびとした校風で、シャイでおっとりしたタイプの生徒も多いようです。ここでは3年ぶりにオフラインで開催し、大盛況だった文化祭「獅子児祭」についてご紹介します。以前は来校者数が1万人以上だった獅子児祭ですが、今年はコロナ禍と悪天候にもかかわらず9月18・19日の2日間で、受験生親子のほか在校生の保護者や他校生など約7000人以上が来校。運営委員長の鈴木琢麻先生と、高2の実行委員会委員長の金谷奏良(そら)くん、同じく高2の実行委員会副委員長の齋藤駿仁(はやと)くんにお話を伺いました。
※上の写真は「獅子児祭」公式ホームページのトップ画像です。躍動感あふれるこの写真は生徒が撮影したもの。

名物「ジェットコースター」が、
バージョンアップして3年ぶりに復活!

世田谷学園_生徒が描いたジェットコースターの設計図
生徒が描いたジェットコースターの設計図
世田谷学園_ピロティに設置された、制作途中のジェットコースター
ピロティに設置された、制作途中のジェットコースター

 コロナ感染拡大が始まった2020年はオンライン開催、翌2021年はオンラインとオフライン展示のハイブリッド開催、そして今年、ようやく3年ぶりに全面的にオフラインで開催(オンラインも同時開催)することができた「獅子児祭」。生徒たちのリアルな姿が伝わってくる、エネルギーに満ち溢れた文化祭です。
「獅子児祭」の公式ホームページを見た時、まず目に飛び込んできたのが、名物のジェットコースターの制作過程を詳細に紹介する動画でした。そこで、まず、ジェットコースターの話から。

金谷くん:「実行委員会が企画するメインイベントとして、お客さんに楽しんでもらえるものは何だろうと話し合いを重ねた結果、ジェットコースターを復活させることに。そして制作メンバーを募ったところ、高2を中心に30名が集まりました」

世田谷学園_「獅子児祭」実行委員長の金谷奏良くん(高2)
「獅子児祭」実行委員長の金谷奏良くん(高2)

齋藤くん:「設計図は基本的には生徒が描き、それを物理の先生に見てもらいます。どうすればお客さんに楽しんでもらえるかを一番に考え、以前よりも長いものを作りたかったんですが、場所には制限があるので、今年は一周してスタート地点に戻ってくるスイッチバックにしました」

鈴木先生:「スタート地点でトロッコを押し出した後は自動的に戻ってくるから、自分たちも楽じゃないかと(笑)。物理的知識が必要とはいえ、机上の計算よりも過剰なくらい頑丈にしておくことを第一に、あとは要所要所で専門業者の方にチェックしていただきました。基本的に、どうすれば楽しんでいただけるか、リアルなジェットコースターに近くなるかを生徒たちで考え、これまでは木材を使っていた骨組み部分に初めて鉄パイプを使いました」

世田谷学園_「獅子児祭」副実行委員長の齋藤駿仁くん(高2)
「獅子児祭」副実行委員長の齋藤駿仁くん(高2)

 このジェットコースターには、事前に校長の山本慈訓先生が試乗しましたが、「獅子児祭」を訪れた5歳くらいの子から40代の方まで、約800名が楽しんでくれたそうです。
 また、「ジェットコースター乗車動画」の再生回数が11月5日時点で90万回を超えたのだとか。この数字からも、その充実ぶりがおわかりになると思います。

6学年計1400名中、
約170名が「獅子児祭」の実行委員

世田谷学園_校内装飾のコンセプトは「世界」。各階を巡ると、世界旅行をしている気分になる演出が施された
校内装飾のコンセプトは「世界」。各階を巡ると、世界旅行をしている気分になる演出が施された

 ちなみに、実行委員会には最高学年の高3は加わらないため、約170名とは中1〜高2の5学年の人数になります。つまり、生徒の約15%が実行委員ということに。
 じつは、中学生はクラス展示を大事にしていたため、一昨年までは「獅子児祭」実行委員会は高校生だけで運営されていました。ところが、中学生の時に実行委員会に関わりたくても叶わなかった生徒が昨年実行委員代表になり、それまで高校生だけだった実行委員会に、中学生も参加できるようにとルールを変更したのです。

 本番の8カ月前、今年の1月から実行委員会は活動をスタートしました。実際には、まだ委員の7割くらいが高校生ですが、中学生の熱量も徐々に高まっていったようです。

金谷くん:「僕自身も中学生の時、実行委員の先輩に憧れがあったので高1の6月に参加しました。高2になり、いざ獅子児祭を引っ張っていくことになった際、今の中学生は完全オフラインの獅子児祭を体験したことがないため、獅子児祭へのモチベーションがあまり高くないという状況を改善するのが最初の課題でした。実行委員会には7つの部門があるのですが、各部門長が部活の後輩にアタックしたり、実行委員になった中学生がクラスの仲間を集めて話し合いをしたりと、まずは草の根運動から始めました(笑)」

世田谷学園_「獅子児祭」運営委員長を務める鈴木琢麻先生
「獅子児祭」運営委員長を務める鈴木琢麻先生

齋藤くん:「僕は友達に誘われて今年の1月から参加したんですが、やはり中学生の時は少し窮屈さを感じていました。そして昨年、有志団体として関わった時に自分の中で獅子児祭の改善点を見つけたので、そこを改善したくて実行委員会に入りました。僕もそれまでは各イベントを見る側として楽しんでいましたが、演者をやりたい人は自由にできるようにしたかったんです。すごく小さな意識かもしれませんが、結果的に今年の獅子児祭に繋がった部分があるかなと思っています」

鈴木先生:「高校生の実行委員たちは苦労しながらも、よく後輩の面倒を見てくれていました。教員ではない、先輩、お兄さんとして距離の近いところでコミュニケーションをとっていましたね」

エンタメからアカデミックまで。
アイデア満載! パッション全開!!

 この8カ月間、約40もの団体を管理するなど、全体を統括する金谷くんと齋藤くんは、生徒みんなに、とくに中学生に「楽しんでもらう」ために全力で走り続けてきました。「勉強する時間がないですね」と言うと、お二人はちょっと戸惑ったように微笑みましたが、鈴木先生がすかさず言いました。「あります!(笑)」と。

 では、抜粋にはなりますが、ここで「獅子児祭」で実施されたイベントをいくつかご紹介しましょう。
 金谷くんと齋藤くんをはじめ、約170名の実行委員のみなさん、そして各クラス、各部活、有志団体など、一人ひとりの生徒のパッションと努力の結晶です。

●獅子児アドベンチャー(中1・2有志)
ダンジョン(地下牢)に潜り込んで宝を取り戻すアドベンチャーゲーム。
→2階で行われた展示・発表の中で一番人気だったそうです。「中1・2によるものなので、受験生にとって親近感があったのではないでしょうか」(金谷くん)

世田谷学園_ダンスフェスの最後には、見ていた方々が観客席からスマホライトで照らしてくれた!
ダンスFESの最後には、見ていた方々が観客席からスマホライトで照らしてくれた!

●ダンスFES(有志)
サッカー部員、応援団の最高学年、ダンス好きな仲間など、中高5団体がダンスバトル。
→「基本的に前に出るタイプの生徒は多くないんですが、5団体が手を挙げました。練習を見た時はレベルの高い団体もあれば、正直、厳しいなと思う団体もありました。でも、本番では5団体ともとてもレベルが高くなっていて、用意した200席のほかに立ち見が出るくらい盛り上がりました。『楽しんで終わりたい』という意識が、みんなに芽生えたんだと思います」(齋藤くん)
→「今年は、舞台の装飾や照明を充実させ、舞台を作った側も踊った側も、最高のものができたと満足しています。高1もとても頑張ってくれました。普段あまり褒めてくれない先生も『今年はすごかったね』と言ってくれて、嬉しかったですね(笑)」(齋藤くん)

世田谷学園_アンケートで一番人気の「セタゴラスイッチ」
アンケートで一番人気の「セタゴラスイッチ」

●セタゴラスイッチ2022(物理部)
NHK「ピタゴラスイッチ」をオマージュした、9年間続く名物企画。アンケートでは、今年も人気第1位を獲得。
→アイデア出しや意見交換は1学期から、製作は夏休みからスタートしました。成功率を重視し、できるだけ日用品を使った装置を部員が一丸となって考え製作しますが、ダイナミックながらもその繊細さが注目を集めています。

●ドローン体験会(ドローン研究会)
ホビードローンの操縦、シミュレーター体験、レース観戦などを実施。
→ドローン研究会は、今年発足した新しい研究会。ドローンレースに向けて、日々シミュレーターや実機などを用いて腕を磨いています。「ドローンの試みは昨年も行ったのですが、社会人の方のサークルと繋がりができて、ますます活性化してきていますね。校舎をアクロバティックに飛び回るなど、なかなかおもしろい動画を作っています」(鈴木先生)

世田谷学園_これが、噂の(?)コーヒーカップ!
これが、噂の(?)コーヒーカップ!

●陸上部のコーヒーカップ(陸上部)
いわゆる遊園地にある「コーヒーカップ」を作成。
→でも、想像するだけで笑ってしまうのですが、部員が日々鍛えた足腰で、つまり人力で回すのです。「爆速で回転させます」とは、部員が事前に語っていた意気込みのひと言です。

●ジェットエンジンの実験(高2有志)
本格的なジェットエンジンを自作し、実演披露。
→どのような化学反応が起きているのか、どのように推力が生み出されるのかを解説しました。

世田谷学園_中1の全体テーマは「世田谷ミュージアム」。上は、浅草寺雷門をちぎり絵で描いた中1D組の作品
中1の全体テーマは「世田谷ミュージアム」。上は、浅草寺雷門をちぎり絵で描いた中1D組の作品

 演劇やお笑い、吹奏楽やバンド演奏、美女に変身する「Miss世田学」や異次元の休憩室を創出した「プロジェクションマッピング」、「禅堂で坐禅体験(仏教青年会)」「執行部の受験相談(生徒会)」のほか、「Programming SEKAI(パソコン研究同好会)」「The 轍(鉄道研究同好会)」「世田谷殿の13人(歴史部)」「世田谷ミュージアム(中1)」「模擬裁判 真実はいつもひとつ(中3)」「寸劇、いかがでしょう?(中3)」など、たくさんあってご紹介しきれませんが、もう一つだけ挙げておきたいと思います。

世田谷学園_化学部の演示実験に、受験生も釘付け!
化学部の演示実験に、受験生も釘付け!

 それは、「SGSキャンパスガイド」。オープンキャンパスで生徒会執行部が受験生親子のために行っているキャンパスツアーの名称ですが、「獅子児祭」では、このガイド役を中1・2に託しました。
 オープンキャンパスでガイド役を体験した生徒会執行部員が有志の中1・2を熱心に指導し、当日は中1・2生たちが個別に受験生親子を案内したのです。緊張しながらも、中1・2にとっては貴重な体験になったことでしょう。中学生を積極的に巻き込もうとした、獅子児祭改革の成果の一つです。

オンラインという「新分野」が開けて、
獅子児祭でも「個人に光を当てる」ことができるように

 同校は、動画のコンテンツがとても充実しています。「獅子児祭」でも、オフラインで実施されたものを配信するだけでなく、オンラインだけで見ることができるものもあります。なかには、前年に発表するはずだったのに、締め切りに間に合わなかったからという残念な企画もオンラインですくい上げるなど、とても丁寧に対応しているのが印象的です。

鈴木先生:「オンラインではできないこともありますが、できることの可能性が大きく広がったなかで、個人に光を当てやすくなった部分はありますね。一カ所に集まってみんなで盛り上がるライブ感も大事ですが、そこではスポットを当てることが難しい部分にもフォーカスできるようになったのではないかと。個人の才能や、普段は見えにくい側面を発掘するものとして、オンラインは最大限に活用していきたいと思っています」

改めて、世田学とはどんな学校?

世田谷学園_金谷くんが所属する鉄道研究同好会のジオラマ。お見事!
金谷くんが所属する鉄道研究同好会のジオラマ。お見事!

金谷くん:「獅子児祭で改めて実感したのですが、やりたいことが全力でできる学校です。行事や部活動などはもちろん、文化部が団体として、または個人で研究発表をする『SETA学会』(生徒会が主催)という取り組みがあって、僕は『iPadを最大限に活用すれば、荷物なしで手ぶらで通学できる』という研究を発表しました。でも、校内ではあまり話題になっていないので、広報不足かもしれません(笑)」

鈴木先生:「『SETA学会』は生徒が自主的に研究発表をする場ですので、本当に何でも自由に発表できるのですが、なかでも金谷くんの研究は最も変わっていましたね(笑)」

世田谷学園_ 齋藤くんが所属するバレーボール部と先生のバレー対決は、 
 2020年、コロナ禍をきっかけに「獅子児祭」のオンライン企
 画として始まり、今年で3年目を迎えた
齋藤くんが所属するバレーボール部と先生のバレー対決は、 2020年、コロナ禍をきっかけに「獅子児祭」のオンライン企 画として始まり、今年で3年目を迎えた

齋藤くん:「僕は過去に『サイエンスフェア』に参加しましたが、世田学では、自分の考えを発表する機会は多いと思います」

 ところで、金谷くんは文系、齋藤くんは理系ですが、進路はもう定めているのでしょうか。

金谷くん:「これも獅子児祭で感じたことですが、何かを生み出していけたらいいなと思っています。まだ具体的ではありませんが、イベント系の企画や生活面で何か新しいことを生み出し、プロデュースするといったような」

齋藤くん:「僕は昔から自分の知らないことは調べたいというところがあって、職業はまだ見えていないのですが、大学でおもしろそうな研究テーマを見つけたいと思っています。僕は地学が好きなんですが、物理や化学は先人が作った知識や公式をもとにしていくけれど、地学にはそういった公式などはあまりなく、実際に地質を調べて予測を立てるなど謎が多い。未知が広がっている分野なので、魅力的ですね」

世田学生は、「旃檀林の獅子児」である

 同校では、「獅子児祭」や「体育祭」を主体性や協働性を醸成する場としていますが、昨年、この「獅子児祭」の実行委員代表になった生徒がルールを変えたように、生徒の行動力を示すエピソードをもう一つご紹介します。同校には5年前まで「体育祭」はありませんでした。中高別にクラス対抗の体育競技大会は実施していたのですが、「学校をあげての体育祭をやりたい!」と生徒たちが学校に掛け合い、実現させたのです。
「Think & Share」を教育理念とし、「明日を見つめて、今をひたすらに」「違いを認め合って、思いやりの心を」をモットーとする同校。 それぞれが自分でとことん考え、みんなでシェアしようと働きかける......同校の教育哲学は、生徒たちの中に確かに根を張っているようです。

 金谷くんや齋藤くんもそうですが、シャイで穏やかに見えるものの、生徒たちはみんな正真正銘の「旃檀林の獅子児」です。今回、「獅子児祭」のお話を伺いながら、その思いを強くしました。
「旃檀林の獅子児」とは、自信と誇りと気概の意味を込めた同校に引き継がれる生徒たちの呼称。その意味について、以前、校長の山本慈訓先生に伺ったお話を再度ご紹介したいと思います。それは、山本校長自身が同校の生徒だった時、当時の校長が語った言葉だそうですが、ここには同校が育てたい人物像が凝縮されています。
「君たちは旃檀林の獅子児である。この誇りと気概をわが心としなくてはならない。獅子児は獅子児にふさわしく、頭を上げ、胸を張り、大地を踏みしめて堂々と闊歩するのだ。忘れても、下を見て歩くような人間になってはいけない。間違っても、肩を落として歩くような人間になってはいけない。自分を大切に、人を大切に。自分には厳しく、人には温かく。みんなで力を合わせ、自信と誇りと気概とを持ってたくましく前進するのだ」

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